雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

文字の大きさ
343 / 423
エピソード13 魔王様のいない最終戦

老エルフと決着と“ワイズマンモード”

しおりを挟む
 グワキィィィィィンッ!

 逆さにしたイータツの身体をキン肉ば……ヴァートスバスターの形にがっちりと固めたヴァートスが石床に着地するや、凄まじい衝撃音が呪祭拝堂ナームの空気を激しく震わせた。
 その衝撃によって、細かく砕けて粒子と化した石床の破片が土煙のように濛々と舞い上がり、彼らの周囲を覆い尽くす。

「きゃあっ!」

 思わず悲鳴を上げたファミィは、咄嗟に目を瞑り、手を前に翳して粉煙から身を守った。
 それでも彼女は、上ずった声で老エルフの名を叫ぶ。

「ヴァ、ヴァートス様ぁ――ッ!」
「――」
「ぶ、無事なのか、ヴァートス様! 生きているのなら、返事をし――」
「ヒョッヒョッヒョッ!」

 ――心配するファミィの叫びに応えたのは、すっかり聞き慣れた、人を食ったような高笑いだった。
 そして、徐々に晴れてきた土埃の中から、ささくれ立つように破壊された石床の真ん中で、イータツを逆さに抱え上げた格好のまま、尻もちをつくように座っている老エルフの姿が現れる。

「心配しなさんな、ファミィさんや。ワシャ、この通りピンピンしとるぞい!」
「ヴァートス様!」

 ヴァートスは、顔を輝かせるファミィに向けてニカッと笑うと、「よいしょっと」と、イータツの両脚をホールドしていた手を放し、彼の身体を地面の上に転がした。
 そして、すっかり白目を剥いてノビているイータツの顔を見下ろし、感慨深げに呟く。

「……なかなか手強い奴じゃったわい。じゃが、最後はワシの洗練された火の精霊術が、こやつの炎系呪術を上回ったようじゃの」
「いや……最後のは、精霊術関係無くないか……?」

 と、ヴァートスの言葉にジト目でツッコむファミィ。
 それでも、彼女はホッとした表情を浮かべながらヴァートスの元へ駆け寄り、手を差し伸べた。

「……何はともあれ、無事に勝てて良かった。立てる?」
「ヒョッヒョッヒョッ。すまんの」

 ヴァートスは、嬉しげな声を上げながらファミィの手を握ると、「よっこいしょういち」と掛け声を上げながら立ち上がる。
 と、

「……ん?」

 ファミィは、筋肉が盛り上がったヴァートスの背中から、ユラユラと白い煙が立ち上るのに気付いて、怪訝な表情を浮かべた。

「ヴァートス様……なんだ、その煙は……? 水蒸気?」
「あぁ、これはの――」

 ヴァートスがファミィの問いかけに答えようとした次の瞬間――、
 ボフンという大きな音と共に、彼の体全体から夥しい白煙が噴き出した。

「きゃあっ!」

 噴き出した白煙を至近距離で受けたファミィは、驚きの悲鳴を上げて、思わず目を瞑る。
 そして、少ししてから恐る恐る目を開くと……、

「あ、あれ? ヴァートス様……元に戻った……?」
「ヒョッヒョッヒョッ」

 ヴァートスは、一瞬で元の萎びた姿に戻った自分の姿に目を丸くするファミィに苦笑いを向けた。
 そして、鶏ガラのように肋骨が浮いた自分の貧弱な体を寂しげに見下ろしながら、ポツリと答える。

「これは、ワイズマンモードじゃ」
「ワイズマン……モード?」
「うむ」

 訊き返したファミィに小さく頷いたヴァートスは、すっかり細くなった自身の腕を撫でながら言葉を継いだ。

「“濡れ場のクソ力アドレナリン・キッス”は、一時的な能力増加チートじゃからな。当然、一定時間を超えたら元に戻るんじゃ」
「まあ、そうだろうな……」
「まあ、要するにアレじゃ」

 そう言うと、ヴァートスはニヤリと意味深にほくそ笑む。

「男と女がナニした後には、男のアレが小っちゃくなるじゃろ。それと同じ。じゃから、“賢者ワイズマンモード”」
「いや、タダの下ネタじゃないかっ!」

 ファミィは、思い切り顔を顰めながら声を荒げたが、すぐに深刻そうな表情を浮かべて、老エルフの事を手招きした。

「……って、そんな事を言ってる暇なんて無かった! 行くぞ、ヴァートス様! こっちは片付いたんだから、今度はアルトゥーたちに加勢しなきゃ!」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれんか、ファミィさ――」

 ファミィの催促に、少し困った顔のヴァートスが口を開きかけた、その時――。

「――そうよぉん」

 彼の声を遮って、男の低い声が上がった。

「だって……まだ片付いてなんかいないからねぇん♪」
「――ヴァートス様ッ!」

 その特徴的なトーンの声を聞いた瞬間に血相を変えたファミィは、咄嗟にヴァートスの体を抱きかかえると、真横に跳んだ。
 その直後、彼女たちが立っていた場所に、撚り合わされて極太になった稲妻が炸裂する。

「なっ……?」

 間一髪のところで稲妻の直撃を避けたファミィは、愕然とした表情を浮かべて、声の上がった方を見た。

「何故だ……? その死体人形ゾンビは、確かにヴァートス様が斃したはずなのに……!」
「うふふ……」

 ファミィの上ずった声に薄笑みを浮かべたマッツコーは、無言で傍らに佇むイキビト一号の、葬衣がはだけて露わになった胸元を愛おしげに撫でる。
 そして、彼女に向かって「そうねぇん」と、小さく頷いた。

「アナタの言う通りよぉん。確かに、このイキビト一号ちゃんは、お爺ちゃんの凄い攻撃を受けて、身体の真ん中を根こそぎ吹き飛ばされされちゃったわん。普通は、それでお終い――、ね」

 そう言いながら、マッツコーは自分の右手をゆっくりと掲げてみせる。

「でも、生憎と普通じゃないの。イキビト一号ちゃんこの子とワタシはね」
「……治癒ヒールの“過剰投与オーバードーズ”とやらか」
「当・た・り♪」

 苦々しく吐き捨てたヴァートスの言葉に、得たりとばかりに頷いたマッツコーは、満面にイヤミ満点な薄笑みを湛えながら言葉を続けた。

「たとえ、普通の生き物なら即死確定の損傷でも、元々命を持たないイキビトちゃんの体とワタシの“過剰投与オーバードーズ”の前には、全くの無意味なのよん。ぬか喜びさせちゃってゴメンなさいねぇん♪」
「……!」
「イキビト一号ちゃんを完全に無力化したかったのなら、胸だけじゃなくて、全身くまなく焼き尽くして灰にしちゃえば良かったのに。少し威力が足りなかったわね、お爺ちゃん」
「くっ……!」

 マッツコーの嘲弄の言葉を聞いて、悔しそうに歯ぎしりするヴァートス。

「確かに見通しが甘かったのう……。だったら、ほっぺにチューなどで妥協などせず、遠慮なくでぃーぷきすをせがんで、“濡れ場のクソ力アドレナリン・キッス”の威力を上げておけば良かったわい……。ああ、勿体ない!」
「……」

 地団駄を踏んで口惜しがるヴァートスを、ファミィはジト目で睨む。
 そんなふたりの事をせせら笑いながら、マッツコーはゆっくりと片手を挙げた。

「――って事で、アナタたちはここまでよん」

 そうふたりに告げたマッツコーは、口元を歪めて残忍な笑みを浮かべながら、勢いよく挙げた手を振り下ろす。

「さあ、お料理の時間よ、イキビト一号ちゃんッ! 献立は、『エルフの丸焼き』でシクヨロッ!」
「――ヴァートス様っ!」

 ファミィは、ヴァートスの手を引っ張り、再び跳躍した。
 また、紙一重のところでイキビト一号の放った凄まじい雷撃を躱した彼女たちは、咄嗟に祭壇の瓦礫の裏に身を潜める。
 そして、ファミィはヴァートスの顔を両手で挟み込むようにして掴むと、頬を赤くしながら言った。

「……やむを得ん! ヴァートス様……今度は唇にキスしてあげるから、またさっきの“ちーと能力”で、あの死体人形ゾンビを――」
「……すまん、ファミィさん。それは……不可能じゃ」

 だが、ヴァートスは、ファミィの申し出に力無くかぶりを振る。

「あいにく今は賢者モードの真っ最中……もう一度“濡れ場のクソ力アドレナリン・キッス”が使えるようになるまでには、相応の時間がかかるんじゃ……男のと同じようにのう……」
「……結局、それも下ネタかああああああいっ!」

 ヴァートスの言葉に、ファミィは渾身の怒声ツッコミを上げ――、

『……舞烙魔雷術ブ・ラークサン・ダー

 その直後、イキビト一号が放った雷の束が、轟音を上げて彼女たちが潜む瓦礫の裏に炸裂したのだった――!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...