雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

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エピソード14 魔王がやらねば誰がやる

魔王と救援と方法

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 「……まあ、良い」

 幸せそうな顔でグッドトリップ中のスウィッシュの背中を軽く支えながら、そう呟いたギャレマスは、対峙して立つマッツコーとイキビト二号の事を睨みつけ――さらにその後ろへと目を向ける。
 彼の視線の先には、自分によく似た見覚えのある男――イキビト一号ことサトーシュ・ギャレマスが、矢継ぎ早に雷系呪術を放つ姿と、その攻撃を必死の形相で凌ぎ続けるふたりのエルフの姿があった。
 ヴァートスとファミィは、自身の持つ精霊術を以て、何とか紙一重のところで持ち堪えている様子だが、その顔には疲労がありありと浮かんでいる。
 あのままでは、あと数分もしないうちにイキビト一号の攻撃を食らってしまうだろう。

(早急にふたりの救援に向かわねば……)

 と、内心で焦りを募らせるギャレマスだったが、そこで目の焦点をヴァートスたちの手前に立つふたりの敵へ再び合わせた。

(だが……このままでは難しいか)

 上司として、四天王であるマッツコーの性格を良く知るギャレマスは、自分がヴァートスたちを救援しようとしたらどう動くか、大体察している。
 ……恐らく、彼がヴァートスたちの元に向かったと見るや、傍らのイキビトをけしかけて、さっきの続きをしようとするだろう。
 即ち――スウィッシュたちへのトドメだ。
 スウィッシュの理力は、先ほどの攻防で完全に枯渇している。時間が経てばいくらかは回復するだろうが、今の状態では、薄皮一枚程度の氷壁を張る事も難しいだろう。
 アルトゥーは元々呪術も魔術も使えないし、エラルティスに至っては……協力してくれるかどうかも怪しい。
 そこまで考えたギャレマスは、フルフルと首を左右に振った。

(……ダメだな。余が、ここから離れる訳にはいかぬ)

 そうなると、残るは、『マッツコーたちと戦いながら、ヴァートスたちを救出する』しか無いのだが……さすがに、マッツコーとイキビト二号を相手にしながら、向こうのヴァートスたちも守ろうとするのは困難だと言わざるを得ない。

(……いや)

 その時、彼の灰色の脳細胞に、稲妻のようにアイデアが閃いた。

(――同時進行できぬ“せねばならぬ事”が二つあるのなら、まとめて一つにしてしまえば良い!)

 ギャレマスは、スウィッシュの背を支えていた手を放すと同時に前へと足を踏み出し、同時に両掌を強く打ち合わせる。

舞烙魔雷術ブ・ラークサン・ダーッ!」

 彼の詠唱と同時に、その掌から轟音を上げて放たれた稲妻の束が、一直線にマッツコーの身を襲った。

「あらぁ?」

 いきなりのギャレマスの攻撃に、マッツコーは僅かに眉を上げて声を漏らす。だが、その声には驚きや焦燥といったものは含まれていなかった。
 彼は、迫り来る青白い稲妻の光を冷ややかに見つめながら、パチンと指を鳴らす。

「お仕事よん、イキビト二号ちゃん」
『……ダ・メダコ・リャー』

 ギャレマスの放った雷の束は、イキビト二号がマッツコーと自分の周囲に張った雷の壁によって防がれた。
 雷同士が激しく衝突し、眩いばかりの青白い火花が上がる中、雷壁の内側でマッツコーはほくそ笑む。

「ふふ……いきなり不意討ちだなんて、魔王にあるまじき姑息さじゃない? しかも、イキビト二号ちゃんじゃなくて、操ってるワタシの方をピンポイントで狙うなんて、なかなか分かってるわねん」

 マッツコーは、傍らに立つイキビト二号の肩に手を置きながら、「……でも、残念ざーんねん♪」と言葉を継いだ。

「ワタシには、こんなに力強いイキビト二号ちゃんが付いているから、アナタの狙いは空振りよん。何せ、このイキビト二号ちゃんは、“雷王”のアナタを凌ぐ雷系呪術の遣い手である“霹靂王”の――」
「――真空吸引一本釣呪術ノ・クリ・ア!」
「――ッ!」

 雷壁の向こうで上がった更なるギャレマスの詠唱の声に、マッツコーはハッとした表情を浮かべる。
 慌てて壁の向こうに目を凝らすと、ギャレマスが自分たちが居る方向とは別の方に向けて腕を伸ばしているのが見えた。

「え? どこに向けて……?」

 思わず当惑の声を上げるマッツコーをよそに、ギャレマスは伸ばした腕の先で指を鳴らす。
 次の刹那、彼の指が弾いた空気が真空の太い波となり、イキビト一号の攻撃を前にして遂に足が止まったヴァートスとファミィの元まで真っ直ぐ伝わっていった。

「――ヒット!」

 その真空の波が、ふたりのすぐそばまで達したと見たギャレマスは、まるで魚信アタリがかかった釣竿を立てるように、両腕を大きく上へと振り上げる。

「ひょ、ヒョッ?」
「きゃ、キャアアッ?」

 不意に背中を強い力で引っ張られるような感覚と共に、足が床を離れた事に気付いたヴァートスとファミィが、驚きの声を上げた。
 ふたりの身体は、真空の波によって宙高く吸い上げられ、大きく弧を描くような軌道を描いた後、再び石床へと着地する……お尻から。

「「痛ぁぁぁっ!」」
「な……何が起こったんじゃぁ? いきなり妙な力に引っ張られて……」
「い、今の力は……真空の波で私たちの身体を吸い込む……風系統の術だったようだが、一体誰がこんな強力な術を……?」

 硬い石床に尾てい骨の当たりを強かにぶつけたふたりのエルフは、顔を歪めて尻を擦りながら、訝しげに首を傾げた。
 ――と、その時、

「申し訳ない、ヴァートス殿、ファミィ」

 ふたりのすぐ傍で、申し訳なさそうに謝る壮年の男の渋い声が聞こえた。
 その声を聞いたふたりは、ハッとして顔を見合わせ、それから慌てて声のした方に振り返る。
 そして――、

「緊急時ゆえ、他に手段を選んでられなかった……。些か乱暴な形での救出になったが、許せよ」
「「……は――?」」

 黒いローブを纏った長身を屈めるようにして、ペコリと頭を下げたギャレマスの姿を目の当たりにしたヴァートスとファミィは、思わず目を点にして固まるのだった――。
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