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エピソード15 MAOH WORLD!
姫と勇者と登場タイミング
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「超重力」
若い男の声がツカサの鼓膜を揺らした次の瞬間――彼女の鼻先を掠めるようにして、真紅の光が一瞬で通り過ぎた。
それと同時に、彼女の左胸に雷を帯びた拳を叩きつけようとしていたダーストの姿も視界から消える。
「え……うわっ!」
突然の事に当惑と驚きの声を上げかけたツカサだったが、数瞬遅れて巻き起こった旋風と衝撃波を体に受け、空中で大きく体勢を崩した。
そのせいで彼女の黒翼は揚力を失い、たまらず地上へ落下する――かに見えた、その時、
「――おいおい、大丈夫かよ?」
「……ッ?」
ツカサの耳に、苦笑混じりのからかい声が届く。
そして、続けて上がった「反重力」という声と共に、自分の体が引力の軛から解き放たれたように空中で静止したのが分かった。
黒翼無しで空中にふんわりと浮きながら、ツカサはキョロキョロと周囲を見回す。
「い……今の声……それに、この能力は――」
「――よう」
「!」
頭上からの声に、彼女は弾かれたように上に顔を向けた。
見上げたツカサの視界にまず入って来たのは、真紅に光って空中でゆっくり回転している円形の魔法陣。
そして、その上に乗って、自分の事を見下ろしている黒髪黒目の若い男の姿――。
「シュータ……ッ!」
「久しぶり」
ツカサに上ずった声で呼ばれた若い男――勇者シュータ・ナカムラは、ポケットに突っ込んでいた右手を挙げてヒラヒラと振りながら、口の端を僅かに上げてみせた。
「……つっても、四日……いや、五日ぶりくらいか? 言うほど久しぶりって訳でもねえか」
「ど……どこ行ってたんだよ、テメーは!」
ツカサは、おどけた調子で話すシュータの顔を険しい目で睨みつける。
「いきなり何にも言わずにいなくなりやがって! なんか怒らせちゃったのかと思って心配し……あ、いや、そうじゃないけどよ!」
「何だよ?」
何故か途中で頬を紅くしながら口を押さえたツカサを前に、シュータは訝しげに首を傾げた。
「何を怒ってんだよ、お前? 俺は、気を遣って出てってやったんだぜ?」
「気を遣った?」
「そうだよ」
自分と彼女にかけた反重力を操作し、ゆっくりと地面へ下降させながら、シュータは訊き返したツカサに頷いた。
「だって俺は、魔王の大敵の“勇者”だぜ? そんな奴がいつまでも魔王城の中に留まってたらおかしいだろうがよ。勇者が新しい魔王の即位式に顔出す訳にもいかねえしよ」
「ま……まあ、そうかもしんないけどさ……」
シュータの言葉に納得しつつも、ツカサは憮然とした顔をする。
そんな事を話しているうちに、ふたりは呪祭拝堂の石床の上に降り立った。
「さて……」
シュータは、足下に出来た擂鉢型のクレーターと、その真ん中で赤い魔法陣の下敷きになって潰れているダーストの姿を一瞥すると、おもむろに首を横を向けた。
そして、目を回してノビている古龍種の巨体の横に蹲っている男へ、皮肉げに声をかける。
「よう、十日ぶりくらいか、クソ魔王。いいザマだなぁ、オイ」
「シュ……シュータ……!」
シュータの嘲笑混じりの声に怒る事も忘れた様子で、ギャレマスは呆然とした声を上げた。
「お、お主……今までどこに……?」
「まったく……こんなクソゾンビども如きを相手にしたくらいで、そんな重傷を負ってんじゃねえよ。一応は自称・“地上最強の生物 (勇者シュータ除く)”なんだろ、テメエ?」
「じ、自称では無いわい! それと、カッコの後は付けんで良い!」
シュータの辛辣な言葉に思わず声を荒げたギャレマスだったが、すぐに苦悶の表情を浮かべながら脇腹を押さえる。
「い、痛ちちち……」
「オヤジ……!」
顔を歪めて苦しがるギャレマスを見たツカサが、思わず声をかけた。
一方のシュータは、呆れ顔をしながら肩を竦める。
「んだよ、マジで死にかけじゃねーかよ。ざまあねえな」
「う……」
「まったくよぉ……わざと腹を刺させて動きを封じようだなんて、バトルマンガの数合わせ雑魚味方キャラかテメーは」
「う、うるさい!」
シュータの呆れ顔に憤慨の声を上げたギャレマスだったが、すぐに怪訝な表情を浮かべた。
「……って、んん? しゅ、シュータ……お主、なぜその事を知っておるのだ?」
「は? “その事”って何の事だよ?」
「余が祖父上にわざと腹を刺させた事をだ! あれは、結構前の事だぞッ?」
声を荒げたギャレマスは、ハッとした顔をして、シュータの顔を凝視する。
そして、眉間に皺を寄せながら、「まさか……」と言葉を続けた。
「シュータ、お主……実は、かなり前からこの呪祭拝堂の中に潜んで、我らの戦いぶりをこっそり見ていたのではないか……?」
「……てへぺろ」
「しゅ、シュータぁ! お、お主ぃっ!」
おどけた顔で舌をペロリと出したシュータに、ギャレマスは思わず声を荒げる。
「な、中に居たのなら、さっさと姿を現して、我らの手助けを――ぐぼぁっ!」
「うるせえ、魔王のクセに勇者を頼ってんじゃねえよ、タコ!」
抗議するギャレマスの顔面にエネルギー弾をぶつけて黙らせたシュータが怒鳴った。
……まあ、暴力を振るうのはともかく、今回はシュータの言う事が正論だ。
「つーか、どのタイミングで出て来ようが、俺の勝手だろうが」
そう言いながら、シュータはニヤリとほくそ笑む。
「だから、ずっとスタンバってたんだよ。主役として一番映える登場のタイミングまでな……ククク」
「しゅ、主役って……この物語の主役は、お主じゃなくて余のほ――痛だぁッ!」
「あーあー、聞こえねえなぁ~」
ブツブツと文句を言う魔王の鼻柱に指で弾いた極小のエネルギー弾を叩き込んだシュータは、涼しい顔でしらばっくれた。
――と、その時、
「しゅ、シュータ様!」
唖然としてふたりのやり取りを見ていたファミィが、慌てて叫んだ。
「敵が! 三人も!」
「あぁん?」
彼女の叫び声を聞いたシュータが、不機嫌な声を上げながら首を曲げる。
ファミィの警告の通り、彼女たちを囲っていたダーストの内の三体が、新たに現れたシュータに狙いを変え、各々の得物を掲げながら踊りかかってきた。
だが、それを見たシュータに焦りの色は見えない。
むしろ、更に機嫌を悪くした様子で舌打ちした。
「たった三匹かよ」
そうボヤきながら、彼は素早く中空に魔法陣を描き上げる。
そして、
「随分とナメてくれるじゃあねえか、この勇者シュータ様の事をよぉ!」
狂犬のように吠えながら、踊りかかろうとするダーストたち目がけて、無数のエネルギー弾を叩き込んだのだった――!
若い男の声がツカサの鼓膜を揺らした次の瞬間――彼女の鼻先を掠めるようにして、真紅の光が一瞬で通り過ぎた。
それと同時に、彼女の左胸に雷を帯びた拳を叩きつけようとしていたダーストの姿も視界から消える。
「え……うわっ!」
突然の事に当惑と驚きの声を上げかけたツカサだったが、数瞬遅れて巻き起こった旋風と衝撃波を体に受け、空中で大きく体勢を崩した。
そのせいで彼女の黒翼は揚力を失い、たまらず地上へ落下する――かに見えた、その時、
「――おいおい、大丈夫かよ?」
「……ッ?」
ツカサの耳に、苦笑混じりのからかい声が届く。
そして、続けて上がった「反重力」という声と共に、自分の体が引力の軛から解き放たれたように空中で静止したのが分かった。
黒翼無しで空中にふんわりと浮きながら、ツカサはキョロキョロと周囲を見回す。
「い……今の声……それに、この能力は――」
「――よう」
「!」
頭上からの声に、彼女は弾かれたように上に顔を向けた。
見上げたツカサの視界にまず入って来たのは、真紅に光って空中でゆっくり回転している円形の魔法陣。
そして、その上に乗って、自分の事を見下ろしている黒髪黒目の若い男の姿――。
「シュータ……ッ!」
「久しぶり」
ツカサに上ずった声で呼ばれた若い男――勇者シュータ・ナカムラは、ポケットに突っ込んでいた右手を挙げてヒラヒラと振りながら、口の端を僅かに上げてみせた。
「……つっても、四日……いや、五日ぶりくらいか? 言うほど久しぶりって訳でもねえか」
「ど……どこ行ってたんだよ、テメーは!」
ツカサは、おどけた調子で話すシュータの顔を険しい目で睨みつける。
「いきなり何にも言わずにいなくなりやがって! なんか怒らせちゃったのかと思って心配し……あ、いや、そうじゃないけどよ!」
「何だよ?」
何故か途中で頬を紅くしながら口を押さえたツカサを前に、シュータは訝しげに首を傾げた。
「何を怒ってんだよ、お前? 俺は、気を遣って出てってやったんだぜ?」
「気を遣った?」
「そうだよ」
自分と彼女にかけた反重力を操作し、ゆっくりと地面へ下降させながら、シュータは訊き返したツカサに頷いた。
「だって俺は、魔王の大敵の“勇者”だぜ? そんな奴がいつまでも魔王城の中に留まってたらおかしいだろうがよ。勇者が新しい魔王の即位式に顔出す訳にもいかねえしよ」
「ま……まあ、そうかもしんないけどさ……」
シュータの言葉に納得しつつも、ツカサは憮然とした顔をする。
そんな事を話しているうちに、ふたりは呪祭拝堂の石床の上に降り立った。
「さて……」
シュータは、足下に出来た擂鉢型のクレーターと、その真ん中で赤い魔法陣の下敷きになって潰れているダーストの姿を一瞥すると、おもむろに首を横を向けた。
そして、目を回してノビている古龍種の巨体の横に蹲っている男へ、皮肉げに声をかける。
「よう、十日ぶりくらいか、クソ魔王。いいザマだなぁ、オイ」
「シュ……シュータ……!」
シュータの嘲笑混じりの声に怒る事も忘れた様子で、ギャレマスは呆然とした声を上げた。
「お、お主……今までどこに……?」
「まったく……こんなクソゾンビども如きを相手にしたくらいで、そんな重傷を負ってんじゃねえよ。一応は自称・“地上最強の生物 (勇者シュータ除く)”なんだろ、テメエ?」
「じ、自称では無いわい! それと、カッコの後は付けんで良い!」
シュータの辛辣な言葉に思わず声を荒げたギャレマスだったが、すぐに苦悶の表情を浮かべながら脇腹を押さえる。
「い、痛ちちち……」
「オヤジ……!」
顔を歪めて苦しがるギャレマスを見たツカサが、思わず声をかけた。
一方のシュータは、呆れ顔をしながら肩を竦める。
「んだよ、マジで死にかけじゃねーかよ。ざまあねえな」
「う……」
「まったくよぉ……わざと腹を刺させて動きを封じようだなんて、バトルマンガの数合わせ雑魚味方キャラかテメーは」
「う、うるさい!」
シュータの呆れ顔に憤慨の声を上げたギャレマスだったが、すぐに怪訝な表情を浮かべた。
「……って、んん? しゅ、シュータ……お主、なぜその事を知っておるのだ?」
「は? “その事”って何の事だよ?」
「余が祖父上にわざと腹を刺させた事をだ! あれは、結構前の事だぞッ?」
声を荒げたギャレマスは、ハッとした顔をして、シュータの顔を凝視する。
そして、眉間に皺を寄せながら、「まさか……」と言葉を続けた。
「シュータ、お主……実は、かなり前からこの呪祭拝堂の中に潜んで、我らの戦いぶりをこっそり見ていたのではないか……?」
「……てへぺろ」
「しゅ、シュータぁ! お、お主ぃっ!」
おどけた顔で舌をペロリと出したシュータに、ギャレマスは思わず声を荒げる。
「な、中に居たのなら、さっさと姿を現して、我らの手助けを――ぐぼぁっ!」
「うるせえ、魔王のクセに勇者を頼ってんじゃねえよ、タコ!」
抗議するギャレマスの顔面にエネルギー弾をぶつけて黙らせたシュータが怒鳴った。
……まあ、暴力を振るうのはともかく、今回はシュータの言う事が正論だ。
「つーか、どのタイミングで出て来ようが、俺の勝手だろうが」
そう言いながら、シュータはニヤリとほくそ笑む。
「だから、ずっとスタンバってたんだよ。主役として一番映える登場のタイミングまでな……ククク」
「しゅ、主役って……この物語の主役は、お主じゃなくて余のほ――痛だぁッ!」
「あーあー、聞こえねえなぁ~」
ブツブツと文句を言う魔王の鼻柱に指で弾いた極小のエネルギー弾を叩き込んだシュータは、涼しい顔でしらばっくれた。
――と、その時、
「しゅ、シュータ様!」
唖然としてふたりのやり取りを見ていたファミィが、慌てて叫んだ。
「敵が! 三人も!」
「あぁん?」
彼女の叫び声を聞いたシュータが、不機嫌な声を上げながら首を曲げる。
ファミィの警告の通り、彼女たちを囲っていたダーストの内の三体が、新たに現れたシュータに狙いを変え、各々の得物を掲げながら踊りかかってきた。
だが、それを見たシュータに焦りの色は見えない。
むしろ、更に機嫌を悪くした様子で舌打ちした。
「たった三匹かよ」
そうボヤきながら、彼は素早く中空に魔法陣を描き上げる。
そして、
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