雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

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エピソード15 MAOH WORLD!

魔王と勇者と負傷

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 ――と、

「おう、勇者の兄ちゃんよ」

 少しだけ棘を含んだ声をシュータにかけたのは、ヴァートスだった。
 彼は、殺気を放ちながら自分たちと対峙する残り二体のダーストに顎をしゃくりながら、シュータに言う。

「若い姐ちゃんたちと楽しく会話しとるところ済まないんじゃが、こやつらもちゃちゃっと片付けてくれんかの?」
「あぁ?」

 ヴァートスの声に、シュータはあからさまに不機嫌な表情を露わにして、老エルフを睨みつけた。

「何を偉そうに指図してんだよ、クソジジイ。そんなゾンビ二匹くらい、テメエで何とかしろ」
「なーにを言うとるんじゃ、この若造」

 シュータの言葉を聞いたヴァートスは、白い眉を顰めながら憤然とする。

「ワシャ、もうとっくに理力切れで戦えんのじゃ。じゃから、こうやって獣人の姐ちゃんに守護まもってもらっとるんじゃ!」
「いや……アタシは別におじーちゃんを守ってる訳じゃないんだけど……」

 ジェレミィアは、困惑の表情を浮かべながら首を巡らし、自分の背中にひしと抱きついて離れないヴァートスにジト目を向けた。

「おじーちゃんがいつまで経っても離れてくれないから、結果的に守ってるような感じになっちゃってるだけで……。ねえ、戦いづらいから、いい加減離れてくれないかなぁ?」
「嫌じゃ! ワシャ離れんぞい! こんなムチムチでプリプリの姐ちゃんの身体に密着できる機会、むざむざと手放してたまるものか!」
「うわぁ……」

 いっそ清々しいとすら思えるヴァートスの開き直った言葉に、もはや怒るを通り越してドン引きするジェレミィア。
 そんな老エルフの姿を見ながら、シュータも思わず呆れ顔を浮かべる。

「まったく……子泣きジジイかよ……」

 そう呟いたシュータは、くるりと踵を返すと、スタスタとギャレマスの元へと歩み寄った。
 そして、蹲っていた魔王のローブの襟を掴んで引っ張り上げながら、居丈高に言う。

「――って事で。あとはテメエが片付けろ、クソ魔王」
「へ?」

 脇腹の傷を押さえたままの格好で無理やり立ち上がらされたギャレマスは、シュータの言葉を聞いて、当惑の表情を浮かべながら首を横に振った。
 それを見たシュータが、訝しげに眉を顰める。

「……どうした? 何か不服か?」
「ふ、不服ではないが……」

 シュータの問いかけに頭を振りながら、ギャレマスは言いづらそうに言葉を継いだ。

「も……もちろん、戦いたいのはやまやまなのだが……。如何せん、この脇腹の傷が――」
「グジグジうるせえなぁ!」

 躊躇するギャレマスに苛立ちを露わにしながら、シュータが怒声を上げる。

「そんなケガのひとつやふたつくらいでピイピイ泣き言をほざいてんじゃねえよ! テメエは魔王だろうが! 無限に増殖したり最終形態に変身したり超魔生物に変態したり出来ねえのかよ、アァッ?」
「そ、そんな事、出来るはずがないであろうがっ! お主、魔王を何だと思っておるのだッ?」
「……あ、でも、変態はもうとっくの昔になってるか。もちろん、“メタモルフォージス”の方じゃなくて、“キンクKink”の方の意味でな」
「め、めたも……きんく……? って、そ、そんな事は無いぞッ!」

 シュータが口にした聞き慣れぬ単語に戸惑ったギャレマスだったが、自分の事を“性癖的な方の変態”だと揶揄された事を察して憤慨した。

「よ、余は至ってノーマルな性癖だ! というか、自分好みの女子にチヤホヤされたいだけの理由で“伝説の四勇士”なんて存在をでっち上げて、ファミィたちを集めたお主には言われたく――!」
「バカ! その事は言うんじゃねえよボケ!」
「も、モゴモゴッ?」

 ギャレマスの暴露に、シュータは慌てて彼の口を掌で塞いだ。
 そして、少し離れたところで怪訝な表情を浮かべている三人の“伝説の四勇士”の女たちの顔を横目で見ながら、潜めた声で魔王を咎める。

「……その話は、アイツらにも話してねえんだ! バレたら、アイツらの俺への信頼とか忠誠とかが吹っ飛ぶじゃねえかよ! 余計な事をほざくなボケ!」
「も、モゴモゴ……!」

 思わず『……お前への忠誠なんて、エラルティスたちは始めからほとんど無いんじゃ……?』と口走りかけたギャレマスだったが、シュータに口を塞がれていたおかげで聞かれずに済んだ。

(万が一にも聞かれたら、確実に十分の九殺しされるところだった……。というか、人間族ヒューマー領全土で欠員補充オーディションをしてた時点で、“伝説の四勇士”が伝説でも何でもない事はバレてそうなものだが……)

 そう思いながら、ギャレマスは『了解した』と小刻みに頷く。それを見たシュータは、微かに安堵の息を漏らしてからニヤリと薄笑み、「じゃあ――」と続けた。

「張り切って行ってこい!」
「……へ?」

 シュータの言葉に目を丸くしたのも束の間、彼は自分の体が浮き上がったのを感じて驚きの声を上げる。

「え? あ、ちょ、ちょっと? しゅ、シュータっ、ま、待て!」

 そう叫びながら必死で抗おうとするギャレマスだったが、反重力アン・グラヴィの魔法陣に搦め取られた体は、彼の意志に反して軽々と宙を舞った。

「うわあああああああああ~っ!」

 情けない悲鳴を上げながら、呪祭拝堂ナームの中で放物線を描いて飛んだギャレマスは、ふたりのダーストの目の前に落下する。

「い、痛ちちちち……」
「ほら、歩く手間を省いてやったぜ!」

 落下の際に強かに打ちつけた腰を涙目で擦るギャレマスに、シュータが揶揄うように声をかけた。
 その声に、ギャレマスは焦燥を露わにしながら叫び返す。

「な、何をするのだ、シュータ! だから、余は負傷していて、もう碌に戦えぬと申しておろうが!」
「負傷?」

 ギャレマスの叫びを聞いたシュータは、片眉を上げながら、訝しげに訊き返した。

「どこを負傷してるって言うんだよ、テメエはよ?」
「だ、だから、さっきも言うたであろうが! 脇腹に深い傷を受けていると! ほれ、この通り……」

 そう叫びながら、シュータに傷を見せようとローブを捲ろうとしたギャレマスだったが――、

「……あれ?」

 ふと違和感を覚え、微かに首を傾げながら露わになった脇腹に目を落とす。
 そして、思わず目を丸くした。

「な……無い? 無くなっている……脇腹の傷が……」
「脇腹だけじゃねえよ」

 驚いているギャレマスの様子をせせら笑いながら、シュータは言った。

「テメエが今までに受けた負傷、全部治してやったよ。ついでに、理力も満タンにしてやった。俺の“超回復スーパーリカバリー”でな」
「な……何だと?」

 シュータの言葉に驚きながら、ギャレマスは自分の体を見回す。
 そして、微かに手を握り込んで、体内の理力の流れを感じ取りながら、小さく頷いた。

「……確かに、お主の言う通りのようだ。し、しかし……いつの間に?」
「さっき、テメエの胸倉を掴み上げてた隙にちょちょいとな」

 涼しい顔でそう答えたシュータは、耳に小指を突っ込んでほじりながら顎をしゃくる。

「――ほら、ゾンビの皆さんがお待ちかねみたいだぜ。存分に遊んでやんな」
「む……?」

 シュータの言葉にハッとして頭を巡らせたギャレマスの目に映ったのは、得物を振り上げて躍りかかろうとしているふたりのダーストの姿だった。

「ふ……!」

 それに気付いた魔王は――口元に不敵な笑みを浮かべ、

「――そうだな。この“雷王”、存分に相手をしてやろうぞ!」

 と叫びながら、高らかに両手を打ち合わせたのだった――!
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