雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

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エピソード3 魔王の霍乱

陰密将と姫と論破

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 「ま、まあ、そんな事はともかく――」

 ギャレマスはそう言って、収拾がつかなくなりそうなスウィッシュとファミィの言い争いを強引に打ち切らせた。
 そして、拳を口元に当ててわざとらしく咳払いをすると、傍らのサリアに目を向け、キッパリと言った。

「サリアよ。スウィッシュがついて来るかどうかと、お主の事は、全く別の話だ。やはり余は、真誓魔王国国王として、お主の同行を許すわけにはいかぬ。諦めよ」
「えぇ~ッ!」

 ギャレマスの言葉を聞いたサリアは、顔いっぱいに不満を浮かべて、ギャレマスに食ってかかる。

「そんな! イヤです! 絶対にサリアも一緒に参ります~ッ!」
「だから、それはならぬと言うておろうに!」
「サリアは、絶対にお父様たちの足を引っ張るような事はいたしません! きっとお役に立てますから、連れて行って下さい!」
「……というか、なぜ、そこまで頑強についていこうとしているのだ、姫よ」
「「「「「――ッ!」」」」」

 突然聞こえた声に、部屋に居た者たち全員が驚愕の表情を浮かべ、一斉に声のした方に振り向いた。

「な……何だ? みんなして……」

 それまで、部屋の隅で音も無く佇んでいたアルトゥーは、急に全員に振り返られた事に驚き、僅かに表情を引き攣らせながら、怪訝そうな声で訊ねる。

「まるで、己の事を幽霊か何かのような目で見て……」
「あ……いや、いつの間に居たのかと思って……」

 驚きで胸をバクバクさせながら、ギャレマスはおずおずと答えた。
 主の問いかけに、アルトゥーは憮然とした表情を浮かべながら答える。

「いつの間にとは、どういう意味だ? ……己は、大分前からずっとここに立っていたのだが」
「あ……そ、そうなのか……。あまりにもお前の影が薄……いや、気配を消していたから、気付かなかった……」
「……別に己は、気配を消していたつもりは無かったのだが」
「……あ、すまぬ……いや、なにせ前回、お前の事については一文字も言及が無かったし……」
「それは、己の責任じゃない。書いている奴のだ」
「いや……多分、それはわざと……」
「ん?」
「アッイエ」
「……」

 アルトゥーは、気まずそうに口を噤んだギャレマスの顔をジロリと見ると、その傍らに立つサリアの方に目を向け、口を開く。

「――で、姫。何故お前は、そこまで執拗に食い下がるんだ?」
「そ、それは……」
「正直、おれも王の指示に賛同はしかねる。今回の作戦は、少人数で行なう事が求められるとはいえ……」

 アルトゥーはそう言うと、ギャレマスやスウィッシュの顔を順番に見回した。

「指揮役の王と、対エルフ接触交渉役のハーフエルフと、調略実行役の己。あと、おまけの雑用役の氷牙将――。いくら何でも、今のメンツだけでは少なすぎるように思う」
「ちょっ! 誰が“おまけの雑用役”ですってッ?」

 と、声を荒げるスウィッシュの事はあっさりと無視して、アルトゥーは言葉を継ぐ。

「エルフを解放した後、追いかけてくるであろう人間族ヒューマーたちを迎撃するのは王ひとりに任せるとして……、魔王国領へ誘導する間のエルフ族の護衛と誘導を、氷牙将とハーフエルフと己の三人だけで賄うのは、かなり厳しいと思う」
「じゃあ――!」
「……だが」

 アルトゥーの言葉に、表情を輝かせるサリアだったが、彼は手を挙げて、小さく首を横に振った。

「新たにメンツを増やすとしても、それは姫、貴女ではない」
「え――ッ?」

 アルトゥーの言葉に、サリアは不満たらたらといった声を上げる。

「何で! 何でサリアじゃダメなの、アル君ッ?」
「単純な話だ。姫では、戦力として心もとないからだ」
「――ッ!」

 歯に衣着せぬアルトゥーの物言いに、サリアは絶句した。
 そんな彼女の事を前髪に隠れた瞳でジッと見据えながら、アルトゥーはぼそぼそと言葉を継ぐ。

「――確かに、姫は魔王家の者でないと使えない雷系呪術を操れる」
「そ、そうだよ! 雷系呪術は、この世界でお父様とサリアにしか使えないんだから、サリアの力って貴重でしょう? だったら、今回の作戦にも役に――」
「だが、
「……ッ!」

 必死で自分を売り込もうとした言葉をバッサリと切り捨てられ、サリアは思わず息を呑んだ。
 そんな彼女を前に、アルトゥーは淡々と言葉を紡ぐ。

「率直に言って、姫の雷系呪術は王のそれと比べてあまりにも未熟で、威力も比較にならないほど弱い。王の極龍雷撃呪術デスト・ラディのような発展呪術式も持っていないしな。少数精鋭の作戦実行部隊パーティのひとりにするには、実力が足りなすぎる」
「で、でも!」

 彼の言葉に、サリアは激しく反発する。

「こ、この前のヴァンゲリンの丘の戦いで、サリアはあの勇者シュータと戦って負けなかったんだよ! 父上があそこまで苦戦していた勇者シュータに!」
「……」

 サリアの言葉に、バツが悪そうに目を逸らすギャレマス。あの戦いは、実は“苦戦”などではない“舐めプされた上での完敗”だという事は、口が裂けても白状できない。
 だが、そんなサリアの主張も、アルトゥーはあっさり崩す。

という事は、という事だろう? ――実際、途中でヴァンゲリンの丘が噴火したから有耶無耶になっただけで、あのまま戦っても姫に勝ち目は無かったと聞いているが」
「そ……それは」
「いいか、姫よ。貴女は強かったのではない。単に運が良かっただけ――」
「お……おい! アルトゥー!」

 サリアの我儘を、ドの付くほどの正論で論破していくアルトゥーをさすがに見かねて、思わずギャレマスが口を挟んだ。

「な……何もそこまで言う事は無いだろう? もう少し、含んだ言い方で……」
「このくらいハッキリ言ってやらなければ、姫はいつまで経っても引き下がらないぞ、王よ」
「そ、それはそうだが……」

 窘めるつもりが、容赦のないダメ出しが自分の方にも飛んできた事に、ギャレマスはたじろぐ。
 一方、戦慄わななく唇を噛みしめ、目をウルウルと潤ませたサリアの元に、スウィッシュとファミィが慌てて歩み寄る。

「た、確かに言い草はひどいですけど、あいつの言う事にも一理あります。サリア様、今回は陛下の御指示通り、大人しくここで待っていて下さい」
「そ、そうだ。その女の言う通りだ。私は、あの時の戦いを直に見ていたが、お前の力はまだまだ拙い。……どうして、シュータ様があそこまでお前の事を警戒したのかは分からないけど……」

 ファミィはふと呟くが、すぐに気を取り直し、サリアの肩に手を置いて言葉を継いだ。

「と、とにかく……。お前が私たちエルフ族の為に力を貸そうとしてくれるのは、本当に嬉しい。その気持ちだけで、私は充分――」
「――何ですかッ、ファミちゃんもスーちゃんもお父様もアルトゥーも!」

 ファミィの言葉を遮って、突然絶叫したサリア。
 彼女は、目尻に涙の粒を浮かべた目で皆を睨みつけると、更に声を張り上げた。

「サリアの今も知らないで、みんなして未熟だ拙いだって! 今のサリアの力は、前みたいな雷系呪術だけじゃあないんですぅ!」

 彼女はそう叫ぶや、親指と人差し指で口笛の形を作り、口元に持っていくと、思い切り息を吹いた――!
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