雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

文字の大きさ
71 / 423
エピソード4 さまよえる(顔色が)蒼い魔王

魔王と指示と激励

しおりを挟む
 自分たちそっちのけで激しい口喧嘩を繰り広げ始めたスウィッシュとファミィを前にして、呆気に取られていた半人族ハーフヒューマーだったが、気を取り直して石斧や石槍を構えると、「イ――ッ!」という奇声と共に、ふたりに向かって一斉に飛びかかってきた。

「――ッ! ファミィは後ろ!」

 スウィッシュはそう叫ぶと、前方から突っ込んでくる半人族ハーフヒューマーに向けて手を翳すと、高らかに叫んだ。

氷筍造成魔術ガリガ・リーク!」
「イ、イギーッ!」

 彼女の叫びと呼応するかのように、突如足元から伸びてきた鋭い氷筍に進路を妨げられた半人族ハーフヒューマーたちは、驚きの叫びを上げながら、敏捷に跳び退く。

「ちっ……すばしっこい!」

 足止めは出来たものの、少なくとも十人程度は氷漬けにするつもりで術を放ったスウィッシュは、半人族ハーフヒューマー全員が術を回避したのを見て、顔を顰めて舌打ちした。
 ――一方、

「イ――ッ!」

 奇声を発しながら突っ込んでくる半人族ハーフヒューマーたちを一瞥したファミィは、口元に皮肉げな笑みを浮かべると、鈴の鳴るような声で精霊術の霊句を口ずさむ。

『――こたうべし 風司かぜつかさどる精霊王 その手を振りて 風波かざなみ立てよ!』

 次の瞬間、彼女を中心に凄まじい猛風が吹き荒んだ。

「イギ――ッ!」

その風に煽られ、数人の半人族ハーフヒューマーが宙を舞い、鬱蒼と茂る木々の幹に頭をぶつけて昏倒する。

「ギギッ!」

 思わぬ反撃にたじろぐ半人族ハーフヒューマーたち。
 スウィッシュとファミィは、怯んだ様子の半人族ハーフヒューマーに更なる一撃を見舞うべく、それぞれの術を詠唱しようとする。

「覚悟なさい! 阿鼻叫喚氷晶魔アイ・スクリ・イー――!」
こたうべし 風司かぜつかさどる精霊王 その力以て――』

 ――と、その時、

「ふたりとも! その者たちを殺すでないぞ!」
「え……?」
「何……?」

 ふたりを強く制止する声が上がり、彼女たちは目を大きく見開き、詠唱を途中で止めた。
 スウィッシュとファミィは、不満げな表情を浮かべて声の主に目を向ける。

「――陛下っ? 何故お止めになるのですか? こいつらは、畏れ多くも真誓魔王国国王陛下に向かって害を為そうとした者たちですよ! その罪、万死に値します!」
「魔王がどうのこうのなどどうでもいいが、妙な手心を加えると、後でしっぺ返しを食らうぞ。ここは後腐れなく鏖殺おうさつしておいた方がいい」
「――いや」

 それぞれの意見を述べる二人に、ギャレマスは寝そべったままで首を横に振った。

「この森に棲む半人族ハーフヒューマーならば、森の地理にも詳しいはずだ。当然、森の出口までの道程もな。ならば、あたら皆殺しにするよりも、きつく打ち据えるだけに止めて、我らが森を出るまでの道案内をさせた方が良かろう」
「「……!」」

 ギャレマスの言葉にハッとして、顔を見合わせるスウィッシュとファミィ。
 そんなふたりに、ギャレマスは更に言葉をかける。

「となれば、ひとりでも死人を出す事はならぬ。原初亜人といえど、多少は同族の絆というものを持ち合わせておるだろうからな。仲間が殺されたとあれば、死に物狂いで仇を取りに来るに違いない。そうなれば、こちらも手加減などできなくなる」
「……この数の半人族ハーフヒューマーを、ひとりも殺さずに無力化しろというのか、魔王……」

 ギャレマスの言葉に、ファミィが呆れ声を上げる。
 そんな彼女の声に対して、魔王は重々しく頷いた。

「そうだ。難しいかもしれぬが、そこを何とか頼む」

 ギャレマスはそう言うと、腰の痛みに顔を顰めながら身を起こし、ファミィとスウィッシュの顔を交互に見回しながら言葉を継ぐ。

「他の者ならいざ知らず、“伝説の四勇士”と“四天王”のお主らなら、それも可能な事だと信じておる。――頼んだぞ!」
「「――ッ!」」

 ギャレマスの言葉を耳にした瞬間、ファミィとスウィッシュの目が大きく見開かれた。

「……ふふ」

 愉快そうな笑い声を上げたのは、ファミィだった。
 彼女は、思わず綻んだ口元を手の甲で隠しながら、微かに弾む声で言う。

「まさか……大敵である魔王ギャレマスから、頭を地面に擦りつけられながら頼まれごとをされる日が来ようとはな……ついこの間までは想像もしていなかったぞ」
「い……いや、頭を地面に擦りつけるまではしておらぬが……」
「今日の日を、『魔王に泣きながら懇願された日』として、エルフ族の歴史書に永く残す事としよう。くくく……」
「いやいや! 泣いてもおらぬぞ! そんなデタラメ黒歴史、勝手に歴史に刻むでないぞ! ――おい、聞いておるのか、ファミィ! お~いっ!」

 慌てて情報の訂正を求めるギャレマスだったが、ファミィは聞く耳も持たぬ様子で、口元をだらしなく緩めながら、半人族ハーフヒューマーの方へと向き直ってしまう。

 と、その時、

穿刺鋭氷槍魔術ス・イカバ・アー!」

 やけに気合の入った詠唱が聞こえた。
 ギャレマスが目を遣ると、白い冷気を濛々と放つ、巨大な突撃槍を肩に担ぐスウィッシュの姿があった。
 彼女はくるりと振り向くと、真っ赤に上気した顔を綻ばせながらギャレマスに言った。

「陛下! ご期待に添えるよう、あたし頑張ります! 見てて下さい、魔王軍四天王がひとり、“氷牙将”スウィッシュの戦いぶりをっ!」
「う……うむ」

 ギャレマスは、すっかり舞い上がった様子のスウィッシュに気圧されながら、おずおずと頷いた。

「ま、任せたぞ……」
「……」
「……」
「……」
「……?」
「――お父様お父様……」

 目をキラキラさせているスウィッシュとの間に奇妙な沈黙が流れ、当惑するギャレットの肩を、膝枕しているサリアが叩いた。

「ここはですね、こう言ってあげるんですよ……」

 彼女はそう言うと、ギャレマスの耳元に何事か囁いた。

「……へ?」

 サリアの囁きを聞いたギャレマスが、目をパチクリさせながら、半信半疑といった様子で娘の顔を見返す。
 そして、サリアがこれ以上なく力強い様子で頷いたのを見ると、スウィッシュの方に目を向け、少し照れながら声をかけた。

「す、スウィッシュよ……頑張れ! 余もお主の事を応援しておるぞ!」
「――ッ! はいっ! かしこまりです~ッ!」

 ギャレマスの激励を受けたスウィッシュは、満開の花のような笑顔を見せると、やにわに半人族ハーフヒューマーの方へと向き直り、身の丈ほどもある突撃槍を軽々と振り回しながら嬉々として叫ぶ。

「陛下の温かいお言葉を賜りまして、あたしは100倍ですッ! キャハハハハッ! 半人族ハーフヒューマーがなんぼのもんじゃい~ッ!」

 ギャレマスの一言で、すっかりおかしなテンションになった彼女はそう絶叫するや、先ほどに倍する冷気を放つ突撃槍を大きく振りかぶって、狼狽している半人族ハーフヒューマーの群れの中に飛び込む。

「どっせ――いッ!」
「「「「ギキャ――ッ?」」」」

 そして、ただ一振りで十人以上の半人族ハーフヒューマーを一気に吹き飛ばしたのだった――!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...