雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

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エピソード5 マオー来訪者

老エルフと勇者と違和感

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 「――う、うるせえよッ、このクソジジイがッ!」

 ヴァートスの口から発せられた、湯面を波立たせるほどの大音声に思わず耳を塞ぎながら、シュータは怒鳴り返した。

「こ、この俺を誰だと思ってやがるんだ! “伝説の四勇士”筆頭であり、世界を救う完全無欠のスーパーヒーローである、勇者・シュータ・ナカムラ様だぞ、ゴラァっ!」
「うっさいわボケェッ!」

 凄むシュータを前にしても全く怯む様子を見せず、ヴァートスは一喝する。

「“伝説の四勇士”だろうが“四天王”だろうが“四英傑”だろうが“ナントカ電撃隊”だろうが、何人たりとも風呂で騒ぐ事は赦されんのじゃ! それは、時代が変わろうと世界が変わろうと決して変わらぬ、不変にして普遍の摂理ぞタワケ!」
「そ……そんなフヘンの摂理なんざ知らねえよボケジジイ!」

 ヴァートスの捲し立てる屁理屈に、負けじと言い返すシュータだったが、どことなくその声には、いつものようなキレが無い。
 そんな彼に向かって、ヴァートスは湯面に指を突きつけ怒鳴った。

「何でもいいから、取り敢えず湯舟に浸かれぃ! 何か粗末なモンがプラプラと視界に入って見苦しいわい!」
「だ! だ、誰のモンが粗末だ……って……」

 顔を真っ赤にして言い返そうとしたシュータだったが、ヴァートスの身体のを凝視すると、その声は急速に萎んだ。そして、心なしか顔を青ざめさせ、無言で手を当てて股間を隠すと、やはり無言のままで乳白色の湯の中に身体を沈める。

「ヒョッヒョッヒョッ! それでいいんじゃそれで!」

 一方のヴァートスも、満足そうな笑い声を上げながら、ざぶりとお湯に浸かった。
 憮然とした表情を浮かべたシュータは、小さく舌打ちをしながらギャレマスの事を睨みつけ、ヴァートスの事を指さすと、いかにもイライラした様子で声を荒げる。

「お、おい、クソ魔王!」
「アッハイ、何でしょ……もとい、な、何だ?」

 シュータの剣幕に気圧されて、思わず敬語で答えかけたギャレマスは、慌てて口調を改めつつ応えた。
 そんな彼に、シュータは苛ついた様子で怒鳴り散らす。

「何なんだよこのクソジジイは! さっきから微妙に視界に入ってて、ずっと気になってたんだけどよぉ! てっきりこの温泉に棲みついた妖怪かなんかだと思って、敢えてスルーしてたら……」
「こりゃ! 誰が妖怪垢嘗あかなめじゃい!」

 シュータの言葉に憤慨するヴァートス。
 彼は、酒と湯の熱さと怒りで顔を真っ赤にしながら捲し立てる。

「どうせ妖怪呼ばわりするんじゃったら、垢嘗なんてマイナー妖怪じゃなく、メジャーどころの子泣き爺あたりにせい! まったく、人の事をモブ呼ばわりしおって、失敬な!」
「お……怒るところ、そこかいっ! ……って! そもそもテメエの事を垢嘗呼ばわりしたのは、俺じゃなくてテメエ自身だろうが!」
「……あ、確かにそうじゃった。てへぺろ」
「てへぺろじゃねえええええっ!」

 とぼけたヴァートスのペースにすっかり翻弄されたシュータは、飛び出さんばかりに目を剥いて絶叫した。
 そして、眉間に深い皺を寄せて、恫喝するようにヴァートスにガンを飛ばすが、

「……ん?」

 老人のピンと横に伸びた長い耳に気付くと、怪訝な表情を浮かべる。

「――その長く尖った耳。……ジジイ、テメエ、ひょっとして――エルフか?」
「見りゃ分かるじゃろうが! それとも、ワシがウサギにでも見えとるんか、若造ッ?」
「くっ……口が減らねえ爺め……!」

 ヴァートスの挑発的な物言いに歯噛みしたシュータだったが、ふと違和感に気付き、不可解そうに首を傾げた。

「……つうかよぉ。今、エルフ族はメヒナ渓谷の収容所に集められてるはずだろ? なのに、何でエルフ族のジジイが、こんな所でのんびり温泉に浸かってるんだよ?」
「何じゃ、知っとるんか。あのクソ不快な3K収容所の事を」
「――ひょっとして……」

 やにわに、シュータの黒瞳に剣呑な光が宿る。

「収容所から脱走してきたのか、ジジイ?」
「脱走? 人聞きの悪い事言うな、若造!」

 シュータの問いかけに、ヴァートスは憤然として言い返す。

「ワシャ、脱走なぞしとらん! これは、じゃわい!」
「いや! 世間はソレを“脱走”と言うんだよ!」
「フン! “脱走”は、二度と戻らん場合に使う単語じゃろうが! ワシャ、用事が済んだらちゃんと収容所に帰るつもりじゃから、“脱走”には当たらんのじゃ。ハイ論破~!」
「く、クソッ! 下らねえ屁理屈ばっかり捏ねやがって……」

 小馬鹿にしたようなヴァートスの言葉に、ギリギリと歯噛みするシュータ。彼は辟易しながら、思わず独り言つ。

「まったく……垢嘗でも子泣き爺でもねえな、このジジイ。――もはや、ぬらりひょんだ」
「おう、妖怪の総大将に喩えてくれるとは嬉しいのう」
「うっせえ! そういう意味じゃ……ね……え?」

 能天気なヴァートスの声に怒鳴り返しかけたシュータだったが、その声は途中で途切れ途切れになり、最後には半音上がった。ふと、妙な違和感を覚えたからだ。

「……待てよ?」

 彼は、眉間に深い皺を刻みながら、その違和感の正体を探る。
 そして、ハッとした表情を浮かべると、ヴァートスに詰め寄った。

「お、おい、ジジイッ!」
「うっさいのう。今度は何じゃい? つか、ワシの名前はジジイじゃない。ヴァートス・ギータ・ヤナアーツォという、超カッコいい名前が――」
「んな事ぁどうでもいいんだよッ!」

 シュータは苛立たしげにヴァートスの言葉を遮ると、頭に浮かんだ疑問を早口でまくし立てる。

「そ、それより! テメエは何で知ってるんだよッ? 垢嘗とか子泣き爺とかぬらりひょんをよぉ!」
「……」

 ヴァートスは、シュータの問いに答えず、ただ意味深な薄笑みを浮かべるだけだった。
 そんな老エルフの態度に舌打ちしたシュータは、クルリと振り返り、呆気に取られてふたりのやり取りを見ているギャレマスに向かって声を荒げる。

「――クソ魔王! テメエは知ってるのか? 垢嘗とか子泣き爺とかぬらりひょんって妖怪の事を!」
「ファッ?」

 突然話を振られたギャレマスは、目をパチクリさせながら、ブンブンと首を横に振った。

「あ、アカナメ? コナキジジイ? ヌラリヒョン……? い、いや……そんな間の抜けた名前は、今まで聞いた事が無いが……」
「だよなぁ!」

 シュータはギャレマスの答えに頷くと、再びヴァートスの方に向き直り、口角泡を飛ばしながら詰問する。

「ほら! これが、この世界の奴らの普通の反応だ! 知ってる訳ねえんだよ! だって、垢嘗も子泣き爺もぬらりひょんも、全部俺が転移する前に住んでた“日本”の昔話に出てくる妖怪なんだから!」
「……ヒョッヒョッヒョッ」

 オーガのような表情で詰め寄るシュータを前にして、ヴァートスは愉快そうな笑い声をあげた。
 そして、口の端を吊り上げながら、シュータに言った。

「まったく……ワシがさんざん仄めかしてやったというのに、全然察しないのうと呆れとったが、ようやく気付いたか」
「な……んだと……? じゃ、じゃあ……やっぱり……」
「左様」

 愕然とするシュータの顔に、満足げな表情を浮かべて大きく頷いたヴァートスは、湯舟の縁に置いてあったゴブレットを手に取ってぐびりと飲み干すと、したり顔で言葉を継ぐ。

「お主の察した通りじゃ。ワシは、お主と同じく、日本からこの世界にやって来たんじゃ。――もっとも、“異世界転移”したお主とは違って、ワシは“異世界転生”の方じゃがな。ヒョッヒョッヒョッ!」
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