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エピソード6 勇魔同舟
天然ボケと口論と伝言
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「……ふむ。取り敢えず、今日のところはこのくらいか」
シュータやヴァートスたちと内容を詰め、来たる“エルフ族解放作戦”への計画の骨子が大体固まり、テーブルの上に並べられた皿があらかた空になったのを見て、ギャレマスが言った。
「そうですね……。もうそろそろ、貸し切りの刻限になりそうですしね」
壁にかけられた大きな振り子時計の短針が、もう少しで“3”の文字を指そうとしているのに気付いたスウィッシュが、主の言葉に頷く。
そして、テーブルの傍らに置いてあった牛頭の覆面をギャレマスに差し出した。
「陛下……そろそろ、支配人があたしたちを呼びに来ると思いますので、これを被って下さい」
「あ、そうだったな。忘れるところであった」
そう言いながら、ギャレマスはスウィッシュの手から覆面を受け取り、頭から被る。
その傍らで、サリアが膨らんだお腹を擦りながら、満足げな声を上げた。
「あー、美味しかったぁ! サリア、お腹いっぱいですー」
「ヒョッヒョッヒョッ! お嬢ちゃん、良く食べたのぉ。気持ちの良い食いっぷりじゃったぞ!」
「俺たちが作戦の話をしている間、ほとんど飲んで食ってたからな……」
上機嫌に笑うヴァートスとは対照的に、呆れ声を上げるシュータ。
「まったく……そんな体のどこにそんなたくさん入るスペースがあるんだよってくらいに食いまくりやがって……」
「えへへ~、照れるなぁ」
「いや、褒めてねえから」
照れくさげに頭を掻くサリアに、思わずシュータは呆れ顔でツッコむ。
だが、サリアは気を悪くした様子も無く、にへらあと笑った。
「だって美味しかったんですもん。それに、良く言うでしょ? 『美味しいものは別腹』って!」
「……姫よ。それを言うなら、『甘いものは別腹』だ」
「あれ、そうだっけ?」
今度はアルトゥーにツッコまれたサリアは、意外そうな顔をして首を傾げる。……どうやら、本人はボケたつもりは無く、素でそう覚えていたらしい。
そして、眉間に指を当てて考え込み、それからパッと目を輝かせながら叫んだ。
「あ! じゃあ『オレの胃袋は宇宙だ!』ってヤツ!」
「う、ウチュウ……?」
「いや、どこのフードファイターだよ、お前!」
ドヤ顔のサリアの言葉に訝しげな表情を浮かべるアルトゥーとは対照的に、すかさずシュータがツッコミを入れる。
それに対して、サリアはキョトンとした表情で首を傾げた。
「あれ……違いましたっけ?」
「いや……まあ、使い方としては間違ってねえんだけどよ……って!」
サリアに問い返されたシュータは頭を抱え、ギャレマスの方をキッと睨みつけて叫ぶ。
「……おい、魔王! 何なんだよ、テメエの娘は! 話をしてると、いちいち調子が狂ってやりづらい事この上ないんだけどさぁ! 天然ボケマシーンかゴラァ!」
「え……? い、いや、それを余に言われても……って!」
シュータの理不尽極まるクレームに、困惑の声を上げかけたギャレマスだったが、突然眉間に皺を寄せると、憤然と立ち上がった。
「おい、シュータ! 貴様、サリアの事を“ボケ”と申したか! 余の事ならいざ知らず、サリアの事を侮辱する事は赦さぬぞ!」
「“ボケ”じゃなくて“天然ボケ”だ! 別に侮辱までしたつもりはねえよ! つーか、天然ボケを天然ボケと言って何が悪いんだよこのクソボケ魔王!」
「ちょっと! 勇者シュータッ! “ボケ魔王”までだったらギリギリ許せたけど、“クソボケ魔王”は許せないわ!」
「いや……“ボケ魔王”も“クソボケ魔王”も、そんなに変わらねえだろ、ソレ」
「うるさいっ! とにかくっ、サリア様に加えて、陛下の事まで侮辱するのは、あたしが許さないわよ!」
「うるせえのはお前だ! ピーチクパーチク喧しいんだよ、このヒステリー雪女が!」
「誰がヒステリーですってぇっ! この……仲間を見捨てて知らんふりした薄情勇者がッ!」
「ぐ……ッ! こ……この――ッ!」
「これこれ! 三人ともやめんかい!」
激昂して席を立ち、激しい口喧嘩を始めた三人をうんざり顔で窘めるヴァートス。
そんな彼の言葉に、サリアも大きく頷いた。
「そうですよー! みんな、仲良くしないとダメですよー!」
「サリア! だが……」
「別に、“天然ボケ”って言われたくらいでサリアは気にしませんよー。勇者シュータさんも侮辱じゃないって言ってましたし。だから、そんなに怒らないで下さい、お父様」
「うぐぐ……しかし……」
「当事者である姫自身がこう言っているのだ。少し頭を冷やす事だな、王よ」
「……」
それまで傍観していたアルトゥーにも冷静な口調で諭されたギャレマスは、憮然とした表情を浮かべながら椅子に座り直した。
それを見たアルトゥーは、次いでスウィッシュの方へと顔を向ける。
「……お前も、もう少し冷静に振る舞え、氷牙将。お前は、四天王のひとりにして、王の側近でもあるんだぞ。怒りで我を忘れている王の事を抑えも諫めもせず、一緒に……いや、王以上に激昂するとは何事だ」
「で……でも……!」
「そんな風にすぐ頭に血を上らせていては、また王を氷漬けにしてしまうぞ」
「そ、それは……うぅう」
アルトゥーに痛い所を衝かれたスウィッシュも、ぐうの音も出ぬ様子で席に座る。
ふたりが席に着いたのを見たシュータも、憮然とした顔で椅子に腰を下ろした。
三人が落ち着いたのを見て、ヴァートスは深々と息を吐く。
「やれやれ……ワシはそろそろ収容所に戻る頃合いじゃが、これから共に作戦を進めようというのに、お主らがこんな調子では先行きが思いやられるわい」
「……」
「大丈夫です、ヴァートスさん!」
ヴァートスの呆れ声に三人が気まずげな表情を浮かべる中、力強い声で応じたのはサリアだった。
彼女は、ニッコリ笑い、胸を張りながら答える。
「お父様たちには、サリアが後で良く言って聞かせますから、ヴァートスさんは安心して下さい!」
「ヒョッヒョッヒョッ! 頼もしいのう、お嬢ちゃんは」
サリアの言葉にヴァートスは表情を綻ばせた。
そして、サリアに大きく頷きかける。
「じゃあ、頼むぞ、お嬢ちゃんや。そこの大人げない頑固者どもをしっかりとシメといてくれ」
「はいっ! 任せておいて下さい!」
そう答えてニッコリと笑うサリアに笑み返し、ヴァートスは「よっこいしょういち……」と言いながら席を立った。
そして、彼と一緒に立ち上がったアルトゥーに頷きかけると、ギャレマスに顔を向けて言う。
「じゃあ……さっきの話通り、収容所の方で火急の報せがある時には、この根暗の兄ちゃんをそっちに寄越すからのう」
「あ……うむ、分かった」
そう答えたギャレマスは、ヴァートスに深々と頭を下げた。
「では……宜しく頼む。くれぐれも気を付けられよ」
「ヒョッヒョッヒョッ。心配するには及ばん。これから草原を横断するといっても、根暗の兄ちゃんの護衛があるからのう」
「いや、そうではなく……」
ギャレマスは小さく首を横に振ると、言葉を継いだ。
「今回の作戦……くれぐれも人間族側に気取られる事の無いように、慎重に頼むぞ」
「ああ、そっちの方かい」
ヴァートスは苦笑を浮かべると、力強く頷いた。
「任せておけい。大船に乗ったつもりでな」
「うむ……」
自信満々といった様子のヴァートスに頷いたギャレマスは、「ああ、あと――」と続ける。
「向こうに着いたら、ファミィにも宜しく言っておいてくれ」
「あ! サリアも! ファミちゃんに『六日後にまた会おうねー』って伝えておいて下さい!」
「あ、あの……じゃあ、あたしも……『気を付けて』って……」
「ヒョッヒョッヒョッ! 相分かったぞい。確かに伝えておこう」
三人からの言伝を二つ返事で承知したヴァートスは、黙ったままのもうひとりの顔を見た。
「――お主は、何かあるか?」
「え……?」
急に声をかけられ、驚いた声を上げたシュータは、戸惑いながら口ごもる。
「いや……別に俺は……」
「あっそう。じゃあ――」
「あ! い、いや、待て!」
あっさり引き下がろうとするヴァートスを慌てて引き留めたシュータは、中空に視線を泳がせながら、おずおずと言った。
「じゃあ……そうだな……じゃあ、『頑張れ』って……」
「分かった。伝えておこ――」
「あ、あと!」
そう、シュータは上ずった声を上げると、顔を俯けて小さな声で言葉を続ける。
「その……わ、『悪かった』って……」
「――了解した」
微かに顔を赤らめているシュータに柔らかな笑みを向けて頷いたヴァートスは、ギャレマスたちに「じゃあの」と言い残して踵を返しかけたが、「ああ、そうじゃ」と呟くと、ギャレマスの方に顔を寄せた。
「――そうじゃ、ギャレの字。お主に教えておいた方がいい事があったんじゃった」
「……『教えておいた方がいい事』? 何だ、それは――」
「それはのう……」
そう言って、魔王の耳元に囁きかけようとしたヴァートスだったが、ギャレマスの傍らでキョトンとした表情を浮かべているサリアの顔が目に入ると、つと躊躇した様子を見せる。
そして、
「――いや、何でもない」
そう呟くように言って、首を左右に振ったヴァートスは、ギャレマスから離れた。
「……ヴァートス殿?」
「ああ、やっぱりいいんじゃ。まだ、そうだと言い切れるほどの確証が無い。今のところは、ただのジジイの推測でしかないからのう。忘れてくれ」
「……?」
不可解な顔をして首を傾げるギャレマスをはぐらかすように、ヴァートスはにっこりと笑って頷きかける。
「ではでは――各々、抜かりなく、な」
シュータやヴァートスたちと内容を詰め、来たる“エルフ族解放作戦”への計画の骨子が大体固まり、テーブルの上に並べられた皿があらかた空になったのを見て、ギャレマスが言った。
「そうですね……。もうそろそろ、貸し切りの刻限になりそうですしね」
壁にかけられた大きな振り子時計の短針が、もう少しで“3”の文字を指そうとしているのに気付いたスウィッシュが、主の言葉に頷く。
そして、テーブルの傍らに置いてあった牛頭の覆面をギャレマスに差し出した。
「陛下……そろそろ、支配人があたしたちを呼びに来ると思いますので、これを被って下さい」
「あ、そうだったな。忘れるところであった」
そう言いながら、ギャレマスはスウィッシュの手から覆面を受け取り、頭から被る。
その傍らで、サリアが膨らんだお腹を擦りながら、満足げな声を上げた。
「あー、美味しかったぁ! サリア、お腹いっぱいですー」
「ヒョッヒョッヒョッ! お嬢ちゃん、良く食べたのぉ。気持ちの良い食いっぷりじゃったぞ!」
「俺たちが作戦の話をしている間、ほとんど飲んで食ってたからな……」
上機嫌に笑うヴァートスとは対照的に、呆れ声を上げるシュータ。
「まったく……そんな体のどこにそんなたくさん入るスペースがあるんだよってくらいに食いまくりやがって……」
「えへへ~、照れるなぁ」
「いや、褒めてねえから」
照れくさげに頭を掻くサリアに、思わずシュータは呆れ顔でツッコむ。
だが、サリアは気を悪くした様子も無く、にへらあと笑った。
「だって美味しかったんですもん。それに、良く言うでしょ? 『美味しいものは別腹』って!」
「……姫よ。それを言うなら、『甘いものは別腹』だ」
「あれ、そうだっけ?」
今度はアルトゥーにツッコまれたサリアは、意外そうな顔をして首を傾げる。……どうやら、本人はボケたつもりは無く、素でそう覚えていたらしい。
そして、眉間に指を当てて考え込み、それからパッと目を輝かせながら叫んだ。
「あ! じゃあ『オレの胃袋は宇宙だ!』ってヤツ!」
「う、ウチュウ……?」
「いや、どこのフードファイターだよ、お前!」
ドヤ顔のサリアの言葉に訝しげな表情を浮かべるアルトゥーとは対照的に、すかさずシュータがツッコミを入れる。
それに対して、サリアはキョトンとした表情で首を傾げた。
「あれ……違いましたっけ?」
「いや……まあ、使い方としては間違ってねえんだけどよ……って!」
サリアに問い返されたシュータは頭を抱え、ギャレマスの方をキッと睨みつけて叫ぶ。
「……おい、魔王! 何なんだよ、テメエの娘は! 話をしてると、いちいち調子が狂ってやりづらい事この上ないんだけどさぁ! 天然ボケマシーンかゴラァ!」
「え……? い、いや、それを余に言われても……って!」
シュータの理不尽極まるクレームに、困惑の声を上げかけたギャレマスだったが、突然眉間に皺を寄せると、憤然と立ち上がった。
「おい、シュータ! 貴様、サリアの事を“ボケ”と申したか! 余の事ならいざ知らず、サリアの事を侮辱する事は赦さぬぞ!」
「“ボケ”じゃなくて“天然ボケ”だ! 別に侮辱までしたつもりはねえよ! つーか、天然ボケを天然ボケと言って何が悪いんだよこのクソボケ魔王!」
「ちょっと! 勇者シュータッ! “ボケ魔王”までだったらギリギリ許せたけど、“クソボケ魔王”は許せないわ!」
「いや……“ボケ魔王”も“クソボケ魔王”も、そんなに変わらねえだろ、ソレ」
「うるさいっ! とにかくっ、サリア様に加えて、陛下の事まで侮辱するのは、あたしが許さないわよ!」
「うるせえのはお前だ! ピーチクパーチク喧しいんだよ、このヒステリー雪女が!」
「誰がヒステリーですってぇっ! この……仲間を見捨てて知らんふりした薄情勇者がッ!」
「ぐ……ッ! こ……この――ッ!」
「これこれ! 三人ともやめんかい!」
激昂して席を立ち、激しい口喧嘩を始めた三人をうんざり顔で窘めるヴァートス。
そんな彼の言葉に、サリアも大きく頷いた。
「そうですよー! みんな、仲良くしないとダメですよー!」
「サリア! だが……」
「別に、“天然ボケ”って言われたくらいでサリアは気にしませんよー。勇者シュータさんも侮辱じゃないって言ってましたし。だから、そんなに怒らないで下さい、お父様」
「うぐぐ……しかし……」
「当事者である姫自身がこう言っているのだ。少し頭を冷やす事だな、王よ」
「……」
それまで傍観していたアルトゥーにも冷静な口調で諭されたギャレマスは、憮然とした表情を浮かべながら椅子に座り直した。
それを見たアルトゥーは、次いでスウィッシュの方へと顔を向ける。
「……お前も、もう少し冷静に振る舞え、氷牙将。お前は、四天王のひとりにして、王の側近でもあるんだぞ。怒りで我を忘れている王の事を抑えも諫めもせず、一緒に……いや、王以上に激昂するとは何事だ」
「で……でも……!」
「そんな風にすぐ頭に血を上らせていては、また王を氷漬けにしてしまうぞ」
「そ、それは……うぅう」
アルトゥーに痛い所を衝かれたスウィッシュも、ぐうの音も出ぬ様子で席に座る。
ふたりが席に着いたのを見たシュータも、憮然とした顔で椅子に腰を下ろした。
三人が落ち着いたのを見て、ヴァートスは深々と息を吐く。
「やれやれ……ワシはそろそろ収容所に戻る頃合いじゃが、これから共に作戦を進めようというのに、お主らがこんな調子では先行きが思いやられるわい」
「……」
「大丈夫です、ヴァートスさん!」
ヴァートスの呆れ声に三人が気まずげな表情を浮かべる中、力強い声で応じたのはサリアだった。
彼女は、ニッコリ笑い、胸を張りながら答える。
「お父様たちには、サリアが後で良く言って聞かせますから、ヴァートスさんは安心して下さい!」
「ヒョッヒョッヒョッ! 頼もしいのう、お嬢ちゃんは」
サリアの言葉にヴァートスは表情を綻ばせた。
そして、サリアに大きく頷きかける。
「じゃあ、頼むぞ、お嬢ちゃんや。そこの大人げない頑固者どもをしっかりとシメといてくれ」
「はいっ! 任せておいて下さい!」
そう答えてニッコリと笑うサリアに笑み返し、ヴァートスは「よっこいしょういち……」と言いながら席を立った。
そして、彼と一緒に立ち上がったアルトゥーに頷きかけると、ギャレマスに顔を向けて言う。
「じゃあ……さっきの話通り、収容所の方で火急の報せがある時には、この根暗の兄ちゃんをそっちに寄越すからのう」
「あ……うむ、分かった」
そう答えたギャレマスは、ヴァートスに深々と頭を下げた。
「では……宜しく頼む。くれぐれも気を付けられよ」
「ヒョッヒョッヒョッ。心配するには及ばん。これから草原を横断するといっても、根暗の兄ちゃんの護衛があるからのう」
「いや、そうではなく……」
ギャレマスは小さく首を横に振ると、言葉を継いだ。
「今回の作戦……くれぐれも人間族側に気取られる事の無いように、慎重に頼むぞ」
「ああ、そっちの方かい」
ヴァートスは苦笑を浮かべると、力強く頷いた。
「任せておけい。大船に乗ったつもりでな」
「うむ……」
自信満々といった様子のヴァートスに頷いたギャレマスは、「ああ、あと――」と続ける。
「向こうに着いたら、ファミィにも宜しく言っておいてくれ」
「あ! サリアも! ファミちゃんに『六日後にまた会おうねー』って伝えておいて下さい!」
「あ、あの……じゃあ、あたしも……『気を付けて』って……」
「ヒョッヒョッヒョッ! 相分かったぞい。確かに伝えておこう」
三人からの言伝を二つ返事で承知したヴァートスは、黙ったままのもうひとりの顔を見た。
「――お主は、何かあるか?」
「え……?」
急に声をかけられ、驚いた声を上げたシュータは、戸惑いながら口ごもる。
「いや……別に俺は……」
「あっそう。じゃあ――」
「あ! い、いや、待て!」
あっさり引き下がろうとするヴァートスを慌てて引き留めたシュータは、中空に視線を泳がせながら、おずおずと言った。
「じゃあ……そうだな……じゃあ、『頑張れ』って……」
「分かった。伝えておこ――」
「あ、あと!」
そう、シュータは上ずった声を上げると、顔を俯けて小さな声で言葉を続ける。
「その……わ、『悪かった』って……」
「――了解した」
微かに顔を赤らめているシュータに柔らかな笑みを向けて頷いたヴァートスは、ギャレマスたちに「じゃあの」と言い残して踵を返しかけたが、「ああ、そうじゃ」と呟くと、ギャレマスの方に顔を寄せた。
「――そうじゃ、ギャレの字。お主に教えておいた方がいい事があったんじゃった」
「……『教えておいた方がいい事』? 何だ、それは――」
「それはのう……」
そう言って、魔王の耳元に囁きかけようとしたヴァートスだったが、ギャレマスの傍らでキョトンとした表情を浮かべているサリアの顔が目に入ると、つと躊躇した様子を見せる。
そして、
「――いや、何でもない」
そう呟くように言って、首を左右に振ったヴァートスは、ギャレマスから離れた。
「……ヴァートス殿?」
「ああ、やっぱりいいんじゃ。まだ、そうだと言い切れるほどの確証が無い。今のところは、ただのジジイの推測でしかないからのう。忘れてくれ」
「……?」
不可解な顔をして首を傾げるギャレマスをはぐらかすように、ヴァートスはにっこりと笑って頷きかける。
「ではでは――各々、抜かりなく、な」
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