雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

文字の大きさ
144 / 423
エピソード6 勇魔同舟

宿屋と主人と三人組

しおりを挟む
 その日、アヴァーシの街には、どことなく浮ついた雰囲気が漂っていた。
 その理由はハッキリしている。
 いよいよ、街挙げての大イベントである『“伝説の四勇士”第二期メンバー発掘プロジェクト』公開オーディションの開催が明日に迫っているからだ。

 “伝説の四勇士”の勇者シュータ・ナカムラが直々に主催するこのイベントは、アヴァーシの統治を行なっている代官府はもちろん、アヴァーシが属するニホハムーン州の総督府までもが協賛しており、この街においては久々の大規模な催しだった。
 『“伝説の四勇士”第二期メンバー発掘プロジェクト』は、『過日、ファミィ・ネアルウェーン・カレナリエールがヴァンゲリンの丘の噴火に巻き込まれて死亡した事で空いた“伝説の四勇士”の欠員を補充する為』という目的で人間族ヒューマー領の各地で催されており、今回はここアヴァーシで開催されるという訳だ――。

 ここ数日の間に、プロジェクトの応募資格を満たした選りすぐりの美人たちと、公開されるオーディションを観覧しようとする民衆たちが、ニホハムーン州の各地からアヴァーシの街へと続々と集まって来ており、アヴァーシの街の中心部はいつもよりもたくさんの人が溢れ、喧騒と活気に満ちていたのである。


 だが、アヴァーシの南端部は、街中央部の盛況とは無縁だった。
 南端部の路地の片隅に建っている宿屋『古龍の寝床亭』の主人であるチョーケスは、この日もいつものように、昨夜の客が飲み残していった発泡酒イェビスを埃が積もったカウンターで呷っていた。

「ぷはぁ~! やっぱり、昼間っから飲む酒は旨いなぁ~」

 ゴブレットになみなみと注いだ発泡酒イェビスを、喉を鳴らしながら一気に飲み干したチョーケスは、心底幸せそうな声を上げると、二杯目を注ごうと酒瓶に手を伸ばす。
 ――その時、
 入り口の扉が開き、扉に取り付けていたドアベルが高い音を立てた。

「ん?」

 チョーケスは、昼下がりの半端な時間の来客に訝しげな声を上げ、酔眼を入り口に向けた。
 そして、ドアを開けてズラズラと入って来た、外套のフードを目深に被った三人組に向けて、不機嫌を露わにした声で言う。

「あー、悪い。生憎と部屋は満室だ。宿泊したいなら、他を当たってく――」
「いや、違ぇよ。俺たちは泊まりに来たんじゃねえ」

 先頭きって建物の中に入って来た若い男は、チョーケスの言葉に軽く首を横に振った。
 そして、腕を真っ直ぐ前に伸ばし、階段の上を指さす。

「俺たちは、ここに泊まってる奴に用があって来たんだよ。クソ魔お――牛獣人ミノタウロスの……ええと、確かドジ……ドジっ子だか何とかいう――」
「ど……ドジっ子?」

 男の言葉に、チョーケスは一瞬首を傾げたが、すぐに彼の言わんとしている人物が誰なのか思い当たって、ポンと手を叩いた。

「あぁ……牛獣人ミノタウロス! そりゃ、ドジっ子じゃなくって、ドジィンドの旦那だろ」
「ああ、それそれ」

 チョーケスの言葉に、男は気安く頷いた。
 そして、フードの奥の目を二階へ向けながら、チョーケスに尋ねる。

「で……そのドジィンドは居るか?」
「ん? あぁ……」

 男の問いかけに、チョーケスは戸惑いながら首を縦に振った。

「今日は客室から出てないみたいだから、上にいるはずだぜ。……ああ、赤毛のお嬢ちゃんは、さっきから厨房に籠もってなんか作ってるみたいだけどな」
「赤毛……?」

 チョーケスの言葉に、それまで黙って男の後ろに立っていた女が、胡乱げな声を上げる。

「あぁ……あの雷娘の事ですわね。ていうか、料理なんて出来たんですか、あの天然ボケ娘?」
「料理! 何作ってるんだろ? アタシの分もあるかなぁ?」

 嫌悪を露わにする人間族ヒューマーの女とは対照的に能天気な声を上げたのは、獣人族らしき長身の女だった。
 獣人族の女は舌なめずりをしながら目を瞑ると、鼻をスンスンと鳴らした。

「う~ん……この匂いは……挽肉と玉子と焼きたてのパン……うわぁ、何だろ、この匂い? 今まで嗅いだことが無い……でも、とっても美味しそうな匂い……! どんな料理なのか楽しみだよね?」
「全然」

 ニコニコ笑いながら同意を求めた女獣人の問いかけを、人間族ヒューマーの女は即座に切り捨てた。
 そして、フードの奥の顔を露骨に顰めながら言葉を継ぐ。

「っていうか、『アタシの分も』って……。いくら美味しそうな匂いがするっていっても、敵の女が作った料理じゃないですか? よくそんなものを食べようって気になれますわね……」
「あ、エラリィは食べないの? じゃあ、エラリィの分まで食べちゃってもいい?」
「別に構いませんわよ。毒でも盛られてポックリ逝っちゃっても知りませんけど」
「まーたエラリィはそんな事言って……」

 男の後ろでそんな言葉を交わしているふたりの女の事を、何の気なしに見たチョーケスだったが、何かが引っ掛かり、怪訝な表情を浮かべた。
 と、

「あっ、そう」

 フードを被った男は、そう言って頷くと、宿の主に何の許可も取ろうとせず、無遠慮な様子で奥へと足を進めた。
 ふたりの女は、慌てて会話を切り上げると、彼の後を追う。

「あ、ちょ、ちょっと!」

 チョーケスは、慌てて三人の事を呼び止めた。

「勝手に部屋に上がらないでくれ! オレがドジィンドの旦那にアンタ達が来た事を伝えに行くから、ちょっとここで待っててく――」
「ああ、別に構わねえよ。今日俺が訪ねてくる事はアイツも知ってるからさ。大丈夫だ、問題ない」
「いや、でも――待てって!」

 自分の制止も意に介さぬ様子で、二階に続く階段に足をかけようとする男に業を煮やしたチョーケスは、苛立ちながら彼の元に駆け寄ると、その腕を掴んだ。
 そして、目を吊り上げて声を荒げる。

「アンタが誰だか知らねえが、ここはオレの宿屋だ! オレの言葉を無視して、勝手やろうとしてるんじゃ……」

 だが、振り返った男のフードの奥の顔を見た瞬間、彼の声は途切れた。
 男の漆黒の髪と瞳をした彫りの薄い顔立ちには、見覚えがある。
 そう――確か、集会所の掲示板に貼り出されていた壁新聞。その特集欄に載っていた顔だ。

「あ……!」

 特集欄の片隅に小さく載せられた肖像画と、目の前で不機嫌そうに眉を顰めている若い男の顔が同じである事に気付いたチョーケスは、驚愕で目を丸くする。
 そして、声を上ずらせながら呟いた。

「アンタ……いや、アナタは――ゆ、勇者シュータ……様……っ?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

処理中です...