雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

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エピソード6 勇魔同舟

勇者と陰キャと存在感

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 「あーはいはい。楽しいご歓談はこのくらいにして頂いて……と」

 と、おどけた声を上げながら、ギャレマスとジェレミィアに羽交い絞めにされながらも、今にも噛みつきそうな形相で互いに睨み合うスウィッシュとエラルティスの間に割って入ったのは、何かを小脇に抱えたシュータだった。

「ご歓談って……」
「全然カケラも楽しくないんだけど……」

 殺気立つ自分たちを皮肉るような言葉にムッとするふたりに、涼しい顔で数枚の紙束を束ねて二つ折りにした小冊子を手渡すシュータ。
 更に彼は、ジェレミィアとギャレマスにも同じ小冊子を渡す。

「あ……」

 小冊子を渡されたギャレマスは僅かに顔を引き攣らせ、エラルティスは露骨に顔を顰めたが、残りの二人は訝しげな表情を浮かべ、目をパチクリさせた。

「ね、ねえ、シュータ? これって……一体、何?」
「あぁ? 見て分からねえのかよ?」

 おずおずと訊ねるジェレミィアをジロリと一瞥したシュータは、やれやれと言わんばかりに肩を竦める。
 そして、「それはよ――」と口を開きかけたが、ふと入り口の方に顔を向けると、おもむろに踵を返してドアの方へと歩き始めた。

「え? ちょっと、シュータ殿? どこへ行くんです?」

 そんな彼の背中に、エラルティスが慌てて声をかける。
 だが、シュータは、彼女の言葉には答えぬまま、蝶番の外れかけたドアをこじ開け――、

「ほれ、さっさとお前も入れよ。エルフ族そっち側の奴もいなきゃ、打ち合わせにならねえだろうが」

 と、手招きをしながら、ドアの向こう側に声をかけた。
 すると――、

「……な、何で己の存在に気付いたんだ、勇者よ……?」
「「「「ッ!」」」」

 唖然としながら、長身の男が部屋の中に入ってきたのを見て、シュータを除いた全員が驚愕の表情を浮かべる。

「へっ? な、何者なんだ? 狼獣人のアタシが、存在に全然気付かないなんて……」

 自慢の嗅覚と聴覚が全く役に立たなかった事に、ジェレミィアは愕然として呟いた。

「ちょっ! な……何で、こんな真昼間に幽霊が出るんですのッ?」

 そう叫びながら、呆然とするジェレミィアの羽交い絞めから抜け出したエラルティスは、腰に挿した黄金色の聖杖を素早く抜いた。
 そして、蒼く光る聖石が付いた杖の先端を男に向け、理力を込める。

「おのれこの悪霊! そんなパッとしない庶民顔の低級霊の分際で、聖女であるこのわらわの前に現れたのが運の尽きですわ! その穢れし魂、わらわの法術を以て、元素レベルにまで浄化して差し上げますわ!」
「ちょ! ま、待ちなさい、バカ乳聖女! 彼は――」
聖光千矢ホーリーアローズ!」

 慌てて止めるスウィッシュの言葉も聞かず、聖石が青く輝いた聖杖を横に一薙ぎするエラルティス。
 次の瞬間、彼女の前に無数の光の矢が現れ、入り口に立つ黒髪の男目がけて一斉に飛んだ。
 ――と、

「うるせえよ」

 そう毒づきながら、男を庇うように立ち塞がったシュータが、素早く中空に紅く光る魔法陣を描く。
 紅く光る魔法陣は、即座に巨大な楯となり、飛来した光の矢を悉く弾き飛ばした。

「シュ、シュータ殿っ?」

 亡霊に向けて放った自分の法術攻撃をシュータに防がれたエラルティスは、驚きで声を裏返す。
 そんな彼女を鼻で嗤いながら、シュータは言う。

「バーカ。落ち着いてよく見ろ。こいつは、ただ人並み以上に影が薄いだけのボンクラ魔族だよ」
「ぼ……ボンクラとは、些か失礼ではないか、勇者よ……!」

 青白い顔を顰めながらシュータに抗議したのは、真誓魔王国四天王のひとり――陰密将アルトゥーだった。
 と、

「ちょっと、アル!」

 スウィッシュは、険しい声を上げながら彼の事を睨みつける。

「アナタ、魔王国四天王のクセに、何で勇者なんかに助けられてるのよ!」
「いや……その……まぁ……すまん……」

 怖い顔をした幼馴染から頭ごなしに怒鳴られ、一度は何か言い返そうとしたアルトゥーだったが、逡巡して口ごもった後に、不承不承といった様子で小さく頭を下げた。
 そんな彼を、まだ憤懣が収まらない様子のスウィッシュは更に責め立てる。

「っていうか! 遅刻よ、あなた! 勇者とエセ聖女たちが遅刻するのは薄々分かってたけど、陛下の配下であるあなたまで遅刻するなんて……!」
「あ、いや……!」

 スウィッシュの怒声に、アルトゥーは慌てた様子で首を横に振った。

「お、己は遅刻はしていないぞ、氷牙将よ!」
「ウソ! じゃあ、何で勇者シュータたちが部屋に入った後に、扉の前に突っ立ってたのよ! それは、あなたが勇者たちより遅く来たからでしょ!」
「いや、それは違えぞ」

 スウィッシュの言葉を否定したのは、アルトゥー自身ではなく、シュータだった。
 彼は、気まずげに目を逸らしているアルトゥーの事を親指で指しながら、冷笑を浮かべながら言葉を継ぐ。

「コイツは、俺たちが二階に上がった時から、ここの扉の前に突っ立ってたぞ。何度もドアをノックしてたけど、全然中から応答がないから焦ってたぜ。ひひひ……」
「は?」
「何だと……?」

 シュータの言葉に呆気に取られるスウィッシュとギャレマス。
 一方、

「え? ドアの前に? こんな奴……いましたっけ……?」
「ウソ? ぜ、全然気づかなかったんだけど……」

 エラルティスとジェレミィアも、驚愕の表情を浮かべる。

「いや、居たぜ。確かに影が薄すぎて、霊感……いや、の無いお前らの目には入ってなかったみたいだけどよ、ひひひ」

 そんなふたりに向け、底意地の悪い顔をして嗤うシュータ。
 と、

「お……おい、アルトゥーよ……」

 渋い顔をして突っ立っているアルトゥーに、ギャレマスがおずおずと声をかけた。

「あの……シュータの言っていた事は、本当か? その……『何度もノックをしていた』――というのは?」
「…………ああ」

 ギャレマスの問いかけに、その青白い頬を仄かに紅く染めながら、アルトゥーはコクンと頷く。

「ええと……それは……どのくらい?」
「……多分、十分くらいは……」
「あ……」

 アルトゥーの答えを聞いたギャレマスとスウィッシュは、思わず顔を見合わせ――、

「「……気付かないでスミマセンでしたっ!」」

 と、彼に向けて深く深く頭を下げるのだった。
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