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エピソード7 魔族が来りて法螺を吹く
司会とゲストと反応
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ステージの袖近くに立っていた司会は、一度はどん底まで落ち込んだ観客席のボルテージが、最後のふたりが入場した途端に再び最高潮まで上がった事に戸惑いながらも、ホッと安堵の息を吐いた。
彼がチラリと貴賓席の方に目を向けると、そこに座っていた実行委員長も、自分と同じ顔をしている。
ステージの上から向けられた司会の視線に気付いた実行委員長は、『続けろ』と言わんばかりに小さく頷いた。
委員長の仕草に頷き返した司会は、じっとりと汗が滲んだ拡声貝を握り直し、居並ぶ“伝説の四勇士”候補者たちの前に進み出る。
『――さあ! これで候補者全員が揃いました! この中から、本日行われる最終審査を見事に勝ち抜いた一名が、ニホハムーン州代表候補として、王都ターマで後日行なわれる本選に出場する事となります!』
司会の滑舌の良い声によってなされた説明に、観客席は再び大きくどよめいた。
観客の反応に対し、満足げな笑みを浮かべた司会は、観客たちの注意を引くように、空いた方の左腕を大きく上げ、更に声を張り上げる。
『さて! ここで皆さまにお知らせがございます! 本日、この地区予選の為、素晴らしいゲストが駆けつけてくれましたぁ~!』
「おおおおおおおおおお~っ!」
“素晴らしいゲスト”と聞いて、観客たちのテンションが更に上がる。
そんな、沸騰寸前の会場の空気に自身も心躍らせながら、司会は指を伸ばした腕を舞台袖の方に向け、勿体ぶった声で叫んだ。
『では――早速登場して頂きましょう! ゲストは……このお三方です!』
司会の絶叫に合わせて、楽団が弾むようなリズムの出囃子を奏で始める。
観客席にいる全ての人間の目が、舞台袖に集まった。
そして、ゆっくりと舞台袖から出てきたのは――、
『さあ、皆様! 大きな拍手を! まずおひとり目は、“伝説の四勇士”のひとりにして、麗しの聖女――エラルティス・デュ・ヤーミタージュ様です!』
「うおおおおおおお~!」
地鳴りのように響き渡る歓声の中、翠色の長い髪の毛を風に靡かせながら、慈愛に満ちた笑顔で観客席に向けて手を振るエラルティス。
彼女の、まさしく“聖女”たるに相応しい楚々で可憐な物腰と、無垢純白の神官法衣では隠し切れない肉感的なボディーラインのアンバランスさは、観客席にいるほぼ全ての男たちを魅了する。
エラルティスは、小気味の良いヒールの音を鳴らしながら舞台の中央まで歩を進めると、すっかり目をハート形にしている観客席の男たちに向けて妖しげにウインクしてみせた。
「は~い! 敬虔なるわらわの下僕……もとい、神の信徒であるアヴァーシの皆様、こんばんは~!」
「「「「「こんばんはああああぁぁぁぁぁっ!」」」」」
光の女神のような笑顔を浮かべたエラルティスの声に応えた観衆たちの野太い絶叫が、見事にハモった。
――その時、
「……この猫かぶりエセ聖女が……」
「……ッ!」
エラルティスは、茶色い歓声に紛れて背後から聞こえてきた小さな声に、顔に浮かべた微笑を僅かに強張らせる。
だが、一瞬浮かべた鬼気迫る表情を、すぐに聖女の微笑で上書きすると、観客席に向けて軽く手を振りながら脇へ下がった。
司会は、そんな彼女の一瞬の変貌には気付かなかった様子で、次のゲストを呼び込む。
『さて、続きましては! 同じく“伝説の四勇士”のひとりにして、野趣溢れた狼獣人の魔法騎士! ジェレミィア・リ・キシン!』
「やっほ~ッ! みんな元気~ッ?」
「おおおおおおお!」
頭の上の大きな三角耳と、銀色のフワフワな毛皮に覆われた尻尾をぴょこぴょこと動かしながら、観客席に向けて両手を大きく振るジェレミィア。
彼女に無邪気な笑顔を向けられ、観客席の人たちの顔にも思わず笑みが零れる。
……まあ、一部から「ジェレミィアさ~ん! この前のお食事代のツケを早く払って下さ~い!」という悲痛な懇願の叫びも聞こえてきたのだが。
『……えー、ゴホン!』
司会は、気を取り直すように咳払いをしてから、勿体ぶるように一拍置いて、更に声を張り上げる。
『さあ、そして……皆さんお待ちかねぇ!』
そして彼は、真っ直ぐに伸ばした指で舞台袖を指さし、高らかに叫ぶ。
『最後のおひとりは、もちろんこの人ォ! “伝説の四勇士”のリーダーにして、人類の宿敵である魔族の王とも互角に渡り合える唯一の人間族! ザ・ブレイブオブブレイブズ、勇ぅぅぅ者ぁぁぁ、シュ――――タ・ナあぁカムラああああああああああぁ――っ!』
「待たせたなぁ~ッ!」
巻き舌の上、妙な抑揚とアクセントを付けながら司会者が発した絶叫に応えるように、両腕を大きく振り上げながら現れたのは、趣味の悪い装飾がゴテゴテとあしらわれた金色の鎧に身を包んだ黒髪の人間族、勇者シュータ・ナカムラだった。
彼は、その彫りの浅い顔に満面の笑みを浮かべながら、観衆の上げる喝采に応えようと、両腕を高々と上げる。
……が、
しぃ……………………ん
観客席は、シュータが想像していたのとは裏腹に、まるで墓場のような静寂に包まれた。
そして、先ほどまでのような、地を揺るがすような歓声の代わりに、
「あれが……べらぼうに強いけど、べらぼうに素行が悪いっていう、あのシュータ・ナカムラ……」
「三日前も、タジャドルさんの店で、出された料理にケチをつけて暴れたとか……」
「う~ん……勇者っていう割には、何かパッとしない、薄い顔してるわね……。勇者じゃなくて、そこらへん歩いてる通行人って感じ……」
「何だ、あのヒョロガリ」
「つーか……あの鎧、趣味悪いわね。どういうファッションセンスしてんのよ……」
といった内容のひそひそ声が、あちこちから上がり始める。
……そんな陰口を、チート能力で強化されたシュータの耳が聞き逃すはずがない。
「……」
シュータの眉毛がピクリと跳ね上がり、ぴくぴくと小刻みに痙攣し始める。
「テメエら……」
眉間に深い皺を刻んだシュータは、ゆっくりと右腕を前に出しながら、地を這う様な低い声で言った。
そして、クワッと目を見開くと、中空で目まぐるしく指を動かし始め、憤怒と憎悪に歪んだ顔で絶叫する。
「いい度胸だ! 墓石に刻む遺言は、それでいいん――!」
「わーっ! ストップストップ!」
「もが……ッ!」
シュータの怒声と、八割方完成しかけた魔法陣は、途中で掻き消えた。
危険を察知したジェレミィアがシュータの目の前に躍り出て、その身体を張って彼の事を押し止めたからだ。
「シュータ、落ち着きなって! タダの一般市民相手にそれを使ったらヤバいってばぁ!」
「く……苦し……っ!」
長身のジェレミィアに渾身の力で抱きしめられる形で、ちょうど彼女の二つの膨らみの間に顔面を押し付けられたシュータは、顔を真っ赤にしながらじたばたと藻掻く。
――だが、そんな苦しげな様子とは裏腹に、
「おま……止め……い、いや……やっぱり、そのまま……でも、く、苦し……良いぃ……!」
ジェレミィアの胸の谷間に隠れた彼の表情は、至福に満ちていたのだった……。
彼がチラリと貴賓席の方に目を向けると、そこに座っていた実行委員長も、自分と同じ顔をしている。
ステージの上から向けられた司会の視線に気付いた実行委員長は、『続けろ』と言わんばかりに小さく頷いた。
委員長の仕草に頷き返した司会は、じっとりと汗が滲んだ拡声貝を握り直し、居並ぶ“伝説の四勇士”候補者たちの前に進み出る。
『――さあ! これで候補者全員が揃いました! この中から、本日行われる最終審査を見事に勝ち抜いた一名が、ニホハムーン州代表候補として、王都ターマで後日行なわれる本選に出場する事となります!』
司会の滑舌の良い声によってなされた説明に、観客席は再び大きくどよめいた。
観客の反応に対し、満足げな笑みを浮かべた司会は、観客たちの注意を引くように、空いた方の左腕を大きく上げ、更に声を張り上げる。
『さて! ここで皆さまにお知らせがございます! 本日、この地区予選の為、素晴らしいゲストが駆けつけてくれましたぁ~!』
「おおおおおおおおおお~っ!」
“素晴らしいゲスト”と聞いて、観客たちのテンションが更に上がる。
そんな、沸騰寸前の会場の空気に自身も心躍らせながら、司会は指を伸ばした腕を舞台袖の方に向け、勿体ぶった声で叫んだ。
『では――早速登場して頂きましょう! ゲストは……このお三方です!』
司会の絶叫に合わせて、楽団が弾むようなリズムの出囃子を奏で始める。
観客席にいる全ての人間の目が、舞台袖に集まった。
そして、ゆっくりと舞台袖から出てきたのは――、
『さあ、皆様! 大きな拍手を! まずおひとり目は、“伝説の四勇士”のひとりにして、麗しの聖女――エラルティス・デュ・ヤーミタージュ様です!』
「うおおおおおおお~!」
地鳴りのように響き渡る歓声の中、翠色の長い髪の毛を風に靡かせながら、慈愛に満ちた笑顔で観客席に向けて手を振るエラルティス。
彼女の、まさしく“聖女”たるに相応しい楚々で可憐な物腰と、無垢純白の神官法衣では隠し切れない肉感的なボディーラインのアンバランスさは、観客席にいるほぼ全ての男たちを魅了する。
エラルティスは、小気味の良いヒールの音を鳴らしながら舞台の中央まで歩を進めると、すっかり目をハート形にしている観客席の男たちに向けて妖しげにウインクしてみせた。
「は~い! 敬虔なるわらわの下僕……もとい、神の信徒であるアヴァーシの皆様、こんばんは~!」
「「「「「こんばんはああああぁぁぁぁぁっ!」」」」」
光の女神のような笑顔を浮かべたエラルティスの声に応えた観衆たちの野太い絶叫が、見事にハモった。
――その時、
「……この猫かぶりエセ聖女が……」
「……ッ!」
エラルティスは、茶色い歓声に紛れて背後から聞こえてきた小さな声に、顔に浮かべた微笑を僅かに強張らせる。
だが、一瞬浮かべた鬼気迫る表情を、すぐに聖女の微笑で上書きすると、観客席に向けて軽く手を振りながら脇へ下がった。
司会は、そんな彼女の一瞬の変貌には気付かなかった様子で、次のゲストを呼び込む。
『さて、続きましては! 同じく“伝説の四勇士”のひとりにして、野趣溢れた狼獣人の魔法騎士! ジェレミィア・リ・キシン!』
「やっほ~ッ! みんな元気~ッ?」
「おおおおおおお!」
頭の上の大きな三角耳と、銀色のフワフワな毛皮に覆われた尻尾をぴょこぴょこと動かしながら、観客席に向けて両手を大きく振るジェレミィア。
彼女に無邪気な笑顔を向けられ、観客席の人たちの顔にも思わず笑みが零れる。
……まあ、一部から「ジェレミィアさ~ん! この前のお食事代のツケを早く払って下さ~い!」という悲痛な懇願の叫びも聞こえてきたのだが。
『……えー、ゴホン!』
司会は、気を取り直すように咳払いをしてから、勿体ぶるように一拍置いて、更に声を張り上げる。
『さあ、そして……皆さんお待ちかねぇ!』
そして彼は、真っ直ぐに伸ばした指で舞台袖を指さし、高らかに叫ぶ。
『最後のおひとりは、もちろんこの人ォ! “伝説の四勇士”のリーダーにして、人類の宿敵である魔族の王とも互角に渡り合える唯一の人間族! ザ・ブレイブオブブレイブズ、勇ぅぅぅ者ぁぁぁ、シュ――――タ・ナあぁカムラああああああああああぁ――っ!』
「待たせたなぁ~ッ!」
巻き舌の上、妙な抑揚とアクセントを付けながら司会者が発した絶叫に応えるように、両腕を大きく振り上げながら現れたのは、趣味の悪い装飾がゴテゴテとあしらわれた金色の鎧に身を包んだ黒髪の人間族、勇者シュータ・ナカムラだった。
彼は、その彫りの浅い顔に満面の笑みを浮かべながら、観衆の上げる喝采に応えようと、両腕を高々と上げる。
……が、
しぃ……………………ん
観客席は、シュータが想像していたのとは裏腹に、まるで墓場のような静寂に包まれた。
そして、先ほどまでのような、地を揺るがすような歓声の代わりに、
「あれが……べらぼうに強いけど、べらぼうに素行が悪いっていう、あのシュータ・ナカムラ……」
「三日前も、タジャドルさんの店で、出された料理にケチをつけて暴れたとか……」
「う~ん……勇者っていう割には、何かパッとしない、薄い顔してるわね……。勇者じゃなくて、そこらへん歩いてる通行人って感じ……」
「何だ、あのヒョロガリ」
「つーか……あの鎧、趣味悪いわね。どういうファッションセンスしてんのよ……」
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……そんな陰口を、チート能力で強化されたシュータの耳が聞き逃すはずがない。
「……」
シュータの眉毛がピクリと跳ね上がり、ぴくぴくと小刻みに痙攣し始める。
「テメエら……」
眉間に深い皺を刻んだシュータは、ゆっくりと右腕を前に出しながら、地を這う様な低い声で言った。
そして、クワッと目を見開くと、中空で目まぐるしく指を動かし始め、憤怒と憎悪に歪んだ顔で絶叫する。
「いい度胸だ! 墓石に刻む遺言は、それでいいん――!」
「わーっ! ストップストップ!」
「もが……ッ!」
シュータの怒声と、八割方完成しかけた魔法陣は、途中で掻き消えた。
危険を察知したジェレミィアがシュータの目の前に躍り出て、その身体を張って彼の事を押し止めたからだ。
「シュータ、落ち着きなって! タダの一般市民相手にそれを使ったらヤバいってばぁ!」
「く……苦し……っ!」
長身のジェレミィアに渾身の力で抱きしめられる形で、ちょうど彼女の二つの膨らみの間に顔面を押し付けられたシュータは、顔を真っ赤にしながらじたばたと藻掻く。
――だが、そんな苦しげな様子とは裏腹に、
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