雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

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エピソード7 魔族が来りて法螺を吹く

落雷と作戦と予定

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 一瞬の間に煌めいた凄まじい光がオーディション会場を真昼よりも明るく照らし出し、次の瞬間、文字通りの耳を劈く轟音が会場全体に鳴り響いた。

「キャアアアアアアアッ!」
「うおおおおおおっ?」
「ワアアアアアアアアア――ッ!」

 突然、何の前触れもなく天から降り注いだ幾筋もの青白い雷の光と音に、観衆たちは恐慌に陥る。
 ある者は本能的に、ある者は『雷に遭遇した時には、とにかく頭を低くする事』というセオリーを思い出して、またある者は腰を抜かして、その場にうずくまった。
 そして、ガタガタと身体を震わせながら、昔から伝わる雷避けの呪文を一心不乱に唱え始める。

「クワバラクワバラクワバラカズマ……クワバラクワバラクワバラカズマ……クワバラクワバラ……」

 そんな中、恐る恐る頭を上げて、星の瞬く夜空を見上げた一人の男が、何かを見つけて上ずった声を上げた。

「お……おい! あ、ありゃ何だ? 空の上に……何かが浮いてるぞ!」

 彼の叫び声を聞いた数人が、彼の指さす方に目を向け、男と同じような驚愕の表情を浮かべる。

「ほ、本当だ……! アレは何だ?」
「鳥か?」
「蝙蝠か?」
「こ、古龍種か?」

 自分たちの遥か上空で、大きな翼を広げて浮遊している“それ”の黒いシルエットを指さしながら、口々に声を上げる観衆たち。
 だが、その正体が何なのか、言い当てられた者はいなかった。
 ――


「……あのクソ魔王が!」

 黒いシルエットの正体を言い当てた唯一の声は、ステージ脇から上がった。
 数条の雷が会場のすぐ外に落ちた瞬間、思わず審査員席から立ち上がったシュータ・ナカムラは、睨むように上空を見上げて、苦々しい表情を浮かべる。

「何してやがんだよ、アイツ……ッ! !」

 彼は、大きく羽を広げたまま滞空している黒い人影を睨みつけながら、忌々しげに舌打ちをした。

 ――昨日、『古龍の寝床亭』の一室で、魔王ギャレマスと打ち合わせした『空を見ろ! アレは鳥か? ドラゴンか? いいや、クソ魔王だ! ~第一回・チキチキ! 最強最高の勇者シュータと愉快な仲間たちによるエルフ救出大作戦!』。
 その打ち合わせの中で、『オーディションの最中に、ギャレマスが上空から雷系呪術で威嚇攻撃を行なう事を以て作戦開始とする』と、魔王と勇者の間で話をつけていたのだ。
 そして今、会場の外に落ちた無数の雷が、まさにそれで間違いないのであろうが、

「つか、俺が合図するまで待ってろって、だろうが! 何勝手におっ始めてるんだよクソがッ!」

 ギャレマスが雷を落とす時刻は、昨日打ち合わせの際に伝えていたよりも著しく早かった。
 当然ながら、シュータはまだ合図など出してはいない。

「クソ魔王め……何で、こんなにタイミングを早めやがったんだ?」

 と、ブツブツと呟きながら首を捻ったシュータは、おもむろに悔しそうな表情を浮かべると、ステージの方へ目を遣る。
 当然ながら、この騒ぎでオーディションは一時中断しており、ステージの上には誰も立っていなかった。
 ――そう、まさに登場する直前だった、姿のサリアが。

「……畜生めぇッ!」

 この騒ぎのせいで、せっかくの愉しみを潰されたシュータは悔しげに叫ぶと、舞台袖の貴賓席に向かって声を荒げた。

「おいッ! そこの責任者ッ!」
「ヒッ……は、ハイィッ!」

 怒気混じりのシュータの呼びかけに、実行委員長は悲鳴混じりの声で返事をする。

「な……ななな何でございましょう、シュータ様――?」
「何でもクソもねえよ! 何をぼさっとしてんだ! テメエが責任者じゃねえのかよ、アァッ?」
「ヒ――ッ! さ、左様でございますぅッ!」
「チッ!」

 シュータは、実行委員長の方まで聞こえるような大きな舌打ちをすると、観客席の方を指さしながら叫んだ。

「だったら、責任者らしい仕事をしやがれ! あそこにいる観客やつらをさっさと避難させろ! 死人が出る前にな!」
「ヒェッ? し、死人でございますかッ?」

 実行委員長は、シュータの吐いた物騒な単語に震え上がる。
 そんな彼に苛立ちを露わにしながら、シュータは大きく頷いた。

「そうだよ! 今のは、あそこで飛んでる奴の仕業だ! ……のな!」
「マ! ままままま魔……魔王ッ?」

 実行委員長は、シュータの言葉を聞いて仰天した。

「ま……魔王って……あの、魔族の頂点に立つ、“地上最強の生物”と呼ばれる……あの?」
「そうだよ! 別名“雷王”の、あの魔王ギャレマスだよ!」

 シュータはそう言いながら、先ほど雷が落ちた方向に顎をしゃくってみせる。

「さっきの雷を見ただろう? あんなどデカい雷系呪術を操れる奴は、魔族の中でもアイツだけだ! 分かったら、さっさと動け、このハゲ!」
「はっ、ハヒィッ!」
「あと!」
「ふぇっ? ま、まだ何かッ?」

 踵を返して、会場スタッフたちに指示を伝えに行こうとしたところを呼び止められた実行委員長は、思わずつんのめりながら訊き返した。
 シュータは、自分の席の傍らにあるふたつの空席を指さす。

「あと、エラルティスとジェレミィアを探して、すぐに戻ってくるように伝えろ! いいな!」
「あれっ? そ、そういえば、おふたりはいつの間に……」
「第一次審査が始まってから、すぐにバックレたんだよ! 『興味ない』とか言いやがってよ!」

 そう、憮然とした表情で言ったシュータは、ゴホンと咳払いをすると言葉を継ぐ。

「――ジェレミィアは屋台村の辺りをうろついて買い食いしてるはずだから、すぐに見つかるはずだ。エラルティスは……分かんねえけどよ」
「は、はあ……」
「とにかく! ジェレミィアだけでもいいから、見つけ次第ここに呼び戻せ! 分かったな!」
「は。ハイッ! 了解ですッ!」
「――あ、もうひとつ!」
「ひゃっ! ま、まだ何かありますかッ?」

 再び呼び止められた実行委員長は、さすがに辟易した様子で訊き返した。
 そんな彼に、シュータは「あと一つだけだよ!」と怒鳴り、それから言葉を継ぐ。

「今すぐに狼煙でも伝心術士テレパシストでも何でも使って、ニホハムーン総督府に救援を要請しろ! そして、周辺の砦や拠点に詰めている部隊全部に総動員をかけさせるんだ!」
「そ、総動員ッ?」

 常識を遥かに超えたシュータの指示に、実行委員長はあんぐりと口を開けた。
 そして、ブンブンと首を横に振りながら、シュータに向かって叫ぶ。

「た、たかが寂れた一都市の救援に、州軍の総動員を求めるのは、さすがに無理かと……」
「ただの救援じゃねえんだよ!」

 渋る委員長を一喝したシュータは、上空に浮かぶ小さな影を指さした。

「さっきも言っただろ! あそこに浮いてるのは、お前ら人間族ヒューマーの大敵・雷王ギャレマスだ! それこそ、州軍総動員でかからねえと、アイツには敵わねえ!」
「……ッ!」

 シュータの言葉に、実行委員長の顔から血の気が引く。

「で……ですが、わたくしめの言葉だけでは、総督府を動かす事は……」
「誰がテメエの名前で総動員をかけろって言ったよッ!」

 シュータはそう怒鳴ると、今度は親指で自分の胸を指してみせた。

「この俺の――“伝説の四勇士”筆頭・勇者シュータの名前を使え!」
「――ッ! は、はひっ!」
「念の為に、俺が『従わなかったら、分かってるよな?』って言ってたって付け加えとけ! ここの総督がよっぽどの馬鹿か命知らずでなければ、屍霊術士ネクロマンサーに操られた屍鬼グールよりも素直に言う事を聞くはずだぜ!」
「りょ、了解ですッ!」
「分かったら、サッサと行け、このウスノロ!」
「は、はいぃぃぃぃっ!」

 シュータに怒声を浴びせかけられた実行委員長は、慌てふためきながら駆け出す。
 その後ろ姿を見ながら、シュータは小さく息を吐いた。

(ふぅ……これで何とかか……)

 ギャレマスの先制雷呪術攻撃で恐怖する実行委員長を脅しすかして、ニホハムーン州に駐屯する軍の総動員をかけさせ、州全体の目をアヴァーシと魔王ギャレマスに向けさせる――それが、今回のエルフ族解放作戦の第一段階だ。
 予定より大分時間は早いが、何とか作戦を軌道に乗せる事が出来た事に、シュータは安堵する。

「――じゃあ、このまま“第二段階”へ……」

 そう呟きながら、上空の魔王の元まで一気に跳躍しようと、足元に“反重力アン・グラヴィ”を展開しようとするシュータだったが、

「――あ、そうだ……」

 ふと、ある事を思いついた彼は、一度展開しかけた魔法陣を消去キャンセルする。
 そして、ゆっくりと、舞台袖の方へと頭を廻らせた。
 ここから、ビキニアーマー姿の候補者たちがステージへと登場していた。
 ――つまり、この舞台袖は、候補者たちがビキニアーマーに着替え、出番を待っていた舞台裏へと繋がっているという事だ。
 で、あれば、今この奥には候補者たちがいるはずである。
 ――その中には、肌も露わなビキニアーマーを身に纏った赤毛の少女も……!

「ぬっふふふ……」

 シュータの口元が、だらしなく緩む。
 そして、わざとらしい仕草で首を傾げてみせた。

「あー! 今の雷で、オーディションに参加していた候補のみんながケガしてないか心配だなぁ~! これは、一度見に行った方がいいよなぁ~! “伝説の四勇士”としては、女の子の危機は見過ごせないしなぁ~っ! そーいう事だそーしよ~う♪」

 彼は敢えて周りに聞こえるような声量で呟くと、軽やかなステップを踏みつつ、気持ち早足で舞台袖の方へと進むのだった――。
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