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エピソード7 魔族が来りて法螺を吹く
部屋と脱出と方法
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「ぐおおおおおおおおッ!」
突然、勢いよく開いた扉の角が顔面にめり込み、ギャレマスは悲鳴とも呻きともつかない奇声を上げながら、その場に蹲った。
「……あ、魔王だ」
顔面を手で押さえながら悶絶するギャレマスの姿に目を丸くしたのは、扉を蹴破り、片脚を上げたままの体勢のままのジェレミィアだった。
「いやぁ、ゴメン。まさか、そんな所に立ってるとは思わなかったからさ」
「ご、ゴメンじゃないわよ!」
右手に持った骨付き肉に齧り付きながら、特に反省しているようには聞こえない軽い口調で謝るジェレミィアを、スウィッシュは上ずった声で怒鳴りつける。
そして、ヨロヨロと覚束ない足取りで主の元に駆け寄ると、彼の鼻から滴り落ちる鼻血を纏っていたマントの裾で拭きながら、心配げに声をかける。
「へ、陛下! だ、大丈夫ですか?」
「え~。別に大丈夫っしょ、そのくらい。だって、自称“地上最強の生物”じゃん、その魔王。めちゃくちゃ頑丈なんだから、このくらい、蚊に刺されたようなもんでしょ?」
「い、いや……」
今度は左手に持った発泡酒の瓶を呷りながら、涼しい顔で言い放つジェレミィアに、ギャレマスは涙を浮かべた目で恨めしげに見上げながら首を横に振った。
「い、いかに身体自体は頑丈でも、痛覚はそれなりにあるのだ。だから……痛いものは痛い……」
「え、そうなん? じゃあ、小指を角にぶつけたりしたら、やっぱりアタシらと同じようにのたうち回ったりしちゃうの?」
「ま……まあ……」
「へ~、そうなんだ。ま、知らんけど」
ジェレミィアは、興味無さげにうんうんと頷くと、キョロキョロと部屋の中を見回す。そして、部屋の真ん中に立っていたシュータの姿を見付けると、首を傾げながら訊ねた。
「……て、随分作戦開始が早いんじゃない? おかげで、屋台村で注文したアヴァーシ名物のシダマーサ牛のリブロースステーキを食べ損ねちゃったんだけど」
「……オーディション大会バックレて、何を呑気に飯なんか食ってるんだよ、お前は」
食べ終わった骨付き肉の骨をボリボリと噛み砕いているジェレミィアに、ジト目を向けるシュータ。
彼からの非難交じりの問いかけにも、ジェレミィアは至って涼しい顔をしている。
「いやぁ、ちょっと小腹が空いちゃってさ」
「普通は、『ちょっと小腹が空いてリブロースステーキ』とはならないような……」
ジェレミィアの答えに、顔を引き攣らせながらツッコむギャレマス。
だが、ジェレミィアは特に気にする事もない様子で言葉を継ぐ。
「それに……エラリィが先にステージから出てったから、アタシも抜けちゃっていいかなぁって思ったんだけど――って」
そう言うと、彼女はもう一度周囲を見回し、怪訝な表情を浮かべながら三人に尋ねた。
「――そう言えば、エラリィとサッちゃんはどうしたの? 姿が見えないみたいだけど……」
「「――ッ!」」
何気なくジェレミィアが口にした言葉で、ギャレマスとスウィッシュの顔色が変わった。
「そ、そうだ!」
ギャレマスは、その目を大きく見開きながら勢いよく立ち上がり、驚くジェレミィアに詰め寄る。
「お主……この扉から入ってきたという事は、すれ違ってはおらぬのか? あの聖女を……サリアを攫ったエラルティスと!」
「……へ? エラリィ? サッちゃんを……攫った……?」
ギャレマスの問いかけに、大きな目をパチクリさせながら当惑の声を上げる狼獣人は、助けを求めるようにシュータの顔を見た。
「……どういう事、シュータ? なんか良く分からないんだけど……」
「――まあ、手短に言えば、エラルティスが魔王たち……あるいは、俺たちの事も裏切って、サリアの事をどこかに攫っていったんだ」
「え――ッ?」
シュータの答えを聞いて、ジェレミィアは驚きで声を裏返した。
そんな彼女に、目を血走らせながらギャレマスが訊ねる。
「で! どうなのだ? お主は、エラルティスとすれ違ったのか? いや、すれ違ったはずだ!」
「う……ううん」
必死の形相のギャレマスに気圧されながら、ジェレミィアはフルフルと首を横に振った。
「ごめん……気付かなかった。でも……そんなはずないんだよなぁ」
彼女はそう答えると、怪訝な表情を浮かべながら、開け放たれた扉の向こう――暗い通路の奥に目を向ける。
そして、大きく首を傾げた。
「だって……もしもアタシがここに来るずっと前にエラリィたちが扉を開けて出ていったとしても、しばらくの間は絶対にふたりの匂いが扉の向こうの空気に残るから、狼獣人であるアタシの鼻がその匂いを嗅ぎつけないはずは無いんだよね……」
そう言うと、ジェレミィアは自分の鼻を指さす。
彼女の答えを聞いたスウィッシュは、信じられないと言いたげな表情を浮かべる。
「え……じゃあ、あのエセ聖女は、どうやってこの部屋から出ていったっていうの? あたしは、確かに扉の蝶番が軋みながら開く音を聞いたのよ!」
「――出入口は二つしか無いのに、どちらでもない……」
ギャレマスも、腕を組みながら考え込んだ。
そして、有り得ないと思われる結論をぼそりと呟く。
「まさか……扉と通路を通らず、この場から霞のように消え失せたとでも――」
「まあ、四分の三くらい正解ってところだ、魔王」
「――!」
思わず漏らした独白を肯定する声に、ギャレマスは驚いて振り返った。
そして、腑に落ちぬといった顔で発言主に尋ねる。
「……どういう意味だ、シュータよ? 四分の三くらい正解?」
「どういう意味も何も、そのまんまの意味だよ」
部屋の真ん中にポツンと立っている、舞台で使われる小道具らしき桃色の扉に寄りかかりながら、シュータは肩を竦めた。
「――『扉と通路を通らず』ってのは正解。『この場から』『消え失せた』っていうのも当たりだ。ただ……『霞のように』ってのは、ちょっと違う。丸じゃなくて、せいぜい三角ってところだ。――それで、三問中二問正解、一問半分正解って事で……“四分の三”だ」
「いや……何か計算おかしくない?」
ドヤ顔のシュータに白け顔でツッコむスウィッシュ。
「ええい! どれが正解だとか、どうでもいいわ!」
一方、ギャレマスは、シュータの言葉に苛立ちを露わにしながら声を荒げる。
「シュータよ! 今はとにかく時間が惜しい! 正解が分かっておるのなら、勿体ぶらずに申せ! 『霞のように消え失せた』のではないのなら、どうやってあの女はこの部屋から出ていったのだッ?」
「……答えは、コレだよ」
ギャレマスの剣幕にも物怖じする事無く、鼻を鳴らして嗤ったシュータは、もたれかかっていた桃色の扉を拳で軽く叩いた。
「え……それって、ただのお芝居用の小道具じゃ――」
「違うんだな、これが」
戸惑いの声を上げるスウィッシュに愉しげな薄笑みを浮かべたシュータは、立てた親指を背後のドアに突きつけながら言葉を継ぐ。
「これは、小道具なんかじゃねえ。ドア全体に次元転移法術式を組み込んである、れっきとした“聖遺物”のひとつ――『いずこでも扉』だよ」
突然、勢いよく開いた扉の角が顔面にめり込み、ギャレマスは悲鳴とも呻きともつかない奇声を上げながら、その場に蹲った。
「……あ、魔王だ」
顔面を手で押さえながら悶絶するギャレマスの姿に目を丸くしたのは、扉を蹴破り、片脚を上げたままの体勢のままのジェレミィアだった。
「いやぁ、ゴメン。まさか、そんな所に立ってるとは思わなかったからさ」
「ご、ゴメンじゃないわよ!」
右手に持った骨付き肉に齧り付きながら、特に反省しているようには聞こえない軽い口調で謝るジェレミィアを、スウィッシュは上ずった声で怒鳴りつける。
そして、ヨロヨロと覚束ない足取りで主の元に駆け寄ると、彼の鼻から滴り落ちる鼻血を纏っていたマントの裾で拭きながら、心配げに声をかける。
「へ、陛下! だ、大丈夫ですか?」
「え~。別に大丈夫っしょ、そのくらい。だって、自称“地上最強の生物”じゃん、その魔王。めちゃくちゃ頑丈なんだから、このくらい、蚊に刺されたようなもんでしょ?」
「い、いや……」
今度は左手に持った発泡酒の瓶を呷りながら、涼しい顔で言い放つジェレミィアに、ギャレマスは涙を浮かべた目で恨めしげに見上げながら首を横に振った。
「い、いかに身体自体は頑丈でも、痛覚はそれなりにあるのだ。だから……痛いものは痛い……」
「え、そうなん? じゃあ、小指を角にぶつけたりしたら、やっぱりアタシらと同じようにのたうち回ったりしちゃうの?」
「ま……まあ……」
「へ~、そうなんだ。ま、知らんけど」
ジェレミィアは、興味無さげにうんうんと頷くと、キョロキョロと部屋の中を見回す。そして、部屋の真ん中に立っていたシュータの姿を見付けると、首を傾げながら訊ねた。
「……て、随分作戦開始が早いんじゃない? おかげで、屋台村で注文したアヴァーシ名物のシダマーサ牛のリブロースステーキを食べ損ねちゃったんだけど」
「……オーディション大会バックレて、何を呑気に飯なんか食ってるんだよ、お前は」
食べ終わった骨付き肉の骨をボリボリと噛み砕いているジェレミィアに、ジト目を向けるシュータ。
彼からの非難交じりの問いかけにも、ジェレミィアは至って涼しい顔をしている。
「いやぁ、ちょっと小腹が空いちゃってさ」
「普通は、『ちょっと小腹が空いてリブロースステーキ』とはならないような……」
ジェレミィアの答えに、顔を引き攣らせながらツッコむギャレマス。
だが、ジェレミィアは特に気にする事もない様子で言葉を継ぐ。
「それに……エラリィが先にステージから出てったから、アタシも抜けちゃっていいかなぁって思ったんだけど――って」
そう言うと、彼女はもう一度周囲を見回し、怪訝な表情を浮かべながら三人に尋ねた。
「――そう言えば、エラリィとサッちゃんはどうしたの? 姿が見えないみたいだけど……」
「「――ッ!」」
何気なくジェレミィアが口にした言葉で、ギャレマスとスウィッシュの顔色が変わった。
「そ、そうだ!」
ギャレマスは、その目を大きく見開きながら勢いよく立ち上がり、驚くジェレミィアに詰め寄る。
「お主……この扉から入ってきたという事は、すれ違ってはおらぬのか? あの聖女を……サリアを攫ったエラルティスと!」
「……へ? エラリィ? サッちゃんを……攫った……?」
ギャレマスの問いかけに、大きな目をパチクリさせながら当惑の声を上げる狼獣人は、助けを求めるようにシュータの顔を見た。
「……どういう事、シュータ? なんか良く分からないんだけど……」
「――まあ、手短に言えば、エラルティスが魔王たち……あるいは、俺たちの事も裏切って、サリアの事をどこかに攫っていったんだ」
「え――ッ?」
シュータの答えを聞いて、ジェレミィアは驚きで声を裏返した。
そんな彼女に、目を血走らせながらギャレマスが訊ねる。
「で! どうなのだ? お主は、エラルティスとすれ違ったのか? いや、すれ違ったはずだ!」
「う……ううん」
必死の形相のギャレマスに気圧されながら、ジェレミィアはフルフルと首を横に振った。
「ごめん……気付かなかった。でも……そんなはずないんだよなぁ」
彼女はそう答えると、怪訝な表情を浮かべながら、開け放たれた扉の向こう――暗い通路の奥に目を向ける。
そして、大きく首を傾げた。
「だって……もしもアタシがここに来るずっと前にエラリィたちが扉を開けて出ていったとしても、しばらくの間は絶対にふたりの匂いが扉の向こうの空気に残るから、狼獣人であるアタシの鼻がその匂いを嗅ぎつけないはずは無いんだよね……」
そう言うと、ジェレミィアは自分の鼻を指さす。
彼女の答えを聞いたスウィッシュは、信じられないと言いたげな表情を浮かべる。
「え……じゃあ、あのエセ聖女は、どうやってこの部屋から出ていったっていうの? あたしは、確かに扉の蝶番が軋みながら開く音を聞いたのよ!」
「――出入口は二つしか無いのに、どちらでもない……」
ギャレマスも、腕を組みながら考え込んだ。
そして、有り得ないと思われる結論をぼそりと呟く。
「まさか……扉と通路を通らず、この場から霞のように消え失せたとでも――」
「まあ、四分の三くらい正解ってところだ、魔王」
「――!」
思わず漏らした独白を肯定する声に、ギャレマスは驚いて振り返った。
そして、腑に落ちぬといった顔で発言主に尋ねる。
「……どういう意味だ、シュータよ? 四分の三くらい正解?」
「どういう意味も何も、そのまんまの意味だよ」
部屋の真ん中にポツンと立っている、舞台で使われる小道具らしき桃色の扉に寄りかかりながら、シュータは肩を竦めた。
「――『扉と通路を通らず』ってのは正解。『この場から』『消え失せた』っていうのも当たりだ。ただ……『霞のように』ってのは、ちょっと違う。丸じゃなくて、せいぜい三角ってところだ。――それで、三問中二問正解、一問半分正解って事で……“四分の三”だ」
「いや……何か計算おかしくない?」
ドヤ顔のシュータに白け顔でツッコむスウィッシュ。
「ええい! どれが正解だとか、どうでもいいわ!」
一方、ギャレマスは、シュータの言葉に苛立ちを露わにしながら声を荒げる。
「シュータよ! 今はとにかく時間が惜しい! 正解が分かっておるのなら、勿体ぶらずに申せ! 『霞のように消え失せた』のではないのなら、どうやってあの女はこの部屋から出ていったのだッ?」
「……答えは、コレだよ」
ギャレマスの剣幕にも物怖じする事無く、鼻を鳴らして嗤ったシュータは、もたれかかっていた桃色の扉を拳で軽く叩いた。
「え……それって、ただのお芝居用の小道具じゃ――」
「違うんだな、これが」
戸惑いの声を上げるスウィッシュに愉しげな薄笑みを浮かべたシュータは、立てた親指を背後のドアに突きつけながら言葉を継ぐ。
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