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エピソード8 謀事魔多し
聖女と窮地と観念
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「え、え――と、まあ、そういう訳で」
と、ギャレマスは誤魔化し笑いを止めると、一転した鋭い目でエラルティスの顔を見据える。
「スウィッシュがこの場に駆けつけた事で、お主と余の形勢は逆転したようだな」
「ぐ……っ!」
エラルティスは、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、ギャレマスとスウィッシュの顔を睨みつけた。
そんな彼女を諭すように、魔王は静かな口調で言う。
「諦めて、大人しくサリアを放せ。そうすれば、今回お主が行った狼藉は、不問に付してやろう」
「へ、陛下ッ?」
ギャレマスの言葉に、スウィッシュは驚いた顔をして声を上げた。
「不問に付すって……ここまで陛下とサリア様に危害を加え、さんざん愚弄したこのエセ聖女の事を見逃すっておっしゃるんですか? それでは……我が真誓魔王国――いえ、魔族そのものの名誉に傷が……!」
「今は、時間が惜しい」
憤懣を露わにして詰め寄るスウィッシュを真っ直ぐに見据え、ギャレマスは静かに言った。
「スウィッシュよ、我々がここに来たそもそもの目的を忘れたか?」
「……!」
「我らの目的は、強制収容されたエルフ族の解放の為、陽動として人間族たちの目を引きつける事だ。そして、紆余曲折はあったものの、その目的はほぼ達成できた」
「そ……そうですが……」
「で、あれば、次に我らが果たさねばならぬ目的は、全員揃って人間族領から脱出し、魔王国領に辿り着く事……。これは、今すぐに取りかからねばならぬ」
そう言うと、ギャレマスはスウィッシュの肩に手を置く。
「余の……いや、サリアや魔族の尊厳を重んじようとする、お主の気持ちは良く分かる。だが、今優先すべきは復仇ではなく、脱出だ。エラルティスに対して色々と思うところはあるだろうが、ここは堪えてくれ」
「は……はい」
ギャレマスの手のひらの温もりを感じて、仄かに頬を染めながらスウィッシュは頷いた。
「へ、陛下がそうおっしゃるのでしたら、あたしはもちろん従います……ハイ」
「うむ……」
微笑んだギャレマスは、彼女の頭に優しく手を乗せると、今度は柱に縛りつけられているサリアに向かって声をかける。
「サリアも……それで良いな?」
「はいっ! もちろんです!」
父の問いかけに、満面の笑みを浮かべて頷いたサリアは、傍らに立って顔を俯かせているエラルティスに囁きかけた。
「――エッちゃん。そういう訳だから、この縄を解いて。……大丈夫。お父様は、一度おっしゃった事は必ず守ってくれるよ。だから――」
「――うるっさいですわねぇっ! わらわが……神に祝福されし聖女たるわらわが、魔族如きの甘言に乗るとでも思いましたのッ?」
サリアの囁き声を怒声で遮ったエラルティスは、聖杖の石突を床に叩きつける。
そして、目を吊り上げて、周囲で倒れたり蹲ってたりしている人間族の男たちに向かって声を荒げた。
「――って、いつまで呑気に丸まってるんですの、あなたたちッ! 高いお金を払って雇っているんですから、それに見合った働きをしなさいなッ! さもないと……聖女の全身全霊をかけて呪いますわよッ!」
「……ッ!」
『呪う』という、聖女らしからぬ物騒な言葉に身を震わせながら、まだ意識のある人間族たちがヨロヨロと身を起こす。
そして、手にした得物を握り直すと、ギャレマスとスウィッシュに向かって斬りかからんと、一斉に床を蹴――らんとした、その時、
唐突に銀色の光が室内を舞い狂った。
そして、
「――ぐはぁっ!」
「グフェッ!」
「ぶふぁっ……!」
光の奔流が吹き過ぎた後、彼らが一斉に白目を剥いて、バタバタと倒れる。
それを見たエラルティスは、驚愕の叫びを上げた。
「な……何が起こったんですの……ッ!」
「――アタシだよ、エラリィ」
「ッ……!」
自分の問いかけに答えた聞き慣れた声に、エラルティスは大きく目を見開く。
そして、唇を血が滲むほどに噛みしめながら、声のした方に顔を向けた。
「じぇ……ジェレミィア……ッ!」
「邪魔してごめんね、エラリィ。でも……それはやっちゃダメだよ」
ジェレミィアは、今の高速機動斬撃で乱れた銀色の前髪を掻き上げながら、少し沈んだ声で言うと、今度はスウィッシュたちの方に顔を向ける。
「ごめん、スッチー。外の奴らを眠らせるのに、少し手間取っちゃった。間に合ったかな?」
「うん……ちょうどいいタイミングだった。おかげで手間が省けたわ。ありがと」
「にしし。どういたしまして」
ジェレミィアは、スウィッシュの感謝の言葉にはにかみ笑いを浮かべると、囚われのサリアの方に声をかける。
「……サッちゃんも大丈夫――な訳ないか……。ゴメンね、ウチのエラリィがひどい事しちゃって」
「ううん! 全然大丈夫だよー!」
サリアは、神妙な顔をして頭を下げるジェレミィアに向かって、微笑を浮かべながらブンブンと首を横に振った。
「ミィちゃんが謝る事じゃないよ~。助けに来てくれてありがとー!」
「良かった……元気そうで」
ジェレミィアは、サリアの様子を見て安堵の息を吐くと、手に持った細剣を肩に乗せ、「さて……」と呟きながら、エラルティスに険しい目を向ける。
「……どうする、エラリィ? もう、アンタに勝ち目は無さそうだけど」
「……」
「人間族の誇りとか、聖女の意地とかあるんだろうけど、もう大人しく降参しちゃった方がいいと思うよ。その内、シュータも合流するだろうしね」
「――ッ!」
“シュータ”の名を聞いた瞬間、エラルティスは目に見えて動揺した。
一方、ギャレマスはハッと目を見開く。
「そういえば……シュータの事をすっかり忘れておった。あやつは何をやっておるのだろうか?」
「ああ……シュータはね」
ジェレミィアはそう言うと、なぜか頭上を指さし、言葉を継いだ。
「さっき、少し離れた空の上で、なんか真っ白い古龍種と戦ってたよ」
「は?」
スウィッシュは、ジェレミィアの言葉に、思わず怪訝な表情を浮かべる。
「白い古龍種……それって、まさか……」
「あ、そういえば……」
「あ――ッ!」
ギャレマスは先ほどの事を思い出し、一方のサリアは、目を大きく見開き、上ずった声で叫んだ。
「それ……ポルンちゃん! もしかして……シューくんの事を敵だと誤解して……」
彼女は慌てた様子で、合図の指笛を吹こうとするが、柱に縛りつけられて微塵も動けない事を思い出す。
サリアは、おずおずとエラルティスに向けて言った。
「あの、エッちゃん? ポルンちゃんにシューくんと戦わなくていいって合図するから、縄を解いてもらっていいかな……?」
「……ふ」
「えと……聞こえてる? エッちゃ――」
「ふざけるんじゃないですわぁぁぁぁっ!」
サリアの言葉を遮って、エラルティスは絶叫した。
こめかみに青黒い血管を浮き立たせた彼女は、岩をも砕く勢いで聖杖の石突を叩きつけ、それと同時に、憎悪に満ちた声で聖句を唱える。
「――聖鎖法術ッ!」
そして――、
エラルティスの声に応じるように生成された光の聖鎖は、彼女の傍らで縛られていた魔族の姫の身体にきつく巻き付いたのだった――!
と、ギャレマスは誤魔化し笑いを止めると、一転した鋭い目でエラルティスの顔を見据える。
「スウィッシュがこの場に駆けつけた事で、お主と余の形勢は逆転したようだな」
「ぐ……っ!」
エラルティスは、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、ギャレマスとスウィッシュの顔を睨みつけた。
そんな彼女を諭すように、魔王は静かな口調で言う。
「諦めて、大人しくサリアを放せ。そうすれば、今回お主が行った狼藉は、不問に付してやろう」
「へ、陛下ッ?」
ギャレマスの言葉に、スウィッシュは驚いた顔をして声を上げた。
「不問に付すって……ここまで陛下とサリア様に危害を加え、さんざん愚弄したこのエセ聖女の事を見逃すっておっしゃるんですか? それでは……我が真誓魔王国――いえ、魔族そのものの名誉に傷が……!」
「今は、時間が惜しい」
憤懣を露わにして詰め寄るスウィッシュを真っ直ぐに見据え、ギャレマスは静かに言った。
「スウィッシュよ、我々がここに来たそもそもの目的を忘れたか?」
「……!」
「我らの目的は、強制収容されたエルフ族の解放の為、陽動として人間族たちの目を引きつける事だ。そして、紆余曲折はあったものの、その目的はほぼ達成できた」
「そ……そうですが……」
「で、あれば、次に我らが果たさねばならぬ目的は、全員揃って人間族領から脱出し、魔王国領に辿り着く事……。これは、今すぐに取りかからねばならぬ」
そう言うと、ギャレマスはスウィッシュの肩に手を置く。
「余の……いや、サリアや魔族の尊厳を重んじようとする、お主の気持ちは良く分かる。だが、今優先すべきは復仇ではなく、脱出だ。エラルティスに対して色々と思うところはあるだろうが、ここは堪えてくれ」
「は……はい」
ギャレマスの手のひらの温もりを感じて、仄かに頬を染めながらスウィッシュは頷いた。
「へ、陛下がそうおっしゃるのでしたら、あたしはもちろん従います……ハイ」
「うむ……」
微笑んだギャレマスは、彼女の頭に優しく手を乗せると、今度は柱に縛りつけられているサリアに向かって声をかける。
「サリアも……それで良いな?」
「はいっ! もちろんです!」
父の問いかけに、満面の笑みを浮かべて頷いたサリアは、傍らに立って顔を俯かせているエラルティスに囁きかけた。
「――エッちゃん。そういう訳だから、この縄を解いて。……大丈夫。お父様は、一度おっしゃった事は必ず守ってくれるよ。だから――」
「――うるっさいですわねぇっ! わらわが……神に祝福されし聖女たるわらわが、魔族如きの甘言に乗るとでも思いましたのッ?」
サリアの囁き声を怒声で遮ったエラルティスは、聖杖の石突を床に叩きつける。
そして、目を吊り上げて、周囲で倒れたり蹲ってたりしている人間族の男たちに向かって声を荒げた。
「――って、いつまで呑気に丸まってるんですの、あなたたちッ! 高いお金を払って雇っているんですから、それに見合った働きをしなさいなッ! さもないと……聖女の全身全霊をかけて呪いますわよッ!」
「……ッ!」
『呪う』という、聖女らしからぬ物騒な言葉に身を震わせながら、まだ意識のある人間族たちがヨロヨロと身を起こす。
そして、手にした得物を握り直すと、ギャレマスとスウィッシュに向かって斬りかからんと、一斉に床を蹴――らんとした、その時、
唐突に銀色の光が室内を舞い狂った。
そして、
「――ぐはぁっ!」
「グフェッ!」
「ぶふぁっ……!」
光の奔流が吹き過ぎた後、彼らが一斉に白目を剥いて、バタバタと倒れる。
それを見たエラルティスは、驚愕の叫びを上げた。
「な……何が起こったんですの……ッ!」
「――アタシだよ、エラリィ」
「ッ……!」
自分の問いかけに答えた聞き慣れた声に、エラルティスは大きく目を見開く。
そして、唇を血が滲むほどに噛みしめながら、声のした方に顔を向けた。
「じぇ……ジェレミィア……ッ!」
「邪魔してごめんね、エラリィ。でも……それはやっちゃダメだよ」
ジェレミィアは、今の高速機動斬撃で乱れた銀色の前髪を掻き上げながら、少し沈んだ声で言うと、今度はスウィッシュたちの方に顔を向ける。
「ごめん、スッチー。外の奴らを眠らせるのに、少し手間取っちゃった。間に合ったかな?」
「うん……ちょうどいいタイミングだった。おかげで手間が省けたわ。ありがと」
「にしし。どういたしまして」
ジェレミィアは、スウィッシュの感謝の言葉にはにかみ笑いを浮かべると、囚われのサリアの方に声をかける。
「……サッちゃんも大丈夫――な訳ないか……。ゴメンね、ウチのエラリィがひどい事しちゃって」
「ううん! 全然大丈夫だよー!」
サリアは、神妙な顔をして頭を下げるジェレミィアに向かって、微笑を浮かべながらブンブンと首を横に振った。
「ミィちゃんが謝る事じゃないよ~。助けに来てくれてありがとー!」
「良かった……元気そうで」
ジェレミィアは、サリアの様子を見て安堵の息を吐くと、手に持った細剣を肩に乗せ、「さて……」と呟きながら、エラルティスに険しい目を向ける。
「……どうする、エラリィ? もう、アンタに勝ち目は無さそうだけど」
「……」
「人間族の誇りとか、聖女の意地とかあるんだろうけど、もう大人しく降参しちゃった方がいいと思うよ。その内、シュータも合流するだろうしね」
「――ッ!」
“シュータ”の名を聞いた瞬間、エラルティスは目に見えて動揺した。
一方、ギャレマスはハッと目を見開く。
「そういえば……シュータの事をすっかり忘れておった。あやつは何をやっておるのだろうか?」
「ああ……シュータはね」
ジェレミィアはそう言うと、なぜか頭上を指さし、言葉を継いだ。
「さっき、少し離れた空の上で、なんか真っ白い古龍種と戦ってたよ」
「は?」
スウィッシュは、ジェレミィアの言葉に、思わず怪訝な表情を浮かべる。
「白い古龍種……それって、まさか……」
「あ、そういえば……」
「あ――ッ!」
ギャレマスは先ほどの事を思い出し、一方のサリアは、目を大きく見開き、上ずった声で叫んだ。
「それ……ポルンちゃん! もしかして……シューくんの事を敵だと誤解して……」
彼女は慌てた様子で、合図の指笛を吹こうとするが、柱に縛りつけられて微塵も動けない事を思い出す。
サリアは、おずおずとエラルティスに向けて言った。
「あの、エッちゃん? ポルンちゃんにシューくんと戦わなくていいって合図するから、縄を解いてもらっていいかな……?」
「……ふ」
「えと……聞こえてる? エッちゃ――」
「ふざけるんじゃないですわぁぁぁぁっ!」
サリアの言葉を遮って、エラルティスは絶叫した。
こめかみに青黒い血管を浮き立たせた彼女は、岩をも砕く勢いで聖杖の石突を叩きつけ、それと同時に、憎悪に満ちた声で聖句を唱える。
「――聖鎖法術ッ!」
そして――、
エラルティスの声に応じるように生成された光の聖鎖は、彼女の傍らで縛られていた魔族の姫の身体にきつく巻き付いたのだった――!
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