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エピソード8 謀事魔多し
姫とヘッドと関係
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『つ――』
自分の前に現れたのが、つい先ほど見た夢の中で言葉を交わした黒髪の少女だと気付いたサリアは、驚きで息を呑みつつ、彼女の名を呼んだ。
『つーちゃん……っ!』
『おい……何だよ、そりゃ?』
黒髪の少女は、露骨に不機嫌そうに顔を顰める。
『さっきも言っただろうが。ウチの名前は“門矢司”だ――』
『うん。覚えてるよ』
サリアは、ツカサと名乗った少女に向けて、コクンと頷いた。
『“ツカサ”ちゃんだから“つーちゃん”……でしょ?』
『でしょ? じゃねえよ……』
裾が膝まで届く真っ赤な布地の奇妙な服を纏ったツカサは、はにかみ笑いを浮かべるサリアに辟易とした様子で、ショートカットの髪をガシガシと乱暴に掻きながらボヤく。
そして、眉間に深い皺を刻みながら、サリアの事を鋭い目で睨みつけた。
『……そんなフワフワした呼び方じゃなくて、ウチの事はさんづけで呼びな。いいな?』
『うん! 分かったよ、つーちゃん!』
『さんを付けろっつってんだろうが、ゆるふわヤローッ!』
『あ、ゴメン。気を付けるよ、つーちゃんさん!』
『はあ……もう、いいや。“つーちゃん”で……』
ツカサは、根負けした様子で肩を落としながら溜息を吐く。
そんな少女の事を見ながら、ふと違和感を覚えたサリアは、目をパチクリと瞬かせながら、不思議そうに呟いた。
『そういえば……サリア、なんでつーちゃんの事が見えるし、声が聞こえてるし、話せてるんだろう……? サリアはもう、エッちゃんの術で消えちゃいそうなのに……』
『ああ……そりゃそうさ』
サリアの疑問に、ツカサは事もなげに答える。
『だから、何度も言ってるだろ? お前はウチなんだって』
『……だから、それが良く分からないんだけど……』
サリアは、訝しげに首を傾げた。
『それだけじゃなくって……か、さっきの夢の中でつーちゃんが言ってた“覚醒”がどうとかいうのも、何の事なのか全然……』
『ふふ……それはねぇ……』
困惑するサリアに、ツカサが含み笑いを浮かべながら答えを告げようとした――その時、
『あ……』
『く……』
サリアとツカサが、同時に微かな呻き声を上げ、ふらりとよろける。
『ぐっ!』
咄嗟に足を踏ん張ったツカサが、力無く倒れかけたサリアの身体を両手で受け止めた。
そして、僅かに焦りの表情を浮かべながら、苦々しげに舌打ちする。
『ちっ……! どうやら、マジであんまり時間が無いみたいだね』
『じ……かん……?』
薄れる意識の中で、うわごとのように訊き返すサリアに、ツカサは小さく頷いた。
『ああ……このままだと、お前とウチは、もう少しでこの世界から消えちまう』
『え……!』
サリアは驚きの声を上げると、ツカサの赤い服の襟元を掴み、必死に叫ぶ。
『やだ……! サリア、消えたくないよ! お願い、つーちゃん……助けて!』
『……ああ、モチロンさ』
サリアの懇願に、ツカサはニヤリと笑いながら、大きく首を縦に振った。
『助けてやるよ。……つっても、ウチが助かるついでに、お前も自動的に助かるだけ、だけどね』
『え……?』
サリアは、含みのあるツカサの言い方に引っかかりを感じ、怪訝な表情を浮かべる。
そして、彼女に尋ねようとするも、急激な眠気に襲われた。
『え……? なに……こ……れ……?』
『……おやすみの時間って事さ』
そう言うと、ツカサはフッと鼻で嗤い、手のひらでサリアの瞼をそっと閉じる。
『おや……すみの……時間……? な……に……そ……?』
『もう、お前は何も考えなくていいんだよ』
ツカサはそう言うと、完全に意識を失ったサリアの身体を抱きかかえながら立ち上がった。
ふと、自分の胸にもたれて安らかな寝息を立てる魔族の少女の顔を見下ろす。
そして、ひどく酷薄な薄笑みを浮かべながら呟いた。
『おやすみ、もうひとりのウチ。そして……さよなら』
◆ ◆ ◆ ◆
「サリアアアアア――ッ!」
必死の形相のギャレマスが、絶叫と共に極大の球雷を、白光の中で高笑いしているエラルティス目がけて投げつける。
だが、魔王が渾身の力を込めて投げつけた球雷は、彼女に届く事無く、見えない壁にぶつかったかのように虚しく弾け飛んだ。
それを見たギャレマスは、悔しげに唇を噛みしめる。
エラルティスが絶対の自信を持つだけあって、彼女とサリアの周囲に張り巡らされた“聖光絶対結界”の対魔防御性能はかなりのものだった。それに加えて、背中に突き立ったままの聖光矢の影響で、ギャレマスの呪術の精度と密度がかなり落ちてしまっている……。
「オーッホッホッホッ! 残念でしたわね、魔王! どうやら、もう打つ手は無いようですわねぇ!」
悔しがる魔王の顔を見たエラルティスは、口の端を三日月の形に吊り上げて愉快気な哄笑をあげると、傍らでぐったりとしているサリアの顔を一瞥した。
その顔は、白光の中でも分かるくらいに血の気を失っている。
「……どうやら、もう少しでこの娘の“浄滅”は終わりそうですね」
「や……やめてくれ! 頼む、エラルティス! 娘だけは……サリアの命を奪うのだけはやめ――!」
「うふふ、いくらわらわに懇願しても、もう無駄ですわよ。ここまで来たら、もうわらわにも術の発動は止められませんもの」
エラルティスは、ニヤニヤと嗤いながら首を横に振った。
そして、サリアの方に顎をしゃくってみせる。
「そんな無駄な事を言う暇があったら、自分の娘に最期のお別れの言葉をかけてあげた方がよろしくなくって? ……もっとも、既に本人の意識は亡くなってるようですけ――」
と、嫌味たらしげなエラルティスの声が、唐突に途切れた。
そして、それまでとは一変した、驚きに満ちた声が、彼女の口から漏れる。
「あな……たっ! 意識が……ッ?」
彼女の翠色の瞳には、クッキリと開けた紅の目を爛々と輝かせたサリアの顔が映っていた。
サリアは眉間に深い皺を寄せて、驚愕するエラルティスの顔にガンをつけながら、ニィっと凄みに満ちた薄笑みを浮かべる。
そして、普段の彼女らしからぬドスの利いた声で言った。
「よぉ……随分と、ウチの身体に好き勝手やってくれたみたいだねぇ、アンタ」
「え……ッ?」
サリアの声を聞いたエラルティスは、驚愕と当惑が入り混じった表情を浮かべる。
「あ……あなた……だ、誰ですのッ?」
「……ウチ?」
エラルティスの問いかけに、サリアが底意地の悪い笑みを浮かべた次の瞬間……ふたりを照らす白光が、一際眩しい光を放った――!
自分の前に現れたのが、つい先ほど見た夢の中で言葉を交わした黒髪の少女だと気付いたサリアは、驚きで息を呑みつつ、彼女の名を呼んだ。
『つーちゃん……っ!』
『おい……何だよ、そりゃ?』
黒髪の少女は、露骨に不機嫌そうに顔を顰める。
『さっきも言っただろうが。ウチの名前は“門矢司”だ――』
『うん。覚えてるよ』
サリアは、ツカサと名乗った少女に向けて、コクンと頷いた。
『“ツカサ”ちゃんだから“つーちゃん”……でしょ?』
『でしょ? じゃねえよ……』
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そして、眉間に深い皺を刻みながら、サリアの事を鋭い目で睨みつけた。
『……そんなフワフワした呼び方じゃなくて、ウチの事はさんづけで呼びな。いいな?』
『うん! 分かったよ、つーちゃん!』
『さんを付けろっつってんだろうが、ゆるふわヤローッ!』
『あ、ゴメン。気を付けるよ、つーちゃんさん!』
『はあ……もう、いいや。“つーちゃん”で……』
ツカサは、根負けした様子で肩を落としながら溜息を吐く。
そんな少女の事を見ながら、ふと違和感を覚えたサリアは、目をパチクリと瞬かせながら、不思議そうに呟いた。
『そういえば……サリア、なんでつーちゃんの事が見えるし、声が聞こえてるし、話せてるんだろう……? サリアはもう、エッちゃんの術で消えちゃいそうなのに……』
『ああ……そりゃそうさ』
サリアの疑問に、ツカサは事もなげに答える。
『だから、何度も言ってるだろ? お前はウチなんだって』
『……だから、それが良く分からないんだけど……』
サリアは、訝しげに首を傾げた。
『それだけじゃなくって……か、さっきの夢の中でつーちゃんが言ってた“覚醒”がどうとかいうのも、何の事なのか全然……』
『ふふ……それはねぇ……』
困惑するサリアに、ツカサが含み笑いを浮かべながら答えを告げようとした――その時、
『あ……』
『く……』
サリアとツカサが、同時に微かな呻き声を上げ、ふらりとよろける。
『ぐっ!』
咄嗟に足を踏ん張ったツカサが、力無く倒れかけたサリアの身体を両手で受け止めた。
そして、僅かに焦りの表情を浮かべながら、苦々しげに舌打ちする。
『ちっ……! どうやら、マジであんまり時間が無いみたいだね』
『じ……かん……?』
薄れる意識の中で、うわごとのように訊き返すサリアに、ツカサは小さく頷いた。
『ああ……このままだと、お前とウチは、もう少しでこの世界から消えちまう』
『え……!』
サリアは驚きの声を上げると、ツカサの赤い服の襟元を掴み、必死に叫ぶ。
『やだ……! サリア、消えたくないよ! お願い、つーちゃん……助けて!』
『……ああ、モチロンさ』
サリアの懇願に、ツカサはニヤリと笑いながら、大きく首を縦に振った。
『助けてやるよ。……つっても、ウチが助かるついでに、お前も自動的に助かるだけ、だけどね』
『え……?』
サリアは、含みのあるツカサの言い方に引っかかりを感じ、怪訝な表情を浮かべる。
そして、彼女に尋ねようとするも、急激な眠気に襲われた。
『え……? なに……こ……れ……?』
『……おやすみの時間って事さ』
そう言うと、ツカサはフッと鼻で嗤い、手のひらでサリアの瞼をそっと閉じる。
『おや……すみの……時間……? な……に……そ……?』
『もう、お前は何も考えなくていいんだよ』
ツカサはそう言うと、完全に意識を失ったサリアの身体を抱きかかえながら立ち上がった。
ふと、自分の胸にもたれて安らかな寝息を立てる魔族の少女の顔を見下ろす。
そして、ひどく酷薄な薄笑みを浮かべながら呟いた。
『おやすみ、もうひとりのウチ。そして……さよなら』
◆ ◆ ◆ ◆
「サリアアアアア――ッ!」
必死の形相のギャレマスが、絶叫と共に極大の球雷を、白光の中で高笑いしているエラルティス目がけて投げつける。
だが、魔王が渾身の力を込めて投げつけた球雷は、彼女に届く事無く、見えない壁にぶつかったかのように虚しく弾け飛んだ。
それを見たギャレマスは、悔しげに唇を噛みしめる。
エラルティスが絶対の自信を持つだけあって、彼女とサリアの周囲に張り巡らされた“聖光絶対結界”の対魔防御性能はかなりのものだった。それに加えて、背中に突き立ったままの聖光矢の影響で、ギャレマスの呪術の精度と密度がかなり落ちてしまっている……。
「オーッホッホッホッ! 残念でしたわね、魔王! どうやら、もう打つ手は無いようですわねぇ!」
悔しがる魔王の顔を見たエラルティスは、口の端を三日月の形に吊り上げて愉快気な哄笑をあげると、傍らでぐったりとしているサリアの顔を一瞥した。
その顔は、白光の中でも分かるくらいに血の気を失っている。
「……どうやら、もう少しでこの娘の“浄滅”は終わりそうですね」
「や……やめてくれ! 頼む、エラルティス! 娘だけは……サリアの命を奪うのだけはやめ――!」
「うふふ、いくらわらわに懇願しても、もう無駄ですわよ。ここまで来たら、もうわらわにも術の発動は止められませんもの」
エラルティスは、ニヤニヤと嗤いながら首を横に振った。
そして、サリアの方に顎をしゃくってみせる。
「そんな無駄な事を言う暇があったら、自分の娘に最期のお別れの言葉をかけてあげた方がよろしくなくって? ……もっとも、既に本人の意識は亡くなってるようですけ――」
と、嫌味たらしげなエラルティスの声が、唐突に途切れた。
そして、それまでとは一変した、驚きに満ちた声が、彼女の口から漏れる。
「あな……たっ! 意識が……ッ?」
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