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エピソード9 転移しても魔王だった件
屍霊女王と身体と妖気
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――それから二十分後、
「ガアアアアアアア――ッ!」
“屍霊女王”ウェスクアは、甲高い声で叫びながら、鞭のように撓らせた何本もの触手を上空に向かって伸ばす。
触手たちが捉えようとしているのは、黒翼を羽搏かせながら大空を翔ぶギャレマスだ。
ギャレマスは、滑空しながら不規則に方向転換を繰り返し、触手を躱し続ける。
そして、充分な距離を稼いで、触手との距離が開いた頃合いを見計らって、くるりと身体を反転させた。
「熊手爪撃空波呪術ッ!」
ギャレマスは、大きく広げた黒翼で空気抵抗のブレーキをかけながら、五本の指を大きく広げた手を下から上へと振り上げる。
たちまち、彼の指先から放たれた五本の風の波動が、ウェスクアが伸ばした触手をスッパリと両断した。
それを見るや、すかさずギャレマスは叫んだ。
「――スウィッシュ!」
「はいっ!」
彼の呼び声に応じたスウィッシュが、背中から生えた透明の氷の翼を羽搏かせ、一時的に触手を失ったウェスクアに向かって急接近をかける。
ウェスクアは切断された触手の再生を急ぎつつ、接近するスウィッシュに向けて、その“口”にあたる部分から巨大な幽氣弾を放った。
「遅いわよっ! 阿鼻叫喚氷晶魔術ッ!」
スウィッシュが両腕を交差させると、瞬時に無数の氷雪弾が創成され、彼女の進路を妨げるように飛来する幽氣弾に向かって放たれる。
氷雪弾は、幽氣弾に次々と突き立ち、大きな風穴をいくつも開けた。
「キィエアアアアアアッ!」
「……っ!」
ウェスクアが上げる怒りとも驚嘆ともつかない奇声を耳にして僅かに顔を顰めたスウィッシュは、氷雪弾によって速度の鈍った幽氣弾の横を掠めるように飛び、屍霊女王の巨大な顔面の前に躍り出るや、腕を真っ直ぐ上に掲げ、高らかに叫ぶ。
「穿刺鋭氷槍魔術ッ!」
その声に応じるように形成された氷の突撃槍をしっかりと握り込んだスウィッシュは、更に加速をつけてウェスクアの巨大な顔面目がけて突っ込んだ。
「はあああああ――ッ!」
気迫に満ちた声と共に突き出された突撃槍の穂先が、ウェスクアの眉間に深々と突き立つ。
「ギャアアアアアアア――ッ!」
甲高い悲鳴を上げるウェスクア。
一方のスウィッシュは、突き立てた突撃槍の柄から手を放し、のたうち回るウェスクアの顔面から俊敏に飛び退き、充分な距離を稼いだと見るや、開いた手をグッと握り込んだ。
「凍氷爆砕魔術ッ!」
次の瞬間、氷の突撃槍が、突き立ったウェスクアの顔面を巻き込み、爆発する。
今度の突撃槍の威力は、先ほどのそれとはケタ違いで、屍霊女王の顔面を丸ごと消し飛ばした。
細かく砕けた氷の突撃槍の破片と、ウェスクアの顔面を形成していたものが、まるで白の黒の雪のように辺り一面へ降り注ぐ。
「……よしっ!」
それを見たスウィッシュが、思わず小さく握った拳を掲げた。
が、次の瞬間、彼女の背中で羽搏いていた氷の翼に大きな亀裂が走る。
「……あっ」
小さな悲鳴を上げた彼女は、空中で大きくバランスを崩した。
そして、背中の氷翼の亀裂はますます大きくなり、軋むような音を立てるとバラバラに砕け散ってしまった。
空中で翼を失ったスウィッシュは、そのまま地面に向かって落下する。
「きゃ、きゃああああ――っ!」
悲鳴を上げながら落ちていくスウィッシュ。
その時、
「スウィッシュ――!」
上ずった絶叫と共に駆けつけ……もとい、飛びつけたギャレマスによって、間一髪で彼女の身体は地面との激突を免れた。
「おい! 大丈夫か、スウィッシュ! どこか、負傷でも?」
「……陛下」
自分の身体を抱きかかえたギャレマスの腕の力と温もりを感じて、スウィッシュは仄かに頬を赤らめながら微笑むと、軽く首を横に振る。
「……大丈夫です。止めを刺せてホッとしたら、気も抜けちゃったみたいで、翼を維持できなくなってしまって……」
「無理もあるまい。何せ、初めて使った新しい魔術だ。慣れぬ魔術の発動には、より多くの理力を必要とするものだからな」
ギャレマスは、スウィッシュに優しい声で言った。
そして、静かに地上に降りると、突き出た大きな岩に彼女の身体をもたれかからせる。
「……お主は、ここで休んでおれ。後は余に任せよ」
「え……?」
スウィッシュは、ギャレマスの言葉を聞いてキョトンとした表情を浮かべる。
「あの、『後は』……って? “屍霊女王”は、今の攻撃で止めを刺せたはず――」
そう言いながらウェスクアの方に目を向けたスウィッシュは、その目に映った光景に思わず言葉を失った。
「ウソ……確かに吹き飛ばしたはずなのに……。あ、頭が――再生してる……?」
「うむ」
黒い霧のような妖気が渦巻きながら凝集し、ウェスクアの消し飛んだ頭部を再生していく様を目の当たりにして唖然とするスウィッシュに、ギャレマスも小さく頷く。
「普通の生き物であれば、頭部を失えば死ぬし、屍鬼の類でも、ほとんどは頭に核魂があるから、頭を潰せば斃せるのだがな。どうやら……あの巨大な頭には核魂が入っていない、ただの“頭を象ったもの”でしか無いらしいな」
「そんな……」
ギャレマスの言葉に、スウィッシュは慄然とする。
「じゃあ……“彼女”には核魂が存在していないという事ですか……?」
「……いや」
ギャレマスは、スウィッシュの言葉に小さく頭を振った。
「いかに異世界といえど、この世界の物理法則は、我々の世界のそれと大きな違いは無いようだ。我らの呪術や魔術が、屍霊女王殿に通用するのが、何よりの証拠。……であれば、魂の仕組みも同じであると考えるのが自然であろう」
ギャレマスは、考え込むように髭を撫でながら「それに……」と言葉を継ぐ。
「もし違うのであれば――インフォ殿が、この世界を救う為の異世界転移者を我々の世界から選ぼうとはせぬであろうからな」
「確かに……」
ギャレマスの推測に、スウィッシュも同意する。
そして、訝しげな表情を浮かべながら、主に尋ねかけた。
「でも……それじゃ、何で彼女は頭を吹き飛ばされても平気で再生できるのでしょうか?」
「……考えられる可能性は、一つだな」
ギャレマスはそう言うと、黒い妖気を全身に纏ったウェスクアの身体を指さし、言葉を継ぐ。
「恐らく……あの巨大な身体は、これまで取り込んできた数多の死者の魂で出来た分厚い妖気の殻で、本当の彼女の身体はその中に潜んでいる。ちょうど、祭りの出し物で演者が纏う着ぐるみのようにな」
「着ぐるみ……?」
彼の言葉を聞いたスウィッシュの顔に、失望の表情が浮かぶ。
「じゃあ……今まで三十分近くも続けてきたあたしたちの攻撃は、本体まで届いてなかったという事ですか?」
「……そうなるな」
「そんな……それじゃ、あたしたちの攻撃は全くの無駄だったって……?」
「いや、そうとも言えぬさ」
ギャレマスは頭を振ると、ウェスクアの身体を指さす。
「見よ、屍霊女王の身体を。戦い始めた時よりも大分小さくなっているとは思わぬか?」
「……そういえば」
スウィッシュは、ギャレマスの言葉に、目を丸くしながら頷いた。
――彼の言う通り、ウェスクアの身体は最初に見た時の半分ほどの大きさに縮んでいる。
ギャレマスは、口元に薄い笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「恐らく、我らの攻撃で喪った触手や身体を再生する際に、身体に纏った妖気を充てているのだろう。だから、攻撃と再生で妖気を消耗すればするほど、妖気で出来た彼女の着ぐるみは小さくなっていくという訳だ」
「という事は……あたしたちが攻撃を続けて彼女の妖気を削り切れば、中にいる“屍霊女王”の『本体』を露わにする事が出来る……という事ですね」
「うむ」
スウィッシュの言葉に力強く頷き返したギャレマスは、彼女の傍らからすっくと立ち上がる。
そして、表情を曇らせ、独り言つように言った。
「……とはいえ、今までのようにちまちまと攻撃してばかりでは、削り切るまでに恐ろしいほどの時間がかかりそうだな。一刻も早く元の世界に戻って、サリアを救わねばならぬのに……」
「じゃあ……どうしましょう?」
「なに、簡単な事だ」
不安な気持ちを含んだスウィッシュの問いかけに対し、不敵な笑みを浮かべたギャレマスは、組み合わせた拳をボキボキと鳴らしながら、魔王としての矜持に溢れた力強い声で答えた。
「ならば、最強の一撃を以て彼女の纏う妖気を一気に引き剥がすまで。――この“雷王”イラ・ギャレマス最高の秘奥義……“極龍雷撃呪術”で、な」
「ガアアアアアアア――ッ!」
“屍霊女王”ウェスクアは、甲高い声で叫びながら、鞭のように撓らせた何本もの触手を上空に向かって伸ばす。
触手たちが捉えようとしているのは、黒翼を羽搏かせながら大空を翔ぶギャレマスだ。
ギャレマスは、滑空しながら不規則に方向転換を繰り返し、触手を躱し続ける。
そして、充分な距離を稼いで、触手との距離が開いた頃合いを見計らって、くるりと身体を反転させた。
「熊手爪撃空波呪術ッ!」
ギャレマスは、大きく広げた黒翼で空気抵抗のブレーキをかけながら、五本の指を大きく広げた手を下から上へと振り上げる。
たちまち、彼の指先から放たれた五本の風の波動が、ウェスクアが伸ばした触手をスッパリと両断した。
それを見るや、すかさずギャレマスは叫んだ。
「――スウィッシュ!」
「はいっ!」
彼の呼び声に応じたスウィッシュが、背中から生えた透明の氷の翼を羽搏かせ、一時的に触手を失ったウェスクアに向かって急接近をかける。
ウェスクアは切断された触手の再生を急ぎつつ、接近するスウィッシュに向けて、その“口”にあたる部分から巨大な幽氣弾を放った。
「遅いわよっ! 阿鼻叫喚氷晶魔術ッ!」
スウィッシュが両腕を交差させると、瞬時に無数の氷雪弾が創成され、彼女の進路を妨げるように飛来する幽氣弾に向かって放たれる。
氷雪弾は、幽氣弾に次々と突き立ち、大きな風穴をいくつも開けた。
「キィエアアアアアアッ!」
「……っ!」
ウェスクアが上げる怒りとも驚嘆ともつかない奇声を耳にして僅かに顔を顰めたスウィッシュは、氷雪弾によって速度の鈍った幽氣弾の横を掠めるように飛び、屍霊女王の巨大な顔面の前に躍り出るや、腕を真っ直ぐ上に掲げ、高らかに叫ぶ。
「穿刺鋭氷槍魔術ッ!」
その声に応じるように形成された氷の突撃槍をしっかりと握り込んだスウィッシュは、更に加速をつけてウェスクアの巨大な顔面目がけて突っ込んだ。
「はあああああ――ッ!」
気迫に満ちた声と共に突き出された突撃槍の穂先が、ウェスクアの眉間に深々と突き立つ。
「ギャアアアアアアア――ッ!」
甲高い悲鳴を上げるウェスクア。
一方のスウィッシュは、突き立てた突撃槍の柄から手を放し、のたうち回るウェスクアの顔面から俊敏に飛び退き、充分な距離を稼いだと見るや、開いた手をグッと握り込んだ。
「凍氷爆砕魔術ッ!」
次の瞬間、氷の突撃槍が、突き立ったウェスクアの顔面を巻き込み、爆発する。
今度の突撃槍の威力は、先ほどのそれとはケタ違いで、屍霊女王の顔面を丸ごと消し飛ばした。
細かく砕けた氷の突撃槍の破片と、ウェスクアの顔面を形成していたものが、まるで白の黒の雪のように辺り一面へ降り注ぐ。
「……よしっ!」
それを見たスウィッシュが、思わず小さく握った拳を掲げた。
が、次の瞬間、彼女の背中で羽搏いていた氷の翼に大きな亀裂が走る。
「……あっ」
小さな悲鳴を上げた彼女は、空中で大きくバランスを崩した。
そして、背中の氷翼の亀裂はますます大きくなり、軋むような音を立てるとバラバラに砕け散ってしまった。
空中で翼を失ったスウィッシュは、そのまま地面に向かって落下する。
「きゃ、きゃああああ――っ!」
悲鳴を上げながら落ちていくスウィッシュ。
その時、
「スウィッシュ――!」
上ずった絶叫と共に駆けつけ……もとい、飛びつけたギャレマスによって、間一髪で彼女の身体は地面との激突を免れた。
「おい! 大丈夫か、スウィッシュ! どこか、負傷でも?」
「……陛下」
自分の身体を抱きかかえたギャレマスの腕の力と温もりを感じて、スウィッシュは仄かに頬を赤らめながら微笑むと、軽く首を横に振る。
「……大丈夫です。止めを刺せてホッとしたら、気も抜けちゃったみたいで、翼を維持できなくなってしまって……」
「無理もあるまい。何せ、初めて使った新しい魔術だ。慣れぬ魔術の発動には、より多くの理力を必要とするものだからな」
ギャレマスは、スウィッシュに優しい声で言った。
そして、静かに地上に降りると、突き出た大きな岩に彼女の身体をもたれかからせる。
「……お主は、ここで休んでおれ。後は余に任せよ」
「え……?」
スウィッシュは、ギャレマスの言葉を聞いてキョトンとした表情を浮かべる。
「あの、『後は』……って? “屍霊女王”は、今の攻撃で止めを刺せたはず――」
そう言いながらウェスクアの方に目を向けたスウィッシュは、その目に映った光景に思わず言葉を失った。
「ウソ……確かに吹き飛ばしたはずなのに……。あ、頭が――再生してる……?」
「うむ」
黒い霧のような妖気が渦巻きながら凝集し、ウェスクアの消し飛んだ頭部を再生していく様を目の当たりにして唖然とするスウィッシュに、ギャレマスも小さく頷く。
「普通の生き物であれば、頭部を失えば死ぬし、屍鬼の類でも、ほとんどは頭に核魂があるから、頭を潰せば斃せるのだがな。どうやら……あの巨大な頭には核魂が入っていない、ただの“頭を象ったもの”でしか無いらしいな」
「そんな……」
ギャレマスの言葉に、スウィッシュは慄然とする。
「じゃあ……“彼女”には核魂が存在していないという事ですか……?」
「……いや」
ギャレマスは、スウィッシュの言葉に小さく頭を振った。
「いかに異世界といえど、この世界の物理法則は、我々の世界のそれと大きな違いは無いようだ。我らの呪術や魔術が、屍霊女王殿に通用するのが、何よりの証拠。……であれば、魂の仕組みも同じであると考えるのが自然であろう」
ギャレマスは、考え込むように髭を撫でながら「それに……」と言葉を継ぐ。
「もし違うのであれば――インフォ殿が、この世界を救う為の異世界転移者を我々の世界から選ぼうとはせぬであろうからな」
「確かに……」
ギャレマスの推測に、スウィッシュも同意する。
そして、訝しげな表情を浮かべながら、主に尋ねかけた。
「でも……それじゃ、何で彼女は頭を吹き飛ばされても平気で再生できるのでしょうか?」
「……考えられる可能性は、一つだな」
ギャレマスはそう言うと、黒い妖気を全身に纏ったウェスクアの身体を指さし、言葉を継ぐ。
「恐らく……あの巨大な身体は、これまで取り込んできた数多の死者の魂で出来た分厚い妖気の殻で、本当の彼女の身体はその中に潜んでいる。ちょうど、祭りの出し物で演者が纏う着ぐるみのようにな」
「着ぐるみ……?」
彼の言葉を聞いたスウィッシュの顔に、失望の表情が浮かぶ。
「じゃあ……今まで三十分近くも続けてきたあたしたちの攻撃は、本体まで届いてなかったという事ですか?」
「……そうなるな」
「そんな……それじゃ、あたしたちの攻撃は全くの無駄だったって……?」
「いや、そうとも言えぬさ」
ギャレマスは頭を振ると、ウェスクアの身体を指さす。
「見よ、屍霊女王の身体を。戦い始めた時よりも大分小さくなっているとは思わぬか?」
「……そういえば」
スウィッシュは、ギャレマスの言葉に、目を丸くしながら頷いた。
――彼の言う通り、ウェスクアの身体は最初に見た時の半分ほどの大きさに縮んでいる。
ギャレマスは、口元に薄い笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「恐らく、我らの攻撃で喪った触手や身体を再生する際に、身体に纏った妖気を充てているのだろう。だから、攻撃と再生で妖気を消耗すればするほど、妖気で出来た彼女の着ぐるみは小さくなっていくという訳だ」
「という事は……あたしたちが攻撃を続けて彼女の妖気を削り切れば、中にいる“屍霊女王”の『本体』を露わにする事が出来る……という事ですね」
「うむ」
スウィッシュの言葉に力強く頷き返したギャレマスは、彼女の傍らからすっくと立ち上がる。
そして、表情を曇らせ、独り言つように言った。
「……とはいえ、今までのようにちまちまと攻撃してばかりでは、削り切るまでに恐ろしいほどの時間がかかりそうだな。一刻も早く元の世界に戻って、サリアを救わねばならぬのに……」
「じゃあ……どうしましょう?」
「なに、簡単な事だ」
不安な気持ちを含んだスウィッシュの問いかけに対し、不敵な笑みを浮かべたギャレマスは、組み合わせた拳をボキボキと鳴らしながら、魔王としての矜持に溢れた力強い声で答えた。
「ならば、最強の一撃を以て彼女の纏う妖気を一気に引き剥がすまで。――この“雷王”イラ・ギャレマス最高の秘奥義……“極龍雷撃呪術”で、な」
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