雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

文字の大きさ
230 / 423
エピソード9 転移しても魔王だった件

主人公と作者とクライマックス

しおりを挟む
 ――そして、

 全てが終わった荒野は、それまでの喧騒が嘘のように静まり返っていた。

「……あれ?」

 轟風を纏った雷龍が暴れ回った事で、荒野のまばらな草木はことごとく薙ぎ払われ、焼け焦げた木肌がぶすぶすと音を立てて燻っている。

「え……ちょっ……」

 そして、その中心で暴威の限りを尽くしていた“屍霊女王”ウェスクアも、“極龍雷撃呪術デスト・ラディ”の猛攻の前にひとたまりもなかった。
 濃密な妖気の塊だった彼女の巨体は、雷撃と猛風によって細かく分解され、そのことごとくが黒い靄と化し、今では跡形も無い……。

「い……いや……ちょっと待て……」

 遂に、激しい戦いは終わったのだ!
 “屍霊女王”ウェスクアは、異世界から訪れし“雷王”ギャレマスによって見事討滅され――

「だから! ちょっと待てぇい! カットだ! カ――――ット!」

 ……あの。
 登場人物が、勝手に話を止めないでくれるかな。せっかくの締めのシーンなんだか――

「おい、作者殿……いや、作者ッ!」

 ……ちょっと! 登場人物が地の文作者に呼びかけちゃダメだって!

「ええい、うるさい! これが黙っていられるかぁっ!」

 何ですか? 何か不満でも?

「不満に決まっておろうが! 何で、余が“極龍雷撃呪術デスト・ラディ”を放ってウェスクア殿を倒す場面をまるまるカットしておるのだ!」

 あぁ……それか……。

「『それか』ではないわ! 余の……主人公がカッコ良く最強奥義を放つシーンは、作品最大の見せ場であろうが! 何で、そんな盛り上がる場面をすっ飛ばして、とっとと締めに入ろうとしておるのだ、お主は!」

 いやぁ、いいじゃん、別に。

「良くないわっ! むしろ、何で良いと思ったのだ、お主はッ?」

 だって、ウチの作品は、別に本格バトルファンタジーとかじゃないし……。カテゴリ的にはコメディ……それも、王道展開をパロったズッコケコメディだしさ。

「ぐ……ま、まあ、確かに……」

 ぶっちゃけ、読者の皆さんも、別に激しいバトルとかは期待してないと思うんだよねぇ。
 だから、削っちゃっても別にいいかなーって。

「い、いやいや! 全然良くないぞっ! せっかくの余の見せ場を、そんなふざけた理由でカットするでない! ちゃんと、“極龍雷撃呪術デスト・ラディ”発動のシーンからしっかりと書き直せ!」

 えー、……めんどくさ――

「……おい。貴様、今『面倒くさい』とか言おうとしただろう?」

 あ、やべ。
 えーと……そ、そんな事ナイデスヨー。

「……ひょっとして、“極龍雷撃呪術デスト・ラディ”の派手な描写を書くのが面倒だからっていう理由で、シーンを省こうとしているのではないだろうな?」

 ……。

「いや、まさか……」

 ……(ギクリ)。

「もしかして……“極龍雷撃呪術デスト・ラディ”がどういう見栄えビジュアルの技なのかすらも、まだキチンと考えていないから、描写自体出来ない……とか?」

 ……。

「……おい、どうなのだ? 黙っていては解らぬ」

 …………察しのいい登場人物は嫌いだよ。

「き、貴様ぁーっ! そ、それでも作者か――ッ?」

 だ、だって、しょうがないじゃん!
 風系呪法と雷系呪法の複合呪術ってところまでは考えたんだけど、どうやって龍の形にするのかとか、どんな攻撃方法なのかとか、全然考えがまとまらなかったんだもん!

「だ、だからって、まるまる省いていい訳が無いだろうが! 作者なら、キチンと責任を持って考えんかいッ!」

 ヤダ! ぶっちゃけめんどくせえ!

「や、やっぱり、それが本音かあっ!」

 大丈夫だって! 万が一コミカライズしたり、万々が一アニメ化したりした時に、作画担当の人がちゃんとド派手に描写してくれるはずから……多分!

「な、何だとっ? まさか、そんな予定があるのか?」

 ……そんなもの……無いよ……。

「無いんじゃないかああああぁっ!」
「いつまでグダグダとやっておるんじゃ、このタワケものがああああああっ!」
「ッ! ぶべらぁっ!」



 ――ごほん。
 えー……失礼しました。今のは閑話休題って事で……。



「お? おおおおおおおおお――っ?」

 天を仰ぎ、オーガのような形相で地の文作者と言い争っていたギャレマスは、しわがれた声と共に飛来してきた漆黒の球弾を鳩尾に食らい、そのままバランスを崩して、地上に向けて真っ逆さまに落下した。

「い……痛たたた……」

 激しい土埃が舞う中、地上にできたクレーターの中心からムクリと身を起こしたギャレマスは、強かにぶつけた背中を擦りながら顔を顰める。
 そして、先ほど自分を襲った黒い球弾の事を思い返し、訝しげに首を傾げた。

「い……今のは、幽氣弾……? な、何故だ? “屍霊女王”殿は、余の“極龍雷撃呪術デスト・ラディ”で消滅したはず――」
「……おい、雷を操る鬼。人の事を勝手に消滅させるでないわ」
「っ!」

 ギャレマスのひとり言に応えた、どこか不満げな響きの籠もったしわがれ声は、間違いなく先ほどの幽氣弾と同時に聞こえた声だった。
 それに気付いたギャレマスは驚いて目を見開き、慌てて振り向く。
 ――そこには、ゆったりとした丈の長い服を纏う白髪頭の年老いたおうなが忽然と立っていた。
 一瞬、警戒して身構えるギャレマスだったが、皺だらけの老媼の顔に敵意が浮かんでいない事に気付くと、構えた両手を下ろす。
 と、

「陛下――っ! ……って、何でこんな所にお婆さんがっ?」

 ギャレマスが地上に落下したのを見て慌てて駆けつけてきたスウィッシュが、老媼の存在に驚きつつ、咄嗟に主を背中で庇うように立ち塞がった。
 両手を翳すように前に掲げて身構えた彼女は、鋭い目で老媼の事を睨みつけながら、低い声でギャレマスに尋ねる。

「……陛下、このお婆さんは誰ですか? さっきまで、こんな人いませんでしたよね?」
「ほっほっほっ。氷を操る娘よ、わらわは最初っからここに居ったぞよ」
「え……?」

 ギャレマスが答えるよりも早く口を開いた老媼の声に、スウィッシュは当惑の表情を浮かべた。

「最初から居た? でも……戦ってる最中、あなたの姿なんて見てませんよ、あたし。一体、どこに――」
「ほっほっほっ! まー、分からんのも仕方がなかろうて」

 媼は、困惑するスウィッシュの顔を見ながら愉快そうに笑い、言葉を続ける。

「何せ、ついさっきまで随分と分厚いをしておったからのう、わらわは」
「え……?」

 スウィッシュは、媼の言葉にハッと目を見開き、驚きの表情を浮かべた。

「まさか……あなた……?」
「……そういう事か」

 唖然とするスウィッシュの横で、ギャレマスは合点が言った様子で小さく頷く。
 そして、ニコニコと笑っている老媼の皺まみれの顔を真っ直ぐに見据えながら、静かに言った。

「お主……貴女きじょが、“屍霊女王”――いや、ニーソガセ公王国の女王……ウェスクア・エニック・スクンカバール殿ご本人なのだな?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...