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第一章
第十一話 メッセージ
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青井さんに別れを告げて、喫茶店『シリウス』を出た僕たちは、NR作倉駅から北に伸びる大通りに出た。
「……オレは電車だけど、スバルは?」
「あ、うん」
宙の問いかけに、僕は駅の反対側を指さす。
「僕は歩いて帰れるよ。ここから二十分くらいだから」
「……そっか」
僕の答えを聞いた宙は、少し残念そうな、そして何か言いたげな表情で微笑んだ。
「じゃ……ここでお別れだな」
「そう……だね」
宙の寂しそうな視線に、僕も同じ気持ちを覚えながら小さく頷く。
――と、
「あ……あのさ、スバル」
少し上ずった声で僕を呼んだ宙は、おもむろにズボンのポケットからスマホを取り出した。
そして、画面のスリープを解除しながら、おずおずと言葉を継ぐ。
「もしよかったらさ……オレとLANEの友だち登録してくれないかな?」
「え……?」
宙の提案に、僕は驚いて目を丸くした。
そんな僕に、宙は少し照れくさそうに言う。
「いや……今日スバルと知り合えて、こんな時間までホクトの思い出とか色んなことを話し合えてさ……楽しかったんだよ、マジで」
「あ……うん。僕もだよ」
宙の言葉に、僕は胸の奥がカッと熱くなるのを感じながら、コクンと頷いた。
僕の返事を聞いた宙は、嬉しそうな笑みを浮かべながら、「だからさ――」と言葉を継ぐ。
「これからも連絡を取れるように、LANEを……あ、いや、ていうか――」
宙は、そこで一瞬言葉を切って考えるそぶりを見せ、それから意を決した様子で僕に言った。
「その……LANEのアカウントだけじゃなくって……オレとマジの友だちになってほしいんだ」
「……!」
「あ……も、もちろん、スバルがイヤだって言うなら強制はしない。でも……できれば――」
「……ぷっ」
僕は、なぜかアタフタしている宙の様子がおかしくなって、思わず吹き出す。
それを見た宙が、恨めしげな目で僕の顔を睨んだ。
「なんだよ。笑うことないじゃんかよ」
「あ、いや……ゴメン」
宙の文句に、僕は慌てて謝る。
そして、自分も上着からスマホを取り出しながら、大きく頷いた。
「イヤだなんて言わないよ。もちろんオッケーだよ」
「そ、そっか……」
宙は、僕の返事に心底ホッとした顔をする。
そんな彼に微笑みかけながら、僕もスマホのスリープを解除し――、
「……あれ?」
明るくなったスマホの画面に、『新着メッセージが2通あります』というLANEの通知が表示されたのを見て、思わず首を傾げた。
「いつの間に?」
「ん? どうした?」
「あ、いや……」
僕は、訝しげに尋ねてきた宙に、自分のスマホの画面を見せる。
「LANEに新着メッセージが来てたみたいなんだけど、全然気づかなかったなぁ……って」
「まあ、知らないうちに届いてることって結構あるよな」
宙は、僕の言葉を聞いて苦笑いを浮かべながら頷いた。
「オレも、ちょいちょい親から届いたメッセージに気づかないまま溜めちゃって、あとで『無視すんな!』ってキレられたりすることがあるよ。無視してるんじゃなくて、単純に気づいてねーだけだっつーのな」
「あはは。でも、それは望月くんが悪いと思うよ」
おどけ混じりに頬を膨らませる宙の顔が面白くて、必死で笑いをこらえながら、僕はLANEのアイコンを指でタッチする。
「また母さんからかな? さっき、『今から帰る』って返信したんだけど……」
そんなことを呟いている間に、スマホの液晶画面にLANEのトークリストが表示された。その一番上と二番目に、新着メッセージが届いたことを表す緑の通知バッジが点いている。
そのうちのひとつは、予想通り母さんのアカウントだ。
そして、通知バッジの点いているもうひとつのアカウントの名前を見た瞬間、僕は思わず目を疑う。
「…………えっ?」
「……どうした?」
思わず僕が漏らした上ずった声を聞いて、宙が怪訝そうに尋ねた。
彼の声でハッと我に返った僕は、半ば呆然としながら、手元のスマホを指さす。
「これ……」
「これ? そのアカウントが何だって……」
不思議そうに訊き返した宙の声が、途中で途切れた。
そのまま、目を大きく見開いて、僕が指さしたアカウントを凝視する。
「……ウソだろ?」
十秒ほど経ってからようやく彼が漏らした掠れ声は、僕の心の中に湧き上がった思いと全く同じだった。
「こ、これ……この“Hokuto”って……ホクトのアカウントだよな?」
「……う、うん」
驚きを隠しきれない宙がしぼり出した声に、僕はぎこちなく頷く。
「ま……間違いないよ。この星空のアイコン……中学生の頃から変わってない。これは……北斗のアカウントだ」
「で……でも!」
僕の言葉に激しくうろたえながら、宙は“Hokuto”のアイコンの横に付いた緑色のバッジを指さした。
「お、おかしいだろ? なんで……なんでホクトのアイコンに新着バッジが付いてるんだよ? だって、ホクトは……」
彼の言う通りだ。
北斗が、LANEのメッセージを送れるはずはないんだ。だって……あいつはもう、違うところに行ってしまったんだから……。
でも――現に今、“Hokuto”のアカウントから僕宛てにメッセージが送られてきている。
これは……一体なんで――?
「昔の未読メッセージが残ってた……なんてことは無いよな?」
「……それは無いよ」
宙の問いかけに、僕は呆然としながら首を横に振った。
「未読メッセージが残ってたのなら、こんな風に新着バッジが付いてトークリストの一番上に表示されるんだから、絶対に気づくよ。……でも、さっき青井さんの喫茶店で母さんのメッセージを見た時には、“Hokuto”のメッセージはリストの下の方にあったまんまだった」
「……つまり、スバルが『シリウス』でLANEを見てから今までの間に届いたってことか。このメッセージ……」
僕と宙は、青ざめた顔を見合わせる。
「……LANEのバグ、かな?」
僕は、一番現実的な可能性を口にした。普通なら到底あり得ないことだけど、そうとでも考えなければ説明がつかない。
「そうかもな……」
宙も、僕の推測に同意を示し、バツが悪そうに頭を掻いた。
「いや……オレはてっきり、ホクトは何か未練があって、あの世からLANEのメッセージを送ったのかなって」
「それなら、何で僕なんかに送るんだよ。望月くんとか、青井さんならまだしも」
自嘲混じりに答えた僕は、宙の推測を『あり得ない』と一笑に付そうとしたが……できなかった。
頭の片隅で、『ひょっとしたら……』と考えてしまったからだ。
『――そうだったらいいな』……とも。
「……」
「……」
僕たちは、無言でスマホの画面を見つめた。
――心なしか、肌に感じる初春の夜の空気が一段と冷たく感じる。
そして――、
「……開けてみる?」
「……そうだな」
微かに震える声で問いかけた僕に、宙も頷いた。
「このままここで考えててもしょうがないしな。バグなのか、それとも……本当にホクトが送ってきたのか……確かめないと」
「……そうだね」
宙の意見に同意した僕は、スマホを持つ手の親指を“Hokuto”のアイコンに近づける。
そして、指が画面に触れるギリギリのところで止め、もう一度念押しした。
「じゃあ……押すよ?」
「あ、ああ……頼む」
宙の返事を聞いた僕は、深く息を吸い込んで気持ちを落ち着けながら、恐る恐る画面をタッチする。
一瞬で画面が切り替わり、“Hokuto”とのトーク画面が表示された。
「「……っ!」」
開いたトーク画面の一番下を見た瞬間、僕と宙は絶句する。
そこには、確かについ数分前に“Hokuto”からの新しいメッセージが書き加えられていた。
『俺が死んだのは事故じゃない。誰かに殺されたんだ。お願いだ昴、犯人を見つけだしてほしい』
――と。
「……オレは電車だけど、スバルは?」
「あ、うん」
宙の問いかけに、僕は駅の反対側を指さす。
「僕は歩いて帰れるよ。ここから二十分くらいだから」
「……そっか」
僕の答えを聞いた宙は、少し残念そうな、そして何か言いたげな表情で微笑んだ。
「じゃ……ここでお別れだな」
「そう……だね」
宙の寂しそうな視線に、僕も同じ気持ちを覚えながら小さく頷く。
――と、
「あ……あのさ、スバル」
少し上ずった声で僕を呼んだ宙は、おもむろにズボンのポケットからスマホを取り出した。
そして、画面のスリープを解除しながら、おずおずと言葉を継ぐ。
「もしよかったらさ……オレとLANEの友だち登録してくれないかな?」
「え……?」
宙の提案に、僕は驚いて目を丸くした。
そんな僕に、宙は少し照れくさそうに言う。
「いや……今日スバルと知り合えて、こんな時間までホクトの思い出とか色んなことを話し合えてさ……楽しかったんだよ、マジで」
「あ……うん。僕もだよ」
宙の言葉に、僕は胸の奥がカッと熱くなるのを感じながら、コクンと頷いた。
僕の返事を聞いた宙は、嬉しそうな笑みを浮かべながら、「だからさ――」と言葉を継ぐ。
「これからも連絡を取れるように、LANEを……あ、いや、ていうか――」
宙は、そこで一瞬言葉を切って考えるそぶりを見せ、それから意を決した様子で僕に言った。
「その……LANEのアカウントだけじゃなくって……オレとマジの友だちになってほしいんだ」
「……!」
「あ……も、もちろん、スバルがイヤだって言うなら強制はしない。でも……できれば――」
「……ぷっ」
僕は、なぜかアタフタしている宙の様子がおかしくなって、思わず吹き出す。
それを見た宙が、恨めしげな目で僕の顔を睨んだ。
「なんだよ。笑うことないじゃんかよ」
「あ、いや……ゴメン」
宙の文句に、僕は慌てて謝る。
そして、自分も上着からスマホを取り出しながら、大きく頷いた。
「イヤだなんて言わないよ。もちろんオッケーだよ」
「そ、そっか……」
宙は、僕の返事に心底ホッとした顔をする。
そんな彼に微笑みかけながら、僕もスマホのスリープを解除し――、
「……あれ?」
明るくなったスマホの画面に、『新着メッセージが2通あります』というLANEの通知が表示されたのを見て、思わず首を傾げた。
「いつの間に?」
「ん? どうした?」
「あ、いや……」
僕は、訝しげに尋ねてきた宙に、自分のスマホの画面を見せる。
「LANEに新着メッセージが来てたみたいなんだけど、全然気づかなかったなぁ……って」
「まあ、知らないうちに届いてることって結構あるよな」
宙は、僕の言葉を聞いて苦笑いを浮かべながら頷いた。
「オレも、ちょいちょい親から届いたメッセージに気づかないまま溜めちゃって、あとで『無視すんな!』ってキレられたりすることがあるよ。無視してるんじゃなくて、単純に気づいてねーだけだっつーのな」
「あはは。でも、それは望月くんが悪いと思うよ」
おどけ混じりに頬を膨らませる宙の顔が面白くて、必死で笑いをこらえながら、僕はLANEのアイコンを指でタッチする。
「また母さんからかな? さっき、『今から帰る』って返信したんだけど……」
そんなことを呟いている間に、スマホの液晶画面にLANEのトークリストが表示された。その一番上と二番目に、新着メッセージが届いたことを表す緑の通知バッジが点いている。
そのうちのひとつは、予想通り母さんのアカウントだ。
そして、通知バッジの点いているもうひとつのアカウントの名前を見た瞬間、僕は思わず目を疑う。
「…………えっ?」
「……どうした?」
思わず僕が漏らした上ずった声を聞いて、宙が怪訝そうに尋ねた。
彼の声でハッと我に返った僕は、半ば呆然としながら、手元のスマホを指さす。
「これ……」
「これ? そのアカウントが何だって……」
不思議そうに訊き返した宙の声が、途中で途切れた。
そのまま、目を大きく見開いて、僕が指さしたアカウントを凝視する。
「……ウソだろ?」
十秒ほど経ってからようやく彼が漏らした掠れ声は、僕の心の中に湧き上がった思いと全く同じだった。
「こ、これ……この“Hokuto”って……ホクトのアカウントだよな?」
「……う、うん」
驚きを隠しきれない宙がしぼり出した声に、僕はぎこちなく頷く。
「ま……間違いないよ。この星空のアイコン……中学生の頃から変わってない。これは……北斗のアカウントだ」
「で……でも!」
僕の言葉に激しくうろたえながら、宙は“Hokuto”のアイコンの横に付いた緑色のバッジを指さした。
「お、おかしいだろ? なんで……なんでホクトのアイコンに新着バッジが付いてるんだよ? だって、ホクトは……」
彼の言う通りだ。
北斗が、LANEのメッセージを送れるはずはないんだ。だって……あいつはもう、違うところに行ってしまったんだから……。
でも――現に今、“Hokuto”のアカウントから僕宛てにメッセージが送られてきている。
これは……一体なんで――?
「昔の未読メッセージが残ってた……なんてことは無いよな?」
「……それは無いよ」
宙の問いかけに、僕は呆然としながら首を横に振った。
「未読メッセージが残ってたのなら、こんな風に新着バッジが付いてトークリストの一番上に表示されるんだから、絶対に気づくよ。……でも、さっき青井さんの喫茶店で母さんのメッセージを見た時には、“Hokuto”のメッセージはリストの下の方にあったまんまだった」
「……つまり、スバルが『シリウス』でLANEを見てから今までの間に届いたってことか。このメッセージ……」
僕と宙は、青ざめた顔を見合わせる。
「……LANEのバグ、かな?」
僕は、一番現実的な可能性を口にした。普通なら到底あり得ないことだけど、そうとでも考えなければ説明がつかない。
「そうかもな……」
宙も、僕の推測に同意を示し、バツが悪そうに頭を掻いた。
「いや……オレはてっきり、ホクトは何か未練があって、あの世からLANEのメッセージを送ったのかなって」
「それなら、何で僕なんかに送るんだよ。望月くんとか、青井さんならまだしも」
自嘲混じりに答えた僕は、宙の推測を『あり得ない』と一笑に付そうとしたが……できなかった。
頭の片隅で、『ひょっとしたら……』と考えてしまったからだ。
『――そうだったらいいな』……とも。
「……」
「……」
僕たちは、無言でスマホの画面を見つめた。
――心なしか、肌に感じる初春の夜の空気が一段と冷たく感じる。
そして――、
「……開けてみる?」
「……そうだな」
微かに震える声で問いかけた僕に、宙も頷いた。
「このままここで考えててもしょうがないしな。バグなのか、それとも……本当にホクトが送ってきたのか……確かめないと」
「……そうだね」
宙の意見に同意した僕は、スマホを持つ手の親指を“Hokuto”のアイコンに近づける。
そして、指が画面に触れるギリギリのところで止め、もう一度念押しした。
「じゃあ……押すよ?」
「あ、ああ……頼む」
宙の返事を聞いた僕は、深く息を吸い込んで気持ちを落ち着けながら、恐る恐る画面をタッチする。
一瞬で画面が切り替わり、“Hokuto”とのトーク画面が表示された。
「「……っ!」」
開いたトーク画面の一番下を見た瞬間、僕と宙は絶句する。
そこには、確かについ数分前に“Hokuto”からの新しいメッセージが書き加えられていた。
『俺が死んだのは事故じゃない。誰かに殺されたんだ。お願いだ昴、犯人を見つけだしてほしい』
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