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第二章
第十三話 待ち合わせ
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――それから一時間後。
「はあ……はあ……」
急いで長い下り坂を駆け下りてきた僕は、肩で息をつきながら、東成作倉駅前のロータリーを見渡した。
「どこかな、望月くん……」
そう呟きながら、僕は目を皿のようにして、昨日会ったばかりの待ち合わせ相手を探す。
……でも、派手な金髪に長身という、目に入ればすぐにそれと分かる彼の姿は見当たらなかった。
「ち……遅刻かな……?」
彼の顔が見れないことに少しガッカリしながら、僕は手首の腕時計で現在時刻を確認する。
――そして、今の時間がまだ『10:46』だと知って、少しビックリした。
宙がまだ来てないはずだ……約束の時間まで、まだ十五分近くあるんだから。
どうやら、僕は自分が思ってたよりもずっと速いスピードで駅まで走ってきていたらしい。そりゃ、こんなに息が切れているのも当然だ。
「ふぅ……」
疲労と酸素不足で、思わずその場でへたり込みそうになりながら、僕は近くにあったコンビニの壁にもたれかかった。
ひんやりと冷たいコンビニの壁に背中を預けながら、荒れた呼吸を整える。
数分後、ようやく少し呼吸が落ち着いた僕は、着ていたハーフコートのポケットからスマホを取り出し、LANEアプリを起動した。
「……まだ、着いてないみたいだな」
僕は、『じゃあ、十一時に東成作倉駅のロータリーで』という“そら”――宙からのメッセージに自分が返した『OK!』と書かれたプラカードを掲げる猫のスタンプでトーク履歴が止まっているのを見て、ぽつりと呟く。
宙から新しいメッセージが届いてないということは、今こちらに向かっている最中なのだろう。そのことにホッとしつつも……なぜかちょっとだけ気落ちした。
「……とりあえず、僕が着いたって知らせておこう」
そう思い立った僕は、気を取り直して、液晶画面のトークウィンドウを押した。
そして、ウィンドウの中でチカチカしているカーソルをぼんやりと見ながら、なんと入力しようかと思案する。
「うーん……『着いたよ』だけだと素っ気ないかな? 『コンビニの前で待ってる』とかも付け加えた方が……あ、東口って書かないと分からないかな……」
そんなことを呟きながら、メッセージを書いたり消したりしていると――遠くからお腹の底に響く重低音が聞こえてきた。
気になって音の方向に視線を向けると、一台の大型バイクが、駅前の交差点を曲がってこっちに向かってくるのが見える。
でも、僕はさほど気にも留めずに、再びスマホの画面へと目を戻し、宙に送るメッセージの文面を考えようとしたが――、
「……え?」
さっきは微かに聞こえる程度だったバイクのエンジン音がどんどん大きくなってくるのに気づいて、思わず顔を上げる。
そして、さっき見かけた大型バイクが自分の目の前に停まっていることに気づいて、とても驚いた。
……と、
バイクに跨っていた黒いライダースジャケットを着た人が、フルフェイスのヘルメットを被ったまま、まるで挨拶をするように片手を挙げる。
「え? な、なに?」
慌てて周囲を見回すが、僕の他には誰もいない。
――すると、ライダーが唐突に声を上げた。
「なにキョロキョロしてんだよ、スバル?」
「えっ?」
いきなり自分の名前を呼ばれて、更に混乱する僕。
それを見たライダーが、呆れたように首を傾げる。
「なんだよ、ひょっとして気づいてないのか?」
彼はそう言いながら、被っていたヘルメットを脱いだ。
フルフェイスヘルメットの下から現れたのは、明るい金髪と――見覚えのある爽やかな笑顔だった。
「も、望月くんっ?」
「おはよ……と言うには遅すぎるかな?」
驚く僕に、宙は冗談めかして言った。
そして、絵になるしぐさで髪をかき上げながら首を傾げる。
「っていうか、ひょっとしてオレ、遅刻した? 結構早めに家出たつもりなんだけどな……」
「あ、いやいや、違うよ」
不思議そうに言う彼に、僕は慌ててかぶりを振った。
「逆だよ、逆。望月くんは遅刻してないよ。僕が早く来過ぎただけ」
「あぁ、そういうことか」
宙は、僕の説明に納得した様子で頷く。
と、僕は彼が跨るシャープな形状の大型バイクに目を向けた。
「望月くん、バイク持ってたんだ。しかも、こんなに大きくて速そうな……」
「あれ? 昨日言ってなかったっけ?」
僕の問いかけに、宙は頭を掻く。
「大学入ってから速攻で免許取って買ったんだ。親に頼み込んで金を貸してもらってさ」
「そうだったんだ……」
彼の答えに納得しかけた僕だったが、ふとある疑問が浮かんで首を傾げた。
「あれ? でも、昨日は普通にバスで来たって言ってたよね? なんでそのバイクで来なかったの?」
「いや、行けないだろ、普通」
僕の問いに、宙は苦笑しながら跨っているバイクの燃料タンクを撫でる。
「葬儀会場に、こんなうるさくて派手なバイクで乗り付ける訳にはいかないだろ。しかも、喪服姿でさ」
そう答えながら背中にしょっていたデイバッグを下ろした彼は、中から自分が被っていたものと同じ形をしたフルフェイスヘルメットを取り出し、僕に向けて差し出した。
「こんなところで立ち話しててもアレだから、移動しようぜ。ゆっくり話ができるところにさ」
「あ、うん。……て、え?」
思わず反射的にヘルメットを受け取った僕だったが、一瞬遅れて宙の意図を悟って、目を丸くする。
「……ひょっとして、このバイクで?」
「当たり前だろ?」
僕の問いかけにあっさり頷いた彼は、自分の後ろのシートを指し示した。
「乗れよ。とっておきのところに連れて行ってやるからさ」
「はあ……はあ……」
急いで長い下り坂を駆け下りてきた僕は、肩で息をつきながら、東成作倉駅前のロータリーを見渡した。
「どこかな、望月くん……」
そう呟きながら、僕は目を皿のようにして、昨日会ったばかりの待ち合わせ相手を探す。
……でも、派手な金髪に長身という、目に入ればすぐにそれと分かる彼の姿は見当たらなかった。
「ち……遅刻かな……?」
彼の顔が見れないことに少しガッカリしながら、僕は手首の腕時計で現在時刻を確認する。
――そして、今の時間がまだ『10:46』だと知って、少しビックリした。
宙がまだ来てないはずだ……約束の時間まで、まだ十五分近くあるんだから。
どうやら、僕は自分が思ってたよりもずっと速いスピードで駅まで走ってきていたらしい。そりゃ、こんなに息が切れているのも当然だ。
「ふぅ……」
疲労と酸素不足で、思わずその場でへたり込みそうになりながら、僕は近くにあったコンビニの壁にもたれかかった。
ひんやりと冷たいコンビニの壁に背中を預けながら、荒れた呼吸を整える。
数分後、ようやく少し呼吸が落ち着いた僕は、着ていたハーフコートのポケットからスマホを取り出し、LANEアプリを起動した。
「……まだ、着いてないみたいだな」
僕は、『じゃあ、十一時に東成作倉駅のロータリーで』という“そら”――宙からのメッセージに自分が返した『OK!』と書かれたプラカードを掲げる猫のスタンプでトーク履歴が止まっているのを見て、ぽつりと呟く。
宙から新しいメッセージが届いてないということは、今こちらに向かっている最中なのだろう。そのことにホッとしつつも……なぜかちょっとだけ気落ちした。
「……とりあえず、僕が着いたって知らせておこう」
そう思い立った僕は、気を取り直して、液晶画面のトークウィンドウを押した。
そして、ウィンドウの中でチカチカしているカーソルをぼんやりと見ながら、なんと入力しようかと思案する。
「うーん……『着いたよ』だけだと素っ気ないかな? 『コンビニの前で待ってる』とかも付け加えた方が……あ、東口って書かないと分からないかな……」
そんなことを呟きながら、メッセージを書いたり消したりしていると――遠くからお腹の底に響く重低音が聞こえてきた。
気になって音の方向に視線を向けると、一台の大型バイクが、駅前の交差点を曲がってこっちに向かってくるのが見える。
でも、僕はさほど気にも留めずに、再びスマホの画面へと目を戻し、宙に送るメッセージの文面を考えようとしたが――、
「……え?」
さっきは微かに聞こえる程度だったバイクのエンジン音がどんどん大きくなってくるのに気づいて、思わず顔を上げる。
そして、さっき見かけた大型バイクが自分の目の前に停まっていることに気づいて、とても驚いた。
……と、
バイクに跨っていた黒いライダースジャケットを着た人が、フルフェイスのヘルメットを被ったまま、まるで挨拶をするように片手を挙げる。
「え? な、なに?」
慌てて周囲を見回すが、僕の他には誰もいない。
――すると、ライダーが唐突に声を上げた。
「なにキョロキョロしてんだよ、スバル?」
「えっ?」
いきなり自分の名前を呼ばれて、更に混乱する僕。
それを見たライダーが、呆れたように首を傾げる。
「なんだよ、ひょっとして気づいてないのか?」
彼はそう言いながら、被っていたヘルメットを脱いだ。
フルフェイスヘルメットの下から現れたのは、明るい金髪と――見覚えのある爽やかな笑顔だった。
「も、望月くんっ?」
「おはよ……と言うには遅すぎるかな?」
驚く僕に、宙は冗談めかして言った。
そして、絵になるしぐさで髪をかき上げながら首を傾げる。
「っていうか、ひょっとしてオレ、遅刻した? 結構早めに家出たつもりなんだけどな……」
「あ、いやいや、違うよ」
不思議そうに言う彼に、僕は慌ててかぶりを振った。
「逆だよ、逆。望月くんは遅刻してないよ。僕が早く来過ぎただけ」
「あぁ、そういうことか」
宙は、僕の説明に納得した様子で頷く。
と、僕は彼が跨るシャープな形状の大型バイクに目を向けた。
「望月くん、バイク持ってたんだ。しかも、こんなに大きくて速そうな……」
「あれ? 昨日言ってなかったっけ?」
僕の問いかけに、宙は頭を掻く。
「大学入ってから速攻で免許取って買ったんだ。親に頼み込んで金を貸してもらってさ」
「そうだったんだ……」
彼の答えに納得しかけた僕だったが、ふとある疑問が浮かんで首を傾げた。
「あれ? でも、昨日は普通にバスで来たって言ってたよね? なんでそのバイクで来なかったの?」
「いや、行けないだろ、普通」
僕の問いに、宙は苦笑しながら跨っているバイクの燃料タンクを撫でる。
「葬儀会場に、こんなうるさくて派手なバイクで乗り付ける訳にはいかないだろ。しかも、喪服姿でさ」
そう答えながら背中にしょっていたデイバッグを下ろした彼は、中から自分が被っていたものと同じ形をしたフルフェイスヘルメットを取り出し、僕に向けて差し出した。
「こんなところで立ち話しててもアレだから、移動しようぜ。ゆっくり話ができるところにさ」
「あ、うん。……て、え?」
思わず反射的にヘルメットを受け取った僕だったが、一瞬遅れて宙の意図を悟って、目を丸くする。
「……ひょっとして、このバイクで?」
「当たり前だろ?」
僕の問いかけにあっさり頷いた彼は、自分の後ろのシートを指し示した。
「乗れよ。とっておきのところに連れて行ってやるからさ」
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