341 / 345
第二十五章
第二十五章其の陸 指令
しおりを挟む
「――そんな事より」
と、拳を構えたままのテラは、気を取り直すようにゾディアックとトリックに尋ねた。
「お前たちが、ここに来た狙いは……やはり、俺たちの首か?」
「まあな」
テラの問いかけに、ゾディアックは小さく頷く。
予想通りの答えを聞いて、テラは覆面の下で顔を引き締め、構える拳を更に強く握った。
だが――、
「――それもある」
「……っ?」
ゾディアックが続けて口にした言葉を聞いて、僅かに戸惑う。
「それ“も”? ……他にも目的があるのか?」
「そういう事だ」
テラの更なる質問に、今度はトリックが頷いた。
困惑するテラの様子に面白がるような視線を向けたトリックは、手に持った“トリッキーステッキ”で肩を軽く叩きながら言葉を続ける。
「今回、こんな所まで出向いてきた俺たちは、ボスからいくつかミッションが与えられていてな。その内のひとつの目的を達成できれば、他のミッションは放棄して帰ってきて構わないと言われている。そのクリア条件のひとつが、『装甲戦士テラとルナの抹殺』だ」
そう言ったトリックは、トリッキーステッキを器用に持ち換え、「ちなみに――」と続けながら、その先端をフラニィへと向けた。
「そこの白猫のお姫様を俺たちの村に連れ帰るというのも、クリア条件のひとつだ」
「……ッ!」
トリックの言葉を聞いて、思わず身を強張らせるフラニィ。
そんな彼女の反応を見てせせら笑いながら、ゾディアックがテラに呼びかける。
「くくく……テラよ。もし、お前がその白猫の身柄をワシらに引き渡してくれるのなら、キサマらは見逃してやってもいいぞ」
「……ッ! そんな――」
「そんな条件、飲むはずないでしょう!」
テラの返事を先取りするように声を荒げたのは、天音だった。
その顔に激しい怒気を滲ませる彼女に目を向けたトリックは、わざとらしく肩を竦めてみせる。
「おやおや、これは天音ちゃん。ちょっと見ない間に、随分と絆されちまったようだな。ひょっとして、化け猫どもに化かされてるのかい?」
「化け猫なんて言うのはやめてっ!」
からかい混じりのトリックの言葉に、天音は更に激昂した。
「フラニィ王女は……猫獣人族のみんなは、あたしたち人間とほとんど変わりがありません! みんな、あたしたちと同じように感情を持ってて、怒ったり泣いたり……笑ったりするんです!」
「笑う猫なんて、正に化け猫じゃねえか」
呆れと嫌悪が混じった声で言い捨てたゾディアックは、手にした大弓を天音に向けながら、「なら――」と続ける。
「ワシらは別に、もうひとつのクリア条件の達成でも構わんぞ。……『敵方へ寝返った秋原天音の奪還、もしくは殺害』という、な」
「えっ……?」
予想外の言葉に、思わず天音は上ずった声を漏らした。
「ど、どういう意味? あたしを……殺害?」
「どういうも何も、そのままの意味だが?」
かつての仲間から物騒な言葉をかけられて狼狽する天音に対し、一度は無情に言い放ったゾディアックだが、すぐに「まあ……」と少し語調を和らげる。
「そうビビる事は無いぞ。『奪還、もしくは殺害』と言っただろう? お前がおとなしくワシらと一緒に村へ戻るというのなら、殺すどころか痛い目に合わせる事もせんし……」
そう言いながら、彼はテラたちに視線を向けた。
「お前たちと化け猫どもも見逃してやる」
「なに……?」
「俺たちがウチのボスから命じられたのは、さっき挙げた三つのクリア条件のどれかを達成する事だからな。天音ちゃんを取り戻せるなら、俺たちにこれ以上戦う理由は無くなる」
胡乱げなテラの反応を見たトリックが、ゾディアックの言葉を補足するように口を挟み、天音に向かって手招きする。
「そういう訳で……天音ちゃん、一緒に帰ろう。自分と同じオチビトの……仲間の元へ」
「そうすれば、無駄な犠牲を出さなくて済むぞ。悪い条件では無いと思うがな」
「……っ」
トリックとゾディアックの説得を受けた天音は、僅かに躊躇を見せた。
先ほどの爆発を食らってから、トリックに足蹴にされたままピクリとも動かないルナの体をチラリと見て、それから自分を庇うように立っているテラの背中へと視線を移した天音は――何かを決意した表情を浮かべ、答えを告げる為に息を――。
「――お前があいつらの要求に従う必要は無いぞ、アマネ」
「……っ!」
唐突に上がったテラの言葉に、天音はハッと息を呑んだ。
そんな彼女に背を向けたまま、テラは言葉を継ぐ。
「大丈夫だ。この場は俺が何とかする。……お前は、どこへも行かせない」
「テ……しょうちゃん……」
テラの力強い言葉に、天音は仄かに頬を染めながら、小さく頷いた。
一方、誘いを断られた形のゾディアックとトリックは、呆れと失望が入り混じった溜息を吐く。
「やれやれ……あの野郎が言ってた通りになっちまったな」
「天音ちゃんが俺たちの言葉に従ってくれれば、余計な血を見なくても済んだのになぁ」
そう嘆いたトリックは、手にしていたトリッキーステッキを右手でくるくると回しながら、左手の指をパチンと鳴らした。
次の瞬間、彼が手にしていたトリッキーステッキは細長い刀身の“トリッキーレイピア”へと変わる。
「……まあ、いい」
そう続けたトリックは、トリッキーレイピアの鋭い切っ先を、足蹴にしているルナの首に擬した。
「だったら……一番手っ取り早く達成できそうなクリア条件の半分を満たさせてもらう事にするさ。そう……こいつを串刺しにし――」
「……甘いよっ!」
トリックの言葉は、彼の足元から上がった叫びによって遮られる。
それと同時に、金属同士が激しくぶつかる甲高い音が上がり、ルナを踏みつけるトリックの脚に白銀の鈎爪が食い込んだ。
「っ? お前、いつから起きて――」
「食らえっ!」
声を上ずらせるトリックにそう叫んだルナは、
「サンダーランブリング・クローッ!」
自分が出せるありったけの電撃を、レイピアに食い込ませた鈎爪から放出したのだった――!
と、拳を構えたままのテラは、気を取り直すようにゾディアックとトリックに尋ねた。
「お前たちが、ここに来た狙いは……やはり、俺たちの首か?」
「まあな」
テラの問いかけに、ゾディアックは小さく頷く。
予想通りの答えを聞いて、テラは覆面の下で顔を引き締め、構える拳を更に強く握った。
だが――、
「――それもある」
「……っ?」
ゾディアックが続けて口にした言葉を聞いて、僅かに戸惑う。
「それ“も”? ……他にも目的があるのか?」
「そういう事だ」
テラの更なる質問に、今度はトリックが頷いた。
困惑するテラの様子に面白がるような視線を向けたトリックは、手に持った“トリッキーステッキ”で肩を軽く叩きながら言葉を続ける。
「今回、こんな所まで出向いてきた俺たちは、ボスからいくつかミッションが与えられていてな。その内のひとつの目的を達成できれば、他のミッションは放棄して帰ってきて構わないと言われている。そのクリア条件のひとつが、『装甲戦士テラとルナの抹殺』だ」
そう言ったトリックは、トリッキーステッキを器用に持ち換え、「ちなみに――」と続けながら、その先端をフラニィへと向けた。
「そこの白猫のお姫様を俺たちの村に連れ帰るというのも、クリア条件のひとつだ」
「……ッ!」
トリックの言葉を聞いて、思わず身を強張らせるフラニィ。
そんな彼女の反応を見てせせら笑いながら、ゾディアックがテラに呼びかける。
「くくく……テラよ。もし、お前がその白猫の身柄をワシらに引き渡してくれるのなら、キサマらは見逃してやってもいいぞ」
「……ッ! そんな――」
「そんな条件、飲むはずないでしょう!」
テラの返事を先取りするように声を荒げたのは、天音だった。
その顔に激しい怒気を滲ませる彼女に目を向けたトリックは、わざとらしく肩を竦めてみせる。
「おやおや、これは天音ちゃん。ちょっと見ない間に、随分と絆されちまったようだな。ひょっとして、化け猫どもに化かされてるのかい?」
「化け猫なんて言うのはやめてっ!」
からかい混じりのトリックの言葉に、天音は更に激昂した。
「フラニィ王女は……猫獣人族のみんなは、あたしたち人間とほとんど変わりがありません! みんな、あたしたちと同じように感情を持ってて、怒ったり泣いたり……笑ったりするんです!」
「笑う猫なんて、正に化け猫じゃねえか」
呆れと嫌悪が混じった声で言い捨てたゾディアックは、手にした大弓を天音に向けながら、「なら――」と続ける。
「ワシらは別に、もうひとつのクリア条件の達成でも構わんぞ。……『敵方へ寝返った秋原天音の奪還、もしくは殺害』という、な」
「えっ……?」
予想外の言葉に、思わず天音は上ずった声を漏らした。
「ど、どういう意味? あたしを……殺害?」
「どういうも何も、そのままの意味だが?」
かつての仲間から物騒な言葉をかけられて狼狽する天音に対し、一度は無情に言い放ったゾディアックだが、すぐに「まあ……」と少し語調を和らげる。
「そうビビる事は無いぞ。『奪還、もしくは殺害』と言っただろう? お前がおとなしくワシらと一緒に村へ戻るというのなら、殺すどころか痛い目に合わせる事もせんし……」
そう言いながら、彼はテラたちに視線を向けた。
「お前たちと化け猫どもも見逃してやる」
「なに……?」
「俺たちがウチのボスから命じられたのは、さっき挙げた三つのクリア条件のどれかを達成する事だからな。天音ちゃんを取り戻せるなら、俺たちにこれ以上戦う理由は無くなる」
胡乱げなテラの反応を見たトリックが、ゾディアックの言葉を補足するように口を挟み、天音に向かって手招きする。
「そういう訳で……天音ちゃん、一緒に帰ろう。自分と同じオチビトの……仲間の元へ」
「そうすれば、無駄な犠牲を出さなくて済むぞ。悪い条件では無いと思うがな」
「……っ」
トリックとゾディアックの説得を受けた天音は、僅かに躊躇を見せた。
先ほどの爆発を食らってから、トリックに足蹴にされたままピクリとも動かないルナの体をチラリと見て、それから自分を庇うように立っているテラの背中へと視線を移した天音は――何かを決意した表情を浮かべ、答えを告げる為に息を――。
「――お前があいつらの要求に従う必要は無いぞ、アマネ」
「……っ!」
唐突に上がったテラの言葉に、天音はハッと息を呑んだ。
そんな彼女に背を向けたまま、テラは言葉を継ぐ。
「大丈夫だ。この場は俺が何とかする。……お前は、どこへも行かせない」
「テ……しょうちゃん……」
テラの力強い言葉に、天音は仄かに頬を染めながら、小さく頷いた。
一方、誘いを断られた形のゾディアックとトリックは、呆れと失望が入り混じった溜息を吐く。
「やれやれ……あの野郎が言ってた通りになっちまったな」
「天音ちゃんが俺たちの言葉に従ってくれれば、余計な血を見なくても済んだのになぁ」
そう嘆いたトリックは、手にしていたトリッキーステッキを右手でくるくると回しながら、左手の指をパチンと鳴らした。
次の瞬間、彼が手にしていたトリッキーステッキは細長い刀身の“トリッキーレイピア”へと変わる。
「……まあ、いい」
そう続けたトリックは、トリッキーレイピアの鋭い切っ先を、足蹴にしているルナの首に擬した。
「だったら……一番手っ取り早く達成できそうなクリア条件の半分を満たさせてもらう事にするさ。そう……こいつを串刺しにし――」
「……甘いよっ!」
トリックの言葉は、彼の足元から上がった叫びによって遮られる。
それと同時に、金属同士が激しくぶつかる甲高い音が上がり、ルナを踏みつけるトリックの脚に白銀の鈎爪が食い込んだ。
「っ? お前、いつから起きて――」
「食らえっ!」
声を上ずらせるトリックにそう叫んだルナは、
「サンダーランブリング・クローッ!」
自分が出せるありったけの電撃を、レイピアに食い込ませた鈎爪から放出したのだった――!
0
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる