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第十章 襲い来る魔石の戦士に、如何に立ち向かうのか
第十章其の陸 利己
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「……」
ジュエルの言葉に、テラは顔を俯かせ、沈黙した。
「ふん……」
彼の様子を見たジュエルは、小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「分かったかい、テラ。いかに自分の考えが、楽観的に過ぎて責任感の欠片も無い暴論だったかを」
「……」
「だが、それも致し方無いのかもしれないね。何せ君は、まだこの世界に堕とされてから時間が経っていないのだから。ぬるま湯の様な平和に浸り続けた頃の、甘っちょろい考えが抜けないのも仕方ないよ」
「……」
「君も、日本よりもずっと原始的な環境にある、――いわば、“弱肉強食”が絶対法則であるこの世界に馴染んでいけば、自然とその考えも改まるだろう」
「――納得していたのか?」
「え?」
テラが顔を俯かせたまま、ボツリと呟いたのを聞き咎めたジュエルは、微かに首を傾げた。
「……何か言ったかい、テラ?」
「――健一は」
ジュエルに聞き直されたテラは、ゆっくりと顔を上げながら、ボツボツと言葉を続ける。
「健一は……納得していたのか? 自分が足手纏いになった事を。――だから、自分が……お前に殺される事を納得して、死んでいったのか……?」
「……」
今度は、ジュエルが押し黙る番だった。
やがて彼は、おどけたように肩を竦め、フルフルと首を横に振った。
「……確かに彼は、私に命乞いをしていたよ。まあ、彼は子供だった。君と同じように、この世界と自分が置かれた状況の厳しさが良く分かっていなかったのだろ――」
「命乞いをしていた……という事は、生きようとしていたんだな、健一は」
テラは、ジュエルの言葉を遮って言った。
そして、マウンテンエレファントの仮面のアイユニットを光らせ、ジュエルを睨みつける。
「ならば、健一は納得していなかった……そういう事になる」
「……だから、何だというんだい?」
テラの言葉に、ジュエルは静かに聞き返した。
その声には、先ほどまでとは違い、僅かに苛立ちの響きが含まれている。
「さっきも言ったように、健一くんはあのまま生きていても、何も良い事は無かったんだ。だから、私が――」
「薫は、そうは考えていなかったぞ」
「……!」
ジュエルがキッと睨み返してくるが、テラはそれには構わず言葉を続けた。
「薫は、フラニィから『健一が助けを求めている』と聞いて、迷わず彼を救いに行ったんだ。彼は、健一を助けようとしていた。――本気でな」
「……」
「だから、健一を殺した犯人だと思い込んで、俺の事を本気で憎み、怒り狂っていた。――それと同じくらい、彼を助けられなかった自分自身に対しても憤っていたがな」
「……だから、それが何だと――」
「薫はアンタと違って、健一の事を足手纏いだの不要な存在だのとは、これっぽちも考えていなかったんだ。彼は、年長者として……仲間として、健一を助け、共に生きていこうと考えていたんだ。――なのに!」
そう叫んでジュエルに指を突きつけたテラは、アイユニットをギラギラと光らせながら、更に声を荒げる。
「――それに比べて、アンタは何だ! 『健一本人の為だ』などと、もっともらしい理屈をつけてはいるが、結局アンタは自分のエゴで、足を引っ張る要因となる健一を冷酷に切り捨てただけだ! 当の本人が、生きたいと強く望んでいたにもかかわらず!」
「……」
「情けないじゃないか。他にも可能性があるかもしれないのに、短絡的に決断を下して、ひとつの命を奪うなんて……! それが、年長者――大人の下す判断か?」
「……その考え方が、青いと言っているんだよ、私は――!」
ジュエルは、もはやテラに対する苛立ちを隠さず、荒い口調で言葉を吐き出す。
それに対して、テラも負けじと声を張り上げた。
「ああ、青くて結構だ! ……それでも、何でもかんでもあっさり諦めて、頭のいいフリをして考える事を放棄するアンタのような奴にはなりたくないね!」
「……ッ!」
テラの言葉に、ジュエルは何も言わなかった。
ただ、ゆらりと右手をあげ、手にした凝血細剣の柄を、折れんばかりに握り締める。
そして、その切っ先をテラの胸に擬しながら、抑揚の無い、渇いた声で言った。
「……もういい。これ以上、何万言を重ねても、君と解り合う事は出来そうもない」
「……ほら、まただ。また、あっさりと諦めてる」
テラは、ジュエルに向けて嘲笑を浴びせながら、ゆっくりと重心を下げ、左脚を後方に引いた。
そして、ジュエルの真紅に輝くマスクを睨みつけながら、静かに言った。
「……なあ、ジュエル――いや、牛島さん。確かアンタ、小説家だって言ってたよな?」
「……それが何か?」
「いや……くだらない事さ」
テラは首を傾げ、ジュエルの顔を睨め上げる様にして、ポツリと言った。
「ただ――小説家の割には、随分と想像力が乏しいな……そう思っただけだ」
「……それでいいのかい?」
ジュエルは凝血細剣を持った右手を引き、左手を刀身に添える様に前方に伸ばす。
そして、次の瞬間、極限まで引き絞った弓から放たれた矢の如き勢いで、前方のテラへ向かって跳躍した。
「――君が残す遺言っていうのは!」
ジュエルの言葉に、テラは顔を俯かせ、沈黙した。
「ふん……」
彼の様子を見たジュエルは、小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「分かったかい、テラ。いかに自分の考えが、楽観的に過ぎて責任感の欠片も無い暴論だったかを」
「……」
「だが、それも致し方無いのかもしれないね。何せ君は、まだこの世界に堕とされてから時間が経っていないのだから。ぬるま湯の様な平和に浸り続けた頃の、甘っちょろい考えが抜けないのも仕方ないよ」
「……」
「君も、日本よりもずっと原始的な環境にある、――いわば、“弱肉強食”が絶対法則であるこの世界に馴染んでいけば、自然とその考えも改まるだろう」
「――納得していたのか?」
「え?」
テラが顔を俯かせたまま、ボツリと呟いたのを聞き咎めたジュエルは、微かに首を傾げた。
「……何か言ったかい、テラ?」
「――健一は」
ジュエルに聞き直されたテラは、ゆっくりと顔を上げながら、ボツボツと言葉を続ける。
「健一は……納得していたのか? 自分が足手纏いになった事を。――だから、自分が……お前に殺される事を納得して、死んでいったのか……?」
「……」
今度は、ジュエルが押し黙る番だった。
やがて彼は、おどけたように肩を竦め、フルフルと首を横に振った。
「……確かに彼は、私に命乞いをしていたよ。まあ、彼は子供だった。君と同じように、この世界と自分が置かれた状況の厳しさが良く分かっていなかったのだろ――」
「命乞いをしていた……という事は、生きようとしていたんだな、健一は」
テラは、ジュエルの言葉を遮って言った。
そして、マウンテンエレファントの仮面のアイユニットを光らせ、ジュエルを睨みつける。
「ならば、健一は納得していなかった……そういう事になる」
「……だから、何だというんだい?」
テラの言葉に、ジュエルは静かに聞き返した。
その声には、先ほどまでとは違い、僅かに苛立ちの響きが含まれている。
「さっきも言ったように、健一くんはあのまま生きていても、何も良い事は無かったんだ。だから、私が――」
「薫は、そうは考えていなかったぞ」
「……!」
ジュエルがキッと睨み返してくるが、テラはそれには構わず言葉を続けた。
「薫は、フラニィから『健一が助けを求めている』と聞いて、迷わず彼を救いに行ったんだ。彼は、健一を助けようとしていた。――本気でな」
「……」
「だから、健一を殺した犯人だと思い込んで、俺の事を本気で憎み、怒り狂っていた。――それと同じくらい、彼を助けられなかった自分自身に対しても憤っていたがな」
「……だから、それが何だと――」
「薫はアンタと違って、健一の事を足手纏いだの不要な存在だのとは、これっぽちも考えていなかったんだ。彼は、年長者として……仲間として、健一を助け、共に生きていこうと考えていたんだ。――なのに!」
そう叫んでジュエルに指を突きつけたテラは、アイユニットをギラギラと光らせながら、更に声を荒げる。
「――それに比べて、アンタは何だ! 『健一本人の為だ』などと、もっともらしい理屈をつけてはいるが、結局アンタは自分のエゴで、足を引っ張る要因となる健一を冷酷に切り捨てただけだ! 当の本人が、生きたいと強く望んでいたにもかかわらず!」
「……」
「情けないじゃないか。他にも可能性があるかもしれないのに、短絡的に決断を下して、ひとつの命を奪うなんて……! それが、年長者――大人の下す判断か?」
「……その考え方が、青いと言っているんだよ、私は――!」
ジュエルは、もはやテラに対する苛立ちを隠さず、荒い口調で言葉を吐き出す。
それに対して、テラも負けじと声を張り上げた。
「ああ、青くて結構だ! ……それでも、何でもかんでもあっさり諦めて、頭のいいフリをして考える事を放棄するアンタのような奴にはなりたくないね!」
「……ッ!」
テラの言葉に、ジュエルは何も言わなかった。
ただ、ゆらりと右手をあげ、手にした凝血細剣の柄を、折れんばかりに握り締める。
そして、その切っ先をテラの胸に擬しながら、抑揚の無い、渇いた声で言った。
「……もういい。これ以上、何万言を重ねても、君と解り合う事は出来そうもない」
「……ほら、まただ。また、あっさりと諦めてる」
テラは、ジュエルに向けて嘲笑を浴びせながら、ゆっくりと重心を下げ、左脚を後方に引いた。
そして、ジュエルの真紅に輝くマスクを睨みつけながら、静かに言った。
「……なあ、ジュエル――いや、牛島さん。確かアンタ、小説家だって言ってたよな?」
「……それが何か?」
「いや……くだらない事さ」
テラは首を傾げ、ジュエルの顔を睨め上げる様にして、ポツリと言った。
「ただ――小説家の割には、随分と想像力が乏しいな……そう思っただけだ」
「……それでいいのかい?」
ジュエルは凝血細剣を持った右手を引き、左手を刀身に添える様に前方に伸ばす。
そして、次の瞬間、極限まで引き絞った弓から放たれた矢の如き勢いで、前方のテラへ向かって跳躍した。
「――君が残す遺言っていうのは!」
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