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第十七章 忍の操る陰に、何を以て対するのか
第十七章其の拾 意地
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「な――ッ!」
装甲戦士テラ・タイプ・ボルケーノフェニックスの全身から放たれた強烈な光によって、自分が創り出した“陰塗”の真闇の領域が崩壊した様を目の当たりにしたニンジャは、慄然とした。
彼は、呆然として空を見上げる。
先ほどまでとは打って変わって、彼の頭上の空には凄まじい数の星が煌めき、闇に慣れたニンジャの目には眩しい程だった。
「……やれやれ」
ニンジャはそう呟くと、おどけた仕草で肩を竦める。
「参ったね、こりゃ。ニンジャの最終フォームのひとつである陰遁形態の忍技が、真正面からブチ破られる事になるなんてな」
「……」
「せっかくのニンジャの最終フォームが、すっかり形無しじゃないかよ。その装甲フォーム……不規則なフォームより、不法のフォームって呼んだ方がいいんじゃないのか? くくく……」
そう言うと、ニンジャは自嘲的な笑い声を漏らした。
ニンジャの見せる奇妙な反応に、テラは訝しげに首を傾げる。
「……何が可笑しい? 今のお前に、もう勝ち目は無いぞ」
「くく……まあ、そうなんだけどさ」
テラの言葉に頷いてみせたニンジャは、どこか愉しそうとも感じられるような声色で答えた。
「いや、ちょっと嬉しくてさ」
「嬉しい……?」
ニンジャの返答に、ますます困惑するテラ。
そんな彼にもお構いなしといった様子で、ニンジャは大きく頷きながら言葉を継ぐ。
「だってそうだろ? 最終フォームといえば、装甲戦士にとって無敵の装甲のはずだ。己は今まで、最終フォームに対抗する為には、自分も最終フォームで対するしかないと思い込んでいたけど――」
そう言って、彼はテラの灼熱の炎に包まれた装甲を指さした。
「今のアンタのその姿と戦いぶりが、『それ以外の方法もある』と、己に示してくれた。それが嬉しいんだよ」
「……どういう意味――」
そう言いかけたテラだったが、唐突にニンジャの言葉の裏に隠された本音を悟り、息を呑む。
「――お前、まさか……!」
「おっと。これ以上はお口チャックだ。己も、アンタもな」
そう言って口を塞ぐ仕草をすると、ニンジャは手にしていた忍一文字の柄を強く握りしめた。
「――さて、そろそろ決着といこうか。アンタの理性も限界に近いんだろう?」
「……決着を、付ける必要があるのか?」
戦闘態勢に入ろうとするニンジャを前に、テラは躊躇いがちに言う。
「お前も言っていたじゃないか。このイレギュラーフォームは、最終フォームを凌ぐ力がある。今から俺とお前が戦り合っても、結末は……」
「……ま、そうなるかもな。でも、そうならないかもしれない。――ああ、皆まで言うな、解ってる」
ニンジャはそう言うと、掌を上げて、何か言いたげなテラを制した。
「……『ニンジャなら忍者らしく、即座に退く方が“らしい”んじゃないか』って言いたいんだろ? ――もちろん解ってるさ、その方がいいし、そうすべきだって事は」
「――そうですよ!」
ニンジャの言葉を途中で遮ったのは、離れた場所でふたりの戦いを見守っていたハーモニーだった。
「アナタ、いつも言ってたじゃないですか、『忍者は、無意味な事はしない主義だ』って! 聡おじさんたちが逃げる時間は充分に稼げましたから、これ以上、テラたちと戦う意味はありません! ――だから、もう退いて下さい!」
「くく……確かに、そうだよな」
ハーモニーの声に、思わず含み笑いを漏らしながら――
「……でも、それは出来ない。――いや、したくない」
ニンジャは、キッパリと首を横に振った。
そして、無言のまま、目の前に立つテラ・タイプ・ボルケーノフェニックスの姿を睨み据えながら、静かな口調で言葉を継ぐ。
「いや、本当に不合理で、まったく己らしくねえなとは思うんだけどさ。何だか、力の差とか打算とかは抜きにして、純粋に自分の全力をぶつけてやりたくなったんだ、コイツに」
「――ニンジャ……」
「何つーのかな……」
ニンジャは、困ったような素振りを見せながら、適切な言葉を探すように首を傾げる。
そして、納得のいく言葉を見つけた様子で、小さく頷き、口を開いた。
「そう……“意地”だな。――ほら、己ってさ、忍者である前に、装甲戦士であり、男だからさ。やっぱり、強い奴とは正面からぶつかりたいし、負けたくもねえんだよ」
「……バカだよね、男って」
ニンジャの言葉に呆れ声を上げたのは、生身の姿の碧だった。
彼女は首をフルフルと振りながら、大げさに溜息を吐くと、傍らに立つハーモニーの肩をポンと叩いた。
「もう、何を言ってもムダだよ。ああなっちゃったら、好きなようにやらせてあげるしかないって」
「で、でも……」
「テラ!」
戸惑うハーモニーをそのままにして、碧はテラに向かって呼びかける。
そして、腕を曲げて力こぶを作る素振りをしながら叫んだ。
「そういう訳みたいだから、そいつのお望み通り、ばちこーんて返り討ちにしてあげちゃって! 変な未練が残らないように!」
「……ば、ばちこーんって……」
「あ、トチ狂って暴走なんかしたら、私とアマネちゃんが、あなたの顔を思いっ切りビンタして正気に戻してあげるから、安心して!」
「……わ、分かった……」
碧の声にたじろぎながら頷くテラ。その仮面の下では、無意識のうちに苦笑いを浮かべていた。
「くくく……」
そんなふたりのやり取りを見ていたニンジャが、耐え切れずに笑い声を漏らす。
「最終フォームすら上回るイレギュラーフォームの装甲戦士相手に、顔をビンタしてやるってか。怖い怖い。ある意味、あの人よりよっぽどおっかねえや」
「何? リクエストがあるんだったら、あなたの顔もグーパンしてあげるよ?」
「おお、くわばらくわばら。……っていうか、テラはビンタで、己はグーパンかよ」
そう言って、大げさに身を縮こまらせてみせたニンジャは、そのまま身を屈め、逆手に持った忍一文字を背中に隠すように構えた。
「さあ、テラ。無駄話はこれくらいにして、始めようか。最後の一合ってヤツをさ」
「……ああ」
ニンジャの呼びかけに、てらも小さく頷いた。
そして、僅かに脚を広げて立ち、踵を踏み込んで足場を均す。
それぞれ構えたふたりの視線がぶつかり、絡まりつき――、
「――いくぞ、テラぁッ!」
雄叫びを上げながら、ニンジャはテラに向けて地を蹴った――!
装甲戦士テラ・タイプ・ボルケーノフェニックスの全身から放たれた強烈な光によって、自分が創り出した“陰塗”の真闇の領域が崩壊した様を目の当たりにしたニンジャは、慄然とした。
彼は、呆然として空を見上げる。
先ほどまでとは打って変わって、彼の頭上の空には凄まじい数の星が煌めき、闇に慣れたニンジャの目には眩しい程だった。
「……やれやれ」
ニンジャはそう呟くと、おどけた仕草で肩を竦める。
「参ったね、こりゃ。ニンジャの最終フォームのひとつである陰遁形態の忍技が、真正面からブチ破られる事になるなんてな」
「……」
「せっかくのニンジャの最終フォームが、すっかり形無しじゃないかよ。その装甲フォーム……不規則なフォームより、不法のフォームって呼んだ方がいいんじゃないのか? くくく……」
そう言うと、ニンジャは自嘲的な笑い声を漏らした。
ニンジャの見せる奇妙な反応に、テラは訝しげに首を傾げる。
「……何が可笑しい? 今のお前に、もう勝ち目は無いぞ」
「くく……まあ、そうなんだけどさ」
テラの言葉に頷いてみせたニンジャは、どこか愉しそうとも感じられるような声色で答えた。
「いや、ちょっと嬉しくてさ」
「嬉しい……?」
ニンジャの返答に、ますます困惑するテラ。
そんな彼にもお構いなしといった様子で、ニンジャは大きく頷きながら言葉を継ぐ。
「だってそうだろ? 最終フォームといえば、装甲戦士にとって無敵の装甲のはずだ。己は今まで、最終フォームに対抗する為には、自分も最終フォームで対するしかないと思い込んでいたけど――」
そう言って、彼はテラの灼熱の炎に包まれた装甲を指さした。
「今のアンタのその姿と戦いぶりが、『それ以外の方法もある』と、己に示してくれた。それが嬉しいんだよ」
「……どういう意味――」
そう言いかけたテラだったが、唐突にニンジャの言葉の裏に隠された本音を悟り、息を呑む。
「――お前、まさか……!」
「おっと。これ以上はお口チャックだ。己も、アンタもな」
そう言って口を塞ぐ仕草をすると、ニンジャは手にしていた忍一文字の柄を強く握りしめた。
「――さて、そろそろ決着といこうか。アンタの理性も限界に近いんだろう?」
「……決着を、付ける必要があるのか?」
戦闘態勢に入ろうとするニンジャを前に、テラは躊躇いがちに言う。
「お前も言っていたじゃないか。このイレギュラーフォームは、最終フォームを凌ぐ力がある。今から俺とお前が戦り合っても、結末は……」
「……ま、そうなるかもな。でも、そうならないかもしれない。――ああ、皆まで言うな、解ってる」
ニンジャはそう言うと、掌を上げて、何か言いたげなテラを制した。
「……『ニンジャなら忍者らしく、即座に退く方が“らしい”んじゃないか』って言いたいんだろ? ――もちろん解ってるさ、その方がいいし、そうすべきだって事は」
「――そうですよ!」
ニンジャの言葉を途中で遮ったのは、離れた場所でふたりの戦いを見守っていたハーモニーだった。
「アナタ、いつも言ってたじゃないですか、『忍者は、無意味な事はしない主義だ』って! 聡おじさんたちが逃げる時間は充分に稼げましたから、これ以上、テラたちと戦う意味はありません! ――だから、もう退いて下さい!」
「くく……確かに、そうだよな」
ハーモニーの声に、思わず含み笑いを漏らしながら――
「……でも、それは出来ない。――いや、したくない」
ニンジャは、キッパリと首を横に振った。
そして、無言のまま、目の前に立つテラ・タイプ・ボルケーノフェニックスの姿を睨み据えながら、静かな口調で言葉を継ぐ。
「いや、本当に不合理で、まったく己らしくねえなとは思うんだけどさ。何だか、力の差とか打算とかは抜きにして、純粋に自分の全力をぶつけてやりたくなったんだ、コイツに」
「――ニンジャ……」
「何つーのかな……」
ニンジャは、困ったような素振りを見せながら、適切な言葉を探すように首を傾げる。
そして、納得のいく言葉を見つけた様子で、小さく頷き、口を開いた。
「そう……“意地”だな。――ほら、己ってさ、忍者である前に、装甲戦士であり、男だからさ。やっぱり、強い奴とは正面からぶつかりたいし、負けたくもねえんだよ」
「……バカだよね、男って」
ニンジャの言葉に呆れ声を上げたのは、生身の姿の碧だった。
彼女は首をフルフルと振りながら、大げさに溜息を吐くと、傍らに立つハーモニーの肩をポンと叩いた。
「もう、何を言ってもムダだよ。ああなっちゃったら、好きなようにやらせてあげるしかないって」
「で、でも……」
「テラ!」
戸惑うハーモニーをそのままにして、碧はテラに向かって呼びかける。
そして、腕を曲げて力こぶを作る素振りをしながら叫んだ。
「そういう訳みたいだから、そいつのお望み通り、ばちこーんて返り討ちにしてあげちゃって! 変な未練が残らないように!」
「……ば、ばちこーんって……」
「あ、トチ狂って暴走なんかしたら、私とアマネちゃんが、あなたの顔を思いっ切りビンタして正気に戻してあげるから、安心して!」
「……わ、分かった……」
碧の声にたじろぎながら頷くテラ。その仮面の下では、無意識のうちに苦笑いを浮かべていた。
「くくく……」
そんなふたりのやり取りを見ていたニンジャが、耐え切れずに笑い声を漏らす。
「最終フォームすら上回るイレギュラーフォームの装甲戦士相手に、顔をビンタしてやるってか。怖い怖い。ある意味、あの人よりよっぽどおっかねえや」
「何? リクエストがあるんだったら、あなたの顔もグーパンしてあげるよ?」
「おお、くわばらくわばら。……っていうか、テラはビンタで、己はグーパンかよ」
そう言って、大げさに身を縮こまらせてみせたニンジャは、そのまま身を屈め、逆手に持った忍一文字を背中に隠すように構えた。
「さあ、テラ。無駄話はこれくらいにして、始めようか。最後の一合ってヤツをさ」
「……ああ」
ニンジャの呼びかけに、てらも小さく頷いた。
そして、僅かに脚を広げて立ち、踵を踏み込んで足場を均す。
それぞれ構えたふたりの視線がぶつかり、絡まりつき――、
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