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第一章 田中天狼のシリアスな日常・集結編
田中天狼のシリアスな答え合わせ
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――――読めない。
放課後になり、夕日が教室に射し込む頃まで考え続けた天狼が、認めざるを得なかった。
【春夏秋冬 水】
勿論、字としては読める。『しゅんかしゅうとう みず』――が、人名としてそんな読み方をするとは考えづらい。もっと違った読み方がある筈だ……が、色々な側面からアプローチしてみたが、正解っぽい答えが全く浮かばない。
もっとも、突然一方的にこのメモを渡されただけ。別に答えられなくてもどうという事もないだろうし、答えなければならない義務も無いが……どうしても気になる。
そんな訳で、こんな時間まで自分の席で、延々メモとにらめっこし続けていた訳だが……。万事休すか。
教室のドアがガラガラと開いたのだ。
「やっほー、田中くーん!」
昼休みの女生徒だ。小走りで俺の所に来て、何の断りもなく隣の席に座る。
「どう? クイズの答え、解ったかな?」
「…………」
いたずらっ子みたいな表情で、探る様に俺の顔を覗き込んでくる……。シャンプーの仄かな香りが鼻腔に届いて、他意はないのに、俺はドキドキしてしまう。
彼女は、わざとらしく咳ばらいをする。
「では、回答者の田中天狼くん、答えをどうぞ!」
「……う――――ん、と」
俺は、最後の足掻きと、脳内で様々な可能性を模索した――が、
「……ごめん。降参」
白旗を上げた。悔しい。
「――やった~。勝った~!」
満面の笑みでバンザイをする女生徒。俺は、大きなため息をつく。というか、そんなに大げさに喜ばないでほしい……マジで悔しくなる。
「はいはいはいはい、負けましたー。って、コレ勝負事だったんかい? ……で、答えを教えてくれませんかね? 『秘密♪』とか言われたら、気になって気になって、今夜は眠れそうにないんで勘弁って事で」
「えー? 本当に何も浮かばない?」
「皆目見当もつきません」
お手上げ、と肩をすくめる。少女はにんまりと微笑む。
「――じゃ、教えてあげる。あたしの名前はねぇ――」
勿体ぶる様に一呼吸おいてから、彼女は口を開く。
「『ひととせ あくあ』って読みまーす!」
「……『ひととせ あくあ』?」
予想だにしない正解で、俺は一瞬呆気にとられた。もう一度、目の前のメモを見直して、考えてみる。
「……あー、春夏秋冬だから一年、一歳か。『アクア』は、ラテン語で……『水』――」
成る程ねえ。それで、春夏秋冬 水……。
「……一応確認するけど、本当に本名なの?」
「モチロンだよ! 疑うなら学生証を見せようか?」
「いや、別に疑ってるわけじゃないから」
ポケットをまさぐる彼女を制して、俺は腕を組んだままうんうんと頷く。
「うん、確かに珍しくて初見じゃ絶対に読めないけど、女の子らしい響きの、良い名前だと思うよ」
「――――ぷ!」
「……ど、どうしたの?」
「……あ、えっと、珍しい反応だな~って」
照れくさそうに頭をかく女生徒。
「やっぱり、初対面の人にあたしの名前を初めて言うと、ちょっと構えた反応されちゃうんだよねぇ。田中君みたいな、素直に名前を褒めてくれる様な反応って、今まであんまり無かったから、ちょっとビックリしたっていうか――」
「いや……、俺も、自分の名前が名前だから、君……春夏秋冬さんと同じ様に、ネガティブな反応されることはザラだからさ。そういう時の、怒っていいのか、嘲笑ったほうが良いのか、いっそ見なかったふりした方がいいのか分からなくなる、っつー複雑な気持ちが痛いほど分かるから、せめて自分は人の名前にあんまり偏見持たない様にしようって考えてるだけ」
俺は、そこで一旦言葉を句切り、苦笑いする。
「寧ろ、こっちこそ、いきなり名前読まれて、俺こそびっくりした……。あ、というか、君の名前読めなくてごめん」
「えー? 何で謝るの?」
春夏秋冬は慌てて手を振る。
「あたしの名前なんて読めなくて当然だから! 全然気にしてないよー!」
そう言って彼女はにぱあと笑みを浮かべると、手を差し出した。
「改めて。あたし、一年G組の春夏秋冬 水って言います。――ねえ、これからも教室に遊びに来ていい? 田中くんと『炎極』バナとかしたいからさ!」
「え――っと……あのBLマンガの話はちょっと……。ま、少しなら……別にいいけど。――あ、こっちも改めて。一年B組の田中 天狼です。……ま、よろしく……えと、ヒトトセさん」
「よろしく~!」
そうして、夕暮れの教室で、一風変わった名前を持つ二人はがっちりと握手を交わしたのだった。
放課後になり、夕日が教室に射し込む頃まで考え続けた天狼が、認めざるを得なかった。
【春夏秋冬 水】
勿論、字としては読める。『しゅんかしゅうとう みず』――が、人名としてそんな読み方をするとは考えづらい。もっと違った読み方がある筈だ……が、色々な側面からアプローチしてみたが、正解っぽい答えが全く浮かばない。
もっとも、突然一方的にこのメモを渡されただけ。別に答えられなくてもどうという事もないだろうし、答えなければならない義務も無いが……どうしても気になる。
そんな訳で、こんな時間まで自分の席で、延々メモとにらめっこし続けていた訳だが……。万事休すか。
教室のドアがガラガラと開いたのだ。
「やっほー、田中くーん!」
昼休みの女生徒だ。小走りで俺の所に来て、何の断りもなく隣の席に座る。
「どう? クイズの答え、解ったかな?」
「…………」
いたずらっ子みたいな表情で、探る様に俺の顔を覗き込んでくる……。シャンプーの仄かな香りが鼻腔に届いて、他意はないのに、俺はドキドキしてしまう。
彼女は、わざとらしく咳ばらいをする。
「では、回答者の田中天狼くん、答えをどうぞ!」
「……う――――ん、と」
俺は、最後の足掻きと、脳内で様々な可能性を模索した――が、
「……ごめん。降参」
白旗を上げた。悔しい。
「――やった~。勝った~!」
満面の笑みでバンザイをする女生徒。俺は、大きなため息をつく。というか、そんなに大げさに喜ばないでほしい……マジで悔しくなる。
「はいはいはいはい、負けましたー。って、コレ勝負事だったんかい? ……で、答えを教えてくれませんかね? 『秘密♪』とか言われたら、気になって気になって、今夜は眠れそうにないんで勘弁って事で」
「えー? 本当に何も浮かばない?」
「皆目見当もつきません」
お手上げ、と肩をすくめる。少女はにんまりと微笑む。
「――じゃ、教えてあげる。あたしの名前はねぇ――」
勿体ぶる様に一呼吸おいてから、彼女は口を開く。
「『ひととせ あくあ』って読みまーす!」
「……『ひととせ あくあ』?」
予想だにしない正解で、俺は一瞬呆気にとられた。もう一度、目の前のメモを見直して、考えてみる。
「……あー、春夏秋冬だから一年、一歳か。『アクア』は、ラテン語で……『水』――」
成る程ねえ。それで、春夏秋冬 水……。
「……一応確認するけど、本当に本名なの?」
「モチロンだよ! 疑うなら学生証を見せようか?」
「いや、別に疑ってるわけじゃないから」
ポケットをまさぐる彼女を制して、俺は腕を組んだままうんうんと頷く。
「うん、確かに珍しくて初見じゃ絶対に読めないけど、女の子らしい響きの、良い名前だと思うよ」
「――――ぷ!」
「……ど、どうしたの?」
「……あ、えっと、珍しい反応だな~って」
照れくさそうに頭をかく女生徒。
「やっぱり、初対面の人にあたしの名前を初めて言うと、ちょっと構えた反応されちゃうんだよねぇ。田中君みたいな、素直に名前を褒めてくれる様な反応って、今まであんまり無かったから、ちょっとビックリしたっていうか――」
「いや……、俺も、自分の名前が名前だから、君……春夏秋冬さんと同じ様に、ネガティブな反応されることはザラだからさ。そういう時の、怒っていいのか、嘲笑ったほうが良いのか、いっそ見なかったふりした方がいいのか分からなくなる、っつー複雑な気持ちが痛いほど分かるから、せめて自分は人の名前にあんまり偏見持たない様にしようって考えてるだけ」
俺は、そこで一旦言葉を句切り、苦笑いする。
「寧ろ、こっちこそ、いきなり名前読まれて、俺こそびっくりした……。あ、というか、君の名前読めなくてごめん」
「えー? 何で謝るの?」
春夏秋冬は慌てて手を振る。
「あたしの名前なんて読めなくて当然だから! 全然気にしてないよー!」
そう言って彼女はにぱあと笑みを浮かべると、手を差し出した。
「改めて。あたし、一年G組の春夏秋冬 水って言います。――ねえ、これからも教室に遊びに来ていい? 田中くんと『炎極』バナとかしたいからさ!」
「え――っと……あのBLマンガの話はちょっと……。ま、少しなら……別にいいけど。――あ、こっちも改めて。一年B組の田中 天狼です。……ま、よろしく……えと、ヒトトセさん」
「よろしく~!」
そうして、夕暮れの教室で、一風変わった名前を持つ二人はがっちりと握手を交わしたのだった。
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