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第四章 田中天狼のシリアスな日常・奮闘編
田中天狼のシリアスな痛Tシャツ
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「シリウスくん! 100メートル走見てたよ!」
午後に入り、「文化部対抗リレー」に備えて、入場門に集まった俺に、春夏秋冬が笑顔で話しかけてきた。
「凄く速かったね!」
「そう……? あ……ありがとう」
……いかん。あの日、母に変な事を言われて以来、妙に春夏秋冬を意識してしまう……。彼女に対してそういう感情は抱いてないと思うんだけど……。
春夏秋冬は、そんな俺の内心も知らずに、ニコニコと暢気に笑っている。
「ホント、最初の頃とは見違えたよ~。ぶっちゃけ、はじめはフォームがバラバラで、陸の上で跳ねる魚みたいなカッコで走ってたもん!」
「え……そんなにヤバかったの? 俺の走り……」
「うん!」
力強く頷く春夏秋冬。……そんなに目一杯肯定されても……辛み。
「あたしの教え方が良かったおかげだね!」
「あー……はいはい。ありがとーございまーす」
「何よそれー。誠意が籠もってなーい!」
ぷぅと頬を膨らませる春夏秋冬。
「おう、いたいた! シリウス、アクア、気合入ってっか~?」
そこへ、矢的先輩と撫子先輩がやって来た。
「はい。二人とも、これを着て」
「へ? 何ですか、コレ」
撫子先輩から、服を手渡される。
首を傾げながら、畳まれた服を広げ――、
「な、何じゃこりゃ!」
俺の声は裏返った。
それは、何の変哲もない白いTシャツだった……絵柄以外は。
Tシャツの背面には、墨書で『空前絶後のおおぉ! 超絶怒涛の15さああぁいッ!』とデカデカと書かれ、
前面には、『その名はああぁ 田中 天狼‼』と同じ様に大書されていて……まあ、それはまだいい。
問題は、腹の部分にフルカラーで描かれた――もうひとりの天狼のイラストだった――!
「うわああああっ! いいなぁ! シリウスくんのやつっ!」
俺のTシャツの柄を見た瞬間、ただでさえ高かったテンションが5段階くらい上がって、食いついてくる春夏秋冬。
「凄いだろ~。文字はオレの直筆だぜ!」
えへんと胸を張る矢的先輩。彼の胸には、『その名はああぁ 矢的杏途龍‼』とデカデカと書かれ、腹には、ドコかで見た事があるような無い様な、ブロンド髪で顎ヒゲを蓄えた白人の中年男性が、笑顔でサムズアップしている似顔絵が描かれていた。
「何ですか、そのおっさん……」
「え? 知らないの? ハリウッド俳優だぜ?」
「え……そうなんですか?」
こんなおっさん、見た事無い……。
「オイオイ、アンドリュー・ボカチカを知らないとか、モグリかよ~? 『デストロイ・ウォリアーズ 最後の転進』で、爆発した城壁の壁に圧し潰された、門番役Bを演じた名俳優だぜ?」
「いや、何そのB級丸出しのタイトル! しかも、役名無いんかい! それタダのモブ役だろうがっ!」
思わず、手の甲でビシッとツッコむ。
「つ、つーか、そんな事はどうでもいいんですよ! 何なんすか、この名前入りのダサいTシャツは?」
「あら、可愛らしくていいじゃない」
と、撫子先輩が口を挟んだ。因みに、撫子先輩も同じ様なTシャツを既に着ている。もっとも、撫子先輩のシャツには、『その名はああぁ、 撫子‼』と、不自然な空白が空けられていた。
……ま、まあ、それは致し方ない。生命は大事に、だ。
因みに、撫子先輩のTシャツにあしらわれたイラストは、物凄くデフォルメされて、萌えキャラ風になっているが、それは紛う事なく『般若』だった……。
撫子先輩が、このTシャツのイラストモチーフを知ってて着ているのか、それとも知らないのか……気になったが、ヤブをつついて龍を出す真似はしたくなかったので、知らんぷりを決め込んだ……。
……でも、流石に使うのは止めたんだな。イラストにゴリ――あわわわわ、生命を大事に、生命を大事に……!
そんな、こちらの心中の葛藤を知ってか知らずか、撫子先輩は言葉を継ぐ。
「みんな体操服だと味気ないじゃない? だから、『奇名部』らしく、名前を全面に打ち出したオリジナルTシャツを作って目立とう、って、矢的くんが」
「因みに、イラストはシリウスの母ちゃんにお願いして描いてもらったんだ~。ノリノリで協力してくれて助かったよ!」
矢的先輩の言葉に頭を抱える俺。……何やってるんだ、あの人。つーか、そんな特技があったなんて、あの人の子供として生まれて今日まで、全然気づかなかったぞ……。
「あー、だからこんなに力入ってるんだね、シリウスくんの天狼様のイラスト!」
春夏秋冬が、心底羨ましそうな顔で言う。
「じゃ、シャツ交換しよう」と提案したかったが、名前入りのTシャツを女の子と交換するなんて、全校男子生徒を敵に回しかねない……というか、春夏秋冬の着ているTシャツには、ちょっと古めのキャラデザの女神様(多分アニメかマンガかの、水の女神的なキャラだと思う)のイラストだ……。
これを着こなすとなると、まんまバックパックにビームサーベル二本差しで秋葉原を闊歩する人種と、ビジュアル的に同じに見られる覚悟が必要だ。
流石に、それと天秤にかけると、天狼様Tシャツの方が、紙一重でマシだった……。
やむを得ず、渋々Tシャツに袖を通す。
「……本当にこんなTシャツ着て走るんですか~……止めましょうよ……」
「おいおいおい、何だそのダッさいTシャツはよぉ!」
泣き言を言いかけた俺を遮って、背後から不快なダミ声が不躾にかけられた。
…………この声。忘れようはずもない。
振り返ると、思った通り、
デブとメガネとロン毛が、ニヤニヤと嫌らしい薄笑みを浮かべて立っていた。
午後に入り、「文化部対抗リレー」に備えて、入場門に集まった俺に、春夏秋冬が笑顔で話しかけてきた。
「凄く速かったね!」
「そう……? あ……ありがとう」
……いかん。あの日、母に変な事を言われて以来、妙に春夏秋冬を意識してしまう……。彼女に対してそういう感情は抱いてないと思うんだけど……。
春夏秋冬は、そんな俺の内心も知らずに、ニコニコと暢気に笑っている。
「ホント、最初の頃とは見違えたよ~。ぶっちゃけ、はじめはフォームがバラバラで、陸の上で跳ねる魚みたいなカッコで走ってたもん!」
「え……そんなにヤバかったの? 俺の走り……」
「うん!」
力強く頷く春夏秋冬。……そんなに目一杯肯定されても……辛み。
「あたしの教え方が良かったおかげだね!」
「あー……はいはい。ありがとーございまーす」
「何よそれー。誠意が籠もってなーい!」
ぷぅと頬を膨らませる春夏秋冬。
「おう、いたいた! シリウス、アクア、気合入ってっか~?」
そこへ、矢的先輩と撫子先輩がやって来た。
「はい。二人とも、これを着て」
「へ? 何ですか、コレ」
撫子先輩から、服を手渡される。
首を傾げながら、畳まれた服を広げ――、
「な、何じゃこりゃ!」
俺の声は裏返った。
それは、何の変哲もない白いTシャツだった……絵柄以外は。
Tシャツの背面には、墨書で『空前絶後のおおぉ! 超絶怒涛の15さああぁいッ!』とデカデカと書かれ、
前面には、『その名はああぁ 田中 天狼‼』と同じ様に大書されていて……まあ、それはまだいい。
問題は、腹の部分にフルカラーで描かれた――もうひとりの天狼のイラストだった――!
「うわああああっ! いいなぁ! シリウスくんのやつっ!」
俺のTシャツの柄を見た瞬間、ただでさえ高かったテンションが5段階くらい上がって、食いついてくる春夏秋冬。
「凄いだろ~。文字はオレの直筆だぜ!」
えへんと胸を張る矢的先輩。彼の胸には、『その名はああぁ 矢的杏途龍‼』とデカデカと書かれ、腹には、ドコかで見た事があるような無い様な、ブロンド髪で顎ヒゲを蓄えた白人の中年男性が、笑顔でサムズアップしている似顔絵が描かれていた。
「何ですか、そのおっさん……」
「え? 知らないの? ハリウッド俳優だぜ?」
「え……そうなんですか?」
こんなおっさん、見た事無い……。
「オイオイ、アンドリュー・ボカチカを知らないとか、モグリかよ~? 『デストロイ・ウォリアーズ 最後の転進』で、爆発した城壁の壁に圧し潰された、門番役Bを演じた名俳優だぜ?」
「いや、何そのB級丸出しのタイトル! しかも、役名無いんかい! それタダのモブ役だろうがっ!」
思わず、手の甲でビシッとツッコむ。
「つ、つーか、そんな事はどうでもいいんですよ! 何なんすか、この名前入りのダサいTシャツは?」
「あら、可愛らしくていいじゃない」
と、撫子先輩が口を挟んだ。因みに、撫子先輩も同じ様なTシャツを既に着ている。もっとも、撫子先輩のシャツには、『その名はああぁ、 撫子‼』と、不自然な空白が空けられていた。
……ま、まあ、それは致し方ない。生命は大事に、だ。
因みに、撫子先輩のTシャツにあしらわれたイラストは、物凄くデフォルメされて、萌えキャラ風になっているが、それは紛う事なく『般若』だった……。
撫子先輩が、このTシャツのイラストモチーフを知ってて着ているのか、それとも知らないのか……気になったが、ヤブをつついて龍を出す真似はしたくなかったので、知らんぷりを決め込んだ……。
……でも、流石に使うのは止めたんだな。イラストにゴリ――あわわわわ、生命を大事に、生命を大事に……!
そんな、こちらの心中の葛藤を知ってか知らずか、撫子先輩は言葉を継ぐ。
「みんな体操服だと味気ないじゃない? だから、『奇名部』らしく、名前を全面に打ち出したオリジナルTシャツを作って目立とう、って、矢的くんが」
「因みに、イラストはシリウスの母ちゃんにお願いして描いてもらったんだ~。ノリノリで協力してくれて助かったよ!」
矢的先輩の言葉に頭を抱える俺。……何やってるんだ、あの人。つーか、そんな特技があったなんて、あの人の子供として生まれて今日まで、全然気づかなかったぞ……。
「あー、だからこんなに力入ってるんだね、シリウスくんの天狼様のイラスト!」
春夏秋冬が、心底羨ましそうな顔で言う。
「じゃ、シャツ交換しよう」と提案したかったが、名前入りのTシャツを女の子と交換するなんて、全校男子生徒を敵に回しかねない……というか、春夏秋冬の着ているTシャツには、ちょっと古めのキャラデザの女神様(多分アニメかマンガかの、水の女神的なキャラだと思う)のイラストだ……。
これを着こなすとなると、まんまバックパックにビームサーベル二本差しで秋葉原を闊歩する人種と、ビジュアル的に同じに見られる覚悟が必要だ。
流石に、それと天秤にかけると、天狼様Tシャツの方が、紙一重でマシだった……。
やむを得ず、渋々Tシャツに袖を通す。
「……本当にこんなTシャツ着て走るんですか~……止めましょうよ……」
「おいおいおい、何だそのダッさいTシャツはよぉ!」
泣き言を言いかけた俺を遮って、背後から不快なダミ声が不躾にかけられた。
…………この声。忘れようはずもない。
振り返ると、思った通り、
デブとメガネとロン毛が、ニヤニヤと嫌らしい薄笑みを浮かべて立っていた。
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