田中天狼のシリアスな日常

朽縄咲良

文字の大きさ
73 / 73
田中天狼のシリアスな日常・エピローグ

田中天狼のシリアスな日常

しおりを挟む
 ――結果、原先生の罪は不問に付された。
 後の懸念は、カメラを無断借用・・・・された、写真部の十亀が騒がないか、という事だったが、

「あー、それは多分大丈夫」

 矢的先輩が涼しい顔で断言し、こっそりとカメラに記録された画像を見せてくれた。
 原先生が撮影した相撲部の画像をドンドン飛ばしていくと……、

「こ……これは!」

 俺の目は、クワッと音を立てて大きく見開かれた。
 小さい液晶画面には、女子テニス部員の――スコートの下を超望遠ズームで鮮明に撮影した画像がデカデカと映し出されたのだ!

「これだけじゃないぜ♪」

 矢的先輩がニヤニヤ笑いながら、次々と写真をスクロールさせる。
 女子テニス部員の太ももや胸のドアップ映像、バレー部員の尻、新体操部の――(以下自主規制)
 ――とにかく、様々なシチュエーションの、霰もない隠し撮り画像が大量にメモリーカードに保存されていた。

「……これって……」
「写真部部長サマご自慢の芸術作品・・・・ってトコだね」

 矢的先輩はクククと笑う。

「あ……だから、十亀先輩は『盗まれた』って届け出られなかったんですね」
「そういう事」

 盗難届なりを出して、もしカメラが見つかったら、この隠し撮りデータが白日の下に晒される恐れがある。そうなったら、十亀が逆にお縄になってしまう可能性すらあり得る。
 そりゃ、『盗まれた』なんて、口が裂けても言えない訳だ……。

「……何を見ているの? 矢的くん、田中くん?」
「!」

 撫子先輩から突然話しかけられ、ビクッと身体を震わせる矢的先輩と俺。

「あ……いえ! 何でもないっす!」
「いやいや、やっぱり30万円のカメラは画質が違うよねえ、なーシリウス!」

 慌てて泡を飛ばしながら、必死で誤魔化す俺たちに、撫子先輩は解せぬ表情を浮かべ首を傾げながらも、それ以上の追及はしなかった。
 ……危なかった。もし撫子先輩にこのデータの事がバレていたら、近いうちに貴重な人命が一つ、星になるところだ。――感謝しろよ、十亀敦雄。

 ――案の定、後日「偶然発見した」と、十亀にカメラを渡しに行った時、「盗ったのは誰だ!」としつこく訊かれたが、この写真データの件を臭わせ、「まだ・・撫子先輩は知りませんが――」と、彼女の存在を軽く仄めかしただけで、十亀は文字通り『亀のように』押し黙った。
 彼から、今回の件が蒸し返される心配は無いだろう――。

 あ、ちなみに、その写真データは速やかに全消去デリートした。……いや、惜しくないよ! ……本当は、ちょっと惜しかったけど。
 え、バックアップ? そんなオッソロしい事する筈も無い。
 万々が一でも、そんな事をして、そのデータを撫子先輩にでも見つけられた日には、矢的先輩の実家は、大事な跡取りを亡くし、――俺は名前の如く、天に輝く天狼星シリウス昇天クラスチェンジしてしまうに違いない(確信)……。
 一時の欲望に負けて、大事なものいのちを失う愚は犯してはならぬ(戒め)。



 それから一週間後、
 俺の生活は、平常を取り戻した。
 ……いや、正確には、異常が平常に置き換わったというべき、か。
 終業のチャイムが鳴り、俺はカバンに教科書やノートを放り込み、教室を出る。

「あ! 田中さん、スミマセン!」

 背後から声をかけられ、俺は振り向く。
 三つ編みを揺らして、黒木さんが近づき、1枚のプリントを差し出した。

「あの、これから部活ですよね! これ、明後日の部長会議の資料になりますんで、矢的部長さんに渡しておいて下さい!」
「あ、はい……分かりました」
「あの――部活、頑張って下さい!」

 そう言って、プリントを俺に手渡すと、黒木さんはニパッと笑みを浮かべて、来た時と同じように、小走りで教室へと戻っていった。
 ……部活頑張れって言われてもなぁ。
 そもそも、何を頑張るんだ、あの部活奇名部……。

「あー、田中! 丁度良かった!」

 ……今度は何だ? ウンザリしながら振り返ると、武杉副会長と行方会長が立っていた。
 武杉副会長は、何だかプリプリ怒っている。

「おい、田中! 何だ、この費用計上は!」
「いや、俺に言われても知りませんよ。どーせ、矢的先輩が勝手にやったんでしょ? あの人に訊いて下さいよ」
「――ほらな。武杉。田中君が、こんな適当な申請書を上げるはずが無いって言っただろ? やはり、矢的に直接訊かないと埒が明かないよ」
「あー、そうして下さい。会長、副会長、失礼します」
「ちょ、待てよ! 矢的が、経理担当は田中おまえだって言ってた……それすらウソか、あの男!」
「……いや、明らかにそうだろう。――何で君は、いつもいつも、そんなにあっさり矢的に騙されるんだい……?」

 後ろで何やら漫才が始まっていたが、もう無視してその場を立ち去る。

「シーリーウースーくーん! 一緒に行こう~」

 また背後から声が。この声の主は、振り向かなくても分かる。

春夏秋冬ひととせ、今日も元気だねぇ……」
「ねえねえ、シリウスくん、これ見てー!」

 春夏秋冬ひととせは、顔を紅潮させ、そう言うと俺にスマホの画面を見せてきた。

「え……何だよそれ……は……ハアアアアアアッ?」

 スマホに表示された文字を目で追い、記事の内容を理解した俺は驚愕した。一昔前のアニメだったら、目が飛び出る描写が入るだろう。

「凄いでしょ! 『炎愛の極星』、来月号から連載再開だって!」

 大きな瞳をキラキラ輝かせて、鼻息荒く叫ぶ春夏秋冬ひととせ
 俺は、信じられない思いで、思わず頬をつねる。

「おいおい、これは悪い夢かよ? 何で連載再開……? つうか、20週打ち切りだったんじゃないのか、あのマンガ……」
「だから言ったでしょ、『一時休載』だって!」

 そう言いながら、興奮してピョンピョン跳びはねる春夏秋冬ひととせ
 と、突然、春夏秋冬ひととせは、跳びはねながら俺の手を握った。

「え……え……え?」
「ほら、シリウスくんも一緒に喜んで! ジャンプジャーンプ!」
「え……あ、はい……ジャンプジャーンプ……って、超恥ずかしいんですけど!」
「あたしはちょー嬉しーっ!」

 全身で喜びを爆発させる春夏秋冬ひととせを横目で見ながら、俺も顔を真っ赤にしながら、微笑んだ――。



 昇降口を出て、部室棟へ向かい、階段を昇った2階の突き当たり――213号室の扉を開ける。

「お、アクア、シリウス、来たな!」
「こんにちは、田中くん、アクアちゃん」

 先に部室に居た、矢的先輩と撫子先輩が俺たちを迎える。

「ねーねー、なでしこセンパーイ! ビッグニュースだよ~!」
「え? 一体何かしら?」
「ほら、コレ見てー!」

 と、盛り上がる女子ふたりを横目に、俺は黒木さんから渡されたプリントを、矢的先輩に手渡す。

「はい、矢的部長・・。部長会議の資料との事です。明後日の会議に忘れないで持っていって下さいね」
「……めんどくせーなー。お前、代わりに出てくれない?」
「ヤです」
「そんなつれない事言うなよー! 20円あげるから」
「小学生のお遣いかい!」
「ほら、オレのメガネかけて、髪の毛いじれば、オレに見えない事も無い――」
「無くねえよ! バレバレだわ!」
「そんな事無いって~…………」
「だから、…………」

 ……………………

 そうやって、俺の日常は過ぎていく。
 喧しくて、鬱陶しくて、大変で――
 でも、この上なく楽しい

 田中天狼シリウスのシリアスな日常が――。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...