好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

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第四章 Cross Thought

醜男と色男

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 ジャスミンの前に現れたのは……化物と呼ぶに相応しい姿の男だった。
 ワイン樽に手足が生えたかの様な身体に、潰れたヒキガエルすらチャーミングに見える程の、醜怪極まる顔面が乗っかっていた。
 その冗談の様に歪なその全身は、ゴテゴテとした巨大な宝石で飾り立てられ、動く度にジャラジャラと喧しい音を立てていた。が、そんな華美な宝石たちの懸命な自己主張も、身に着けている男の醜悪さを相殺できていなかった。
 ――ジャスミンは、ヒースが「チビるなよ」と言っていた意味を、痛い程理解した……。

「おう、団長殿よ。今日も相変わらず気色悪いな」

 ヒースは、ズケズケと遠慮なく言った。

「な……何よ! アタシの美しさが理解できない野蛮人め!」

 醜男が、地団駄を踏んで怒り狂う。その光景も滑稽だった。

「何しに来たのよ、アンタ! こんな朝っぱらから、美しいアタシに向けて、嫉妬に狂った妄言を吐きに来た訳?」
「嫉妬に狂った妄言ねぇ……どうしたら、その面でそこまで自己肯定できるのか……逆に羨ましいね、全く」

 ヒースは、肩を竦めてから、後方に立っていたジャスミンを指さした。

「今日は、入団希望者を連れてきたんだよ」
「入団……ウチに?」
「……あ、ああ。どうも――入団希望の、ジャスミンです」
「! ……あらあらまあまあ♪」

 ジャスミンの顔を見た瞬間、醜男の目つきが変わる。目尻が下がって、口角が上がる。本人は、微笑みのつもりなんだろうが、もう完全に、妖怪魔獣の域に達している。多分、オークすら、この男の横に立たせればイケメンに見えるだろう。
 ジャスミンは、心中密かに激しい吐き気を覚えていたが、それを表情や態度に出す愚は犯さない。『天下無敵の色事師』の彼は、そういったを、チュプリ歓楽街蠱毒の壺で何度も遭遇し、切り抜けてきているのだ。

「あらあら。ジャスミンちゃんっていうのねん♪ アタシはチャー。この『チャー傭兵団』の団長……ゆくゆくは、この国の新しい王になるのよん!」
「あ……始めまして、チャー……様」
「……それにしても、アナタ、かわいいお顔ね~」

 醜男チャーは、その図体に似合わない俊敏な動きでジャスミンに走り寄り、そのじっとりと汗ばんだ手でジャスミンの手を握る。

(げ――――っ!)

 ジャスミンは、心中で思いっきり吐瀉物をぶちまけたが、何とか嫌悪の表情を出すのは堪えた。ただ、顔面が真っ青になるのは止められない。――幸い、チャーには気付かれなかったようだ。

「……ブッ」

 ――ヒースには、バッチリ見られていたらしい。

「――で、どうだい、団長さん? この入団希望者は、合格かい?」

 吹き出すのを必死に堪えながら、ヒースはチャーに尋ねた。
 チャーは、しげしげとジャスミンの顔を覗きこむ。
 この傭兵団に正式に入団するには、この妖怪――もとい、団長のお眼鏡に適わなければならない――。ジャスミンは、顔を背けたい衝動に駆られながらも、何とか踏ん張って、ニッコリと魅力的な微笑を彼に送る。
 チャーは、うんうんと頷いてから言った。

「う~ん……不合格」
「――は?」

 ジャスミンは、意想外の言葉に、呆気に取られた。
 彼は、顔を引き攣らせながら、僅かに震える声でチャーに問う。

「……え? 何で?」
「あー、いやいや」

 チャーは、ブルブルと首を横に振る。……首が動く度に、頬の肉がたぷたぷと震えるのが、これ以上無く気持ち悪い……。

「傭兵団に入団するのは、別に構わないわよん。――不合格って言ったのは、じゃない……ってコ・ト♪」
「――――――――は?」

 ジャスミンは、しばらくの間、チャーの言葉の意味が理解できなかった。
 『私のタイプじゃない』――それは、『天下無敵の色事師』にとって、これまで一度も言われた事の無かった言葉だったからだ。

「――お……お前が……お前が、その言葉を――!」
「はいはーい、良かったな、色男! 傭兵団入りを許してもらって!」

 ふるふると身体を震わせるジャスミンの様子を見たヒースは、不穏を察知して、慌てて彼の肩を叩いた。

「――女ならまだしも……おと――男に……!」
「さあさあ、行くぞ~! 早速仕事を教えてやるからな~! 急げ~」

 うわごとのように繰り返すジャスミンを強引に担ぎ上げて、ヒースは足早に謁見の間の扉を開ける。

「じゃ、じゃあな、団長殿! また後で!」

 ヒースは、そう言って、後ろ手で扉を閉めていった。

「……もう。何なのかしらん……」

 嵐のような勢いで二人が去り、一人となったチャーは、首を傾げながら独り言つ。

「アタシのタイプは、ああいうナヨナヨした優男系じゃなくって、ガチムチ系なのよねぇん……。そう――ヒースちゃんみたいな……ね。キャッ!」



「……うぷっ!」

 ジャスミンを抱えて、謁見の間を辞したヒースは、突然凄まじい寒気に襲われる。
 彼は、ブツブツと鳥肌が浮いた太い腕を擦りながら、背後を振り返って呟いた。

「……何でぇ、今のは……? ワスデロでフレイムレイスの群れに襲われた時以来だぜ……こんなに怖気を感じたのは……」
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