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第六章 Fighting Fate
戦果と犠牲
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「……う……ん?」
ジャスミンは、唸りながら目を開けた。
低い天井の木目が目に入る。
「え……?」
戸惑って、頭を巡らし、周囲の状況を確認する。
右側には、小さな窓があり、柔らかい日射しが部屋を明るくしていた。
ぼーっと、窓の外の景色を見ている内に、ぼんやりとした頭が、霧が晴れていくように徐々にハッキリと冴えてくる。
――どうやら、自分はベッドの上で横になっているようだ。
「あ! ジャスミンさん、気が付きましたか!」
左側から、聞き覚えのある声が聞こえた。ジャスミンは、右を向いたまま微かに笑みを浮かべると、右を向いたまま、大袈裟に溜息を吐いてみせる。
「何だよ~……。寝起きに男から声をかけられるなんて、ツイてないなぁ……」
「悪かったですね……男で。お生憎様でした」
咎めるような口調で、笑いながら答えるパーム。
ジャスミンは、顔を左側へ向ける。
そこには、久々に見る、若草色の神官服姿のパームが座っていた。
「――どうせだったら、メイド姿の方が良かったですか?」
「――言うようになったねぇ、堅物神官サマが」
「誰かさんのおかげで、すっかり世俗に揉まれましたからね!」
ふたりは顔を見合わせて同時に吹き出し、一緒に愉快そうに笑う。
ひとしきり笑い合うと、ジャスミンはパームに尋ねた。
「で――、何で俺はココで寝てるんだ? チャーの奴の脳天をぶっ叩いたトコまでは覚えてるんだけど、その先の記憶が無い――」
「その直後に、気を喪ってしまったらしいです。――で、あの鍵師さんがジャスミンさんを介抱したり、色々してくれたようで……」
「鍵師……ジザスのおっさんか……あ」
ジャスミンは、冴えない中年鍵師の顔を思い出し、サーっと顔を青ざめさせると、パームにおずおずと尋ねる。
「……あのさあ、パーム。ひょっとして、その姿でジザスと会ったの?」
「え? ――ええ。何かすごくビックリしてて、その後ものすごく落ち込んでましたけど……?」
「あ……会っちゃったんだ。……何か言ってた?」
恐る恐るといった様子のジャスミンに問われたパームは、キョトンとした表情を浮かべながら首を傾げ、自分の右手を見ながら答える。
「あ……何故か握手を求められました。『これだけでいいや……』って言いながら。あと、ジャスミンさんへの伝言も預かってます」
「え? 伝言? 俺に?」
嫌な予感。青ざめるジャスミンに、小さく頷くパーム。
「ええ。『今度会ったら、10発殴らせろ』……だそうです」
「あ…………はい……了解しました……」
「……何やったんですか、アナタ……」
「あ……いやぁ、ははは――」
ジト目でジャスミンを見るパーム。ジャスミンは笑って誤魔化し、
「あ! そういや、チャーの奴はどうなったの?」
全力で話題を逸らす。
パームは、はあ、と溜息を吐き、問いに答える。
「チャー団長は、貴方の一撃で昏倒して、その後無事に捕らえられました。今は、拘束した上で、地下牢に収監されています」
「そうかぁ……そりゃ良かった。――で、シレネは……ついでにお前は、大丈夫だったのか?」
「……ついで、って……」
パームは、ジャスミンの言葉に、頬を膨らませる。
「――シレネさんは無事です。大教主様が保護なされて、鎮静剤を飲ませたという事で、まだ眠ってらっしゃるんじゃないでしょうか……。大教主様が側に付いていらっしゃいます」
「鎮静剤、ねえ……」
ジャスミンは、何となく、鎮静剤の正体を察した。
しかし、シレネが無事で良かった――と、ジャスミンは内心で胸を撫で下ろす。
「……僕は……すみません。お酒を運んだ先で、大きな傭兵の方に押し倒されてからの記憶が無くて……。目を覚ましたのも、ついさっきでして……」
「あぁ……いや、お前は元気に暴れてたよ。酒に酔って……」
「……すみません……」
顔を真っ赤にして俯くパームの肩を、ニヤニヤ笑いながらポンポン叩くジャスミン。
「……で、大教主の爺さんは、何か言ってたかい?」
「…………『メイド姿もよく似合いますね』って……」
「ブッ! クフフフフッ……あ痛ててて」
「笑い事じゃ無いですよ~……」
痛みに顔を顰めつつ、腹を抱えて笑うジャスミンを、涙目で恨めしげに睨みつけるパーム。
ジャスミンは、ひとしきり笑った後、つと顔を引き締めてパームに尋ねた。
「……で、結局、今回の損害というか……犠牲になった人数はどの位か、分かる……?」
「あ……いえ……」
パームは、表情を曇らせて頭を振る。
と、
「ホッホッホ。それは、私がお答えしましょう」
ドアを開けて、大教主がニコニコと柔らかな笑みを浮かべて室内へ入ってきた。
「あ! だ、大教主様!」
「お! 大教主のジイさん、お疲れチャ~ン! 助っ人、サンクスだよ~! アンタが居なかったら、今回の作戦は上手くいかなかったよ」
「じゃ、ジャスミンさんっ! 大教主様に、何て口のきき方を!」
ジャスミンの無礼な口調を、顔色を変えて嗜めるパーム。
だが、当の大教主は鷹揚に笑って、ひらひらと手を振る。
「ホッホッホ。別に構いませんよ。私も、久々に羽目を外せて、実に楽しかったですぞ」
「だ……大教主様?」
呆気に取られた顔のパームを尻目に、大教主は懐から四つ折りにした紙を取り出し、記された内容に目を通す。
「で……今回の件での被害についてでしたな……。えーとですね……傭兵団側は、重傷が269人、軽傷が528人です。何割かは、街の外に逃げていったようですのぉ。――で、住民側は……重傷が34人、軽傷が284人ですな」
「……結構、重傷者が多いな……」
ジャスミンは、少し表情を曇らせる。
大教主は、柔らかな笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「……とはいえ、重傷者は、傭兵も住民も問わず、私とラバッテリア布教所の神官達が、ハラエでの治癒と、外科的な治療をしておりますからのぉ。命に関わる様な容態の者は居りませぬ。ちなみに」
大教主は、意味深に言葉を切ると、
「傭兵側・住民側、共に死者はゼロ。――犠牲者を出す事無く、サンクトルは傭兵団の手から解放されたのですな……素晴らしい結果です。よく頑張りましたな、おふたりとも」
眉尻を下げ、しわくちゃの顔に満面の笑みを浮かべた。
ジャスミンとパームは、顔を見合わせ、
「――やったな」
「……はい」
笑顔で、お互いの握り拳を突き合わせた。
ジャスミンは、唸りながら目を開けた。
低い天井の木目が目に入る。
「え……?」
戸惑って、頭を巡らし、周囲の状況を確認する。
右側には、小さな窓があり、柔らかい日射しが部屋を明るくしていた。
ぼーっと、窓の外の景色を見ている内に、ぼんやりとした頭が、霧が晴れていくように徐々にハッキリと冴えてくる。
――どうやら、自分はベッドの上で横になっているようだ。
「あ! ジャスミンさん、気が付きましたか!」
左側から、聞き覚えのある声が聞こえた。ジャスミンは、右を向いたまま微かに笑みを浮かべると、右を向いたまま、大袈裟に溜息を吐いてみせる。
「何だよ~……。寝起きに男から声をかけられるなんて、ツイてないなぁ……」
「悪かったですね……男で。お生憎様でした」
咎めるような口調で、笑いながら答えるパーム。
ジャスミンは、顔を左側へ向ける。
そこには、久々に見る、若草色の神官服姿のパームが座っていた。
「――どうせだったら、メイド姿の方が良かったですか?」
「――言うようになったねぇ、堅物神官サマが」
「誰かさんのおかげで、すっかり世俗に揉まれましたからね!」
ふたりは顔を見合わせて同時に吹き出し、一緒に愉快そうに笑う。
ひとしきり笑い合うと、ジャスミンはパームに尋ねた。
「で――、何で俺はココで寝てるんだ? チャーの奴の脳天をぶっ叩いたトコまでは覚えてるんだけど、その先の記憶が無い――」
「その直後に、気を喪ってしまったらしいです。――で、あの鍵師さんがジャスミンさんを介抱したり、色々してくれたようで……」
「鍵師……ジザスのおっさんか……あ」
ジャスミンは、冴えない中年鍵師の顔を思い出し、サーっと顔を青ざめさせると、パームにおずおずと尋ねる。
「……あのさあ、パーム。ひょっとして、その姿でジザスと会ったの?」
「え? ――ええ。何かすごくビックリしてて、その後ものすごく落ち込んでましたけど……?」
「あ……会っちゃったんだ。……何か言ってた?」
恐る恐るといった様子のジャスミンに問われたパームは、キョトンとした表情を浮かべながら首を傾げ、自分の右手を見ながら答える。
「あ……何故か握手を求められました。『これだけでいいや……』って言いながら。あと、ジャスミンさんへの伝言も預かってます」
「え? 伝言? 俺に?」
嫌な予感。青ざめるジャスミンに、小さく頷くパーム。
「ええ。『今度会ったら、10発殴らせろ』……だそうです」
「あ…………はい……了解しました……」
「……何やったんですか、アナタ……」
「あ……いやぁ、ははは――」
ジト目でジャスミンを見るパーム。ジャスミンは笑って誤魔化し、
「あ! そういや、チャーの奴はどうなったの?」
全力で話題を逸らす。
パームは、はあ、と溜息を吐き、問いに答える。
「チャー団長は、貴方の一撃で昏倒して、その後無事に捕らえられました。今は、拘束した上で、地下牢に収監されています」
「そうかぁ……そりゃ良かった。――で、シレネは……ついでにお前は、大丈夫だったのか?」
「……ついで、って……」
パームは、ジャスミンの言葉に、頬を膨らませる。
「――シレネさんは無事です。大教主様が保護なされて、鎮静剤を飲ませたという事で、まだ眠ってらっしゃるんじゃないでしょうか……。大教主様が側に付いていらっしゃいます」
「鎮静剤、ねえ……」
ジャスミンは、何となく、鎮静剤の正体を察した。
しかし、シレネが無事で良かった――と、ジャスミンは内心で胸を撫で下ろす。
「……僕は……すみません。お酒を運んだ先で、大きな傭兵の方に押し倒されてからの記憶が無くて……。目を覚ましたのも、ついさっきでして……」
「あぁ……いや、お前は元気に暴れてたよ。酒に酔って……」
「……すみません……」
顔を真っ赤にして俯くパームの肩を、ニヤニヤ笑いながらポンポン叩くジャスミン。
「……で、大教主の爺さんは、何か言ってたかい?」
「…………『メイド姿もよく似合いますね』って……」
「ブッ! クフフフフッ……あ痛ててて」
「笑い事じゃ無いですよ~……」
痛みに顔を顰めつつ、腹を抱えて笑うジャスミンを、涙目で恨めしげに睨みつけるパーム。
ジャスミンは、ひとしきり笑った後、つと顔を引き締めてパームに尋ねた。
「……で、結局、今回の損害というか……犠牲になった人数はどの位か、分かる……?」
「あ……いえ……」
パームは、表情を曇らせて頭を振る。
と、
「ホッホッホ。それは、私がお答えしましょう」
ドアを開けて、大教主がニコニコと柔らかな笑みを浮かべて室内へ入ってきた。
「あ! だ、大教主様!」
「お! 大教主のジイさん、お疲れチャ~ン! 助っ人、サンクスだよ~! アンタが居なかったら、今回の作戦は上手くいかなかったよ」
「じゃ、ジャスミンさんっ! 大教主様に、何て口のきき方を!」
ジャスミンの無礼な口調を、顔色を変えて嗜めるパーム。
だが、当の大教主は鷹揚に笑って、ひらひらと手を振る。
「ホッホッホ。別に構いませんよ。私も、久々に羽目を外せて、実に楽しかったですぞ」
「だ……大教主様?」
呆気に取られた顔のパームを尻目に、大教主は懐から四つ折りにした紙を取り出し、記された内容に目を通す。
「で……今回の件での被害についてでしたな……。えーとですね……傭兵団側は、重傷が269人、軽傷が528人です。何割かは、街の外に逃げていったようですのぉ。――で、住民側は……重傷が34人、軽傷が284人ですな」
「……結構、重傷者が多いな……」
ジャスミンは、少し表情を曇らせる。
大教主は、柔らかな笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「……とはいえ、重傷者は、傭兵も住民も問わず、私とラバッテリア布教所の神官達が、ハラエでの治癒と、外科的な治療をしておりますからのぉ。命に関わる様な容態の者は居りませぬ。ちなみに」
大教主は、意味深に言葉を切ると、
「傭兵側・住民側、共に死者はゼロ。――犠牲者を出す事無く、サンクトルは傭兵団の手から解放されたのですな……素晴らしい結果です。よく頑張りましたな、おふたりとも」
眉尻を下げ、しわくちゃの顔に満面の笑みを浮かべた。
ジャスミンとパームは、顔を見合わせ、
「――やったな」
「……はい」
笑顔で、お互いの握り拳を突き合わせた。
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