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第2章
20・魔術師長、謎の馬車通勤
しおりを挟む翌日。
職場へ向かう馬車の中、私はすっかり困惑していた。
というのも……なぜか、シリウス様とともに通勤することになったからである。
(ええと……なんでこうなったんだっけ……)
揺れる馬車の中、私は昨夜からの一連の出来事へ思いを馳せた。
ことの発端は些細なことだった。
昨夜眠りにつく前、ふと通勤手段をどうするか話していなかったことに気づいた私は、シリウス様の元へ行き、頼んだ。
「明日、通勤のために馬車を貸していただけませんか」と。
すると、シリウス様は二つ返事で「わかりました」と答えてくれた。
だけれど、思わないではないか。
魔術師のトップであるシリウス様が、魔術を使わずに、わざわざ時間のかかる馬車移動を自ら選ぶなんて。
初めてこの屋敷に来た時ならまだしも、今日はただの出勤である。
朝、屋敷の前に停められたヴェルナー家の馬車に乗り込もうとすると、当然のようにシリウス様も乗り込んできて――今に至る。
膝が触れ合う近さの中、私は恐る恐る口を開いた。
「ええ、と、シリウス様」
「なんですか」
「もしかして、普段は職場まで馬車で向かわれていたりします?」
「そんなわけないじゃないですか。時間の無駄です。私一人なら魔術で飛びます」
「……ですよね」
そりゃそうだろう。
一応確認してみただけだが、予想通りの回答ではある。
「ではなぜ、シリウス様も馬車で通勤を……?」
回りくどい聞き方をしてしまった自覚はあるが、疑問だったのはこれだ。
(いつもは魔術省まで、魔術で向かってるんでしょう?)
それなのになぜ、シリウス様はすんと澄ました表情で馬車に揺られているのだろう。
「いけませんか」
「いえ……」
いけないかいけなくないかで答えるなら、まったくいけなくはない。
そもそもこの馬車はシリウス様のものだ。
「あなたがどうしても嫌だとおっしゃるのなら降ります」
「えっ!? そ、そのままで大丈夫です!」
さらりと告げられてさすがに慌てた。
持ち主を下ろして一人呑気に職場へ向かうなど、できるわけがない。
「そうですか。では共に向かいましょう」
シリウス様はそういうと、どこか満足げに視線を窓の外へと向けた。
魔術を使えばすぐに着くはずなのに、わざわざ時間のかかる馬車を選んだ理由は――考えれば考えるほど分からない。
◇◇◇◇◇◇
事務室にたどり着いた時は、私はすっかり疲れきっていた。
椅子に腰掛け、自分の頬を机に押し付け脱力する。
「はぁ……」
別にシリウス様と一緒なのが嫌なわけではない。
だが、馬車だと密室だし、どうしてもそれなりの時間がかかるし、近いしで、緊張してしまうのだ。
それもこれも、シリウス様が無駄に美しいのがいけない。
あんなに近くにいられては、否が応でも意識してしまうではないか。
(もしかして、私のこれからの通勤……毎日こうなるの……?)
恐ろしいことに、その可能性が高いような気がした。
私が再度ため息をついたそのとき、後ろから軽快な足音が聞こえてきた。
「セレフィアおはよ――ってなんで朝からそんなに疲れきってるのっ!?」
背後から肩をぽんと叩いてきたアリスは、私の顔を覗き込むやいなやぎょっと目を見開く。
「いや、まぁ……色々あって」
「ふぅん?」
訝しげに眉を寄せながら、アリスはそれ以上突っ込んでは来なかった。
その代わりとでも言うように、私の隣の席へ座ると、体を寄せて声を潜める。
「それで、ご両親への挨拶は上手くいった~?」
まるで内緒話をしているかのようだ。
(そういえば先週、アリスから「どうなったか聞かせて」ってねだられていたっけ……)
アリスは興味津々、といった様子で瞳を輝かせている。
「あ、いや……それが……」
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