【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那

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第2章

25・二人空の上

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「えっ!? ちょ、シリウス様……っ!?」

 視界が一気に高くなり、見あげればすぐそこにシリウス様の顔があった。
 あまりの近さに、呼吸さえためらってしまう。

 (無駄に顔がいい!!)

 こんな近さにいるというのに、毛穴さえ見えないのはどういうことなのか。
 などと妙なことを考えて意識をそらそうとするものの、なかなか顔の熱さがひいてくれない。

「暴れないで。少し我慢してください」

 囁くように言うと、シリウス様の足元がふわりと浮かび上がった。
 空気を蹴るようにして地面からどんどんと離れていく。
 それと同時に、私たちをのせてきた馬車が代わりに大量のドレスやら小物を乗せ、元来た道を帰っていく姿が目に映った。

「わわ……っ」
 
 魔術で浮かび上がった私たちに、大通りを行き交う周囲の人々がざわめき、息を呑む音が聞こえる。
 気が付けば、私たちは屋根の高さを通り越しているようだ。

 (うわああ、飛んでる……!)

 頬を撫でる風と不安定な足元に、私は思わずシリウス様の首へしがみついていた。
 慣れない浮遊感に、胃の奥がきゅっと縮こまる。
 けれど、私の身体に回るシリウス様の腕は、驚くほど安定していた。

 (魔術ってこんな高く飛べるの!?)

 幼い頃、父に抱えられて空を飛んだことはある。けれど、ほんの短い時間だけだ。
 この魔術は持続するための魔力消費が激しいと父は言っていた。
 それがまさか、こんな高さまで来られるとは思ってもみなかった。

 (……空がきれい)

 街並みはあっという間に小さくなり、足元には何もない。
 こんな高さから空を見たのなんて初めてだ。

 (ん? あれ……?)
 
 私たちの向かう先には、街の中央にある時計塔がそびえ立っている。
 その上部のレンガの外壁に、半透明に光る扉のようなものが浮かんでいた。

「シリウス様……! あれはなんですか?」

「……さすが。魔力持ちしかこの足場も扉も見えないはずですが、あなたには見えるようですね」

 言いながら、シリウス様はためらいもなく半透明の扉の方へ近づいていく。
 扉の目の前には、半透明の足場があるようだった。

 シリウス様は足場へ降り立つと、私をそっと下ろした。
 目の前にあるのは、半透明な扉だ。
 近くで見てもうっすら透けていて、レンガの壁が見える。
 
 困惑する私をよそに、シリウス様は扉へ手を伸ばすと軽く押し開けた。

「ここは?」
 
「魔術師専用の宝飾店です。魔力のない人間には見えませんし、ここに来れるだけの魔力がない人間はそもそも立ち入ることができない店です」

 扉の先には、外観からは想像できないほど静かで広い空間が広がっていた。
 窓がなく陽の光の入らないはずなのに、店内は薄暗さを感じさせない。それは、壁に埋め込まれた魔道石まどうせきのおかげなのだろう。
 きらきらと淡く光って反射し合い、店内全体を柔らかく照らしている。
 
「あれ、誰もいない……?」

 店内を見回すも、人の気配も人影も感じられなかった。
 けれど空気はどこか整っていて、まるで誰かが見ているような不思議な感覚がある。

「この店は少々特殊でして……すべてが魔術で管理されています」

 シリウス様は淡々とした口調で説明しながら、店の奥へと迷いなく向かっていく。

「こちらへ」

「は、はい」

 案内された先には、金細工でできた美しい台座があった。
 その上には小さな赤いクッションがあり、植物の種のようなものが一粒、宝石のように鎮座ちんざしている。
 
 (なんで、種? 宝飾店って言ってなかったっけ?)

 
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