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第3章
24・宰相の妻はドレス姿①
「り、りりりリシャルト様……っ! どうしてここに……!」
自分でも慌てすぎておかしなことを言っていると思う。
ここはリシャルト様の屋敷なのだから、彼がどこにいようと自由だろう。
「リシャルト様、おかえりなさいませ」
メイドさんたちは口々にそう言うと、紺色のロングスカートの裾を引いてリシャルト様にお辞儀をする。
私は咄嗟にドレスの胸元を手で隠して、メイドさんの後ろに回った。このウェディングドレス、胸元がかなり空いているのだ。メイドさんたちは同性なのでそこまで気にならなかったが、さすがにリシャルト様に見られるのは少し恥ずかしい。
「どうして、と言われましても……。屋敷へ戻ったら、メイドたちもキキョウの姿も見かけなかったので、ハーバーに聞いたら4人ともこの部屋だと……」
そりゃそうだ。私もメイドさんたちも、5~6時間ほどこの部屋にこもりっきりだもの。いつも主人の帰りを出迎えるメイドさんたちの姿がないとなれば、リシャルト様が不思議に感じるのは当然だろう。
「一応、ノックはしたんですよ? ただ、返事がなかったので覗いて見たら、僕の名前が呼ばれていた、という次第です」
「な、なるほど、そうですか」
大方メイドさんたちと会話していて気づかなかったのだろう。それは申し訳ないことをした。
リシャルト様は部屋へ入ってくると、くるりと部屋を見渡した。
「ああ、よかった。ちゃんと届いていたみたいですね」
元々は空き部屋だったとは思えないくらい、部屋にはウェディングドレスが溢れている。
部屋を囲む大量の純白のドレスに、リシャルト様は満足そうだった。
「もしかして、ドレスの試着をしていたんですか?」
「は、はい……」
「良ければ僕に、見せてください」
リシャルト様の言葉にどきりと心臓が跳ねる。
確かに私も、リシャルト様に見てもらいたい、とは思っていたのだ。
だが、いざ本人が目の前にくると躊躇ってしまう。
「え、と……」
ドレスだから露出もそれなりにあるので恥ずかしいし、そもそもリシャルト様がなんて反応するのかを考えると少し怖い。
きっと優しいリシャルト様のことだから、酷い言葉を投げかけてきたりなんてしない。
頭の冷静なところでは分かっている。
だけど、似合わないって思われたらどうしよう、などといった今までのリシャルト様の態度を考えたら可能性が少ないはずのことまで頭をよぎって動けなかった。
三人のメイドさんたちは、ちらちらとお互い目配せをしている。
そして、私の様子を見かねてか、メイドさんたちが仕方ない、助け舟を出してやろう、とでも言いたげな視線をこちらによこした。
困ったような、でも優しさが奥にあるような、そんな視線。
た、助かる……。
「リシャルト様、見てくださいよ。この美しい奥方様を」
私が隠れされてもらっていたメイドさんが横へささっと移動する。
「あたしたち、リシャルト様にお見せしたくてこんな時間まで試着してたんですよ」
「え、ちょ……!」
もう一人のメイドさんは私の肩を持って、ずずいとリシャルト様の方へ押し出した。
「ささ、邪魔者は消えますねぇ。あ、リシャルト様。理性は確かにお持ちくださいね」
三人目のメイドさんは、リシャルト様の肩をぽんと叩くと、軽やかな足取りでほか二人のメイドさんと共に部屋を出ていった。
彼女たちがしてくれたのは、私への助け舟なのだろうか? 上手いこと逃げられたような気がしてならない。
あのメイドさんたちは優しいが、彼女たちが動くのは結局のところリシャルト様のためだと、私はもう分かってきていた。
「……」
後にはドレス姿の私と、私の姿を見てぽかんと口を開けたまま固まってしまったリシャルト様が残される。
どうしろと!!
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