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第3章
25・宰相の妻はドレス姿②
「……り、リシャルト、様?」
メイドさんに前へ押し出された結果、私とリシャルト様との距離はわずか15センチ。近い。
馬車へ乗った時や手を繋いだときなど、横並びで近くなったことは何度もあるが、正面でこんなに近づいたのは初めてでどうしたらいいか分からなくなる。
「…………キキョウ」
「は、はい?」
名前を呼ばれる。
まるで、デートの準備をしてリシャルト様が部屋に迎えにきてくれたあの時と同じような感じだ。
あの時は、デート仕様におめかしした私を見て「似合っていますね」と褒めてくれた。
だけど、リシャルト様の声音があの時よりも熱を帯びている気がして、私は顔を上げることができなかった。
「このドレス、レースに花の刺繍があるのですね……。花の名前をもつあなたにぴったりです。似合っています。……とても美しい」
「あ、りがとう、ございます」
リシャルト様は噛み締めるように言う。
あの時と似たようなシチュエーション。似たような言葉。
だけど、あの時よりもリシャルト様の声がとても幸せそうだった。
たった数日しか経っていないというのにあの時とは少し違うと私は理解してしまう。
私のリシャルト様への気持ちも、あの時とは少し違う。
「そのネックレス……昔僕がプレゼントしたものですよね。まだ持っていてくださったのですね」
ふっ、と少し驚いたような声が降ってきて、私は顔を上げた。
リシャルト様を見る。
彼は泣きそうな顔で微笑んでいた。
なんで泣きそうになっているんだろう。
「……っ」
問いかける言葉は出なかった。
リシャルト様が、私の首にかかるネックレスに触れたから。
雫の形をなぞるようにリシャルト様の指が動いて、私の胸元を掠める。そのくすぐったさと恥ずかしさに、体の奥から熱いものがじんわりと広がっていくのを感じた。
「ネックレスを女性にプレゼントする意味を、ご存知ですか?」
贈り物には意味があるという。
それは前世の現代日本でもこの異世界でも変わらないらしい。
だか、あいにくネックレスをプレゼントする意味は分からない。
私は小さく首を横に振った。
「い、いいえ」
「『あなたは私だけのもの』という意味なんですよ」
リシャルト様はそうつぶやくと、そっと私を引き寄せた。
優男な見た目のリシャルト様だが、私の体に回された両腕が思ったよりもしっかりしていて、心臓が急に早鐘を打ち始める。
「え、え、あの……っ」
「こんなに美しいキキョウは、僕だけのものです」
リシャルト様は少しかすれた声で囁くと、私の首筋に顔をうずめた。
ちゅう、と首にキスをされて、瞬間私の顔がぼっと燃えるように熱くなる。
完全に挙動不審になってしまって、脳内はパニック状態の私はわたわたと手をさまよわせることしかできない。
ぎゅ、と大切なものを離すまいとするように、リシャルト様に抱きしめられるからなおのこと。
熱いし! なにこれ恥ずかしい! 誰か助けて!
ちらと救いを求めて扉の方へ視線をやる。
すると、少しだけ扉が開いていることに気づいた。
そこからにゅっと腕が三本伸びてくる。紺色の袖と金のカフスボタンのある腕だ。それが三本、お団子のように縦に並んでいる。なかなかにシュールだ。手たちはグッと親指を上に立てた。
グッジョブじゃないよ!
さては、そこで覗いているのはメイドさんだな!?
結局ハーバーさんがやってきて、覗きをしているメイドさんたちを叱る声が部屋に届くまで、私はリシャルト様に抱きしめられたままだった。
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