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第4章
幕間4・王太子side
(……エマがいない)
エマに会いに教会本部へやってきて、アルバートは途方に暮れていた。
1ヶ月以内にエマが聖女としての力を示すように国王陛下から言われて22日目。
残りあと1週間ほどになったと言うのに、アルバートはエマに会えないままでいた。
というのも、ここ数日国王の体調が優れないらしく、国王の政務の一部がアルバートにまで割り振られていたのだ。おかげで、エマに会いに行く暇もなく、無為に5日間が過ぎてしまった。
先日、リシャルトや元聖女にやり返せる起死回生の一手を思いついたのに、その話すらエマとできていない。アルバートの焦りは募るばかりだった。
(国王の代わりの政務など、なぜ俺がしなければならないのだ。そんなもの政務官やあの食えない宰相にでもやらせておけば良いものを)
アルバートは、自分が王太子という身分であることを棚に上げて、そんなことを考える。
「どこに行ったんだ、エマは」
日頃より多めの政務をどうにか片付け、ようやっとエマに会いに来たと言うのに。
一応、修道院にあるエマの部屋も覗いてみたが、そこにも彼女はいなかった。
アルバートは不満を感じながら修道院の入口の扉を閉めた。
仕方がないので王城に戻ろうとして、アルバートは視線を道の先に向ける。
(あれは……)
アルバートは夕闇の中、目を凝らす。
道の少し先に、長いピンクブロンドを揺らしながら小柄な少女がとぼとぼと歩いている姿が見えた。
「エマ……!? どうしたんだ!」
アルバートは慌ててエマに駆け寄った。
腰をかがめて顔を覗きこむと、エマの顔色は酷く悪い。
「何かあったのか!? 誰かお前をいじめたのか!? 大丈夫だ! 俺が何とかしてやるから!」
アルバートはエマの華奢な肩を掴んで、励ますように声をかける。しかし、エマは緩く首を左右に振った。
「ちがうの……」
「な、何が違うと言うんだ!?」
暗く気を落としたエマにそう言われても、アルバートには何が何だか分からない。
とりあえずアルバートは、エマを修道院の部屋に送ることにした。
◇◇◇◇◇◇
(なんでこんなことになっているんだ……!)
エマを部屋に連れていき、何度も優しく語りかけ、アルバートはどうにかこうにか事情を聞き出すことに成功した。
しかし、エマから聞き出した内容に、今度はすっかり頭を抱える番だった。
アルバートに黙ってフォート公爵が主催する茶会に行ったのは、まぁ良い。エマにだって人付き合いがあるだろうし、息抜きは必要だ。
そこであの元聖女に紅茶をかけてしまったことも良いだろう。通常だったらよくやった、とさえアルバートは思っていたかもしれない。
ではなぜアルバートが過去最大に頭を抱えているのかというと、エマが最後にやらかした、元聖女を宰相閣下もろとも階段から突き落としてしまったというところにあった。
(下手をしなくても、裁判にかけられたら終わりだぞ!?)
救いなのは、目撃者がいなさそうなところだが……。
さらに問題なのは、エマが完全に動揺して使い物にならなくなっているところだ。
エマはアルバートに事情を話し終わると、ずっとぽろぽろと涙を零し続けていた。
「エマ、わざとじゃなくて……、リシャルト様も、聖女様も、殺すつもりなんてなくて……」
エマは、蝶よ花よと甘やかされて育てられた、男爵家の一人娘だ。
誰かを突き落として大怪我を負わせ、もしかしたら殺してしまったかもしれないという事実は、かなりの衝撃をエマに与えたらしかった。
(どうする……。このままではエマと一緒にいられない)
それでもアルバートは、エマと一緒にいたかった。
(もう、計画を実行するしかない)
アルバートは、決意する。
本当は、エマに相談してから実行に移したかったが、致し方あるまい。
この計画が上手く行けば、エマは聖女としての地位を得ることが出来るはずなのだから。そうすれば、いかに裁判を起こされようが、エマが得た聖女の身分とアルバートの権力でねじ伏せればいい。幸い国王は、かつてないほどの体調不良らしいしバレはしないだろう。
(問題は、あの聖女が生きているかだな……)
宰相・リシャルトの命はアルバートにとっては興味がなかった。なんなら死んでくれていた方が、計画を進める上で都合が良い。アルバートの考えた計画では、聖女の力さえあればいいのだから。
(ああ、そうか。今がチャンスなのか)
そしてアルバートは気づいたのだ。
エマが気力を喪失しているのが気がかりではあるが、エマが起こしてくれてこの事態は、またとない好機でもあることに。
もし通常の状態なら、元聖女にアルバートたちがなにかしようものならリシャルトが黙ってはいないだろう。
しかしエマから話を聞くに、リシャルトは大怪我を負っているだろうし、下手をしたら命を落としているかも知れない。
それは、アルバートにとってリシャルトの邪魔が入らずに計画を進められる絶好のチャンスだ。
「エマ、俺に任せろ……。すべて何とかしてやるからな」
アルバートは決意を示すように、励ますために繋いでいたエマの手に力を込めた。
エマに会いに教会本部へやってきて、アルバートは途方に暮れていた。
1ヶ月以内にエマが聖女としての力を示すように国王陛下から言われて22日目。
残りあと1週間ほどになったと言うのに、アルバートはエマに会えないままでいた。
というのも、ここ数日国王の体調が優れないらしく、国王の政務の一部がアルバートにまで割り振られていたのだ。おかげで、エマに会いに行く暇もなく、無為に5日間が過ぎてしまった。
先日、リシャルトや元聖女にやり返せる起死回生の一手を思いついたのに、その話すらエマとできていない。アルバートの焦りは募るばかりだった。
(国王の代わりの政務など、なぜ俺がしなければならないのだ。そんなもの政務官やあの食えない宰相にでもやらせておけば良いものを)
アルバートは、自分が王太子という身分であることを棚に上げて、そんなことを考える。
「どこに行ったんだ、エマは」
日頃より多めの政務をどうにか片付け、ようやっとエマに会いに来たと言うのに。
一応、修道院にあるエマの部屋も覗いてみたが、そこにも彼女はいなかった。
アルバートは不満を感じながら修道院の入口の扉を閉めた。
仕方がないので王城に戻ろうとして、アルバートは視線を道の先に向ける。
(あれは……)
アルバートは夕闇の中、目を凝らす。
道の少し先に、長いピンクブロンドを揺らしながら小柄な少女がとぼとぼと歩いている姿が見えた。
「エマ……!? どうしたんだ!」
アルバートは慌ててエマに駆け寄った。
腰をかがめて顔を覗きこむと、エマの顔色は酷く悪い。
「何かあったのか!? 誰かお前をいじめたのか!? 大丈夫だ! 俺が何とかしてやるから!」
アルバートはエマの華奢な肩を掴んで、励ますように声をかける。しかし、エマは緩く首を左右に振った。
「ちがうの……」
「な、何が違うと言うんだ!?」
暗く気を落としたエマにそう言われても、アルバートには何が何だか分からない。
とりあえずアルバートは、エマを修道院の部屋に送ることにした。
◇◇◇◇◇◇
(なんでこんなことになっているんだ……!)
エマを部屋に連れていき、何度も優しく語りかけ、アルバートはどうにかこうにか事情を聞き出すことに成功した。
しかし、エマから聞き出した内容に、今度はすっかり頭を抱える番だった。
アルバートに黙ってフォート公爵が主催する茶会に行ったのは、まぁ良い。エマにだって人付き合いがあるだろうし、息抜きは必要だ。
そこであの元聖女に紅茶をかけてしまったことも良いだろう。通常だったらよくやった、とさえアルバートは思っていたかもしれない。
ではなぜアルバートが過去最大に頭を抱えているのかというと、エマが最後にやらかした、元聖女を宰相閣下もろとも階段から突き落としてしまったというところにあった。
(下手をしなくても、裁判にかけられたら終わりだぞ!?)
救いなのは、目撃者がいなさそうなところだが……。
さらに問題なのは、エマが完全に動揺して使い物にならなくなっているところだ。
エマはアルバートに事情を話し終わると、ずっとぽろぽろと涙を零し続けていた。
「エマ、わざとじゃなくて……、リシャルト様も、聖女様も、殺すつもりなんてなくて……」
エマは、蝶よ花よと甘やかされて育てられた、男爵家の一人娘だ。
誰かを突き落として大怪我を負わせ、もしかしたら殺してしまったかもしれないという事実は、かなりの衝撃をエマに与えたらしかった。
(どうする……。このままではエマと一緒にいられない)
それでもアルバートは、エマと一緒にいたかった。
(もう、計画を実行するしかない)
アルバートは、決意する。
本当は、エマに相談してから実行に移したかったが、致し方あるまい。
この計画が上手く行けば、エマは聖女としての地位を得ることが出来るはずなのだから。そうすれば、いかに裁判を起こされようが、エマが得た聖女の身分とアルバートの権力でねじ伏せればいい。幸い国王は、かつてないほどの体調不良らしいしバレはしないだろう。
(問題は、あの聖女が生きているかだな……)
宰相・リシャルトの命はアルバートにとっては興味がなかった。なんなら死んでくれていた方が、計画を進める上で都合が良い。アルバートの考えた計画では、聖女の力さえあればいいのだから。
(ああ、そうか。今がチャンスなのか)
そしてアルバートは気づいたのだ。
エマが気力を喪失しているのが気がかりではあるが、エマが起こしてくれてこの事態は、またとない好機でもあることに。
もし通常の状態なら、元聖女にアルバートたちがなにかしようものならリシャルトが黙ってはいないだろう。
しかしエマから話を聞くに、リシャルトは大怪我を負っているだろうし、下手をしたら命を落としているかも知れない。
それは、アルバートにとってリシャルトの邪魔が入らずに計画を進められる絶好のチャンスだ。
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アルバートは決意を示すように、励ますために繋いでいたエマの手に力を込めた。
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