51 / 75
第4章
44・ニコラスとジェラルドの関係
しおりを挟む私がルチアナ聖王国に落とされて、10日目。
神殿の長い廊下を歩きながら、私ははぁとため息をついた。
未だに元の世界に帰れる見込みがないことも問題なのだが。
それよりも現在の悩みの種は、歩く私の後ろをいつも通りついてくる騎士団長様だった。
ジェラルドから忠誠を捧げられ告白(?)をされたのは、つい昨日のことだ。
結局あの後、私がジェラルドに返事が出来ないままでいるところに、人が通りかかった。
どうやらあの森を抜けた先には別の街があるらしい。そこへ向かう商人が荷馬車を引きながら森の道を通って行った。
その物音に、ジェラルドも私も話を続けにくくなり、帰ることになったのだ。
だから、告白の返事もうやむやのまま。
私はジェラルドと気まずいまま、今日に至る。
なかったことにしたい、とかでは無い。
好意を向けてもらえたことは、とても嬉しい。
だけど、こちらは元の世界に帰らないと行けない身だ。
――どうしたらいいのか分からない。
一日二日で答えが見つかるわけもなく。
とりあえず二人きりになるのは気まずいので、極力人が多い場所に行きたいところだ。
今は昼下がりの時間。廊下の窓からは、澄み渡った空が見える。
気分転換に外の空気でも吸いに行こうか……。
私がエントランスに向かっていると、
「おや、神子様にジェラルド」
「あれ、ニコラス?」
ニコラスが神殿に戻ってきたところだったのか、ばったりと出くわした。
確かニコラスは、朝食を一緒に食べたあと慌ただしく仕事へ向かっていったはずだ。
いつもなら、そのまま夜まで顔を合わすことがないのに今日は珍しい。
「今日はもうお仕事終わったんですか?」
私が近くに駆け寄って尋ねると、ニコラスはええと頷いた。
「先程まで王城の方へ行っていまして。城のシェフからケーキをいただいたんですが、良ければご一緒しませんか?」
そう言って、ニコラスは手に持っていた白い箱を見せてくれる。
ケーキ……!
反射的に目を輝かせてしまった私を見て、ニコラスも、ジェラルドもくすくすと笑った。
「神子様は分かりやすくて良いですね、ジェラルド」
「はい、本当に可愛らしい」
二人の声が優しいから、私は顔を上げられずに白い床を見るしかなかった。
◇◇◇◇◇◇
ニコラスに連れられてやってきたのは、本やら書類やらが雑多に置かれている一室だった。
「散らかっていてすみません。ソファへどうぞ」
ニコラスは食器を探すためか奥へ向かっていく。
どうやらここはニコラスの部屋らしい。
初めて訪れたが、まさに学者の部屋といった感じだ。
部屋の中央奥にある仕事机の上は、雪崩を起こしそうなほど書類が山積みにされている。
「あ、ありがとう」
私が言われた通りにソファへ座ると、程なくしてトレーを持って戻ってきた。
ローテーブルの上に、三人分のケーキとお茶が並べられる。
「ニコラス様、俺の分は結構で――」
「大丈夫ですよ、このケーキは甘さ控えめだと聞いておりますから。ジェラルドもお座りなさい」
ジェラルドの言葉を遮ってニコラスが笑顔で言う。
反論を認めないニコラスの笑みに、ジェラルドも私の隣へ大人しく腰掛けた。
――ジェラルドって、ニコラスには頭が上がらないのかな。
上司と部下という関係だからだろうか。
だが、それにしては距離が近いような?
「どうぞ、召し上がってください」
「い、いただきます」
疑問は感じるものの、ニコラスに勧められたので、ありがたくケーキをいただくことにした。
「あ、おいしい……」
見た目は普通の生クリームでコーティングされたケーキだ。
だけど、なんだか花のような香りがする。初めて食べたが、なかなかおいしい。
そういえば、三人で何かを食べるなんて、これが初めてだ。
ジェラルドはいつも私の後ろに控えているから。
「久しぶりにこのケーキを食べました」
ちらりとジェラルドに視線を向けると、ジェラルドはなんだか懐かしそうにケーキを食べていた。
「それはよかった。シェフもほかの使用人も、あなたに会いたがっていましたよ。たまには帰ってみてはいかがです」
「……それは、遠慮しておきます」
――?
なんだか、二人はよく分からない会話をしている。
もぐもぐとケーキを咀嚼しながら、私は首を捻った。
「……二人って、なにか特別な関係だったりする?」
やっぱり、ジェラルドとニコラスはただの上司と部下のようには思えない。
私が聞くと、ニコラスはからりとした笑顔で言った。
「ああ、ジェラルドは私の元教え子なんですよ」
「教え子っ!?」
驚きすぎて、少し声が大きくなってしまった。
ついニコラスとジェラルドを見比べてしまう。
ジェラルドははぁと息を吐き出して、いたたまれないような様子だった。
「昔、ジェラルドの家庭教師もしていましてね。その時からの付き合いです」
上司と部下であり、先生と教え子という関係でもあったのか……。道理でジェラルドがニコラスに頭が上がらないはずだ。
私が納得していると、ニコラスは何かを思い出したようで「そういえば」と声を上げた。
「先程、王城で陛下とお会いしたのですが……」
この話の流れでどうして陛下を思い出したのか、と一瞬疑問に思ったが、ニコラスの次の言葉にそんな疑問なんてどうでも良くなってしまった。
「神子様にお会いする日程の調整がついたそうで、5日後に陛下が来られるそうですよ」
そういえばそんな話があったっけ!
すっかり忘れていた!
24
あなたにおすすめの小説
喚ばれてないのに異世界召喚されました~不器用な魔王と身代わり少女~
浅海 景
恋愛
一冊の本をきっかけに異世界へと転移してしまった佑那。本来召喚されて現れるはずの救世主だが、誰からも喚ばれていない佑那は賓客として王宮に留まることになった。異世界に慣れてきたある日、魔王が現れ佑那は攫われてしまう。王女の代わりに攫われたと思い込んだ佑那は恩を返すため、身代わりとして振舞おうとする。不器用な魔王と臆病な少女がすれ違いながらも心を通わせていく物語。
【完結】異世界で勇者になりましたが引きこもります
樹結理(きゆり)
恋愛
突然異世界に召還された平々凡々な女子大生。
勇者になれと言われましたが、嫌なので引きこもらせていただきます。
平凡な女子大生で毎日無気力に過ごしていたけど、バイトの帰り道に突然異世界に召還されちゃった!召還された世界は魔法にドラゴンに、漫画やアニメの世界じゃあるまいし!
影のあるイケメンに助けられ、もふもふ銀狼は超絶イケメンで甘々だし、イケメン王子たちにはからかわれるし。
色んなイケメンに囲まれながら頑張って魔法覚えて戦う、無気力女子大生の成長記録。守りたい大事な人たちが出来るまでのお話。
前半恋愛面少なめです。後半糖度高めになっていきます。
※この作品は小説家になろうで完結済みです
【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?
エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。
文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。
そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。
もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。
「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」
......って言われましても、ねぇ?
レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。
お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。
気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!
しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?
恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!?
※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。
引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~
浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。
御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。
「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」
自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。
男装獣師と妖獣ノエル 2~このたび第三騎士団の専属獣師になりました~
百門一新
恋愛
男装の獣師ラビィは『黒大狼のノエル』と暮らしている。彼は、普通の人間には見えない『妖獣』というモノだった。動物と話せる能力を持っている彼女は、幼馴染で副隊長セドリックの兄、総隊長のせいで第三騎士団の専属獣師になることに…!?
「ノエルが他の人にも見えるようになる……?」
総隊長の話を聞いて行動を開始したところ、新たな妖獣との出会いも!
そろそろ我慢もぷっつんしそうな幼馴染の副隊長と、じゃじゃ馬でやんちゃすぎるチビ獣師のラブ。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?
きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。
バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~
スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。
何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。
◇◆◇
作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。
DO NOT REPOST.
男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~
百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。
放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!?
大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる