【完結】W婚約破棄された伯爵令嬢はクーデレ王太子から愛されていることに気づかない

雨宮羽那

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第1章

01・ダブル婚約破棄①

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「はぁ……」
 
 シャンデリアの光が輝く城の大広間の片隅で、私、ソフィリア・ガーランドは盛大なため息を吐き出していた。

 ここ、エルエレリア王城の大広間では、現在多くの貴族が招かれての茶会が開催されている。これは、若い貴族たちが交友を広めたり、情報交換することを目的として、王家が定期的に主催しているものだ。
 ガーランド伯爵家の一人娘である私も招待を受けた。だから私は、婚約者を伴って茶会に参加した。それが通例だからだ。

 しかし、今私の隣には誰もいない。
 周囲の貴族たちが楽しげに歓談している中、私は完全に壁の花状態だった。

「なあ、あそこにいらっしゃるのってガーランド伯爵家の御令嬢だよな」

「久しぶりにお見かけしたけれど、やっぱり『妖精姫』って呼ばれるだけあるな……お美しい」

 ――「妖精姫」……ね。

 ほわほわとしたピンクブロンドの髪と若葉色の瞳。私の容姿を見て、皆は口を揃えて妖精のようだと褒めてくれた。ついたあだ名は「妖精姫」。

 ――昔は嬉しかったんだけど、今はそのあだ名は嬉しくないわ。

 周囲から聞こえてきた呼称に、私は苦笑いを浮かべた。
 それもこれも、今は不在の婚約者に原因がある。
 
「あら、でもどうしてお一人なの? 婚約者の方がいらっしゃったはずよね?」

「さあ……」
  
 ――どうして……って、そんなの私が言いたいわよ!

 先程から、周囲の貴族たちがちらちらと送ってくる好奇の視線が痛い。
 公衆の面前で大声を出すわけにもいかず、私は心の中で叫んだ。
 
 どうしてこんなことになっているのか。その理由はいたって簡単だ。
 城に向かう途中の馬車内で、同伴していた婚約者と口論になったからである。

 私の生家であるガーランド家は伯爵位でこそあるが、数代前の王女様がガーランド伯爵家うちに嫁入りした縁もあって王家との繋がりが深い家柄だ。
 我が家は代々宰相や大臣、騎士として、王家のすぐそばでお仕えしてきた。父は王国騎士団長として現女王陛下にお仕えしているし、私も女王陛下の第五執務補佐官として、日々国のため王家のために働いている。国のために働いていることは私の誇りだ。

 対して婚約者であるシュミット・エディン様は、私の考えとは真逆だ。彼はことあるごとに「さっさと仕事を辞めて家庭に入れ。僕だけの妖精姫になれ」と喚いた。

 だから私は、「妖精姫」と呼ばれるのが苦手なのだ。
 昔は嬉しかったそのあだ名は、いつしか私の行動を縛ろうとするものに変わってしまった。
 シュミット様に「妖精姫」と呼ばれるたびに寒気がする。
 
 ――何が、「僕だけの妖精姫」よ。あなたが求めているのは見た目のいい人形でしょ!

 シュミット様の事を思い出すだけで、なんだかイライラとしてきた。

 元々この縁談は、シュミット様が私の容姿に一目惚れしたらしいことがきっかけで進んだものだった。シュミット様が私に求めているのは見た目だけで、自分の言うことをただおとなしく聞く人形なのだろう。
 しかし、私はおとなしく言うことを聞くような性格をしていなかった。毎回「仕事は辞めない。辞めさせられるなら結婚は絶対にしない」と反論を繰り返すこと数年……。もういい加減私のことは諦めて、婚約破棄してほしいところだ。

 今回も、いつものようにそのことで口論になった。その挙句、シュミット様は城に到着するや否や私を放ってどこかへ行ってしまったのだった。
 そうしてはや一時間が経過しようとしている。

 ――仕方ない……一応探しにいくか……。

 どうせ顔を合わせたところで再び口論になるだけだろうが、このままここにいて貴族たちの不躾な視線に晒され続けるよりはマシだ。シュミット様をさっさと見つけて、一声かけるだけかけて、もう屋敷に帰ろう。一応茶会には顔を出しているわけだから、途中退席したところでガーランド伯爵家の面目を潰すことにはならないだろう。
 そう決めた私は、大広間を抜け出すことにした。

 
 ◇◇◇◇◇◇
 

 ――それにしても見つからないわね……。

 城で働いている関係で、城内の構造にはある程度詳しい。
 城内の立ち入りが許されている区域を一通り探したはずなのだが、シュミット様の姿は見当たらなかった。
 中庭の付近まできてしまったが、茶会が行われている広間からかなり離れているし、流石にここにはいないだろう。
 
 ――これだけ探して見当たらないのだから、もう帰ってもいいわよね? よし。

 帰ると決めたはいいものの、招待されている以上茶会が終わってもいないのに無断で帰るのは失礼だ。
 広間にいる使用人か受付に、帰るむねを伝えてからの方がいいだろう。
 そう考えた私が、一度大広間へ戻ろうと踵を返したその時。

「ああ、美しきマイハニー……。婚約者なんてどうでもいい。君こそが僕の運命の女性だ」

 なにやらキザったらしい男の声が聞こえてきて、私は条件反射のように眉をしかめてしまった。
 芝居がかったような喋り方には、非常に覚えがある。
 この声は、私の婚約者では……?
 
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