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第2章
14・領地視察①
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そうしてやってきた、フェルゼン領への視察の日。
私たちは朝一、王家の所有する4人がけの馬車に乗り込んで、フェルゼン領を目指していた。
馬車の前後には、私たちを守るために同行している護衛騎士たちが馬に乗って移動中も警護してくれている。
「いやぁ、楽しみですね! 俺、フェルゼン領へ行くの初めてなんですよ!」
王都から少し北に離れたフェルゼン領までは、片道3時間弱はかかる。
ちょっとした旅だ。
私の隣に座るエリオットは、外での仕事に浮かれているのかいつもよりもテンションが高い。
見た目はいい歳をした青年だと言うのに、エリオットはまるで子どものように馬車の窓を流れる景色を眺めていた。
私の向かいに座るウィリアム様はいつも通り。
長い足を組み頬杖をついた姿勢で、ぼんやりと窓の外を眺めている。
ふと、ウィリアム様が私の方を向いた。
「君は、フェルゼン領へは行ったことがあるの?」
「ええ、父に連れられて一度」
私はウィリアム様の問いに頷きを返した。
フェルゼン領は、父の元同僚の騎士だったフェルゼン子爵様が治める土地だ。
数年前に一度、父に同行して挨拶に伺ったことがあった。
――それにしても、ウィリアム様……。少しは私に興味をもってくれているのかしら。
最近ウィリアム様は、私に声をかけてくれることが増えたように思う。
内容は他愛もないことかもしれない。仕事の事だったり、今みたいな軽い質問。
それでも、対人関係への興味が薄いウィリアム様が、少しでも私に興味をもってくれているなら嬉しい。
「君の父って……」
「私の父は、王国騎士団団長、アーウィン・ガーランドです」
「……ああ、なるほど。君が俺の執務補佐官になる前日に騎士団長が俺の部屋へやってきて、『娘をよろしくお願いしますぞ』とかなんとか握手をしてきたのはそのせいだったのか」
「お父様!?」
――本当にうちの父は何してるの!?
父が私のことを心配してくれているのは分かっているけれど、お願いだから私のあずかり知らぬところであれこれ勝手に動かないで欲しい!
内心頭を抱えていると、ウィリアム様がふっと鼻で笑う気配がした。
「良い父親だな」
「……ありがとうございます」
父をほめてもらったのは嬉しいのだけれど、いたたまれない……。
◇◇◇◇◇◇
フェルゼン領へたどり着くと、領主であるフェルゼン子爵様が出迎えてくれた。
フェルゼン子爵様は、眼鏡をかけた優しそうな壮年の男性だ。
父から聞いた話だが、かつて騎士団に所属していたフェルゼン様は、家督に専念するために引退したらしい。
「ようこそいらっしゃいました。王太子殿下、エリオット様、それから……」
フェルゼン子爵様は、ウィリアム様、エリオットへと順に視線を移し、私を見つけてぱちくりと瞬きを繰り返した。
「ソフィリア様?」
「お久しぶりでございます、フェルゼン子爵様」
私はドレスの裾を引いて、フェルゼン様に向けて挨拶をした。
「お久しぶりですねぇ、また一段とお綺麗になられて! お父上のアーウィン様はご健勝で在られますか?」
「ええ。とても元気ですよ。まだまだ第一線で団長を務めております」
――うちの父は元気すぎるほどだわ。
この間のシュミット様の一件で、怒り狂って大剣を持ち出そうとした父の姿が一瞬私の脳裏をよぎる。
父が元気なのはいいことなのだけれど、振り回され気味な家族としては苦笑してしまう。
「ああ、また団長にもお会いしたいですなぁ……」
フェルゼン様は、過去を懐かしむように遠くを見つめていた。
「そういえば、以前お会いした際はソフィリア様のご婚約が決まったばかりの頃でございましたね。その後はいかがですか?」
まさかその話題をフェルゼン様から振られるとは思っていなかった。
私は完全に虚を突かれてしまって、一瞬言葉が出なくなってしまう。
「……申し訳ございません。いろいろとありまして、婚約は……」
「! 立ち入ったことを申しました」
私が苦々しく返答すると、フェルゼン様は最後まで言葉にしなくても察してくれたらしい。
フェルゼン様は私から意図的に視線を外し、ウィリアム様とエリオットへ笑顔を向けた。
「さて、皆様方の滞在は短い時間とは存じておりますが、是非、ごゆっくりして行ってくださいね」
フェルゼン様が察しの良い方で助かった。若干無理やりではあるが話を逸らしてくれたようでほっとする。
私と同日同じ場所で婚約破棄されているウィリアム様の手前、その話を蒸し返されるのは気まずいものがある。
「簡単にではありますが、我が領地をご案内いたします」
「ああ、頼んだ」
フェルゼン様の案内の元、私たちは領地内を回ることになった、のだが……。
――ウィリアム様の視線が痛い。
「…………」
ウィリアム様が、無表情のまま私の方へ視線を送ってきていた。
私たちは朝一、王家の所有する4人がけの馬車に乗り込んで、フェルゼン領を目指していた。
馬車の前後には、私たちを守るために同行している護衛騎士たちが馬に乗って移動中も警護してくれている。
「いやぁ、楽しみですね! 俺、フェルゼン領へ行くの初めてなんですよ!」
王都から少し北に離れたフェルゼン領までは、片道3時間弱はかかる。
ちょっとした旅だ。
私の隣に座るエリオットは、外での仕事に浮かれているのかいつもよりもテンションが高い。
見た目はいい歳をした青年だと言うのに、エリオットはまるで子どものように馬車の窓を流れる景色を眺めていた。
私の向かいに座るウィリアム様はいつも通り。
長い足を組み頬杖をついた姿勢で、ぼんやりと窓の外を眺めている。
ふと、ウィリアム様が私の方を向いた。
「君は、フェルゼン領へは行ったことがあるの?」
「ええ、父に連れられて一度」
私はウィリアム様の問いに頷きを返した。
フェルゼン領は、父の元同僚の騎士だったフェルゼン子爵様が治める土地だ。
数年前に一度、父に同行して挨拶に伺ったことがあった。
――それにしても、ウィリアム様……。少しは私に興味をもってくれているのかしら。
最近ウィリアム様は、私に声をかけてくれることが増えたように思う。
内容は他愛もないことかもしれない。仕事の事だったり、今みたいな軽い質問。
それでも、対人関係への興味が薄いウィリアム様が、少しでも私に興味をもってくれているなら嬉しい。
「君の父って……」
「私の父は、王国騎士団団長、アーウィン・ガーランドです」
「……ああ、なるほど。君が俺の執務補佐官になる前日に騎士団長が俺の部屋へやってきて、『娘をよろしくお願いしますぞ』とかなんとか握手をしてきたのはそのせいだったのか」
「お父様!?」
――本当にうちの父は何してるの!?
父が私のことを心配してくれているのは分かっているけれど、お願いだから私のあずかり知らぬところであれこれ勝手に動かないで欲しい!
内心頭を抱えていると、ウィリアム様がふっと鼻で笑う気配がした。
「良い父親だな」
「……ありがとうございます」
父をほめてもらったのは嬉しいのだけれど、いたたまれない……。
◇◇◇◇◇◇
フェルゼン領へたどり着くと、領主であるフェルゼン子爵様が出迎えてくれた。
フェルゼン子爵様は、眼鏡をかけた優しそうな壮年の男性だ。
父から聞いた話だが、かつて騎士団に所属していたフェルゼン様は、家督に専念するために引退したらしい。
「ようこそいらっしゃいました。王太子殿下、エリオット様、それから……」
フェルゼン子爵様は、ウィリアム様、エリオットへと順に視線を移し、私を見つけてぱちくりと瞬きを繰り返した。
「ソフィリア様?」
「お久しぶりでございます、フェルゼン子爵様」
私はドレスの裾を引いて、フェルゼン様に向けて挨拶をした。
「お久しぶりですねぇ、また一段とお綺麗になられて! お父上のアーウィン様はご健勝で在られますか?」
「ええ。とても元気ですよ。まだまだ第一線で団長を務めております」
――うちの父は元気すぎるほどだわ。
この間のシュミット様の一件で、怒り狂って大剣を持ち出そうとした父の姿が一瞬私の脳裏をよぎる。
父が元気なのはいいことなのだけれど、振り回され気味な家族としては苦笑してしまう。
「ああ、また団長にもお会いしたいですなぁ……」
フェルゼン様は、過去を懐かしむように遠くを見つめていた。
「そういえば、以前お会いした際はソフィリア様のご婚約が決まったばかりの頃でございましたね。その後はいかがですか?」
まさかその話題をフェルゼン様から振られるとは思っていなかった。
私は完全に虚を突かれてしまって、一瞬言葉が出なくなってしまう。
「……申し訳ございません。いろいろとありまして、婚約は……」
「! 立ち入ったことを申しました」
私が苦々しく返答すると、フェルゼン様は最後まで言葉にしなくても察してくれたらしい。
フェルゼン様は私から意図的に視線を外し、ウィリアム様とエリオットへ笑顔を向けた。
「さて、皆様方の滞在は短い時間とは存じておりますが、是非、ごゆっくりして行ってくださいね」
フェルゼン様が察しの良い方で助かった。若干無理やりではあるが話を逸らしてくれたようでほっとする。
私と同日同じ場所で婚約破棄されているウィリアム様の手前、その話を蒸し返されるのは気まずいものがある。
「簡単にではありますが、我が領地をご案内いたします」
「ああ、頼んだ」
フェルゼン様の案内の元、私たちは領地内を回ることになった、のだが……。
――ウィリアム様の視線が痛い。
「…………」
ウィリアム様が、無表情のまま私の方へ視線を送ってきていた。
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