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第2章
19・ばったり
しおりを挟む――陛下ったら、どうしてこの道から帰るように指定したのかしら。
陛下と別れたあと、私は指示された通りに城の裏手へ続く道を進んでいた。
別にこの道を通ったからといって、帰れないわけではない。城のまわりを一周するような形になるため、ただただ遠回りになるだけだ。
庭園で催し物などが行われれば、関係者以外が入り込まないようにと封鎖されるような裏道。仕事で城への出入りを毎日のようにしている私でも、ほとんど使ったことは無かった。
――この先って確か……。
この先には、城の関係者が使う場所しかないはずだ。
騎士団庁舎であったり、厩であったり、庭師の用具小屋であったり。
執務補佐官として働く私にとっては、なかなか縁遠い場所だ。
ぼんやり考えながら歩いていると、何かを打ち合うような音が聞こえてきた。
――もしかして、この先は鍛錬場?
そのまま進んでいくと私が思った通り、開けた空間が現れる。
もしかしたら、騎士団員が鍛錬をしているのかもしれない。
――こんな姿で通りかかるなんて、場違いにもほどがあるわ。
いつもの執務用のシンプルなドレスならともかく、今の私は社交用のドレス姿だ。
こんな格好で割り込んで、騎士たちの鍛錬の邪魔はしたくない。
さっさと通り抜けようとしたのだが、鍛錬場の中に思わぬ人物の姿を見つけてしまって、私はつい足を止めてしまった。
――ウィリアム様!?
遠目からでも見間違いようがない。
動きに合わせて揺れる金の髪。夕日を浴びているせいか、ウィリアム様の金の髪がいつもよりも輝いて見える。
鍛錬場で壮年の騎士と思われる男性を相手に剣を打ち合っているのは、紛れもなくウィリアム殿下その人だった。
「さすがは殿下。また腕をあげられましたか?」
ウィリアム様は表情一つ変えず、軽やかに身を翻して騎士の攻撃を避けている。
普段執務室で仕事をしているウィリアム様しか見た事がない私にとって、新鮮な姿だ。
――すごい……。
剣の知識は大してなく、父の鍛錬をたまに見るレベルの私でも、圧倒されてしまった。
片手に細身の長剣を携えたウィリアム様の動きはとても鮮やかだ。次から次へと放たれる騎士の剣をひらりひらりと避け、時には打ち払う。
勝つために戦うのではなく、どちらかと言えば自分の身を守るための戦い方だ。
しばらく二人は鍛錬をしていた様子だったが、やがて終わったのか、ウィリアム様は剣を鞘に収めた。
騎士も剣を収め、一歩下がる。
「それではお疲れ様でございました」
鍛錬をしていた剣の指南役の騎士がウィリアム様へ一礼をして去っていく。
ウィリアム様はそれを見送ってから、くるりと後ろを振り返った。
――あ。
ぱちりと。
振り返ったウィリアム様と、ぼんやり鍛錬に見入っていた私の瞳がかち合う。
「君は……あの時の」
ウィリアム様は私の姿を見て、セレストブルーの瞳をわずかに見開いた。
そのままこちらの方へ近づいてくる。
「え、あ……」
――どうしよう……!
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