ステージの裏側

二合 富由美(ふあい ふゆみ)

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08 誘拐

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 テレビでは、今日もニューフェイスの活躍を報道していた。
 ニューフェイスの五人を迎え、流血の無い範囲でテレビでも戦闘の状況が流されている。

「僕は、大きくなったらニューフェイスになるんだぁ」
「クーちゃんには難しいかも知れないわね。クーちゃんの子供はニューフェイスに成れるかも知れないけど」
「嫌だ!絶対にニューフェイスになるんだい!」
「親の言うことが聞けない悪い子がニューフェイスになれるとは思わないけどねぇ」
「だって、だって、」

 テレビを見ていた子供を、母親がなだめていた。
 実際には、どんなに願っても努力しても、掴めない夢はある。
 先天的な差異が無くとも人は環境が違い、努力しているのは自分だけではないからだ。
 『諦めなければ夢は叶う』と叫ぶ企業に踊らされ、他人の事など考えないエゴイストや知能が低いものほど、競争して他者を不幸にしていく。

 テレビの報道は続く。

「これで、行方不明者の救出7件、誘拐の阻止5件と大活躍のニューフェイスですが、実はこちらの山梨 貴子さんの父親である、山梨 淳一郎博士も誘拐されたそうですね?」
「そうなんです。実に残念ですが、相手は複数の同時誘拐を行ないだして、我々五人だけでは完全阻止が難しくなってきました。犯人達は組織力を使って我々に対抗しようとしています」

  司会者の質問に、狭山 暁が答えた。
 組織犯罪ならば当然の成り行きだと言える。
 犯罪者側に人手が足りないのでなければ、テレビの様に一人のヒーローに一件の事件など、現実には有り得ないのだ。

「私としては、父の安否が心配ですが、誘拐されて心配なのは皆さんも同じ。いくらニューフェイスと言えども身内を優先するわけにはいきませんから」

 山梨 貴子が、暗い表情で心情を告げた。

「山梨博士は、生命工学。特に遺伝子組み替えの第一人者で、ニューフェイス計画実践者の一人でもあります。このままでは、日本のニューフェイス計画は大打撃を受けるでしょう」

 司会者が、山梨博士のプロフィールを簡単に説明する。

「日本のニューフェイス計画は、いまだ試験運用の状態です。日本でニューフェイスを作らないと決まれば、父の価値は高くないでしょう。それに、救出の優先順位は、我々が決めている訳ではありませんから」
「ニューフェイスは、あくまで警察の支援と言うのが法的な制約でしたね」

 貴子は、ニューフェイスの現状を語り、司会者が彼等の不自由さを告げた。

「仮に日本でニューフェイスを作らないと決めても、高い日本の技術を欲しがる者は、誘拐を辞めないでしょう」
「確かに、それは言えるでしょうね。それに誘拐犯は海外のニューフェイスとの情報があります。実際に現行の警察。いや、人間では対応が難しいでしょうね」

 暁の判断に、司会者は同意する。
 実際に過去の日本では、隣国が日本国民を拉致した歴史が実在する。
 今回の誘拐は国外への拉致は成功していないのだが、それは漁船で海外へ連れ出そうとした者を、海上保安庁と協力して優先的に救助したからでもある。
 技術者達に埋め込まれた発信器は、ニューフェイスが開発したもので、存在も電波も感知されにくいものらしい。

 これらの報道は明確なプロバガンダたが、筋道は通っており否定はできない。



 話題の山梨博士は、暗い部屋で椅子に縛り付けられている。
 彼の目前にはテレビモニターが有り、先の報道がながされていた。

「貴子ちゃんの御父様は、見捨てられた様だな?」

 ニュース画面が【Sound Only】という表示に切り替わり、男の声が流れた。

「誰だ?どうやって私を!」

 博士の記憶では、有人タクシーに乗って寝落ちした感覚だった。確かに、ハードな仕事が続いてはいたが。

「俺が分からないとは悲しいね。タクシーの運転手を脅迫してガスを使ったのだ。家族を誘拐された彼を責めないでやってくれ」

 モニターの表示が変わり、液体に半身を浮かべる奇怪な姿が浮かび上がった。
 頭は山羊、身体は人間で黒い翼が有り、下半身は太い蛇の姿だ。

「まさか、666号か?」
「正式には【実験体2666号】だよ御父さん。番号が特殊だからって面白半分に作られた、貴方の息子の一人だよ」

 山梨火博士は顔を歪めた。

「嘘だ!生きている筈がない!画像合成してるのは、当時の研究者の誰かだな?顔を見せろ!」

 今時は、3D映像をAIで動かす事など雑作もない。

「そう思うだろうな?生命力重視で作られたとは言え、廃棄区画に落とされては、飢え死ぬのが普通だからな。だが、兄弟達の死体を喰って粘っていたら、意外な天使が現れたのさ」

 モニターの背後の壁が開き、ガラスの水槽が現れた。
 中にはモニターに映っていたモンスターが、確かに居たのだ。

「馬鹿な!生きていたのか?」

 身体の各所には生命維持装置らしき物が食い込み、ケーブルやチューブが外の機械と繋がっている。

「同じ貴方の子供なのに、彼女とは扱いが違い過ぎないかねぇ?やはり息子達より娘の方が可愛いのかね?」

 当時の実験体は、博士の細胞を遺伝子組み替えして実験していたので、全てが【男性】だった。

「だが、見捨てられた俺達を天使であるルシファー様は助けて下さり、日本人への復讐の機会を与えて下さった。御父さんには、その手伝いを頼みたい」
「【ルシファー】?凝った偽名だが、外国のスパイだろう?誰が協力なんかするものか!」

 既にニューフェイス計画は、彼が居なくとも大丈夫な様に、博士は仲間や貴子達に情報共有していた。
 山梨博士が死んでも、今後に支障はない様にしてあったのだ。

「断っても良いのか?俺が生きていると言うことは、例の研究所の記録もサルベージされているという事だぜ」

 モニターには、手書きのドキュメントや、実験の記録映像が写し出された。

「こんな物を掘り出して、脅す気か?」
「そうだよ、御父さん。ニューフェイスの基礎理論が、違法で残酷な人体実験の成果だと知れれば、日本のニューフェイス計画は頓挫か一新されるだろう。勿論だが御父さんも牢獄入りになる。貴子達も無事では済まない。それでも嫌がるなら麻薬を使うだけだが」
「・・・・・・・」

 山梨博士の顔が歪む。

 数多くの実験や失敗無くして、完成品は生まれない。
 国連での承認以前から研究をしていなければ、抜きん出る事は不可能だったろうし、その方法が合法的なものとは限らない。
 外国が日本の技術を欲しがる理由も、その先進技術に有るのだ。

「私に何をさせたいんだ?」

 それに、麻薬を使われて禁断症状に苦しんで協力させられるのも、ゾッとしない。

「話が早いじゃないか?お母さんの復活だよ。研究所から持ち出して調べ、複製を試みたんだけど、上手くいかなくてね?」
「【御母さん】?お前達に母親は居ないぞ」

 受精卵に遺伝子組み替えを施し、母親の子宮で育てた貴子達とは違い、実験体はクローンを遺伝子組み替えしたものだったので、山梨博士の遺伝子が元になっている。

「分からないかなぁ?人工子宮だよ、俺達を作るのに使った。コレも違法な物だが今さらだろう?牛や大型犬を使って兵士を作ってはみたが、どうも制限が多くて使いものに成るのが産み出せなくてね」

 極端に遺伝子が違う物は、子宮と言えども拒否反応を示す。
 その点、機械である人工子宮には拒否反応が無い。
 だがコレも、女性の人件を侵害するものとして、国際的に違法扱いになっている。

「なぁに。当時の関係者は全員口を塞いであるし、同じ様な技術が海外で開発されていたとしても、昨今では不思議じゃないだろう?」
「やはり、お前達の仕業だったのか?」

 実験体の研究を知る者の多くが、誘拐や失踪、事故死している事が、誘拐事件発生後の調査で山梨博士の耳にも入っていた。

「最終的には私も殺すのか?」
「ルシファー様と我々の目的が、情報の収集と、現在の日本人を殲滅する事だからねぇ。肉体と名誉も死ぬか?名誉は残って肉体だけ死ぬか?好きな方を選べば良いよ、御父さん」

 山梨博士は、発信器を埋め込んでいる。
 時間さえ稼げば、ニューフェイスが救出してくれる可能性がある。

「近隣国の征服利益と、お前達を産み出した日本への復讐が目的なんだな?選択肢は少ないが、科学者はプライドが高いんだよ。せめて名声くらいは残したいもんだ」
「不肖の息子の為に親らしい事をするのも悪くないだろ?」

 実験体2666は、壁の向こうに姿を消し、犬顔の兵士達が数人現れた。

「使いものに成らないとか言って、なかなか知能が有るじゃないか?」
「ワレワレハ、AIノバックアップヲウケテ、コウドウシテイル」
「コンピュータと動物脳を繋いだのか?私の技術だけじゃないって訳か」

 山梨博士は兵士達に連れられて、研究室へと引き摺られていった。
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