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二章
4、抱っこ【2】
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「今日一日、ちゃんと寝とったんやなぁ。えらい、えらい」
父さんはそう言いながら、大きな手が欧之丞の小さい頭を撫でる。
ぼくは「うへー、かわいそうに」と思いながら、口をへの字にした。
父さんは声もでかければ、力も強いから。頭がもげそうになるんや。
せやのに、欧之丞はまるで撫でられとう子猫みたいに目を細めて、笑顔を浮かべとった。
少し身をよじって、父さんの方を向き。そして着物の衿の辺りにしがみつくんや。
「あら」と母さんは微笑んでいる。
「欧之丞。まだ寝ぼけとんか?」
「んーん。蒼一郎おじさんのだっこ、すき」
「そ、そうか」
当の父さんはというと、自分で抱っこしたくせに頬を染める始末や。
照れるくらいなら、せんかったらええのに。
でもまぁ、父さんもうれしいんやろな。
「坊。私にも懐いてくれてええんですよ」と、波多野が少しばかり寂しそうに言った。
欧之丞は素直で(まぁ、素直すぎてぼくの寝相に文句を言うけど)ちょっと横柄なとこがあるけど。
ほんまはこの子、愛されるために生まれてきたんやなぁ、と思う時がある。
もし……もしもぼくが高瀬の家に生まれとったら。
大人相手にも口ごたえはするし、相手の急所は遠慮なくえぐるし。そんな子どもやから、とっくにあの家の母親に殺されとったやろな。
結局、欧之丞は父さんの膝に座ったまま夕ご飯を食べた。
父さんはにこにこしながら、欧之丞が玉子豆腐を匙ですくって食べるのを眺めている。
ほんまの親子みたいや。
というか、ぼくが父さんにちゃんと甘えてあげへんからなぁ。
でもなぁ。父さんの愛情ってしつこいし、重たいねん。
帰宅したら、時々母さんを抱きしめて頬ずりして。
「痛いです、ほっぺたが痛いですって」って母さんが言うのに、逃がさへんからなぁ。
そんな時ぼくは襖の陰に隠れて「ごめん、母さん。人身御供になって」と、なむなむと手を合わせるんや。
えーっ。ぼくも大人になったら父さんみたいに、夕方には伸びかけたひげがチクチクするんやろか。
いややなぁ。
ん? でも待てよ。母さんと欧之丞を、父さんのほっぺたすりすりに差し出せば。ぼくはうまいこと逃げれるんとちゃうやろか。
母さんと欧之丞に、まず「おかえりなさーい」って、玄関に向かわせるねん。
あの二人は父さんのこと大好きやから、いそいそと出迎えるやろ。
そしたら父さんはうれしがって、両手に二人を抱きしめて、すりすりするやろ?
その間、ぼくは隠れとこ。
「厠に行っててん」とか嘘ついて、後で手を拭きながら出てきたらええわ。
その頃には、父さんも家族に甘えたい気分が収まっとうやろ。
うん、ええ考えや。
「琥太郎さん。悪人顔ですよ」
「え?」
母さんに指摘されて、ぼくは自分の顔を撫でた。いや、そんなんしても表情は分からへんのやけど。
「こたにい、何かんがえてたんだ?」
「いや、別に」
匙をしっかりと握りしめて、父さんの膝に座る欧之丞が身を乗り出してくる。
言えるわけないやん。君は生贄やねんで、とか。
「まぁ、良からぬことやろうな」
もーぉ、一生懸命計画立ててんのやから。邪魔せんといてほしいわ。
ひとくち齧った西瓜は、手で防ぎきれんかった塩の部分やったらしくて、妙にしょっぱかった。
父さんはそう言いながら、大きな手が欧之丞の小さい頭を撫でる。
ぼくは「うへー、かわいそうに」と思いながら、口をへの字にした。
父さんは声もでかければ、力も強いから。頭がもげそうになるんや。
せやのに、欧之丞はまるで撫でられとう子猫みたいに目を細めて、笑顔を浮かべとった。
少し身をよじって、父さんの方を向き。そして着物の衿の辺りにしがみつくんや。
「あら」と母さんは微笑んでいる。
「欧之丞。まだ寝ぼけとんか?」
「んーん。蒼一郎おじさんのだっこ、すき」
「そ、そうか」
当の父さんはというと、自分で抱っこしたくせに頬を染める始末や。
照れるくらいなら、せんかったらええのに。
でもまぁ、父さんもうれしいんやろな。
「坊。私にも懐いてくれてええんですよ」と、波多野が少しばかり寂しそうに言った。
欧之丞は素直で(まぁ、素直すぎてぼくの寝相に文句を言うけど)ちょっと横柄なとこがあるけど。
ほんまはこの子、愛されるために生まれてきたんやなぁ、と思う時がある。
もし……もしもぼくが高瀬の家に生まれとったら。
大人相手にも口ごたえはするし、相手の急所は遠慮なくえぐるし。そんな子どもやから、とっくにあの家の母親に殺されとったやろな。
結局、欧之丞は父さんの膝に座ったまま夕ご飯を食べた。
父さんはにこにこしながら、欧之丞が玉子豆腐を匙ですくって食べるのを眺めている。
ほんまの親子みたいや。
というか、ぼくが父さんにちゃんと甘えてあげへんからなぁ。
でもなぁ。父さんの愛情ってしつこいし、重たいねん。
帰宅したら、時々母さんを抱きしめて頬ずりして。
「痛いです、ほっぺたが痛いですって」って母さんが言うのに、逃がさへんからなぁ。
そんな時ぼくは襖の陰に隠れて「ごめん、母さん。人身御供になって」と、なむなむと手を合わせるんや。
えーっ。ぼくも大人になったら父さんみたいに、夕方には伸びかけたひげがチクチクするんやろか。
いややなぁ。
ん? でも待てよ。母さんと欧之丞を、父さんのほっぺたすりすりに差し出せば。ぼくはうまいこと逃げれるんとちゃうやろか。
母さんと欧之丞に、まず「おかえりなさーい」って、玄関に向かわせるねん。
あの二人は父さんのこと大好きやから、いそいそと出迎えるやろ。
そしたら父さんはうれしがって、両手に二人を抱きしめて、すりすりするやろ?
その間、ぼくは隠れとこ。
「厠に行っててん」とか嘘ついて、後で手を拭きながら出てきたらええわ。
その頃には、父さんも家族に甘えたい気分が収まっとうやろ。
うん、ええ考えや。
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「え?」
母さんに指摘されて、ぼくは自分の顔を撫でた。いや、そんなんしても表情は分からへんのやけど。
「こたにい、何かんがえてたんだ?」
「いや、別に」
匙をしっかりと握りしめて、父さんの膝に座る欧之丞が身を乗り出してくる。
言えるわけないやん。君は生贄やねんで、とか。
「まぁ、良からぬことやろうな」
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