69 / 103
三章
20、裏切れない
しおりを挟む
欧之丞に手を引っ張られた母さんに袖を引っ張られて、ぼくまで座敷に戻る羽目になった。
縁側では父さんが「三人で何しとん?」と首を傾げとう。
「蒼一郎おじさんも、するの」
「へ? まぁええけど。俺は何をしたらええん?」
もちろん、きらきらの笑顔で誘われて。父さんは内容を確認もせずに欧之丞に返事した。
あかんやん。相手がいくら子どもでも、ちゃんと話を聞いてから承諾せな。
父さん普段から「簡単に何でも『はい』って言うたらあかんで」って、よう言うとうやん。
「ところで絲さん、何で欧之丞に引っ張られとん? それから何で琥太郎を引っ張っとん?」
「まぁ、いろいろとありまして」
「ぼく、もっと走るん練習せなあかんと思た」
母さんとぼくはぽつりと呟いた。
そうや。いざという土壇場になってようやく、自分の苦手なことを先延ばしにしとったことを後悔するねん。
子どものぼくが言うのもなんやけど、母さんは鈍足……あー、足が遅いから。きっとぼくが本気で走ったら追いつかれへんと思う。
うん、門の外まで逃げきって神社の境内に隠れとったらいけるはずや。
次の機会があったら、そうしよ。
ごめんな、母さん。ぼくは母さんを生贄にして、欧之丞から逃げるわ。
「琥太郎さん? 何を考えているの?」
「な、なーんも考えてへんで」
ぼくの前で母さんがしゃがみこんで、じーっと顔を覗きこんでくる。
欧之丞は父さんに抱えられて、そのまま縁側に上がった。
「うわ、草履も履かんと庭に降りたんか。欧之丞はやんちゃやなぁ」
ああ、母さん、父さんらの方に気を逸らしてくれへんかなぁ。
そんな願いも虚しく、ぼくはまっすぐに見つめられた。次は母さんを見捨てようと思ったことが、ほんまに申し訳なくなって。耐え切れずに視線を逸らす。
「琥太郎さん?」
どうしよう。もし今度ぼくが母さんを見捨てて、そのせいで母さんが心を病んでしもたら。
――ええ、琥太郎さんに裏切られただけです。でもいいの。子どもの踏み台にされただけですもの。子どもってそうやって大きくなるものなのでしょう?
しくしくとすすり泣きながら、着物の袖で涙をぬぐう母さんの姿が脳裏をよぎった。
う、ううっ。ぼくが母さんを泣かせたんや。ぼくが母さんを人身御供にして逃げたから。
はらはらと涙がこぼれて、握りしめた手の甲に落ちた。
そう、ぼくは繊細で、想像力の豊かな子ぉやねん。
「反省しているのなら、いいですよ」
ぼくが何も言わん内に、一言も発しない内に、母さんは納得したらしい。
「ごめんなさい、母さん。ぼくも食べるから」
「ええ、ええ。一蓮托生ですよ」
ぎゅっと抱きしめられて、なんかほんまに心中するような気分になったけど。
多分、死ぬほどまずいことはないやろ。烏瓜。
一応は果実やもんな。
「自分ら、ほんまに何しとん」
欧之丞を抱っこしたまま、父さんは怪訝な顔をしとう。
その善意の塊の悪の張本人は、父さんの腕からするりと抜けて、床に飛び降りた。
そして畳の上に座布団を並べたと思うと、廊下をぱたぱたと走ってどこかへ行ってしもた。
縁側では父さんが「三人で何しとん?」と首を傾げとう。
「蒼一郎おじさんも、するの」
「へ? まぁええけど。俺は何をしたらええん?」
もちろん、きらきらの笑顔で誘われて。父さんは内容を確認もせずに欧之丞に返事した。
あかんやん。相手がいくら子どもでも、ちゃんと話を聞いてから承諾せな。
父さん普段から「簡単に何でも『はい』って言うたらあかんで」って、よう言うとうやん。
「ところで絲さん、何で欧之丞に引っ張られとん? それから何で琥太郎を引っ張っとん?」
「まぁ、いろいろとありまして」
「ぼく、もっと走るん練習せなあかんと思た」
母さんとぼくはぽつりと呟いた。
そうや。いざという土壇場になってようやく、自分の苦手なことを先延ばしにしとったことを後悔するねん。
子どものぼくが言うのもなんやけど、母さんは鈍足……あー、足が遅いから。きっとぼくが本気で走ったら追いつかれへんと思う。
うん、門の外まで逃げきって神社の境内に隠れとったらいけるはずや。
次の機会があったら、そうしよ。
ごめんな、母さん。ぼくは母さんを生贄にして、欧之丞から逃げるわ。
「琥太郎さん? 何を考えているの?」
「な、なーんも考えてへんで」
ぼくの前で母さんがしゃがみこんで、じーっと顔を覗きこんでくる。
欧之丞は父さんに抱えられて、そのまま縁側に上がった。
「うわ、草履も履かんと庭に降りたんか。欧之丞はやんちゃやなぁ」
ああ、母さん、父さんらの方に気を逸らしてくれへんかなぁ。
そんな願いも虚しく、ぼくはまっすぐに見つめられた。次は母さんを見捨てようと思ったことが、ほんまに申し訳なくなって。耐え切れずに視線を逸らす。
「琥太郎さん?」
どうしよう。もし今度ぼくが母さんを見捨てて、そのせいで母さんが心を病んでしもたら。
――ええ、琥太郎さんに裏切られただけです。でもいいの。子どもの踏み台にされただけですもの。子どもってそうやって大きくなるものなのでしょう?
しくしくとすすり泣きながら、着物の袖で涙をぬぐう母さんの姿が脳裏をよぎった。
う、ううっ。ぼくが母さんを泣かせたんや。ぼくが母さんを人身御供にして逃げたから。
はらはらと涙がこぼれて、握りしめた手の甲に落ちた。
そう、ぼくは繊細で、想像力の豊かな子ぉやねん。
「反省しているのなら、いいですよ」
ぼくが何も言わん内に、一言も発しない内に、母さんは納得したらしい。
「ごめんなさい、母さん。ぼくも食べるから」
「ええ、ええ。一蓮托生ですよ」
ぎゅっと抱きしめられて、なんかほんまに心中するような気分になったけど。
多分、死ぬほどまずいことはないやろ。烏瓜。
一応は果実やもんな。
「自分ら、ほんまに何しとん」
欧之丞を抱っこしたまま、父さんは怪訝な顔をしとう。
その善意の塊の悪の張本人は、父さんの腕からするりと抜けて、床に飛び降りた。
そして畳の上に座布団を並べたと思うと、廊下をぱたぱたと走ってどこかへ行ってしもた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる