1 / 122
序章
01 この世界は乙女ゲーム①
しおりを挟む
「ふぁっ⁉︎」
貴族街へと続く坂道の途中に、薄紅色のわたあめが浮いている。
近づいてみてはじめて、それが空飛ぶわたあめではなく、花をつけた木なのだとわかった。
「サクラだ……」
薄紅色のわたあめのような木を見た瞬間、ペリーウィンクルの脳裏にさまざまな映像が流れる。
そして、彼女は理解した。
「あ、これって乙女ゲーだ」
恋の花をあなたへ。通称、コイバナ。
この世界は女性向け恋愛ゲーム、つまり乙女ゲームの世界だった。
舞台は、島国・ヴィヴァルディ。
その中には小さな国が五つ。春の国、夏の国、秋の国、冬の国、そして中央の国。
四季の国には人間が、中央の国には妖精が暮らしている。
春の国の田舎娘であるヒロインは、ひょんなことからひだまりの妖精──黄色の実にウサギ耳が生えたみたいな頭、多肉植物みたいなぷっくりとした体を持つ生き物──に気に入られて、契約を結んでしまう。
妖精との契約。
それは、妖精の頼みを聞く代わりに、契約者は頼みを聞いてもらえるようになるというものである。
ゆるキャラのようなかわいい見た目に騙されるが、妖精の力は人の手に余るものだ。
契約した妖精の力次第ではあるが、大昔には一国を消滅させたこともあるのだとか。
それ故に、妖精と契約した者は、中央の国にある妖精使い養成学校・スルスへ通うことが義務付けられている。
そこでヒロインは妖精使いになるための勉強をしつつ、同じ境遇のすてきな男性と出会い、恋に落ちるのだ。
箱庭系乙女ゲームと銘打ったコイバナは、メインパートと箱庭パートに分かれている。
メインパートではストーリーを楽しみ、箱庭パートでは与えられた小さな庭で草花を育て、育った草花を意中の相手へ贈り、好感度を上げる。
好感度が上がれば、ストーリーの糖度が上がる、というわけだ。
攻略キャラクターへ贈る花はもちろん、なんでも良いわけじゃない。
それぞれの好みに合わせて、そして高品質のものを育てないといけないのだ。
攻略キャラクターは皆、良家のお坊ちゃん。見る目は持っている、ということなのだろう。
うっかり低品質なものを渡してしまうと、ヒロインへの好感度が下がり、それぞれの攻略キャラクターに用意されているライバルキャラクターならぬ悪役令嬢の好感度が上がってしまう。
プレイヤーの中には、すべてのイベントを堪能するため、攻略キャラクターと悪役令嬢のスチル見たさに、わざと好感度を下げるガチ勢もいた。
さらに、庭をコーディネートして攻略キャラクター好みにすると、たまに遊びに来てくれるようになる。
そしてもっと仲良くなると、庭に飾るための可愛らしいインテリアをプレゼントしてくれたり、特別なイベントが発生したりする。
箱庭パートの三頭身のイケメンたちは、スチルとはまた違った趣があって、とてもかわいらしかった、とペリーウィンクルは回想を締めくくった。
貴族街へと続く坂道の途中に、薄紅色のわたあめが浮いている。
近づいてみてはじめて、それが空飛ぶわたあめではなく、花をつけた木なのだとわかった。
「サクラだ……」
薄紅色のわたあめのような木を見た瞬間、ペリーウィンクルの脳裏にさまざまな映像が流れる。
そして、彼女は理解した。
「あ、これって乙女ゲーだ」
恋の花をあなたへ。通称、コイバナ。
この世界は女性向け恋愛ゲーム、つまり乙女ゲームの世界だった。
舞台は、島国・ヴィヴァルディ。
その中には小さな国が五つ。春の国、夏の国、秋の国、冬の国、そして中央の国。
四季の国には人間が、中央の国には妖精が暮らしている。
春の国の田舎娘であるヒロインは、ひょんなことからひだまりの妖精──黄色の実にウサギ耳が生えたみたいな頭、多肉植物みたいなぷっくりとした体を持つ生き物──に気に入られて、契約を結んでしまう。
妖精との契約。
それは、妖精の頼みを聞く代わりに、契約者は頼みを聞いてもらえるようになるというものである。
ゆるキャラのようなかわいい見た目に騙されるが、妖精の力は人の手に余るものだ。
契約した妖精の力次第ではあるが、大昔には一国を消滅させたこともあるのだとか。
それ故に、妖精と契約した者は、中央の国にある妖精使い養成学校・スルスへ通うことが義務付けられている。
そこでヒロインは妖精使いになるための勉強をしつつ、同じ境遇のすてきな男性と出会い、恋に落ちるのだ。
箱庭系乙女ゲームと銘打ったコイバナは、メインパートと箱庭パートに分かれている。
メインパートではストーリーを楽しみ、箱庭パートでは与えられた小さな庭で草花を育て、育った草花を意中の相手へ贈り、好感度を上げる。
好感度が上がれば、ストーリーの糖度が上がる、というわけだ。
攻略キャラクターへ贈る花はもちろん、なんでも良いわけじゃない。
それぞれの好みに合わせて、そして高品質のものを育てないといけないのだ。
攻略キャラクターは皆、良家のお坊ちゃん。見る目は持っている、ということなのだろう。
うっかり低品質なものを渡してしまうと、ヒロインへの好感度が下がり、それぞれの攻略キャラクターに用意されているライバルキャラクターならぬ悪役令嬢の好感度が上がってしまう。
プレイヤーの中には、すべてのイベントを堪能するため、攻略キャラクターと悪役令嬢のスチル見たさに、わざと好感度を下げるガチ勢もいた。
さらに、庭をコーディネートして攻略キャラクター好みにすると、たまに遊びに来てくれるようになる。
そしてもっと仲良くなると、庭に飾るための可愛らしいインテリアをプレゼントしてくれたり、特別なイベントが発生したりする。
箱庭パートの三頭身のイケメンたちは、スチルとはまた違った趣があって、とてもかわいらしかった、とペリーウィンクルは回想を締めくくった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
149
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる