目指せ、婚約破棄!〜庭師モブ子は推しの悪役令嬢のためハーブで援護します〜

森 湖春

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二章

39 バラジャムの紅茶①

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 アッサムの紅茶にバラのジャムを添えて。
 紅茶にジャムを入れて飲むのは、冬の国では定番だ。

 ティースプーン一杯のバラジャムをティーカップに入れ、そこへアッサムティーを注ぐ。
 スプーンでかき混ぜると、バラの香りと紅茶の香り、ジャムの甘みと酸味、紅茶のコクがバランス良く溶け合う。
 バラの花びらがゆらゆらと漂う、優しい香りのするこのお茶は、令嬢たちの茶会にこそふさわしい。

(ああ、良い匂い)

 室内を満たす優雅な香りに、ペリーウィンクルは頰を緩ませた。
 ローズマリーにサントリナ、そしてセリの三人がカップに口をつけたのを見届けてから、ご相伴に預かる。
 鼻に抜けるバラの香りにうっとりと吐息を漏らしていると、何か言いたげにうずうずしているローズマリーと目が合った。

 どうせ、「さぁペリー、出番よ。サントリナ様を泣かせる不届き者を、こらしめてやりなさい!」とか言うつもりなのだろう。セリの時のように。
 そう思ったからこそ、ペリーウィンクルは先手必勝とばかりに、「ところでお嬢様」と話しかけた。

「何かしら?」

 わくわく! と顔に書いてあるようだ。
 好奇心のかたまりのような顔をして、「さぁ早く、例の話題を振って」とローズマリーはペリーウィンクルを見つめてくる。

 ローズマリーには悪いが、ペリーウィンクルの言いたいことは、サントリナのことではない。
 巡り巡ってサントリナと関係しているかもしれないが、現段階では無関係である。
 確かめるようにセリを見ると、先を促すようにコクンと頷いた。

「箱庭のハニーサックルですが……さすがにもう、見逃すことはできません」

 言われた内容が求めているものではなかったせいか、ローズマリーはがっくりと肩を落とした。

「そんなに?」

 小首をかしげるローズマリーは、べらぼうにかわいらしい。
 思わず胸を押さえたペリーウィンクルの代わりに答えたのは、セリだった。

「ええ。ウッドフェンスの一角が、すっかり見えるほどなのです。あれはもう、見逃せるものではありません。だから私、いてもたってもいられなくなって。お仕事中のペリーウィンクルさんを連れて、こうして参りましたの」

「そうでしたか……ハニーサックルはソレル様へ贈るものではないから、構わないと思ったのだけれど。箱庭の景観を損ねるほど盗られてしまうのは、問題ですわね」

「花を盗むことは、校則でも禁止されています。たとえソレル様への贈り物でないとしても、報告しなくてはいけませんわ」

 いつもならばやんわりと言ってくるセリだが、校則違反ともなれば違うようだ。
 彼女にしてはやや強い物言いに、ローズマリーは驚いたようにほんの少し目を見開いて、それから満足そうに微笑んだ。

 おおかた、ペリーウィンクルと同じで、セリの成長を目の当たりにして喜んでいるのだろう。
 ペリーウィンクルは、そんなローズマリーに同意するように、頷いた。

「そうですわね。ごめんなさい、セリ様。わたくし、大ごとにしたくなかったものだから……これ以上は見過ごせませんし、学校へ報告することにします」

「ええ、そうしてください」

 セリははんなりと微笑んで頷いた。
 彼女にとって、ローズマリーは初めての女友達である。
 短い付き合いながらも、彼女が頑固であることはよくわかっていた。

 もしかしたら、ローズマリーはこの件を秘するのではないか。
 そう思っていたからこそ、素直に話を聞き入れてくれた彼女に、セリは安心したのだった。
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