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八章 二年目はるの月
93 はるの月10日、深夜の秘め事③
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そう広くない彼女の部屋。
窓際に置かれたベッドに、イーヴィンは横たわっていた。
そんな彼女の上に、外套を羽織った男が馬乗りになっている。
パタパタと夜風に吹かれてカーテンが揺れていた。
男は、窓から侵入したのだろうか。
窓ガラスは割れていないから、イーヴィンが迎え入れたのかもしれない。
『イーヴィンがこいつを招き入れたのか』
シルキーの言葉は、二人には聞こえない。
彼の声を聞くことができる者がこの場にいたら、地の底から響くような声音に怯えていただろう。
シルキーの怒りは、イーヴィンへと向かった。
彼はイーヴィンをとてもとても大事にしていたのに、彼女は目の届かないところで知らない男とよろしくやっていたのである。
腹が立たないわけがない。
結婚して見えないところで死んで欲しいなんて言っていたくせに、勝手なものである。
いざ他の男に取られている現場を目の当たりにしたら、怒りで何も考えられなくなった。
『こんな男がタイプなんだね』
イーヴィンが怯えの表情を浮かべているのは、シルキーが来たからだろうか。
男の胸に伸ばされた手が忌々しく、シルキーは彼女の手を男の胸から叩き落とした。
『この家には僕もいるのに、男を連れ込んだの?最近の子は、破廉恥なんだね』
自虐的な笑みを浮かべて、シルキーは語り続ける。
だけど、彼の声は当然ながら人間である二人には聞き取れるものじゃない。
『あぁ、腹が立つ。君がマキオ?あいにく、この家には僕がいるからね。君は退場してもらおうか』
言うが早いか、シルキーの白魚のような手が男のーーマキオの首に伸びた。
そのままぎゅうぎゅうと遠慮なく首を絞める。
「っぐ」
男は苦しげに呻いてシルキーの手を外そうと力の限り抵抗したが、どういうわけかシルキーの手はどんなに暴れてもビクともしない。
そのままシルキーは男の首を持ったまま廊下へ出て、生ゴミが散乱する玄関へベシャリと落とした。
「げほ、ごほっ……」
喉を抑えて咳き込む男を冷ややかに見下ろしながら、シルキーは玄関の扉を開けた。
男の肩を蹴り、外へと転がす。
「なに、すん、のよっ!」
怒りを滲ませた掠れ声が聞こえたが、怒りに支配されたシルキーは容赦がない。
彼は、男を蹴りながらゴロゴロと転がし続けた。
「いや、やめて、汚れちゃう、じゃないっ」
『なにが汚れちゃう、だ。お前のせいでイーヴィンが穢れたのに』
シルキーの表情がますます凍てつく。
剣のような鋭い視線に、男がひゅっと喉を鳴らした。
そんなシルキーの後ろで、追いついてきたイーヴィンがぽうっとした顔をしている。
熱に浮かされたような視線は、シルキーへ注がれていた。
「ま、待って、殺さないでぇぇぇ」
氷の表情を浮かべる怒れる妖精と、そんな妖精に熱視線を向ける少女の前で、男は泣き叫んだ。
「まだ、死にたくないのよぉぉぉ」
春の夜に、男の情けない懇願が響く。
そう、男のーー
「って、マキオの声じゃない?」
先に我に返ったのは、イーヴィンだった。
静かな牧場に響き渡る甲高い声に、彼女は地面に転がる男を見つめる。
男はグスグスと鼻を鳴らして泣いていた。
真っ黒なローブから覗く目は、月明かりに照らされて、キラキラと紫色に輝いていたのである。
窓際に置かれたベッドに、イーヴィンは横たわっていた。
そんな彼女の上に、外套を羽織った男が馬乗りになっている。
パタパタと夜風に吹かれてカーテンが揺れていた。
男は、窓から侵入したのだろうか。
窓ガラスは割れていないから、イーヴィンが迎え入れたのかもしれない。
『イーヴィンがこいつを招き入れたのか』
シルキーの言葉は、二人には聞こえない。
彼の声を聞くことができる者がこの場にいたら、地の底から響くような声音に怯えていただろう。
シルキーの怒りは、イーヴィンへと向かった。
彼はイーヴィンをとてもとても大事にしていたのに、彼女は目の届かないところで知らない男とよろしくやっていたのである。
腹が立たないわけがない。
結婚して見えないところで死んで欲しいなんて言っていたくせに、勝手なものである。
いざ他の男に取られている現場を目の当たりにしたら、怒りで何も考えられなくなった。
『こんな男がタイプなんだね』
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男の胸に伸ばされた手が忌々しく、シルキーは彼女の手を男の胸から叩き落とした。
『この家には僕もいるのに、男を連れ込んだの?最近の子は、破廉恥なんだね』
自虐的な笑みを浮かべて、シルキーは語り続ける。
だけど、彼の声は当然ながら人間である二人には聞き取れるものじゃない。
『あぁ、腹が立つ。君がマキオ?あいにく、この家には僕がいるからね。君は退場してもらおうか』
言うが早いか、シルキーの白魚のような手が男のーーマキオの首に伸びた。
そのままぎゅうぎゅうと遠慮なく首を絞める。
「っぐ」
男は苦しげに呻いてシルキーの手を外そうと力の限り抵抗したが、どういうわけかシルキーの手はどんなに暴れてもビクともしない。
そのままシルキーは男の首を持ったまま廊下へ出て、生ゴミが散乱する玄関へベシャリと落とした。
「げほ、ごほっ……」
喉を抑えて咳き込む男を冷ややかに見下ろしながら、シルキーは玄関の扉を開けた。
男の肩を蹴り、外へと転がす。
「なに、すん、のよっ!」
怒りを滲ませた掠れ声が聞こえたが、怒りに支配されたシルキーは容赦がない。
彼は、男を蹴りながらゴロゴロと転がし続けた。
「いや、やめて、汚れちゃう、じゃないっ」
『なにが汚れちゃう、だ。お前のせいでイーヴィンが穢れたのに』
シルキーの表情がますます凍てつく。
剣のような鋭い視線に、男がひゅっと喉を鳴らした。
そんなシルキーの後ろで、追いついてきたイーヴィンがぽうっとした顔をしている。
熱に浮かされたような視線は、シルキーへ注がれていた。
「ま、待って、殺さないでぇぇぇ」
氷の表情を浮かべる怒れる妖精と、そんな妖精に熱視線を向ける少女の前で、男は泣き叫んだ。
「まだ、死にたくないのよぉぉぉ」
春の夜に、男の情けない懇願が響く。
そう、男のーー
「って、マキオの声じゃない?」
先に我に返ったのは、イーヴィンだった。
静かな牧場に響き渡る甲高い声に、彼女は地面に転がる男を見つめる。
男はグスグスと鼻を鳴らして泣いていた。
真っ黒なローブから覗く目は、月明かりに照らされて、キラキラと紫色に輝いていたのである。
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