勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、眼を覚ます

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 俺――ガリウス・ノーザンの朝は早い。
 吸血鬼ほど夜明けに対し過敏ではないが、陽の差す前には目が覚める。
 払暁の光に押され闇が薄らぐ時間に合わせ身体が自然と覚醒するのだ。
 どんなに疲れていようとも――遅い時間の就寝でも、それは変わらない。
 睡眠時間の短縮……しかし身体に疲労はなく寝覚めは快適だ。
 以前からそういう傾向はあったが――最近は頓に増してそう感じる。
 切っ掛けは多分、ミコンとの結び付きだったと思う。
 世界を支えし龍の末端である【黒帝の竜骸】を身に纏ってから――そう、原初の火……始まりの炎を宿してから俺の中にある龍の因子が深まったのを実感する。
 万物を見通し従える王者の権能。
 かの龍らは疲弊する事はあっても疲労する事がないと聞く。
 それだけ肉体的な回復能力に優れているのだ。
 イリスフィリアの好意とはいえ使徒として【神龍眼】を手にしていたからこそ、より顕著にその効果が発現してきたのだろう。
 何だか人として枠を外れてきたみたいで若干不安になる。
 まあ――不眠不休で動き続ける事が可能な、師匠みたいな永久機関人間を知っているから恐れはないが。
 どうやら俺も、少しはそっち側へと足を踏み入れ始めたらしい。
 しかし――残念ながらその力を以てしても精神的な疲弊は止められない。
 蓄積されたそれらは日々澱み積み重なっていく。
 年長者としては恥ずべき事だが、昨日はリアに弱みを見せてしまった。
 痩せ我慢だが……あいつらの前では常に強い男でいたいのだ。
 強くなければ生きていけない。
 優しくなければ生きていく資格がない。
 師匠であるファノメネルがいつも説いていた教えだったが……真理だと思う。
 強靭(タフ)でなければ、世の荒波を生きてはいけない。
 けれど――強さという我執だけでなく、そこに優しさが伴わなければ自らが存在している意味――誰かとの繋がり、絆はない。
 所詮は自己満足に過ぎないこだわりだからこそ大事にしていきたい。
 とまあ、色々と益体もなく考えてはいるのだが……
 要は暖かい布団から出たくないのだ。
 寝起きの布団は二度寝へ誘う魔王クラスの仇敵である。
 妖しい美女のお誘い同様、安易に屈してはならない。
 心身共にまだまだ甘いな、俺も。
 溜息を洩らし苦笑すると俺は誘惑を跳ね除けベッドから下りた。
 俺が寝泊まりしているのは王城の一角に設けられた勇者隊専用の宿舎だ。
 元々は上級騎士の宿舎として使われていた所だけに設備はかなり上質。
 1DKの広さに冷暖房完備、各室シャワー付き。
 男女別に分かれており24時間稼働している無料の酒場兼食堂も備えている。
 ああ、あと重要な事として俺が愛用しているサウナ室と浴場もあるな。
 貴重な対魔族用戦力とはいえ、待遇を考えれば破格だろう。
 だが――俺は敢えて暖房などは切っていた。
 この豪奢な境遇に慣れると、気ままな冒険者には戻れなくなりそうだからだ。
 冬を間近に迎えようとしている床から伝わる冷たさが尚更そう駆り立てた。
 寝起きの俺が向かったのはシャワー室である。
 火傷するほど熱い湯と氷の様に冷たい水を交互に浴びる。
 すると弛緩していた身体に活が入り四肢に力が漲っていくのを感じる。
 シャワーを止めて濡れた髪をゴシゴシとバスタオルで拭きながら部屋に戻ると、テーブルには湯気を立てるコーヒーが用意されていた。
 芳醇な香りを放つ俺の好きな銘柄。
 いったい何時の間に……と思う気持ちは最早消え失せていた。
 各室付きの執事やメイドはおもてなしのスペシャリストである。
 客である俺達に不快を与えぬよう隠密裏に、そして最適の対応をこなす。
 何処で調べて来たのか、このコーヒーや好みの酒など欲しい物が欲しい時に手元に用意されているので驚きだ。
 ふと気になって探してみたが……彼らはヴィヴィほどではないが、索敵スキルを擦り抜けるくらいの隠形の腕前を持つ。
 俺達勇者隊とは別ベクトルの達人であると実感させられる。
 世の中は広いな。
 そんな事を思いながらコーヒーを啜る。
 美味い。
 悪魔のように黒く、地獄のように熱い。
 甘党なら天使のように純粋で、そして恋のように甘いと続くが――
 生憎と俺はブラック派だ。これでいい。
 全て飲み終えると下腹に溶岩の様な熱が籠り始めた。
 ん、調子が出てきたな。
 手早く着替えを終えると、枕元にあった黒色に輝く珠を手にする。
 そして呟く。

「武装(アムド)」

 次の瞬間、俺の全身は瞬時に【黒帝の竜骸】に覆われていた。
 この黒色の珠はミコンの力の象徴、龍の宝珠である。
 ミコンの本質はこの宝珠に宿ると言っても過言ではない。
 脱着に時間が掛かると思われた【黒帝の竜骸】だが、このようにコマンドワードを唱える事で瞬着が可能だ。未使用時は内部に収納可能らしい。
 これも生体外装である【黒帝の竜骸】の力の一端であろう。

「ふああ……おはよう、ガリウス」
「ああ。おはよう、ミコン」

 着装を切っ掛けとして眠そうなミコンの姿が俺の前に投影される。
 こうしたやり取りも日常になってきたので特段驚きはしない。

「まだ早いから寝てていいぞ」
「いいの? ならお言葉に甘えるね」
「構わないさ。けど、いつものはよろしく頼む」
「またやるの? ガリウスって変」
「訓練なんだから仕方ない」
「今日はどれくらい?」
「じゃあ――10倍で」
「ホントに? う~ん、分かった。
 終了する時は私の事を呼んでね? 
 じゃあ……会話を終えたらすぐに始まるから。おやすみなさ~い」

 欠伸をするミコンの姿が消えた瞬間――俺の全身を凄まじい負荷が襲う。
 くっ……これはかなりキツイな。
 闘気を活性化、循環させながら身体を強化対応し、どうにか踏ん張り堪える。
 ミコンの宿る【黒帝の竜骸】は恒常的な身体機能の上昇を図れる優れた武具。
 ならば勿論逆も然りであり、バフだけでなくデバフも可能。
 最近の俺は寝起きに身体に負荷を掛けた状態でトレーニングをするのが日課だ。
 今はミコンに頼んで重力10倍相当の負荷を全身に掛けて貰っている。
 これでルーティンであるジョギングに臨むのだ。

「わん」

 そんなこんなしている内にお客さんが来た。
 扉の前で行儀よく待っているルゥを招き入れ声を掛ける。

「今日は皆とデートに赴くそうが……お前もそうか?」
「わん!」
「そうかそうか。
 なら――早速一緒に行くとしよう」
「きゃうん♪」

 尻尾を振って喜ぶルゥの頭を撫でると、俺は練兵場へ向かい散歩兼ジョギングの為に駆け出し始める。遅れる事無く後に続くルゥ。
 俺の長くて短い一日は――こうして始まった。






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