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第7章 ふわふわ空飛ぶ旅は旅行気分?
第020話 王妃アプリコットの症状
しおりを挟む「ああ、コクリコット。……ベッドから出ても大丈夫なの?」
コクリコット姫が立って挨拶したのを見て、女騎士を引き連れて来た女性は両手で口元を押さえ目を潤ませている。
「はいお母様。体は少し怠いですけど、凄く気分が良いんですよ」
「ずっと寝たきりでしたからね。体力が落ちているのでしょう」
「……良かった。良かったわねコクリコット」
元気になったコクリコット姫を見てとうとう涙を流し泣き崩れた王妃様、コクリコット姫にスカーレット姫も駆け寄って抱き合って泣いていた。
感動の場面だな。――真ん中に立たされてた俺は置いてけぼりになって気まずいんだけど。
『あの王妃、毒を盛られとるの』
「――毒??」コテリ
「「「「!!!?」」」」
「……どう言う事かな? アイリスちゃん?」
スカーレット姫の厳しい視線が突き刺さる。
ってリリィ空気を読めよおおぉ!! つい呟いちゃったじゃないかあああっ!!!
王妃であるアプリコットは男爵家の令嬢ながら豊富な魔力を見初められ、妃となってスカーレットとコクリコットを産んだ。その後体調を崩してから子宝に恵まれる事は無かった為に2人の娘の事はとても大事に思っていた。
しかしそのコクリコットが年々体調を崩していく事になり、心無い者達から生まれが卑しいからだ等と陰口を叩かれたりもした。それでも後ろ盾の弱いアプリコットは耐えるしかなかった。
日々焦燥感に思い悩むが、コクリコットの回復を祈りただ寄り添う事しか出来ず悔しい思いをしていた。
スカーレットがアデール王国へ向かわされた時は大泣きした。
自分がこの国に厄災を招いているのではないかと、反体制派は自身の出自の低さを更に責め立てて来て毎日泣きそうになった。
それでもスカーレットやコクリコットの方が辛い思いをしているのだと自身に言い聞かせ、弱音を吐かずに気丈に振る舞った。
そんな中スカーレットがリアースレイ精霊王国やフォシュレーグ王国に守られ無事に帰国したと言うのは久し振りに良い話しだった。挨拶に来てくれた時も自身に不満をぶつける事もなく、それどころか此方の体調を気づかってくれた事が何よりも嬉しかった。
――若干肌艶が良すぎる事が気になったが。
そして数日後、重い病に悩まされていたコクリコットがフォシュレーグ王国の治癒師によって回復したと聞かされた。
スカーレットが優秀な治癒師を連れて来たとは聞いていた。少しでも快方に向かえばと淡い期待もしていた。しかしたった3日で完全に回復したと言うのはとても信じられなかった。
それだけコクリコットの病を間近で見て来たのだ。アレはそんな簡単な病などでは無いと。
「王妃、アプリコット様がおいでです」
だから自分の目で確かめに来た。騙されていないのか、何かの間違いではないのかと、動揺を隠し毅然とした態度でコクリコットの部屋へと踏み入れる。
そこにはにこやかな笑顔で立ち、待ち構えていたコクリコットとスカーレットが居た。2人はスカートをつまみカーテシーで迎え入れてくれた。その娘2人の笑顔を見た瞬間、――本当に病は消え去ったのだと感じた。
「「ようこそいらっしゃいました、お母様」」
空気が軽く感じる。使用人達も皆明るい笑顔で迎え入れてくれているからだろう。以前まではどうしても重い空気が漂っていたからよりそう感じてしまうのだろう。
そして2人の子供の間で艶やかな桃色の髪と大きな瞳をした天使や妖精かと見紛う様な愛らしい子供がいた。不思議そうに此方を見ているその子供がそれをもたらしたのだとも直感した。
「うっ、ううっ」
「「お母様っ!?」」
私の長年の苦悩をこの子供が消し去ってくれたのだ。私は王妃と言う立場も忘れてボロボロと涙が流れるのを止められず、その子供にお礼を言う事も出来ず泣き崩れてしまった。
何と情けない。それでもコクリコットとスカーレットが駆け寄って抱き付いて来てくれた。2人も私と同じ様に泣き崩れてしまって、それが何とも心地良く感じてしまった。
「――毒??」
その子供がそんな事を呟く迄は。
『すまんのじゃ』
シャルロッテ様に聞き出されてリリィの言葉を何とか伝えたら今度は王妃様の治療をする事になった。犯人捜しは知らん。
毒は命に関わるモノでは無いが長年受けていたみたいだ。毒の排出はそこまで時間は掛からないが、毒で壊された体を取り戻すのには数時間は掛かる。
因みに壊されたと言うのは妊娠出来なくなっていた様だ。チラッと見た王妃様の表情がなくなっていてめちゃくちゃ怖かった。――見なきゃ良かったよ。
取り敢えずその場で一先ず解毒だけ、これは30分程。思ったより掛かったのは長年の蓄積だろう。これも俺には手が出なかったなあ。
『普通の毒なら浄化と治癒力を上げるだけで治せるからお主でも治せるのじゃ』
浄化??
『お主の言う清浄過ぎる魔力にその力があるのじゃ。お主の回復魔法もリリィ達の魔力を参考にしておるからの。多少はその効果もあるのじゃ』
一旦アリア、カチュア、ミリアーナ達の所に戻って一休みする事になった。3日間治療しっぱなしだったからね。俺もリリィとネネェの精神汚染からの回復を図ないと。
『精霊神様の有り難い魔力じゃぞ! 不敬じゃぞお主!』うがーっ
『頑張ったのに主ヒドいなのー!』ぷんぷん
早速ミリアーナの膝に乗せられてお菓子をポリポリ、癒されるー。
しかしアリアとカチュアに挟まれて一緒にお茶を啜っているナージャさん、貴女侍女だよね?
「はい、アイリスちゃんあーん」
「あーん、むぐむぐ」
ミリアーナとこうしているのも久し振りだな。夜はビアンカお姉様に、お昼寝はアリアとカチュアに添い寝してあげてたからな。まあ毎日お風呂に突入して来て美容魔法を掛けさせられてはいたけど。
「2人共お勉強頑張っていたんですよ、アイリスちゃん」
「「えへへ」」
「後は、2人でダンスの練習もしました」
「うふふ、可愛かったですよー?」
うぬぬ、ダンス3日か、差を付けられてないかな。
「おお!? コクリコットっ! 治ったのか!? もう歩いて大丈夫なのか!!」
「はいお父様。長らくご心配お掛けしました」
国王ギリアムと宰相カールイスが忙しなくベルドット達への対策を練っていると、その執務室に王妃アプリコットとスカーレットがコクリコットを引き連れてやって来ていた。
「おお、もっと近くで顔を見せてくれ。うむ、顔色も良い、可愛らしいな」
「確かに完治した様ですな。いやいや、聞かされてはいましたがこうして見させられると流石に驚きしかありません」
「カールイス、そこは先ず祝福の言葉ではないかしら?」
「っと、これは失礼致しました王妃様。コクリコット姫様。この度の快癒、誠におめでとう御座います。私も我が事の様に嬉しく思います」
「はい、有り難う御座いますカールイス様」
長年の闘病生活から体は痩せているが顔色も良く、何より嬉しそうに笑顔で答える未だ幼いコクリコットに国王も宰相も久し振りの良いニュースにデレデレで嬉しそうだった。
「しかしアプリコットも来るとは、体は大丈夫なのか?」
アプリコットはコクリコット程では無いが体が丈夫ではなく、調子を崩す事が多かった。こうして自ら国王の執務室まで訪れる事も長年無かったのだ。
「ええ、それなのですが、――コクリコットを癒したその治癒師が言うには、私は長年毒を盛られていた様なのです」
「「何だと!?」ですと!!」ガタガタッ
「それは……、真か?」
「証明は出来ておりません。ただその治癒師に毒は抜いて貰ったのですが、それまで常にあった体の芯から来る気だるさが綺麗に無くなっているのです」
「「…………」」
「それと、……その治癒師が言うには……、私は……、その毒で、――子を産めなくされていた様です」
「「なっ!!?」」
アプリコットは激情に震える手を握りしめ、口惜しげに言葉を吐き出した。
長年王位継承権を持つ男子に恵まれず、出自が低い所為で侮られ陰口を叩かれて来たのだ。その思いは察するに余りある。
悲嘆に暮れる日々、特に体を壊してからは絶望し夫である国王ギリアムに側室を娶る事を懇願したりもした。ギリアムもそれを考えないでは無かったが、アプリコットの憔悴を見て女王を立てれば良いと、共に助け合い国を守ろうと励ましていたのだ。
しかし女王の即位に反対する者達がいた。勿論グライスロー公爵、ベルドット達の一派だ。
ベルドットは王位を得ようと後宮に押し入ろうとまでしていたのだ。王子が産まれない様に画策していても不思議は無いと此処に居る誰もが考えた。
「陛下の近衛兵に調査をお願いしたいのです」
「無論構わん! 徹底的に調べさせろ!!」
「「「はっ!!」」」
「これは……、グライスロー公爵の手の者の仕業でしょうか……」
怒りに震えているのは国王であるギリアムも同じだ。宰相カールイスの言葉に「他に居るか!」と叫びたかったが万が一と言う事もある。
深呼吸をし、厳しい顔でアプリコットが引き連れて来た女騎士達を見る。
「アプリコットに関わる者達は全て一時拘束させてもらう」
「「はっ!」存分にお調べ下さい!」
「うむ」こくり
こうして近衛兵によってアプリコットの周囲が徹底的に調べられる。一番疑わしいのは薬を処方していた医師や回復魔法を施していた治癒師だが、身の回りの世話をしている者達や護衛の者達も一様に調べ尽くされて行く事になった。
「えっ? あの治癒師の子供とコクリコットが一緒に寝ていたのか? ――確か男、だったよな?」
「はい、とても信じられませんが男の子らしいです。でも私、初めは妖精さんかと思ったんですよ?」
「確かに、あの見た目ではな」
瞳をキラキラさせて握りこぶしを作って力説するコクリコットに「クックッ」と笑いを抑え同意するスカーレット。しかしギリアムが言いたいのはそう言う事ではない。
「しかし、……それは駄目じゃないか?」
「お父様、3日間もの間治療を続けるのですよ? 皆の目もある中での事、あの様な幼子に何を目くじらを立てる事があるのです」
「そうね。コクリコットだけでなく私も世話になりました」
ギリアムの言葉に反論するスカーレット、それに同意するアプリコット。またアプリコットに関しては解毒は終わったが、壊された体の治療は未だこれからだ。機嫌を損ねる訳にはいかない。渋面をするギリアムだが受け入れるしかなかった。
「陛下、シャルロッテ殿にでも抗議致しますか?」
「……嫌だよ、怖い。カールイス、お前が言ってくれるのであれば良いのだがな?」
「ははっ、私も御免被りますな」
拗ねる国王ギリアムに宰相カールイスが軽口を叩く。国の雰囲気が確かに変わって来たのを互いに感じていた。
「陛下ぁああーっ! 陛下ぁああーーっ!!」
「何だ騒々しい!」
「にっ、西に、ドッ、ドラゴンが現れました!!!」
「「何ぃいいいいいーーーーっっっ!!?」」
だがまだまだ平穏は先の様である。
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