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第5章 くたくた迷宮探索の敵は移動とご飯?
第016話 アイリス本領発揮?
しおりを挟む少し前、探索者クランの中央部。
「魔物が四方から襲って来ていますね。この階層でこのペースだと回復魔法の出番があるかも知れません」
「アイリスちゃん大丈夫?」
「ん」コクリ
「で? ヴェルン、アイリスちゃんに何処までやらせるのよ?」
「状況で判断するしかないでしょう。アイリスの能力はなるべく隠したい所ですが、それでクランが崩壊しては命に関わります」
「まあ本末転倒になるものね」
「アーダルベルト達は信頼出来ます。最悪国軍と冒険者を敵に回してもこの国を出れば問題無いでしょう」
「……ナージャ、下手をすればアイリスをリアースレイ精霊王国に手放す事になるかも知れませんよ?」
「怪我人など気合いで治せば良いのです。アイリスちゃんは必要ありません」
「……無茶を言うな」
「アイリスさん、怪我人の治療をお願いして良いですか?」
「ん」コクリ
漸く出番か、怪我人は出てたらしいけどクランお抱えの回復魔法使いに当てられてコッチまで中々来なかったんだよな。
「仕方ないわよアイリスちゃん、お抱えとじゃ信頼感が違うもの」
お試しって訳だな。野営地ではないのでテントは無い。荷物に座って待っていると腕から血を流している男が治療をお願いして来た男に連れられてやって来た。
「コイツをお願いします。あの、血が出てるんですが、本当に大丈夫ですか?」
「ん、……座る」
『んん~、何かの獣に噛まれた様じゃの。噛まれて肘の骨がやられて肉が抉れておるのじゃ』
先ず血を止めるんだよな? それから骨を、合わせて、治癒力を上げていく。
『骨の強度が足らんのじゃ。普通の人ならそれでもじっくり治るまで待てば良いが戦う者にはちと足らんのじゃ。どれ、見本を見せてやるのじゃ』
ぐっ、コイツまた勝手に、精霊剣の、リリィの清浄な魔力が俺の中に入って俺の魔力を操り出した。
『仕方がなかろう。治癒力を上げて骨を繋げねばならんのじゃ。単に骨の強度を上げるイメージでは強度は増しても接着は弱いままになってしまって上手く繋がらんのじゃ』
うぐぐ、ああ、また清浄な魔力に精神が侵食されて行く。骨の治療は確かに治癒力を上げる事で繋がりを本来の強度にしていく様だ。心の中の黒い刺々がパチパチと切り取られて溶かされていく様だ、怖い怖い。心の自己防衛出来なくなる。
骨の治療も他の肉体と同じと言う事、剣を強化する様なモノじゃなくあくまで骨も肉体の一部って事だね。無理矢理自白剤飲まされて純粋な感情だけ引き出されてるみたいな気分。
『ついでに体力回復もしておくのじゃ』
何で!?
『怪我が治っても体力が落ちておったら直ぐには戦えんのじゃ』
リリィの言葉でアイリスも四方から魔物に襲われている現状では戦線復帰出来る状態にした方が自身も安全かと考え直して覚悟を決めた。
「んっ、……終わり」
ふう、何とか自我を保ってられたぜ。まあ1人だったからな。
「どうだ?」
「ああ、痛くない、血も止まってるし骨もくっついてるみたいだ」
実は骨が折れていると言うのは回復魔法で治すのは難しいのだ。では何故そんな患者がアイリスの元に送られて来たかと言うとこれも信頼度の有無による。
「腕はある訳だ。んじゃお前はもう休んどけ、骨折じゃもう戦えないんだ」
「体調は悪くない、裏方くらい出来るさ」
骨折は治療が難しく戦線離脱を意味している。それでも治療しない訳にはいかないので、お抱えの回復魔法使いの魔力を節約する為にアイリスの方へ寄越されたのだ。
「むう、ちゃんと治した」
そんな事を知らないアイリスにはその反応は不満である。
「ははっ、嬢ちゃん骨折治したのは初めてかい? 骨折ってのは回復魔法で合わせる事は出来ても、繋げて元通り動かせる様になるのは時間が掛かるモンなのさ」
「けど嬢ちゃんの治療はちゃんとありがたかったぜ。お陰でウチの回復魔法使いの負担を減らせたんだ、ありがとよ」
「……ちゃんと、くっつけた」むすう
明らかに善意で礼を言って来てるのは分かる。けどリリィの魔力に苦しめられながら治療したのに分かって貰えない事に若干、そう、本当に若干だが頬を膨らませ不貞腐れた。
「アイリスちゃんの言葉を疑うのですか? 不敬ですよ。死にますか?」
「……ナージャ、最近ちょっと可笑しいぞ?」
「だって此処には愛するべき幼児がアイリスちゃん以外居ないんですよ! 拗ねてるアイリスちゃん可愛いじゃないですか!!」
そんなアイリスの狂信者の様になっているナージャにヴェルンは戦慄していた。当のアイリスはジト目になってナージャを見ていたが。
「しかしそうは言ってもな。調べようもないし、戦わせてポッキリいかれたらシャレにならんだろ」
「剣でも振ってみりゃある程度分かるだろ? そんで折れたらまた頼むわ」
そんな気軽に、と普通なら思う所だが仲間が命懸けで戦っている状況でのんびり休んでいられる様な奴はこんな所まで来ていないのだ。動けるかも知れないなら試すのに骨折くらい覚悟すると言うのが此処に居る皆んなの意見なのだった。
この後、実際に剣を振って問題無しとなり骨折した患者が次々と送り込まれアイリスを苦しめていった。
(ぬああーー、何でぇーー!? 清浄な魔力が流れて来るっ! リリィに魔力を操られて行くっ! 次々回復させられて止まらない! 怪我なんかすんなぁああーーっ!!)
怪我人が送り込まれる度に完璧に回復させていくアイリス、妥協を許さなかったのはリリィだが。
(ひいぃ、皆んなの感謝が痛い、リリィの清浄な魔力に抵抗出来なくなって来た。治療させてくれてありがとう、って何この感情!?)
結果クランのメンバー達の信頼は加速度的に高まって行き、更に怪我人の手当てが増えていった。
(もう、皆んなの、感謝とリリィの魔力に当てられて、私も喜びが爆発しそうです。素晴らしい、素晴らしいです。命の息吹きを感じます。この世は何と美しいのでしょう)
そうしてキラキラした瞳で笑顔を振り撒き次々と治療を施していくアイリスは、既にリリィの清浄な魔力に当てられ完落ちしてしまった様である。
「凄えな、……一体どこまで魔力が保つんだ?」
「ウチの回復魔法使いでもとっくに無理だぞ? しかも体力の回復までしてる。あの子の治療を受けたら皆んな直ぐに戦線復帰出来るんだ、異常だぜ」
「それに何だか綺麗な笑顔で、……癒されるよな?」
「ああ」
クランのメンバーが徐々にアイリスの異常性に気づき初めていく中で、その後も手当てを続けていき、難しい重傷者まで回される様になっていた。
(リリィ、魔力の回復が間に合ってませんよ)
『うぐぐ、仕方がなかろう。お主が怪我人の体力の回復までしておるのじゃから、外魔力循環が追いつかんのじゃ』
(戦線復帰出来る様に言ったのは貴女ですよ? なら私がリリィから魔力を引き出すので貴女は外魔力循環で魔力の回復と怪我人の治療の補助に専念して下さい)
『此奴リリィの、精霊剣の魔力をまた自ら引き出しおった。己れ、剣士としてなら手放しで褒め称えておったのに』
ポーション作成の時もアイリスに魔力を引き出されたが本来精霊剣の魔力を引き出すと言うのは精霊剣の正統な使い手として入り口に立った事を意味する。
しかしリリィにとってポーション作成も怪我人の手当ても精霊剣の使い手として成長したとは認め難い事であった。
『剣士として使い熟せておればのう』遠い目
魔物の猛攻に慣れ、戦線が安定して怪我人が落ち着いて来た頃、前線から慌てた様子で探索者達がアイリスの元に走って来た。
「ヤベェ! アイリスさん、腹を裂かれた奴が! ウチの回復魔法使いじゃお手上げだ!! 何とかならないか!!」
簡易の担架に乗せられた男が腹から大量の血を流して運ばれて来た。アイリスは落ち着いたまま慈愛に満ちた表情で即座に回復魔法を施していく。するとまるで大怪我が高速の逆再生の様に元通りになっていった。
「はい、終わりです。次の方どうぞ」
「「「……………………」」」
どう見ても手遅れ、実際お抱えの回復魔法使いが匙を投げ、せめて出来る事はしたと、言い方は悪いが自己満足の為にアイリスに見せただけだったのだ。
それが他の怪我人と同様あっさり回復させ次の怪我人を寄越せと言う。言葉も詰まると言うものだろう。
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