ほんとうに君が好き。

カスミソウ

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嘘はつかない

言えるわけないじゃん

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新しいクラスにも慣れて、四月は過ぎ、五月となった。

ゴールデンウィークはというと、未来や香菜は予備校の勉強合宿があるとかで遊ぶことができず、風子は友里と何度か遊び、あとは勉強や模試に時間を当てていた。とは言ってもいきなりそんな生活が続くわけではなく、やはりネットサーフィンが大半を占めていたのだが。

「とりあえずは五月半ばの模試だなー」
「えぇ~…。一週間前に受けたばっかなのに…」

香菜は携帯のスケジュールカレンダーを見てそう呟き、友里がげんなりとした声色で答える。

久しぶりに風子と友里、香菜の三人で寄り道をしていた。目的は、最近ある有名なカフェのチェーン店で出た季節限定のスイーツである。

やはり受験生となるとこのような勉強の話は付き物なのだろうか。なんとなく面白くないなと風子は小さくため息を吐いた。

最近、未来とは学校の廊下ですれ違うくらいで特にこれといった接触がない。これは風子にとって非常につまらないことだ。だから勉強に集中できないのだ、と言い訳にもしているが。

「定期テストもあるしさー…」
「や、でも友里。これ終わったら体育祭だよ?」

香菜が携帯に映ったカレンダーを二人に示す。そこには五月の末の二日間、松風高校体育祭と書いてあった。

「あー…、確かにそうだったかも。なんか、来週にはクラスTシャツ配るって言ってた」
「楽しみだよなー、な!風子」
「あ、うん。そだね、」

体育祭。そうだ、体育祭なら未来との時間もきっと作れるに違いない…!

そう考えた瞬間、風子に不思議なエネルギーがみなぎってきた。本当に人間というものは単純だ。

「よーっし、模試もテストも頑張るぞーっ!」
「はぁ?ふーこ凄いな!?体育祭ごときでそんなふうに思えるとか」

少し歩くスピードが速くなった風子の後ろを、呆れながら苦笑する友里と香菜がついていった。



無事(?)に模試を終え、体育祭前日。今日は明日疲れるからと、予備校を珍しく休む未来と一緒に帰ることになった。

「どうですか?勉強の調子は」
「どうしてそう他人行儀なのかしら。あなたも一応受験生でしょ」
「あは、いーじゃん。こういうのはノリだよ、ノリ」

風子にとって久しぶりの未来との会話はどんなに実のない話でも楽しかった。ここしばらくずっと望んでいた未来と二人きりの時間なのだから。

「そう、ね…、まあ滑り出しにしては順調な方じゃないかしら。この前の模試も思っていたより良かったし」
「マジ?すごいじゃん!私は2年の時に受けたやつとそんなに変わらなかったよ」
「あら、それだってすごいことよ。この前の模試は浪人生も受けていたから普通成績は低く出るものなのに」

おお、珍しい。未来に褒められた。ちょっとした高揚感を胸に風子はぐんと歩を進めた。

ふと、風子の鼻に美味しそうな匂いが掠めた。匂いが漂ってくる方向を見ると駅前にベビーカステラの屋台が出ていた。

「ね、未来。あれ買ってそこの公園で食べない?」
「…奇遇ね。私も同じことを思っていたわ」
「…珍しーね、買い食いオッケーするとか」
「生徒会長就任のお祝いってことにしてくれないかしら」

ほう、なるほど。ものはいいようだ。未来は先日、生徒会の選挙で会長に選ばれたのだった。確かあの時も未来の家でお菓子パーティーをした気もするが、ここは目を瞑っておくことにしよう。

今はとにかくこの時間を大切にしようとする風子だった。



「あっづぅ~…。マジ溶ける」
「呆れるほど綺麗な快晴だよね」

真っ青な空、照り輝く太陽。その下の松風高校では体育祭が開かれていた。あまりの暑さに熱中症で倒れるのでは、とも思ったがなんとか一日目は乗り切れたというのが実情だ。

風子がテント内にある自分の荷物を持って、着替えのために教室に戻ろうとすると、

「四組!写真とろーっ」

学級委員から撮影のお呼びがかかった。他のクラスがちらほら解散しているのを見ると、どうもうちのクラスは比較的仲がいいらしい。風子と友里も顔を見合わせた後、その輪の中に入っていった。



「お前らそろそろ片付けの準備をしろー」

楽しい時間は有限ではない。気づけば先生に注意されるまで携帯を片手に今日の思い出を語り合っていた。時計を見ると20分くらいしか経っていなかったので、もう少しいいじゃないかとも思ったが、明日もまた集まろうということで解散となった。

「あ、ごめん。ふーこ私ちょっと寄るとこあって。先行っといて」

風子と友里が下足から上履きに履き替え教室に向かおうとする途中、友里が寄るところがあると言ったため別れた。まあ、先程ちらっと友里の彼氏の姿が見えたので会いに行ったというのが筋なのだろうけど。

じゃあ戻るか、と思った矢先、友里と彼氏の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。あれほど公に恋人といれるのは羨ましい。そんなことを思いながら風子は黙って教室に向かった。



うーん…。いや、え~…。
解釈に困る。なんだこの状況は。

私は自教室の前に立っていた。確かまだ四組の生徒は運動場でダラダラと残っていたので私が一番最初に戻ってくるはずだったのだけど…。

先客がいる。それも、香菜だ。

別に香菜が私たちの教室にいるのはなんらおかしいことはない。もしかしたら私達と一緒に帰ろうと思って待ってくれていたのかもしれない。

でも、多分そうではないのだ。
だって、香菜の胸の中で友里の着替えが抱かれていたのだから。香菜は切なそうに、でも優しくそれを抱きしめていた。

え、と。声かけていいんでしょうかねこれは。すごくKYな気もするけど…。

風子が考えを巡らし逡巡していると、気がそちらに回りすぎていたのか教室の扉に重心をかけてしまった。

ガタ。
香菜がはっとこちらを向いた。

「…っ!?」
「あ、と。…やっほ!」

ここはもうあげあげテンションで誤魔化しちゃえ!!

風子は何も気にしていないかのように教室の中に一歩踏み入れる。近づくたびに香菜の肩が少しずつ強張っていく気がした。

「もしかして待っててくれたの?」
「あ、や…。違うんだこれは…」

明らかな動揺にこちら側としてもどう出るべきか迷う。どうやらスルーするのは難しそうだ。

「あ…そ、そう!なんか、風の噂で友里が保健室で寝てるって聞いて!着替えを持っていってやろうかと…!」
「そ、そっか…」

その情報のソースはわからないが…、ここは合わしておくのが最善策だろう。
友里ならもうちょっとで来ると思うよ、と香菜に伝え、それを聞いた香菜はそっか、と友里の着替えを机の上に置いた。

沈黙が続く教室の中で、廊下の方から聴こえる四組の明るい声々が耳の遠くでこだました。



「お疲れ様」
「ただいま~。さっきはほんとこけるかと思ったよ」
「なかなか見てて気持ちいい走りだったと思うけど?」

そう言って未来は風子にペットボトルを差し出した。

体育祭二日目。暑い日差しが差し込む中、風子と未来は運動場の端に生えている木の影で待ち合わせをしていた。昨日は未来に生徒会の仕事に吹奏楽の仕事が重なっていたため話せる機会がなかったのだ。風子は先程担当の種目であるリレーを終え、未来の隣に腰を下ろした。

「ありがとー。…んくんく……」

風子はボトルを手に取り一気に中の水分を口に含んだ。干からびていた喉に潤いが戻る。あまりの美味しさにひたすらボトルを傾け続け、口から溢れた水が首をつたって落ちていく。

「…っはあぁ。生きかえるぅ~!」
「…口から溢れてるわよ。ほら、拭いてあげるから」

未来は準備の良いことにジャージのポケットからティッシュを取り出した。そこから一枚ティッシュペーパーを引き出し、風子にそっと近づく。

「いや…、汗臭いし。自分でやるよ」
「そんなことないわ。制汗剤のいい匂いがするわよ」

未来は制止しようとする風子の腕を掴み、くん、と風子の首元で嗅ぐ動作をする。

いや、やばいって!ここ学校!!今体育祭中!!!

「ばっ、未来離れてっ…!」

風子は無理矢理体を離し、未来の顔を覗き込んだ。当の本人はまさか拒絶されると思ってなかったのか、キョトンとしているように見える。

「……」
「ほ、ほら!こんなの夏だしすぐ乾くよ!だから…」

気を損ねないように必死にフォローしようとする風子であったが、どうも未来は呆けたままのようだ。いや、呆けたというよりも…

「未来、さん?顔赤くないですか」
「…え、あ」

未来は名前を呼ばれてやっと、電源スイッチが入ったように反応した。途端に、ますます彼女の顔に赤みが増す。風子が無意識に、やっぱりと口に溢した。それでも未来はツンとした態度を見せず、逆に照れとした表情で頬を掻いた。

「そう、ね。見惚れてた、かもしれない。……ごめんなさい」
「え…、あぁうん…。うん…」

未来がいつものように否定せず、こんなにも素直なのは夏の光にあてられたせいだろう。そうだと思う。うん。

…いや、可愛すぎるから!私の彼女!!
なんか久しぶりにゆっくり話せてるしもう少しくらいこの雰囲気を味わっても…!

「あ、風子見つけた。ごめんちょっといい?」
「…へ?」

二人の中で熱く燃えかけていたハートが一気に目に見えて萎んだ。雰囲気をぶち壊したのは、昨日も風子を悩ませた香菜であった。

未来はすぐに普段通りに戻り姿勢を正した。風子も仕方なく香菜に尋ねる。

「…どしたの。香菜姉」
「話したいことがあるんだけど…。昨日の…」

…自分から掘り下げてくるのか。まあ誘いを無下に断ることはできない。風子は頭にハテナが浮かぶ未来に謝り、香菜のあとをついていくことに決めた。



「悪かったなー。急に」
「あはは、いいよ全然」

ほんとは良くないけど。しかしそれを口に出せるほど私も失礼なやつじゃない。

二人は昨日の現場、つまり四組の教室にやってきた。現在、全校生徒が外に出ているので学校はやたら静かだった。

二人は適当な席に腰掛ける。

「話って、昨日のだよね?」
「そう」
「…えーと。何を…」

聞きたいの、そう風子が口にする前に香菜が真顔のまま口を挟んだ。

「おかしいと思ったでしょ」
「…?」
「昨日の私、やっぱ風子から見て異常だったでしょ」

どう返したらいいものか少しの沈黙の間風子は口をつぐんでいたが、やがて小さく首を縦に振った。

「…だよなぁー。うーん…」

うんうんと唸る香菜を見て、風子はますます理解が追いつかなかった。てっきり口止めかと思っていた。次になんと口に出したらいいか分からない。

「まあ、私も楽になりたいと思ってたし。風子、悪いけど共犯になってくんない?」
「…え!?どういう意味?」
「そんなガチの犯罪起こすとかじゃないから!ビビんなよー」

無理矢理でも明るい声色を使って場を和ませようとする。彼女はやっぱりどこまでも姉的存在であった。

「共犯っていうのは…。私の、この気持ち悪い感情を、一緒に共有してほしいってだけ」
「…!」

そこまで言われたら、風子に分からないはずがなかった。昨日の香菜の様子も踏まえたら理解できる、風子自身も経験したことがある、あの感情を。

「友里のことが、…恋愛的な意味で好きってこと?」
「…!よく、分かったな…」

肝心の部分を言い当てられたからなのか、香菜は幾分拍子抜けという顔をしている。今のは察しが良すぎると思われただろうか。

「そう。好きなんだよね、友里が。高一の時から、ずーっと」
「彼氏もいるのに?友里にも香菜姉にも」

何かを吹っ切れたように話す香菜に対して風子が素朴な疑問を投げかけると、香菜は思い出したように、ああ、と答えた。

「私らは最近別れたよ。受験に集中したいしーとか言って」
「そ、そーなんだ…」
「ごめんなー、ほんとついこの前の話でさ。話す機会逃しちゃって。まだ友里にも言ってないんだ」

友里に言ってもいい方向に転ぶとかないと思うし、そう呟く香菜がなんだかすごく切なく見えて風子は胸が苦しくなった。きっと私が友里と香菜に会った時からでも、香菜の気持ちが垣間見える瞬間がきっとあったんだろう。ただ、私が気づかなかっただけ。

未来と付き合う前の私の心境と、いや、それよりももっと苦しくて長い時間を過ごしてきたんだ。だってあの友里だ。きっと香菜の気持ちに気づいていない。

「…友里に、伝えないの?その気持ち」
「……え?」

私が香菜にできること。私が未来とそうゆう関係になれたように、香菜も友里に本当のことを伝えるべきだと思うんだ。

その気持ちに正直になって、風子は素直に助言をしたつもりだった。しかし、香菜はまるで今の台詞が信じられないといったような表情をしている。

「私が、友里に?好きだって言うの?」
「う、うん…」
「…本気で言ってるの…!?」

ガタッ。香菜がいきなり席から立ち上がる。驚いてその表情を見ると、少し怒気を孕んだ表情だった。

何か、間違ったっぽい…。

「…言えるわけないじゃん……」
「…あ、」
「言えるわけないじゃん!そんなの、言えるわけない!!きっと、気持ち悪がられるだけ…!」

はぁはぁ、と肩を揺らしながら、香菜は吐き散らすように怒鳴った。急に二人を取り巻く空気が冷える。風子はもう余計なことは言えなかった。沈黙が続く中、香菜が拳を握り締めながら、小さく息を吐いた。

「同性、なんだしさ。普通の恋愛じゃないんだよ…。風子には分かんない」

そう言って、香菜は風子を残し出口の方へ姿を消した。ぽつんと取り残された風子は、香菜の気配がなくなるのを確認して机に突っ伏した。

「はあぁ~…」

香菜姉には私と未来の関係について話していない。なのに一方的に助言ばっかりして、香菜姉の気持ちに寄り添ってやれなかった。
肝心なのは、共感を示してあげることだったんだろうな…。

ゆっくりと顔を上げて窓の外を見る。もうあと二種目ほどで最後の体育祭が終わってしまう。

「…行かなきゃ」

風子も香菜の後に続いて席を立つ。

私を信用して、この話をしてくれた香菜に少しでも私ができること。絶対何かあるんだから、……力にならなくちゃ。

快晴な空の下に向かって、風子は足を踏み込み、廊下を駆け出した。





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