裏切りは僕の名

壱(いち)

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第1章

汝命を受けよ

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「転校、ですか」

警視庁の中にある一室で久しぶりに会った室長に自分の転校を承諾もなく決められ、怒りよりも呆れが先に出る。

DHデモンハント
捜査四係、通称マル暴の中にあてられた特捜。心技体を重視ではなく特種能力を重点に配属される特別捜査班。
特種能力を持っていれば例え三歳児だろうと常識は関係ない場所。

「確か高二だったな」
「はぁ」

DHでの権力者。下手をすれば警視長よりも質の悪い権力者。

天王 高河テンオウ コウガ
名は体を表すかの様に姿は一般人に見てくれだけでも眼福ものだ。
正直、白に近い金髪は徹夜明けだと目に滲みる。肩甲骨辺りまであるストレートの髪を緩く束ね従わす事に長けた眼光は赤味がかった茶色。すっととおった鼻、薄過ぎず厚過ぎない唇。ブラウン管に映っていても見劣りしない程の長身。

某有名ブランドのデスクに両肘をつき指を絡め、重厚な椅子に座るその姿はまるでドラマのワンシーン。

「行って来れるな」
「任務じゃないんですか」
「その間が凄く気になるんだが」
「気のせいです」
「では、九条 流クジョウ ナガレ。君に燗烙学園への任務を命ずる」
「ハイ」

なにいつもより恰好つけてんだか。

燗烙カンラク学園?」

何がそんなに可笑しいのか、声も出さずに絡ませた指に額を預けて俯き肩が揺れてる。

「はははっ。かなり嫌そうだから…」
「室長、燗烙学園って」
「あぁ、全寮制男子校。生徒は金持ちばっかりだ」
「い」
「任務」

嫌です。そう言う前に発言を遮られる。
にこやかに女なら顔を赤らめて卒倒するだろう笑顔付きでいらない引き出物を貰った気分になった。

「理事長には話を通してある。あとバディ」
「いりません」
「流」
「いりません」

僅かに眉間に皺をよせるけどどうにもならない。

「だが……」
「じゃ、準備があるんで失礼します」
「定期連絡は必ず入れろ。そうでなければ無理にでも組ます」
「……」
「返事は?」

室長に背を向け、ドア前まで来た俺への重圧。
伊達に歳くってないな、流石だよ。

「気が向いたら」

まだ言い足りないのか説教し始めたのを遮るためにドアを閉める。
自分だけでなく、他人を傍に寄せてしまえば確かに危機感を持って任務遂行の為にはいいんだろうな。

「俺には逆効果、だ」

長い通路を歩いていると年輩の刑事と若い刑事が驚いた顔をしてこっちを見てきた。
見た目からして未成年が堂々と警視庁内部を歩いてるんだから当たり前か。
何食わぬ顔をしてその場を通り過ぎ、丁度良いタイミングで着ていたエレベーターに乗り込む。

「おいっ」

若い刑事が呼び止め慌ててこっちに来るけど無残にも扉は閉まる。乗り込んだのは重役用エレベーターだしなぁ。

「残念でした」

許可がなきゃ面倒なもんに乗らねぇよ。
エレベーターの奥まで行き壁に凭れればカサリと紙の音がする。さっき渡されたA4サイズの封筒か。中身は燗烙学園の資料だな、これ。

「依りによって男子校か」

折角のビューティフォーライフが、男だらけねぇ…。

「さよーなら青春」

共学だったのになあ。余計な事してくれるよ、ほんとに。
この分だと退屈で授業の内容も頭に入らないな。
















 

うん。まぁ何て言うか、想像通り。無駄にデカイ。
燗烙学園の資料を見といて良かった。素で引くぞ。この門構えといい、色がゴールドで装飾豪華なところといい。

「ダイナマイトや時限爆弾仕掛けて倒壊させたくなるな」

し慣れない斜めストライプネクタイが鬱陶しい。ぶっちゃけ、辛い。

「もうさ、ここ来る前に緩めてみたけど何時までここに居ればいいわけ」

監視カメラは飾りか?到着次第、正門待機。そう資料にはあったハズ。

「いっそ入ったら駄目か」
「どちら様だ」

グルグルと頭の中で葛藤している途中、どこから現れたのか見た目ブリーチヤンキー参上。低めのいい声してるな。人の上から凄まれてもねぇ。

「今日ここに転校予定の者ですが」

プラス愛想笑い。待機時間約三十分、漸く人が来た。

「で、誰も来ないんだな?」
「はい」

言葉に被さる様に舌打ちし、いま開けると言って雲隠れ。姿を消す様に俺の前からいなくなった。見掛けに依らずいい人なんだな。耳鳴りしそうな金属の音をたてながら門が開かれる。

「ようこそ、燗烙学園へ」

棒読みだぞ。七月の梅雨も明け切った今日は真夏日。労りの一言もなしか。

「今から理事長のとこだろ、時間はいいのか」
「はぁ」

そよそよと風が吹くのに併せて動く髪、野性味溢れる目つきに茶系の瞳。俺よりも十センチは高い身長。細身で鍛えられている身体に濃い緑のブレザーと緩く開いた白いシャツが良く似合うこと。
そういえば、学年別にネクタイの色が違うんだったな。

「二年か?」
「そうです」

ネクタイは黒と濃い緑。

「俺は雑賀 禅サイガ ゼン三年だ」

三年は確か黒と藍色のストライプだったな。

「有難う御座居ました、雑賀先輩」

なんというか、さっきから凝視されてるよな。何かヘマしたか?

「理事長室は判るか?」
「構内見取り図の付いたパンフレットは持参してます」

何故だか先輩は軽くため息を吐き。

「こっちだ」
「え」

突然パンフレットを持った俺の左手を掴み、歩き出す。

「その地図は三年前の物で、今は違う」

まあ、そんな事は百も承知なんだけど。今年増改築したんだったな。念のためにパンフレット持参して正解だったか。
無闇やたらに触らないで欲しい。危うく攻撃仕掛けるところだ。常日頃の鍛練が物をいうのはこんな時。
迷子の様に手を取られ、連れられて行く自分がなんだか情けないかったり…。
正門から真っ直ぐ歩き段々と校舎が見えてくる。正門から段々ていうのが凄いな。かなりの距離だ。

校舎は見た目、海外にありそうな装飾豪華に出来たお城だな。間近で見ると圧巻。ライスシャワーどころか薔薇の花びらシャワーでもありそうだ。
赤い絨毯があったりするのか?

「下手に動き回ると迷子どころじゃなく遭難するから気をつけろ」
「……遭難」

笑えない。

「まぁ、今は見学しとけ」
「はぁ」

改築された見取り図は頭にあるから迷わないと思うけど。増改築して迷路だな、これは。忍者屋敷みたいになってりゃまだ笑えるのに。

「雑賀先輩は授業いいんですか?いま授業中のはずじゃ」
「今日の三年は午前だけだ」
「そうですか」

話をしつつ昇降口から校舎に入り、エレベーターが見える。
この学校はどこまで金を掛けてるんだ。確かに馬鹿デカイから仕方ないんだろうが、通路に公立の学校にある廊下二つ分のスペースがある。

「なにしてんだ、早く乗れ」

威嚇気味にいわれたら余計に動きたくないぞ。少しばかり怯える風を装いながらエレベーターに乗り込む。
閉のボタンを押し、ウィィンという特有の音をさせながらエレベーターは七階へ上がっていく。

「なにビビってんだ」

奥の方に入り隅の壁に肘を突きながらこちらに身体を向かせ、苦笑混じりにいう。

「そう怯えられると苛めたくなるだろ」

思わず見ればニヤリと何か企む様に口許が弧を描き、笑む。

「その白くて細い首や項に噛み付きたくなるな」
「それ、セクハラですよ」

まだ着かないのかエレベーター。腕、鳥肌立ってるし。

「こんなもんまだ甘い。ここじゃ悪くすりゃ犯られる」
「……男子校ですよね、ココ」
「幼少からこんな男ばっかのとこにいてみろ、対象が男になったって不思議じゃない」

サラッという内容じゃない。

「なんだぁ、マジで知らなかったのか」

男の言葉に、首を縦に振るほかなく。
柔らかめの音が七階に着いたのを知らせた。
開いたエレベーターのドア隅にある開延長を押す。








 
七階はキラキラと輝かしいシャンデリアから放たれるオレンジ色の光に満ちていた。
何故シャンデリアが。笑えない冗談のつもりか。
間抜けにもエレベーター内から見ていれば、トンと背中を軽く押されて降ろされる。

振り返ると雑賀のプラチナゴールドに染まった髪が淡く照らされて視線が吸い寄せられる。

「ここを真っ直ぐ行けば右側にデカイ扉がある。そこが理事長室だ」

そう指を指していい閉のボタンを押した雑賀は指を放したかと思うと近付いて来て無防備なのを装う俺に生暖かいモノで唇に触れ、ちゅっと可愛らしい音をたてて離れていった。

「アンタ巫山戯てんの」

掴みかかろうとするも奴はエレベーターに戻っていてドアが閉まるところ。
ちっ、タイミング詠んでたな。

「またな、九条 流」

人の悪い笑みを惜しげもなく向けてくる。ヒラヒラと手を振ったところで、エレベーターの扉が閉まった。

そういえば俺、名乗ったか?
なんで俺の名前を知ってたのか。

「変な謎残すなよ」

キスまでしやがって。来て早々どっと疲れを感じる。

「忘れよう」

取り敢えず理事長室に行くか。
エレベーターから真っ直ぐ行けば、それらしい豪奢な扉を発見。ドアノブはノーマルなツルピカでいいんじゃねぇの。
庶民故の突っ込みが尽きる事がないな。

分厚そうな扉をノックする。
これで反応ないなら蹴り開ける心の準備は万端。

『開いてるぞ』

中から僅かにもれて聞こえる声。
なんだ、聞こえるのか。
一呼吸置いて複雑に装飾されたノブを回し扉を開けて理事長室に入る。








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