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始まりのプローロ
M06. 不発
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「キャッ!」
「うぉっ!」
二人は吹き飛ばされないように地面に突っ伏す。少しの間、風は吹き続けていたが、徐々に収まってきた。
「だ、大丈夫ですか?ロディーナさん!」
「は、はい、私は大丈夫です。ソーシさんは?」
「大丈夫。何ともないです」
「そうですか。…何ごとも無くて良かっ……?!」
ロディーナの顔色が変わる。視線の先に何かがうごめいているのが見えた。
「ロディーナさん…?」
爽志はロディーナの視線の先へと目を向けた。いくつかの小さな白い物体がコロコロと転がりながら飛んだり跳ねたりを繰り返している。爽志はその異様なモノのことをロディーナに尋ねた。
「っ?!なんですかあれ?!」
「…あれは、リトルホロウです」
「リトルホロウ…?」
「爽志さんが先ほど退治したホロウノートの幼体です…!ホロウノートほど凶悪ではありませんが、凄まじいスピードとその体に似合わないパワーで破壊活動をするためにある意味、ホロウノートより厄介なんです…」
「そんなやつが何で急に現れたんですか?!」
「わかりません…。周囲の音素濃度には注意していたはずなのに…!」
ロディーナは慌ててエレメンタルモノクルを装着する。モノクル越しに辺りを観察してみると、明らかに色の濃い部分が見えた。そこは先刻、ロディーナが調律を施したばかりの場所だった。
「あそこは…!さっき調律したところ…!
そんな?!不十分だったっていうの?!」
通常、適切な調律を施せばしばらくの間は音素の偏りが出ることは無い。それにも関わらず、再び音素の濃淡が現れたことにロディーナは動揺した。
その動揺の間にリトルホロウはブルブルと体を震わせ、起き上がろうとし始めている。さすがの爽志もマズイ状況だと理解した。ロディーナに声を掛ける。
「ロディーナさん!落ち着いて!今はそんなこと言ってる場合じゃないですよ!
このままじゃ、これから行く村にも被害が出ちゃうんじゃないですか?!」
「ソ、ソーシさん…。ごめんなさい、そうですね…!」
リトルホロウが真っ黒な目を開いた。ギョロギョロと目玉を回転させている。やがて、その目が一点を向いて止まった。爽志とロディーナを捉えたようだ。
「ギャギャギャギャ!!!」
数匹のリトルホロウが奇声をあげる。今にもこちらを襲ってきそうな雰囲気だ。
「クソ!何匹いるんだ?!」
4匹のリトルホロウが一斉に爽志の方を向く。
「あー4匹ね!!数えやすくしてくれてありがとう!!クッソ!!!」
リトルホロウの一匹が爽志目掛けて突っ込んでくる。爽志は慌てて飛びのく。その腕から繰り出された爪が空を切った。
「うわ!!あぶねぇ!!!」
「ギギャーー-!!!」
リトルホロウは悔しそうに奇声を上げた。
「てめーなんかの攻撃に当たってやるもんかよ!」
最初の攻撃は避けられたが、4匹もいるリトルホロウを相手にこのまま避け続けられるとはとても思えない。このままではマズいと、爽志はさっきホロウノートを倒した一撃を思い出していた。
(あのシャウトを使えばきっと倒せる!)
今度こそはとばかりに、リトルホロウが再び襲ってくる。
「来な!」
爽志は足を踏ん張り、迎え撃つような体勢をとって叫ぶ。
「ァァァァァァアアアアアアアアアアア!!!―――ウグッ!」
しかし、爽志はリトルホロウの体当たりをモロに受けてしまう。何か方法を間違えてしまったのか、シャウトが発動しない。
「ガハッ…!…なに?!」
リトルホロウたちはその様子を不思議そうに見ている。
「クソ!もう一度だ!
ァァァァァアアアアアアアア!!!」
………シーン
しかし、やはり何も起こらない。
「…な、なんで?!さっきは出たのに!」
「ギャキャキャキャ!!!」
リトルホロウたちは爽志をバカにするようにコロコロと転げ回っている。
「クソッ!なんでだよ!」
爽志がシャウトに気を取られている間に、1匹のリトルホロウが爽志に気付かれないよう後ろに忍び寄っている。リトルホロウが鋭い爪を振り上げた、その時―
「フラマ!!」
「ギャーーーーー!!!」
リトルホロウは叫び声を上げのたうち回った。そして、空中に霧散するように消えていった。ロディーナが符術を放ったのだ。
「あなたたちを倒すくらいわけないんだから!」
「ロ、ロディーナさん、助かりました」
「ソーシさん、こっちに!」
爽志はロディーナの後ろへと下がった。情けないことだが、今の爽志には何も出来ることが無い。
「凄いです、ロディーナさん!これならすぐに倒せそうですね!」
「…ソーシさん、聞いてください」
ロディーナは背中の爽志に深刻そうな声をして語り掛ける。
「な、なんですか?」
「…実はさっきの炎音で音素をほぼ使い切ってしまいました。恐らく、後1発打てるかどうかというところです…」
「…え?!」
「ソーシさんに会う前に大きく消費していたので、今はもう立っているのがやっとな状態なんです…」
「そんな…!どうしたら?!」
ロディーナは言葉を絞り出すように言った。
「…だから、ソーシさんはプローロ村へ助けを呼びに行ってください。そこの、けもの道を抜ければすぐに見えてくるはずです」
「助けって…。ロディーナさんはどうするんですか?!」
「私は…ソーシさんが助けを呼んできてくれるまでここで時間を稼ぎます!」
「そんな無茶な!俺も残って戦いますよ!」
「ダメです!ソーシさんはもうさっきの符術が使えないじゃないですか!
それに、まだちゃんと動けるのはソーシさんだけなんです。
ここで私たちがやられたらこのリトルホロウ達は村を襲うでしょう。…あそこにはお世話になった人たちがいます。皆をそんな目に遭わせたくないんです!お願い!ソーシさん!」
「…だからって、君を放っておけるわけないだろ!」
「私は大丈夫。踏ん張って見せるから…!」
ロディーナの言葉から覚悟が伝わってくる。確かにそのままここに残っても戦うすべを持たない爽志にやれることは無いかもしれない。残念ながら今の爽志には助けを呼びに行く道しか残されてはいなかった。
「うぉっ!」
二人は吹き飛ばされないように地面に突っ伏す。少しの間、風は吹き続けていたが、徐々に収まってきた。
「だ、大丈夫ですか?ロディーナさん!」
「は、はい、私は大丈夫です。ソーシさんは?」
「大丈夫。何ともないです」
「そうですか。…何ごとも無くて良かっ……?!」
ロディーナの顔色が変わる。視線の先に何かがうごめいているのが見えた。
「ロディーナさん…?」
爽志はロディーナの視線の先へと目を向けた。いくつかの小さな白い物体がコロコロと転がりながら飛んだり跳ねたりを繰り返している。爽志はその異様なモノのことをロディーナに尋ねた。
「っ?!なんですかあれ?!」
「…あれは、リトルホロウです」
「リトルホロウ…?」
「爽志さんが先ほど退治したホロウノートの幼体です…!ホロウノートほど凶悪ではありませんが、凄まじいスピードとその体に似合わないパワーで破壊活動をするためにある意味、ホロウノートより厄介なんです…」
「そんなやつが何で急に現れたんですか?!」
「わかりません…。周囲の音素濃度には注意していたはずなのに…!」
ロディーナは慌ててエレメンタルモノクルを装着する。モノクル越しに辺りを観察してみると、明らかに色の濃い部分が見えた。そこは先刻、ロディーナが調律を施したばかりの場所だった。
「あそこは…!さっき調律したところ…!
そんな?!不十分だったっていうの?!」
通常、適切な調律を施せばしばらくの間は音素の偏りが出ることは無い。それにも関わらず、再び音素の濃淡が現れたことにロディーナは動揺した。
その動揺の間にリトルホロウはブルブルと体を震わせ、起き上がろうとし始めている。さすがの爽志もマズイ状況だと理解した。ロディーナに声を掛ける。
「ロディーナさん!落ち着いて!今はそんなこと言ってる場合じゃないですよ!
このままじゃ、これから行く村にも被害が出ちゃうんじゃないですか?!」
「ソ、ソーシさん…。ごめんなさい、そうですね…!」
リトルホロウが真っ黒な目を開いた。ギョロギョロと目玉を回転させている。やがて、その目が一点を向いて止まった。爽志とロディーナを捉えたようだ。
「ギャギャギャギャ!!!」
数匹のリトルホロウが奇声をあげる。今にもこちらを襲ってきそうな雰囲気だ。
「クソ!何匹いるんだ?!」
4匹のリトルホロウが一斉に爽志の方を向く。
「あー4匹ね!!数えやすくしてくれてありがとう!!クッソ!!!」
リトルホロウの一匹が爽志目掛けて突っ込んでくる。爽志は慌てて飛びのく。その腕から繰り出された爪が空を切った。
「うわ!!あぶねぇ!!!」
「ギギャーー-!!!」
リトルホロウは悔しそうに奇声を上げた。
「てめーなんかの攻撃に当たってやるもんかよ!」
最初の攻撃は避けられたが、4匹もいるリトルホロウを相手にこのまま避け続けられるとはとても思えない。このままではマズいと、爽志はさっきホロウノートを倒した一撃を思い出していた。
(あのシャウトを使えばきっと倒せる!)
今度こそはとばかりに、リトルホロウが再び襲ってくる。
「来な!」
爽志は足を踏ん張り、迎え撃つような体勢をとって叫ぶ。
「ァァァァァァアアアアアアアアアアア!!!―――ウグッ!」
しかし、爽志はリトルホロウの体当たりをモロに受けてしまう。何か方法を間違えてしまったのか、シャウトが発動しない。
「ガハッ…!…なに?!」
リトルホロウたちはその様子を不思議そうに見ている。
「クソ!もう一度だ!
ァァァァァアアアアアアアア!!!」
………シーン
しかし、やはり何も起こらない。
「…な、なんで?!さっきは出たのに!」
「ギャキャキャキャ!!!」
リトルホロウたちは爽志をバカにするようにコロコロと転げ回っている。
「クソッ!なんでだよ!」
爽志がシャウトに気を取られている間に、1匹のリトルホロウが爽志に気付かれないよう後ろに忍び寄っている。リトルホロウが鋭い爪を振り上げた、その時―
「フラマ!!」
「ギャーーーーー!!!」
リトルホロウは叫び声を上げのたうち回った。そして、空中に霧散するように消えていった。ロディーナが符術を放ったのだ。
「あなたたちを倒すくらいわけないんだから!」
「ロ、ロディーナさん、助かりました」
「ソーシさん、こっちに!」
爽志はロディーナの後ろへと下がった。情けないことだが、今の爽志には何も出来ることが無い。
「凄いです、ロディーナさん!これならすぐに倒せそうですね!」
「…ソーシさん、聞いてください」
ロディーナは背中の爽志に深刻そうな声をして語り掛ける。
「な、なんですか?」
「…実はさっきの炎音で音素をほぼ使い切ってしまいました。恐らく、後1発打てるかどうかというところです…」
「…え?!」
「ソーシさんに会う前に大きく消費していたので、今はもう立っているのがやっとな状態なんです…」
「そんな…!どうしたら?!」
ロディーナは言葉を絞り出すように言った。
「…だから、ソーシさんはプローロ村へ助けを呼びに行ってください。そこの、けもの道を抜ければすぐに見えてくるはずです」
「助けって…。ロディーナさんはどうするんですか?!」
「私は…ソーシさんが助けを呼んできてくれるまでここで時間を稼ぎます!」
「そんな無茶な!俺も残って戦いますよ!」
「ダメです!ソーシさんはもうさっきの符術が使えないじゃないですか!
それに、まだちゃんと動けるのはソーシさんだけなんです。
ここで私たちがやられたらこのリトルホロウ達は村を襲うでしょう。…あそこにはお世話になった人たちがいます。皆をそんな目に遭わせたくないんです!お願い!ソーシさん!」
「…だからって、君を放っておけるわけないだろ!」
「私は大丈夫。踏ん張って見せるから…!」
ロディーナの言葉から覚悟が伝わってくる。確かにそのままここに残っても戦うすべを持たない爽志にやれることは無いかもしれない。残念ながら今の爽志には助けを呼びに行く道しか残されてはいなかった。
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