異界のレゾナンス

近松 叡

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ペルティカの夜想曲

M21. 武奏器

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 爽志は何が来るのかと身構える。例えば、彼女はいるんですか?などど聞かれてしまえばひとたまりもない。一撃で膝から崩れ落ちることになり、再び立ち上がるまでは少しの時間が必要になることだろう。

「えっと、えっと、じゃあ…好きなものは何ですか?!」

「…は?好きなもの?」

「そうです!好きなものです!」

「好きなもの…」

ロディーナの純粋な質問に拍子抜けした爽志だったが、その問いの答えは心にスッと浮かんできた。噛みしめる様に少しの間を取って答えた。

「音楽…ですかね」

「音楽…ですか?」

「はい。俺、歌ったり楽器弾いたりするのが好きで高校でもバンド組んだりしてるんですよ。最近はあんまり触れてなかったりするんですけど、それでも好きなものって聞かれたらやっぱり音楽ですね!」

「歌に楽器…!とっても素敵ですね!その、バンドというのは?」

「あ、えーとですね。楽器を持った何人かが一緒になって演奏する…楽団って言ったら良いのかな…」

「なるほど!ソーシさん凄いです!楽団をお持ちだったんですか?!」

「えっ?!…いや、持ってたって言うか入ってたって言うか…」

 そこで爽志ははたと気付いた。楽器や楽団という言葉が通じるということは…

「あ、あれ?…もしかして、ここ!…この世界にも楽器があるんですか…?!」

「はい、勿論!演奏用から戦闘用まで色んなものがありますよ!」

 楽器がある。その事実はしばらく楽器を触っていない爽志をとてもワクワクさせた。

(どんな楽器があるかわかんないけど、音楽が出来るかもしれない!)

 しかし、演奏用はわかるが、戦闘用とはどういう意味なのだろうか。まさか楽器を使って物理で殴るといった野蛮な行為でもするのか?爽志はそんなヒヤヒヤとするようなことを考えてしまう。正直怖い気もしたが、確認せずにはいられない。

「…あ、あの、戦闘用の楽器ってなんですか?楽器は演奏以外に使うものじゃないですよね…?」

「あっ、ソーシさんはご存じないのでしたね。…ここクラルステラには演奏用と戦闘用の二種類の楽器が存在するんです」

「二種類?」

「そうです。演奏用は勿論演奏をするための物。人の心を喜ばせたり、悲しませたり、時には怒らせたり、それでも最後には楽しませてくれるもの。
しかし、戦闘用の楽器とは、文字通り戦いのために生まれたもの。奏者の音素を増幅し、様々な能力を行使する鍵となる道具。あらゆる音災を鎮めるための武器としての役割を持っているため、またの名を《武奏器》とも呼ばれています。私が持っているチューニング・フォークも武奏器の一種なんですよ」

「武奏器…凄い!そんなものが…」

 思わず感心した爽志だが、再び疑問が浮かんだ。

「…あれ?でも、対音災って普通の武器じゃダメなんですか?剣とか弓とか、色々あると思うんですけど…」

「勿論ありますよ。ですが、ホロウノートのような相手には普通の武器がまるで役に立たないんです。出来ることと言えば足止め程度のことで、武奏器や符術の力が無ければ消滅させることは難しいでしょう」

「そうなんですか?!…その武奏器って誰にでも使えるものなんですか?例えば俺が使ったりとか…」

「残念ながら誰もが扱えるものではありません。奏者の適性が必要なのです。ソーシさんに適性が無ければ、武奏器の力を引き出すことは出来ないでしょう」

「奏者の適性…。それってどうやったらわかるんですか?」

「カテゴリースリーいずれかの首都か、トリアディックオースの本部に行けば測定器があると思いますが、誰もが自由に使えるものではないので実際に武奏器に触れてみる方が早いでしょうね。適性があればレゾナンスが発生するはずです」

「レゾナンス?」

「奏者の適性を持つものが武奏器に触れ、認められると共鳴現象を引き起こすんです。
私もチューニング・フォークを手にした時はレゾナンスが起こったんですよ」

「何だか凄い話ですね…!俺も楽器に触れたくなってきました…」

「ふふ、私もソーシさんが楽器を持っている姿を見てみたいです。後でこの村にあるかどうか村長さんに聞いてみましょうか」

「良いですね!そうしましょう!」

「はいよ~!お待ちどおさま~!」

 会話が一段落したところに注文した料理が運ばれてきた。ラギリスおすすめの店だけあってどれも美味しそうだ。
 リトルホロウが現れる深夜まではまだ時間がある。会話はこれくらいにしてゆっくり食事をして英気を養うことにした。
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