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5 ドライブしたのは収録? デート?

5-4 旅行の夜と、帰り道、違う意味でのドキドキ

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 白浜海岸で夕方まで遊んで、旅行最後の夜になった。
 遊んでいたものも含めてラッシュ確認して、全員で打ち上げしてから、僕と朋美さんは二人の部屋に戻った。
「色々、大変だったね」
 二人で並んで座って、体重を預けあう。
「グラビアとかアイドルとか、自分のことじゃないみたい」
「僕もですよ――まして、男なのに」
「いっちゃんの方が、アイドルっぽいよ」
 朋美さんの体重がより、かかってくる。
 湯上がりの香りが僕の嗅覚を支配する。
「女子力高いし、可愛いし、守ってあげたい感じだし」
「そんなことは……」
 手が重なる。
 緊張する。
 いま、言えるチャンスじゃない?
 今、伝えるタイミングじゃない?
 これ、告白するムードじゃない?
 僕はごくりと喉を鳴らす。
「朋美さん――」
 今のせいで、声が男子になる。
 いい。
 僕は男なんだ。
 素の自分で、いい。
「朋美さん、僕は……」
 伝える言葉を考える。
「僕の方が、朋美さんを守りたい――です」
 口の中が乾く。
 朋美さんの重みが心地いい。
 朋美さんの肌が柔かく温い。
 ふたりの鼓動が重なるような気がする。
「僕は朋美さんのことが――好きです。本気で、男として。女の子みたいにしてるし、女の子するのは楽しいですけど、それでも、朋美さんが好きなんです」
 一旦口にすると、言い過ぎなくらい止まらない。
「朋美さんと恋人同士になりたい。
 これからもずっと一緒にいたい。
 朋美さん、僕は――」
 朋美さんの頭が肩に乗ってきて、明るい巻き気味の髪が僕の膝に流れてくる。
「僕は……えっ?」
 規則的な息の音が聞こえてきた。
「ん、樹、くん……」
 ぽつりとこぼす朋美さんは――寝ていた。
 ずるりと落ちてきた頭を慌てて支えて、腿の上に軟着陸させる。
「朋美さん……」
 苦笑する。
 空回りだったことに。
 己の気付いてなさに。
 ――でも、いいか。
 ギャルで、平気そうに見えていた朋美さんが、こんなに気を張ってたんだな――と思う。
 僕は朋美さんに膝枕をしたまま、更けてゆく星空をぼんやり眺めていた。

◇◆◇

 帰路は、渋滞していた。
 ほとんど進まない車の中で、僕は妹にメールを送っておく。
『いま出かけてて帰るの遅くなるかも。迎えに行くからファミレスかどこかで待ってて』
 車内でメイクを落とすか迷うけど、男物の着替えはないのにメイクだけ解いたところでどうしようもない。
 今の服装は、レースアップチュニックとシフォンスカート。
 ごまかしようのない格好だった。
 かといって、パンツはほとんど持ってないし、男物のデニムを念のために持ってきておけばよかった……などと思っても後の祭りだ。
 下田で服買えばよかった、とも今更思う。
 妹からの返信でスマホが鳴る。
『家の前で待っとく鍵だけちょうだい』
『部屋片付けたいし』
『それぐらいやってあげる』
 少し流れだすけど、まだまだ遠い。
「妹さん、何歳?」
 朋美さんの目にも焦りのような色がある気がする。
「十七――高二です」
 制服の可愛い女子校で、あの制服を着てみたかったことを思い出す。
『何時に着く?』
 メールだと、地元の言葉が出る。
 返ってきた到着予定は、カーナビの画面に出ている着予想とほぼ同じだった。
 つまり、着替えたり片付けたりしている時間の余裕がない。
『それか、荷物多いけん、羽田まで迎えに来ん?』
 それは――このまま空港へ行っては、僕も部屋も女の子のままでということで、すなわち身の破滅だ。
『羽田でもいいけど、ばり待たせるかも』
 実家からは地下鉄と飛行機で一時間半ほどの距離。
 さらに空港からは乗り換えなしで一時間ちょっと。
 下田から横須賀までは順調に行けば三時間くらい。
 妹はいまどうやら、搭乗前の空港からメッセージを送ってきている。
 どうにか時間を稼げないか、妹の足止めができないか、メッセージを続ける。
 運転している朋美さんにも内容を伝える。
 車の流れが、やや動きを早めはじめる。
『JK待たせるとか何様』
 ときて、すぐに次が届く。
『ていうか今どんな感じ? 家出る頃と変わっとらんと?』
『半年でそんな変わらんばい。髪伸びたくらい』
 というか、このエクステ簡単には解けない。くくってまとめて帽子でもかぶらないと変かも。
『切っとらんと?』
 僕が何て書こうか悩んでいる内に来たのは、
『キモ』
 という一言だった。
「生意気な子だね。アタシがシメたげよっか」
 朋美さんが――その見た目で言うと、あまりシャレになってないような気がする。
 けどそれが笑えて、少し落ち着く。
「僕に対してだけですよ」
 外面そとづらがいいのも知っている。
『どうせそんなんじゃカノジョもできとらんちゃろ。
 なんで妹が来るって言っとお日に出かけとるん』
 本当のことは言えない。
 それに、カノジョって……
 朋美さんを見ると、正面に向き直って、速度の上がりはじめた運転にやや集中している様子だった。
 それでも、聞いてきてくれる。
「どうなった?」
「まだ――交渉中です」
 カノジョ。
 朋美さんは、どうなの?
 とは聞けずにそれだけ言って、スマホの画面に視線を戻す。
「下見すぎて車酔いしないようにね」
「あ――はい」
『仕方なかろ、お前から連絡くるより前から決まってる用事なんやから』
『興味なか』
 それでも妹は妥協してくれたのか――いや、たぶん僕とこれ以上やりとりするのを面倒くさがったのか、搭乗時間が近くなってきたんだろう、
『ええわ。駅で待ってやる。うちのゴハン代全部あんたな』
 代償の大きい条件だった。
 でも、背に腹は変えられない。
 それに、聞いてる話では三日くらいだ。さすがに女の子の食事量だろうし、貯金からどうにかすれば……と頭の中で計算する。
 妹が僕の作るごはんを食べてくれたら、下方修正もできるし――と期待を持つ。
 僕は『わかった。ごめん。気をつけて』と送って、朋美さんにもそのことを告げた。
「オッケー。じゃあ頑張って急ぐね」
 言うなり朋美さんはハンドルを切って車を車線変更させた。
 体がシートに押し付けられる。
「朋美さん――すみません」
「いいって」
 隣の笑顔が眩しい。
「でもね、本当はカミングアウトできる日が来るといいなって思うよ」
 車はまだ、県境を越えたばかりだった。
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